第四話

 翌日、リンは仕事を終えると、バイクに乗って千尋の父親が事故を起きた道
路を走っていた。調査のためである。
 仕事を終わった直後でキツイ物があったが、この話しを持ってきたのは自分
だし、被害者が千尋の父親だった為に、頭に血が上って余り調べずに、「しろ
がね」に話しを持ちこんだ反省もあった。その為、今度は自分の能力を駆使し
て、詳しく調べに来ていた。しかし、約一時間ぐらい走り回って調べたが何の成
課も挙げられ無かった。
 (何の気配も感じられないな・・・別の場所に移動したかそれとも・・・あーどっ
ちにせよもう少し調べてから、皆に話すべきだった!!)
 リンは、取り合えず一端引き上げる事にした。同じ所を一時間近く走っている
のだから、下手すれば不審者として通報されるかもしれない。警察のやっかい
になるのは御免である。
 (明日は、誰かに手伝ってもらおうか。うん。シンシアか作助に手伝ってもらお
う。ハクは、無理だな。アイツは、原付すら持ってねぇし。)
 そんな事をツラツラと考えながら運転していたリンは、目の前の交差転の信号
を見落とした。信号は・・・赤だった。
 「アチャー、やっちまった。まっいいか。事故を起こした訳じゃ無し。誰かが見て
た訳じゃないし・・・」
 リンは、開き直って呟いた。正直な所、トンでもない話しである。真夜中で、他
の車が走って無く、事故も犯さなかったから良かったが、事故を起こしていたら
全面的に信号無視をしたリンに過失責任がかかって来るのだから。
 リンは、気を取り直して速度を上げようとした刹那、背後の空間が歪み一台の
ワンボックスカーが出現した。リンは、突然背後から強い妖気を感知して驚き振
り返った。ワンボックスカーのライトの光で良く見えなかったが、確かに無人であ
った。そして、その車は、リンのバイク目掛けてつ込んできたのだ!!
 「あぶねぇ!!」
 リンは、叫んで咄嗟に避けると、ワンボックスカーの左側に回りこんだ。ワンボ
ックスカーの左側、助手席付近は潰れてドアが無くなっていた。ワンボックスカー
は、左側に回りこんだリンにむかって、接近してきたのでリンは、速度を上げて
避けた。
 「畜生!!何だってんだ!!」
 リンは、そう叫ぶとさらに速度を上げた。一気にアクセルを全開にする。リンの
乗っているバイクは排気量が、コンパクトカー並の1300ccだ。当然、猛烈な勢い
で加速する。メータは100キロを軽く超えた。バイクよりも遥かに重いワンボックス
カーでは、リンのバイクの加速力にはついて行けない。
 振り切った!!と思ったリンは、バックミラーで後ろを確認して自分の目を疑っ
た。直ぐ後ろにそのワンボックスカー居たからだ。そして、そのワンボックスカー
は、リンのバイクにぶつけた。衝撃でバランスを崩したリンは、無意識に受身の
姿勢をとる。奇妙な浮遊感に襲われたリンは、次の瞬間背中に雷に打たれたよ
うな強い衝撃を受け、激しい痛みが全身を襲った。と、思うと今度は天と地が、
幾度と無く変わって行った。訳がわからなくなった。

 「ったぁ・・・・・・イタタタタタタ・・・・・」
 リンは、全身を襲う痛みを堪えて身を起こした。全身の関節が軋む。
 「骨、どっか折れてないだろうな。」
 ぼやきながら、手足を動かしてみる。突然、左足の腿に鋭い痛みが走る。顔を
しかめてその部分に手をやると、ヌルリとした感触があった。少し大きな傷をおっ
たようだ。そして、ヘルメットを脱ぎ捨て、足を引きずりながら自分のバイクを捜し
た。直ぐに見つかった。ただし、全く原型と言うものを失った形で。
 目を細め、奥歯をギリギリと噛締めた。元道りに修理できるとは思えない。出来
たとしても、買い直したほうが安く付くだろう。
 リンは、畜生と言ってから周りを見渡す。あのワンボックスカーは、とっくの昔に
何処かに行ってしまった様だ。そして、人払いの結界を張った。通報されて病院
にでも運ばれたら事だ。自分ら妖怪は人間とは体の作りが違う。人間の姿になっ
ていても検査されたら直ぐに分かってしまう。知られる訳にはいかないのだ。妖
怪が人間社会の中で暮らしているなんて事は。
 結界を張った後、携帯を取り出す。奇跡的に壊れていなかった。少し考えてか
らダイヤルする。腐れ縁と言っても差し支えなくなった御方に。

 ハクは、自室でクラシック音楽を聞きながらパソコンを扱っていた。キーボード
を叩く手がたどたどしい。なかなか扱い方が解らず四苦八苦している様で、傍
らには、「初心者でも解るパソコン」だの「1日でマスター出来るパソコン」だのそ
う言った本が八冊ぐらい積まれていた。その内の一冊を手にとってページをめく
り始めたところ、電話が鳴った。
 「はい、速水ですが・・・リンか、如何したんだこんな夜中に・・・・・・・・・・・・・・・・
解った!!直ぐに其処に行くから待っててくれ!!無理はするな!!」
 リンの報告を受けたハクは、武男の所へ電話かけて、メンバーに非常召集を頼
むと外に飛び出し、周囲に人影が無い事を確認すると本来の姿になって全力で
飛んでいった。





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