第六話

 夜中の二時、一台のワンボックスカー、トヨタのレジアスがノロノロと、走ってい
た。運転しているのは、黒金武男で後部座席には、稲垣花梨ことリンと、鎌田風
治である。千尋は今回の作戦には参加していない。夜遅いのも有るがこのような
野蛮な事に参加させたくないと、ハクが反対したからだ。メンバーもたいして反対
しなかった。この事で後日、厄介な事になるが。
 「リン、お前が襲われたのはこの辺りなんだな?」
武男が前を見たままリンに訪ねる。
 「うーん、この辺りだと思う。だけど上手くいくのかな?こんな作戦で。」
 「モノは試し。上手く行かなかったときは、別の手を考えるまで。」
良いのかなそんなんでと、リンが思うとリンの横に座っている風治が弱々しい声
を放つ。
 「そ、そ、そんなのはどうでも良いから、速く作戦を開始してくれよ・・・」
声がした方を見やれば、風治が悲壮な顔で震えていた。彼は、閉所恐怖症なの
でこう言った狭い空間が苦手なのである。風治、もう少しの辛抱だ。と言うが、更
に顔が青くなる。
 「あーもーしょうがねぇな!!横になれ横に!!」
リンが隅っこに体を寄せて言った。え?と、リンの顔を見る風治。
 「しょがねぇだろ!!良いからサッサと横になれ!!」
 「で、でわ失礼します・・・」
そう言ってからオズオズと、頭をリンの膝に乗せて横になった。

 それから間も無くして、武男の携帯がなった。出ると、シンシアからの連絡だ。
 「御免!!今準備が出来た。」
遅いぞ!!と言ってから、後ろの二人に作戦開始を告げた。風治は少し残念な
ような気がした。勿論、口にはしない。
 武男のレジアスは、速度を上げて交差点の信号を無視する。先日、リンがバイ
クで信号無視した所だ。
すると突然、レジアスの後ろの空間が歪んで例のワンボ
ックスカーが飛び出してきた。ヤッパリか!!と三人は叫ぶ。
 「なるほどね。空間を突き破って出てくるから、はじめは何の気配も無かった訳
か!!」
 攻撃をすべく、窓を開けてながらリンは叫ぶ。風治もそれに習う。その車は、見
る見る内に追い付いて、レジアスにぶつけようとする。それに向かって、リンは火
の玉を風治は風の刃で攻撃するが、たいしたダメージを与えられない。怯ませて
速度を落とさせる事は出来るが。
 「何であんなに速いんだ?ヤッパリ妖怪化しているからか?」
 「関東の方に居るお化けワーゲンと言うワーゲンの付喪神は、最高時速五百
キロで走れるそうだ。」
 リンは沈黙で応えるしかなかった。

 一方、攻撃ポイントには、作助、ハク、シンシアがいた。ここで、例のワンボック
スカーを迎え撃とうと言う訳だ。周りには、田んぼや畑でその周囲にやや大きめ
の人払いの結界を張って、この戦いを人間に見られない様に配慮していた。
 「そろそろね。皆、油断するんじゃ無いよ。」
シンシアの台詞に、ハク、作助が頷く。頷いてから、ハクがシンシアに訪ねる。
 「それは良いですが、一つ聞いて良いですか?」
なに?と振りかえるシンシア。
 「何時も思うですがその銃といい、他の重火器といい、その爆薬といい、一体
何処から仕入れているんですか?」
と、作助が持っているブリキで出来た入れ物を指差す。両手で持てるほどの大
きさだ。中身はC4と言われるプラスチック爆弾で、大体五キロぐらい入っている。
シンシアは、ニッコリと微笑むと、ヒミツと、一言だけ言った。
 「来たぞ!!」
作助の声に周りを見渡すと、向こうの方から二台のワンボックスカーが走ってき
た。確認したシンシアは、素早く霧へとその身を転じる。ハク、作助もそれぞれ、
本来の姿になった。
 
 一方、リンと風治は、激しい揺れで半ばまいり出していた。妖怪なので、乗り物
酔いになってはいないが、右へ左へと武男が急ハンドルを切るので、振り回され
ない様にしがみついているのが精一杯だった。
 「もう直ぐだぞ!!」
武男が叫ぶが、二人にはまともに聞いてはいなかたが。攻撃ポイントに、到着し
た瞬間、辺りが濃い霧に覆われた。武男は、左に急ハンドルを切る。しかし、な
にも知らないそのワンボックスカーは、道路から飛び出して田んぼの中に突っ込
んだ。
 「ハク!!今だ!!」
 叫んだのはれだったか分からないが、その叫びを合図に田んぼに突っ込んだ
例のワンボックスカーの辺りの地面に水を操って集め、その車の地面を湿地帯
にしてしまった。その車は、抜け出そうとアクセルを全開にするが、タイヤは虚し
く空転するのみ。
 動けなくなったその車に、黒装束の忍者の姿になったの作助が爆薬を抱えて
湿地と化した田んぼの中を足跡もつけずに走っていった。完全に物理法則を無
視して。その車に走り寄った作助は爆薬を無くなっている助手席のドアから車内
へ投げこんで、素早く後退する。と、近くの消火栓から勢い良く水が噴出して、そ
のワンボックスカーをドーム状に覆う。爆発したときの飛び散る破片と爆音を少
しでも和らげる為だ。シンシアが叫ぶ。
 「あんたには、何の恨みも無いが迷わずに成仏してくれ!!」
そして、シンシアは起爆スイッチを入れた・・・





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