第五話

 全力で飛行しただけ事はあり、約十分ぐらいで、ハクはリンの所に到着した。
地上に降り立つと素早く人間の姿になる。服装は、油屋に居たときの水干であ
った。
 「オイ、ハクここだ ここ」
ハクは、声のする方へ駆け寄ってリンを見つけたが、リンの酷い姿を見てしばし
言葉を失う。リンの着ているジャケットは泥だらけで、あちこち破れていた。ズボ
ンも破れていた。特に左の腿の部分は、大きく裂けてどす黒く変色している。か
なり出血している様だった。バイクの方を見やれば酷く壊れ、もはや別のものに
成り果てていた。
 「リン、本当に大丈夫か?」
 「ああ、大丈夫だ。オレ達のような存在じゃ無かったら即死だったろうけどな。
まぁ、チョット左足が酷い事になってるがな。」
 彼らのような存在。つまり、妖怪は体が人間よりも遥かに頑丈に出来ている。
人間の姿のときでも個人差はあるが体力や反射神経、生命力や自然治癒力も
人間の数倍もあるので、人間だったら重症でも何とも無かったり、大きな怪我も
数時間から1日ぐらいで治ってしまうのだ。もし、リンが妖怪じゃなかったら、とっ
くの昔に命を落としていただろう。
 「それよりハク。今回の件の手かかりを掴んだ。急いでしろがねの所へ連れて
行ってくれないか?」
 「良いが、大丈夫か?この傷、結構深いぞ。」
ハクは、リンの足の傷を止血すべく手当てしながら言った。
 「大丈夫だって。非常召集かけたんだろ。だったら風治も来るだろうから、あい
つの薬を使えば直ぐ良くなるって」
 うーむと唸るハク。鎌鼬である風治の作る傷薬は、非常に良く効くのだ。大抵
の傷なら、塗やいなや瞬く間に治ってしまう。
 分かったとハクは言うと本来の姿、白い龍の姿になるとリンを乗せて飛び立っ
ていった。

 翌日の昼頃、リンが掴んだ手がかりを元に調査した結果、そのワンボックスカ
ーのことがあらかた分かった。今、メンバー達は、しろがねの奥の部屋で調査報
告を聞いていた。ただし、神楽には連絡が取れず。千尋は、学校なのでここには
居なかったが。
 「つまり、その交差点で起こった事故の事故車が妖怪化した訳なんだな。」
 「リンが見た車の車種、ナンバープレートの番号、車体の破損具合から総合す
ると、そう言う事になる。」
 リンの言葉に武男がそう応えた。殆どの調べは黒金武男が、調べてしまってい
た。彼は、独自の情報網を持っているからだ。ただし、その情報網は少々ヤバイ
物ではあったが。
 「何でも、右折しようとしたワンボックスカーに、大型のRV車が突っ込んだそう
だ。ワンボックスカーに乗っていた男女は五十代後半の夫婦で助手席に乗って
いた女性は死亡。運転していた男性も大怪我を負ったそうだ。RV車を運転して
いた青年は軽傷とのこと。なお目撃者の話しでは、事故原因は、RV車の信号無
視によるものらしいのだが、運転していた青年は、少しも悪びれた様子は無かっ
たそうだ。で、私の考えだが、その青年の態度を野次馬も聞いて居たんだと思う
んだよ。その青年の身勝手さに対する理不尽さや怒り、被害者の青年に対する
怒りや憎しみ・・・忘れていたが被害者の男性は、意識がシッカリしていたそうだ
まぁ、そう言った憎悪がそのワンボックスカーに乗り移って、妖怪化しただろう。」
「それは解ったけど、それだけでそう簡単に妖怪化するか?普通。」
風治が疑問をぶつける。
 「おそらく、側に回廊がたまたま近くにあったんだろう。」
 「回廊とは・・・」
ハクが武男にたずねた。
 「うむ、妖怪が生まれるプロセツは以前話したと思うが・・・」
 「妖怪は、人々の想いから生まれる。その存在を強く信じれば、それは生を受
ける・・・と言う奴ですね。」
 「そう。ただし、無差別に生まれる訳ではない。その人間の強い想いに、奇妙
なエネルギー、魂、気、オルゴンエナジー、エーテル、オーラ、呼び方は無数に
有るそのエネルギー出会って生まれる訳だが、通常そのエネルギーは希薄に存
在しているのだが、特定の場所では強く大量に存在していたり、噴出している場
所があるらしい。そう言った所を、回廊とか扉とか門と言ってる訳だ。無論、勝手
につけた名前だが。」
 「なるほどね。と言う事はそのワンボックスカーは、怨念タイプの付くも神系妖
怪と言う訳か」
 シンシアが、ゲンナリして呟く様に言った。『怨念タイプ』一番厄介なタイプだ。
こう言ったタイプは大抵、強迫観念に捕らわれて動きやすい。自分はこう言う行
為をする者だと思うと、その行動しかとれない。自我を持っていても話し合いや
説得も通用しにくい。
 「倒すしかないと言う事か。しかし、そいつはどのような強迫観念で動いてるん
だ?」
 「リンさん、あなたがそのワンボックスカーに襲われる直前どんな事をしてまし
たか?」
 風治がリンにたずねた。リンは、バツの悪そうな顔で言いにくそうに言った。
 「あー、ちょっと信号無視を・・・ちーと、考え事をしてたもんだから・・・そんでも
って、まぁ良いか誰も見ていたわけじゃ無しと・・・」
 「重大な違反ですねー良くありませんよー、まぁ、その事はこっちに置いとい
て、それで解った。そのワンボックスカーは、信号無視をした車の事故によって
妖怪化した訳だから、信号無視をした運転者を攻撃するって奴なのでは?」
 かなり無理が有るような気がすが?と言うリンの疑問に、武男が応える。
 「怨念タイプの妖怪は、思わぬ行動をとるんだ。もっと時間をかければ解るの
だが、今はその時間が無いのでな。犠牲者が殖えない内に何とかしないと。シン
シアお前アメリカで、今回のような車の妖怪と戦った事があるそうだが・・・」
 「うん。有るよ。その車の妖怪はスポーツカーで、他の車を煽りまくって、事故を
起こさせる奴だった。だいぶ苦労したよ。なにせ、車でも妖怪化すると物凄くタフ
になるもんだからさ。キャリバー50・・・つまり、12.7ミリ弾を弾き返しやがった。ち
なみに、12.7ミリ弾は250メートルで、厚さ8ミリの装甲を貫通する。」
 どうやって仕留めたんだと、訪ねる一同。
 「むこうには、戦車の付くも神が居たんで手伝ってもらって・・・」
 「せっ、戦車の付くも神!!戦車てあの戦車の!!」
 「うん。その戦車な。種類はM60戦車で主砲は、105ミリ搭載している。」
 「どっ、ど言う経緯で付くも神化したんですか、その戦車は!!」
流石のハクも、余りのことに声が上ずっている。
 「聞くな!!で、取り合えずそのスポーツカーの妖怪を人気の無い所に誘き出
して主砲で、ズドンと」
 「一撃で影も形も無くなったでしょうね。」
 「いや。一発では駄目で、勿論当ったのだけどボロボロになりながらも動いてい
たので、二発目でようやく。神楽の雷撃、最大放電だったら一撃だったろうけど」
 言葉を失う一同。おそらく、そのワンボックスカーも同じぐらい頑丈だろう。それ
をどうやって、仕留めたらよいのだろうか?最大の攻撃力を持つ神楽抜きで。





    もどる                           次へ