|
 |
|
夜明け前に小屋を抜け出したつもりが、日の出の時刻は目前に迫ってしまっていた。
これでは奥穂山頂で朝を迎えられず、涸沢岳山頂を目指す。
少し登った時点で、常念岳付近から日が昇った。
眼下の涸沢カールや西の蒲田川の谷底はまだ目覚めないなか、朝陽のあたった笠ガ岳は同じ朝陽を受けても黒々としている穂高とは対照的で、明るくまばゆいばかりだ。
やがて着いた涸沢岳山頂からの光景は素晴らしく、見通しが抜群だったことも手伝って北アルプスはもとより日本列島の脊梁を形成する山々すべてが見えている感覚だった。
|
涸沢岳の登りで見た朝日 |
|
|
|
 |
|
笠ガ岳が朝日に映える |
|
|
|
|
あまりの景色にここでのんびりしすぎてしまい、小屋に戻ると(ひ)がおかんむり。
それもそのはず、小屋の食堂に目をやるとそこに残っているのは我々の食事のみで、他の人はとっくに朝食を終えてしまっていた。
どこに行っても、つい「今が千載一遇のチャンス!」と思い、のんびりしてしまう癖があるので、(ひ)にはしばしばこんな感じでカミナリを落とされてしまうのだ。 |
|
 |
|
涸沢岳から北尾根〜前穂高岳、奥穂高岳 |
|
|
|
 |
|
急いで食事を済ませ準備ができたら、まずは奥穂高岳往復。
小屋や乗越でテント泊の人たちはとっくに山頂へ向け出発していったが、時間が時間だけに、すでに他方面から乗越に着いた人たちも山頂目指し登りはじめていた。
でも、あせる必要はない。
天気は快晴。
このあとは山頂往復して再度、乗越に戻り、涸沢岳を経由して北穂小屋まで行けばいいから、のんびり風景を楽しみながら行けばよい。 |
奥穂高岳登山道に咲くイワツメクサ |
|
|
|
|
登山路を山頂までの中ほどまで上がると、背後の涸沢岳と北穂高岳の南峰、北峰のふたコブの間に槍の穂先が姿を見せる。
やはり槍は日本アルプスのシンボル。
どこから見ても凛々しくてカッコいい。
|
|
 |
|
奥穂高岳山頂からジャンダルムと遠くに白山 |
|
|
 |
|
右手のジャンダルムは次第に低くなり、西穂へ向かう人が山頂に立っているのが見える。
奥穂山頂に着けば南の眺望も開け、360度の大パノラマ。
北に天を突く槍ヶ岳をはじめとする北アルプスの名峰がずらりと並び、
南は眼下に霞沢岳、焼岳をはさみ緑の樹林帯の中に梓川が白く流れるのが見え、主稜はさらに乗鞍、御岳へと続く。
西には笠ガ岳が悠然と横たわり彼方に加賀・白山。
|
奥穂高岳山頂から南望
主稜線はジャンダルム、西穂高岳、焼岳、乗鞍、御岳と続く 左は霞沢岳 |
|
|
|
東はピラミダルな前穂の右、明神稜線の遥か彼方に南アルプス山塊や、大きな台形を雲上に見せる富士山。
左手には八ヶ岳や浅間山。
本邦第三位の高峰からの眺めは言葉では表現できないほど素晴らしい。
|
|
 |
|
槍ヶ岳遠望 |
|
|
 |
|
近くにいた人が
「今日は妙高の外輪山も見えている。」
と話していたのを耳にしたとおり、今日はとにかく見通しがよかったらしい。
穂高は岩の山だが、この時期は稜線上でも可憐な花が咲き目を楽しませてくれる。
ミヤマキンバイ、ヤマハハコ、イワツメクサ、ヨツバシオガマ、ハクサンフウロ、ミヤマオダマキ、クルマユリ・・・。 |
シナノキンバイと涸沢カール 奥の稜線は常念岳〜蝶ガ岳 |
|
|
|
|
乗越に戻ったら北穂高岳へ向け縦走開始。
このルートはあまり注視されていないようだが、自身の中では危険度の高いルートとの認識にある。
ここを(ひ)が歩くにあたっては危険度が高く、
「ちょっと無理では・・・。」
とも考えたが、頭の中にエスケープも入れながら歩くことにした。
涸沢岳山頂を過ぎると早速、危険地帯のお出まし。
小コルまで鎖場の急な下りだ。
|
|
 |
|
涸沢岳〜北穂高岳・最低コル付近より前穂高岳〜奥穂高岳 |
|
|
最も緊張させられるのは涸沢槍から最低コルまでの、少し長い下りだろうか。
ちょうどこの付近で北穂方面からの多くの人と離合したので緊張もピークだった。
特に(ひ)の緊張度はかなりのものだったと察する。
何せ、こんなところを歩くのは伯耆大山の縦走路を歩かされて以来だから・・・。
何とか好天に恵まれたおかげで、危険個所にもかかわらず特に危ない目には遭わなかったのだが、雨が降っていたり、霧で岩やハシゴ、鎖が濡れている状態での通過なら状況は一変し、一歩間違えばあの世行きの危険なルートに豹変することは目に見えていた。
この最難所を下りきり、一息ついたら最低コルのすぐ先の小ピークで大休止。
前穂、奥穂や涸沢、それに今、下って来たばかりの岩場を見上げながらしばらくのんびりし、これからの登りに備え英気を養う。
もう少し岩場を行けば北穂・南峰基部の南稜分岐に到着。涸沢からのルートと合流したら北穂山頂は目の前だ。
あいにく涸沢岳をあとにしたころから湧きだしたガスが山頂付近を覆い、このとき山頂からの展望は皆無だった。
「景色は時間が経てばまた見える。」
頭を巡らせたエスケープルートは不要となり、今日も昨日に引き続き、危険な個所を無事歩き通せて何よりだった。
|
 |
雰囲気抜群の北穂小屋 |
|
|
山頂直下に位置する北穂高小屋は内外ともに雰囲気抜群だ。
あんなに高所にある建物とは思えないほどアンティーク風に小洒落ていて、どこかの街はずれの小さな喫茶店かパブのようだ。
それも、かなりクラシカルな。
中にいれば落ち着いた雰囲気だし、外に出てテラスに腰掛ければ、キレット越に槍をはじめとしたこの上ない展望を居ながらにして得られ、もしガスっていても
「いつ晴れてくれるだろう・・・。」
というワクワク感に溢れている。
北穂山頂までわずかに十数歩。
こんなロケーションのお店は他に知らない。
 |
夜の北穂小屋・展望バルコニー |
|
ご主人こだわりのイワツメクサをあしらった食器に盛られる食事はもちろん美味いし、夜になれば小さな食堂はいつしか宿泊者の語らいの場に変身。 |
|
宿泊者がそう多くない小屋ならではの和やかな寛いだ光景が繰り広げられる。
この日は折からのガスで展望は得られなかったが、外のテラスでも三々五々、話がはずんでいる様子だった。 |
|