第二話

 稲垣花梨のことリンは、こちらの世界に来てから趣味を持つようになった。油屋
に居たときはとにかく働き詰で、自分の時間と言うものを持てなかったし、娯楽も
殆ど無く、花札や博打や将棋ぐらいなモノで、後は酒を飲むか食い物を食べる
か寝るとかいった楽しみしかなく、自分の趣味を持つ事が出来なかった。
 しかし、こちらの世界では働き手は労働基準法とか言う物のお陰で、労働時間
や賃金などが細かく決められ、休日も週に1日から2日も貰えるので、自分の時
間が出来たので自分の好きな事が出きるようになった。
 そう言う訳で、リンはバイクに興味を持ち休日になると、バイクに乗って出かけ
るようになった。無論、免許は講習を受けて正式にとったモノである。ちなみに彼
女か乗っているバイクは、ホンダのCB1300 Super Fourと言うやたらとでか
いバイクである。
 ハクもこちらの世界に来てから趣味できたそうだ。クラシック音楽や民族音楽を
聞くのが趣味らしくオーディオ機器にかなり金をつぎ込んでいるらしい。「ちょっと
暗くないか?」などとリンは思ってしまうわけだが、どう考えても文系のイメージが
付きまとうハクが、大騒ぎするなんて想像もつかなかった。
 神楽の趣味はカメラで写真を撮ることらしい。主に風景と動物の写真を撮って
いる。フリーライターの仕事で写真を撮る事が多いので、気が付いたら趣味とし
て定着したんだそうだ。今は、銀塩カメラからデジタルカメラの方に興味が行っ
ている。
 シンシアの趣味は読書だとの事。ジャンルは特に問わないそうだが、1日に二・
三冊ぐらいは読んでいる。まぁ、彼女は吸血鬼で、太陽の光が苦手だからあまり
日中は外に出たくないそうだ。
 作助の趣味は釣りで、風治の趣味は山登りで、武男は競馬や競艇とかいった
ギャンブルだとの事。勿論、節度を持ってやっている。
 そんな訳で、皆それぞれ自分の趣味を持っていた。

 リンは、国道を滋賀県から京都方面にむかって走っていた。ツーリングの帰り
である。リンは、走り屋では有ったがあまりスピードを出さない安全運転派であっ
た。事故を起こして怪我なんかしたくないし、何よりバイクを壊したく無いのが主
な理由。
 道は渋滞していたがリンは、路肩を走る事が出きるバイクには余り関係は無く
路肩をゆっくりと走っていた。

 走っていると、前方に赤い光が瞬くのが見えてきた。パトカーと救急車のパトラ
イトであった。近くの住民だろうか、野次馬もかなり居た。
 「この渋滞は事故でか・・・どうしょうかな・・・」
 リンは、ヘルメットの中で呟いた。自分には関係無い事だからそのまま通りす
ぎようとした。したのだが、気になってバイクを止めた。
 いや、違う。気になったと言うよりは、単にどんな事故かと言う好奇心と野次馬
根性に負けて止めてしまったのだ。決して他人の不幸を見たい訳ではない。
 リンは、バイクから下りて事故現場に近づくと、無残に変形したセダンの乗用車
があった。
 「アレ・・・?」
 リンは、思わずそう呟いた。その車に見覚えがあったからだ。誰の車だったか
と、思い出そうとして事故車両に目を凝らす。
 「千尋の親父さんの車じゃないか!!」
 思い出したリンは、思わず大声で叫んだ。周りの人達が驚いてリンを見る。当
然警察官もその声を聞いて振り向いた。リンは、慌てて両手で口を塞ぐがすでに
遅し警察官が二人ほど近づいてきた。
 「君、この事故車両に乗っていた人を知っているのかね?知っているのだった
ら是非とも捜査に協力して欲しいのだが。」
 今更、知りませんなどと言えるはずも無く、リンは内心溜息をついて承諾した。





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