第三話

 その事故から2日後、リンは千尋の父親が遭った事故の事を説明すべくネット
ワーク「しろがね」にいた。
 店内には、リンの他に店の主、武男、千尋、ハク、シンシア、作助、風治が居
た。神楽は所要、仕事の事で遅れてくるとの事。
 「千尋の親父さんの話しでは、体当たりしてきたそのワンボックスカーは無人
だったんだと、バックミラーだけでなく、自分の目でも確かめたんだから間違い
無いって。」
 千尋の父親の見舞いに行って話しを聞いてきたリンは、キッパリと言いきった。
 「でも、それだけじゃぁ、妖怪の仕業と断定する訳には、行かないと思うんだけ
ど・・・」
 作助が疑い深く話した。リンは、作助を睨みつけ言い放つ。
 「じゃぁ何か!!千尋の親父さんが嘘をついているとでもいうのか!?」
 「そう怒るなよ!!ただ最近妖怪がらみの事件が多いんで少しウンザリして
るんだよ。!!以前は、こんな事は無かったのだけど・・・」
 「月に一件あるかないかだったのが、週に一件ぐらいになった―てことは、何
度も聞きました!!だけどそれとこれとは、関係無いだろ!!」
 「やめんか二人とも。それより千尋ちゃん。親父さんの怪我の状態はどうな
んだ?」
 武男が、作助とリンをいさめると、千尋に尋ねた。
 「シートベルトとエアバックのお陰か、たした事無いって、病院の先生が言って
た。ただ頭を強く打っているんで、大事を取って一週間ほど入院するみたい。」
 そう応えた千尋は、少々ヤツレ気味。リンから事故の知らせを聞いたときは、
冗談抜きでパニックになっていた。リンの携帯電話越しにも解るほど。無論、今
は、落ち着いている。
 「まぁ、たいした事無くてなにより。それにしても尋常じゃ有りませんよね。車を
ぶつけて事故を起こすなんて。妖怪の仕業だとするのは、早計だとしても調べた
ほうが良いのでは無いでしょうか。」
 今まで黙っていたハクが意見を述べた。うーむと、考え込む一同。如何せん荻
野家の人達は、自分たちの存在を理解してくれている本当に数少ない存在。その
人が言っている事を無視するわけにはいかない。
 「とりあえずは、リーダの神楽さんの意見を聞いてみるしかないね。」
 風治がそう言ったせつな店の扉が開いて、神楽が入ってきた。
 「私は、リーダーになった覚えは無いぞ。風治。」
 不機嫌な声でそう言うと椅子の一つに腰掛けた。
(リーダーじゃぁ無かったのか?)
 ハク、リン、千尋が同時にそう思ったが、口にするのはためらわれた。どう見て
もかなり不機嫌そうだからだ。ハクが思わず尋ねる。
 「何か不機嫌そうだけど如何したんですか?」
 「あー、仕事の事でチョトね。ある有名なオカルト雑誌の作家が、交通事故で大
怪我したんで、雑誌に穴が空くから何か書いてくれと、編集長や担当から頼まれ
たんだけど、締め切りまで三週間しか無いんだよね。今からネタを考えて資料を
調べて・・・間に合うかな・・・」
 ハアーと、大きな溜息をつくと全員に向かって言った。
 「そう言う訳で、今回の件は私は関わる出来ないからな。」
 「そりゃ、御愁傷様。で、その事故った作家さんはどんな事故だったんだい。」
シンシアの台詞に又、溜息をつくと、
 「当て逃げそうだ。車を運転していたら後ろからワンボックスカーが、ぶつかっ
て来たんだらしい。弾みで、電信柱に衝突。で、右手と肋骨を骨折。さらに全部
で、三十数針縫う怪我をしたんだそうだ。」
 え、と一同。そして、風治が恐る恐る尋ねる。
 「あのーひょっとしてそれは・・・」
 「千尋の親父さんの件と同じ奴だろうよ。」
こともなげ言う神楽。そして、リンの方にむき直るとこう言った。
 「ところでリン、お前警察官に何か聞かれたそうだけど、注意してくれよな。」
 「あー、あの事か・・・千尋の親父さん免許書、持ってなかったんで家族への連
絡を頼まれただけだよ。まー、名前と住所、聞かれたけどな・・・」
 「頼むから余り警察に係らわらないでくれよな。」
 分かってると応えるリン。無理も無い。彼らのような存在は、当然の如くシッカ
リした戸籍と言ったものは無い。そのためたいてい偽造だ。他のネットワークの
助けを借りて偽の戸籍を作っているのだ言う。詳しい方法は知らないが、おそら
く真夜中に役所に侵入してファイルに偽の書類を滑りこましたり、コンピューター
に詳しい仲間が役所のコンピューターに侵入して、偽のデータを混ぜているのだ
ろう。考えてみれば物凄く物騒な話しではあるが。
 そんな訳で、偽造された身分証明書は、完璧でアメリカのFBIやCIAでも解ら
ないほど精巧に出来てはいるが、何処からボロが出るか分からない。まして
や、この社会に、妖怪が居るなてことが公になったりなんかしたら・・・考えるだけ
で恐ろしい。リンもハクも人間社会で生活をはじめる直前、「デビルマン」とか言う
漫画を読まされているので、良く分かっていた。
 「分かってるんだったら結構。それより、私は、この件には係れないけど・・・大
丈夫だよな?」
 「もちろん」と、リンと一同は応えた。






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