第1話〜プロローグ〜

 その国道で、また交通事故が起こっていた。
国道から一般道へ右折しようとした五十代の夫婦が乗るワンボックスカーに、二
十代前半の青年が、運転する大型のRV車が、猛スピードでぶつかった事故で
あった。RV車は、七・八十キロぐらいもしくは、それ以上の速度で、ワンボックス
カーの助手席のドア付近にぶち当たったのだ。しかもそのRV車は、今時珍しく
頑丈なグリルガードをつけていたのだからたまったモノでは無い。当然、ワンボ
ックスカーの助手席辺りは、原型を留めておらず目茶目茶になってしまってい
た・・・
 周りには、事故の通報を受けて駆けつけた警察車両や救急車のパトライトが、
付近を照らし、警察官や救急隊員、野次馬でごった返していた。
 駆けつけた救急隊員がワンボックスカーから、五十代の夫婦を引っ張り出して
ストレッチャーに乗せた。運転席にいた男性は大怪我を負ってはいたが、命に
別状無い様だが問題は、婦人の方である。
 かなりの重症の様だ。目や肌に生気が感じられない。脈が殆ど感じられず呼
吸も酷く浅い。完全に虫の息だ。
 (この女性は、もう駄目だろう・・・)
 経験豊かな救急隊員は、心の中で呟いた。悲しい事だが、経験上ある程度わ
かってしまうのだ。しかし、職務上ほっとくいく訳にも行かなかった。奇跡を信じ
て出きる限りの事を全力でおこなった。ちなみに、RV車に乗っていた青年の方
は、RV車の丈夫な車体と、シートベルト、エアーバックのおかげで、軽傷だった。
 彼ら救急隊員の後ろでは、RV車に乗っていた青年が警察官から、事情聴視
を受けていた。警察官は、悪びれた様子も無く自分に都合のいい事ばかりを喚
き散らす青年に閉口していた。
 直線車両が優先だろうとか、むこうが無理な右折を使用としたから悪いのだと
か、言いたい放題である。挙句の果ては、怪我をした夫婦よりも自分の車が綺
麗に修理できるかどうかの方を気にしていた。人が一人死ぬかも知れないと言
うのに!!
 その青年の声は、事情聴視をしている警官だけけでなく、救急隊員や野次馬
にも聞こえた。聞こえた人達は、理不尽を感じ青年に対して怒りや苛立ちを感じ
ていた。その感情が、理不尽な行為に対する想いが、あるに一点に集まっていっ
た・・・

 数日後、警察署で保管してあった事故車両のワンボックスカーが忽然と消え
た。焦った警察は、必死になって探したがとうとう見つからなかった・・・





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