--------------------------------------------------------------------------------
GS美神 リターン?

 Report File.0042 「横島の学校生活 その6 〜 アイドル誕生!?」
--------------------------------------------------------------------------------


 学生ともなれば色々話題に事欠かず喋るわけだが今日は昨日、放映されたある番組の話題で持ちきりだった。

「おう、見たぜテレビ!」

「見たか、お前も」

「良かったな…」

「ああ、すごくな」

「「「「おキヌちゃんがっ!!!」」」」

”そ、そうですか? ありがとうございます”

 キヌはうれしそうに礼をした。腕にはみーーっ!と上機嫌に鳴くグレムリンの赤ん坊、グリン(横島命名)が抱かれていた。

「へん、どーせ、俺なんて…」

 横島は友達の反応にふて腐れた。

 以前の仕事でテレビ番組に出ることになったと横島はクラスメートに話す機会があった。事件からもう2週間経ち、その番組の放送日が昨日であった。

 その間にキヌがグレムリンの赤ん坊、グリンを連れてきて騒ぎになったりしたが、今ではクラスのマスコットとして定着していた。今や教室の掃除道具が納めてあるロッカーの上に巣を作っているぐらい馴染んでいた。

「結構、昨日の番組でおキヌちゃんへの反響がすごいらしいぜ」

「ああ、何か美少女巫女さん幽霊って言う事で売り出そうって話もあるようだ」

 昨日の事なのにそんな話があるかと思われるが、それはそれ。放送日以前にそれなりの経路で情報が流れたのだ。事実、美神令子除霊事務所にも問い合わせの電話がかかって来ていて令子は切れそうになっていた。

 令子は金にはがめついがキヌをアイドルにしてまで儲けようという考えは無かった。あくまでも自分の能力を使って儲ける事に意義を見出していたからだ。そんな訳で色々話を持ちかけられるがすべて断っていた。

「ああ、ファンクラブを作ろうって話以前からあったけど、どうも本格的に動くようだ」

「で、おキヌちゃん、何時、アイドル・デビューするの?」

”え? どうなんでしょ?”

「そんなもったいない」

 何時にも増してキヌの周りには人が集まっていた。

「何か横島君、うかうかしてられないんじゃない?」

 女生徒の一人が声をかける。

「ん? 何が〜?」

 ふて腐れ突っ伏していた横島が問いかけに気の無い返事で答えた。

「え? このまま、ぼやぼやしていたらおキヌちゃん取られちゃうよ?」

「ん〜? おキヌちゃんは確かに俺に括られているけど、それってそう簡単には変えれないと思うけど」

「そ、そうっ?」

 そうじゃないんだけどな〜と思ったが、まあその辺は込み入った事情もあるだろうし本人どうしの問題だもんねと続けるのをやめた。

「それよりも、お前なんでMHKシスターズと一緒だったって教えてくれなかったんだ?」

 がしっと友人の一人が首に手を回した。

「いや、俺も直前まで、そんな事になるとは知らんかったし」

「会ったんならサイン位もらってても良いだろうに…」

 もったいないと軽く腕に力を込めた。

「あんまり興味なかったからな…」

 悪いと少し首回りが苦しいながら謝った。

「いや、すまん。俺も無理言っているよな…で、実物はどうだった?」

 テレビと実際は違うことがよくあるみたいだしなと興味深げだ。

「ん〜、確かに美人だったな…みんな。(そういえば後で知ったけど、多分、あのリーダーの人か茶髪の人とキス)したんだよな…」

 そう言って横島は当時を振り返った。



 あの事件の後、無事に肉体に戻った横島はトイレに言った時、鏡を見て気がついた。唇に僅かながら口紅がついていたのだ。

「な、なんじゃこりゃーーっ!」

それを見て横島は動揺した。

「…………これは絶対、キスの痕…な、なんでじゃーーーっ! 覚えが無いぞーーっ! もったいなさすぎるーーーーっ!」

 しばらくたって覚えが無いことに絶叫した。

「はぁ、はぁ、はぁ、まて落ち着こう。覚えてないのは仕方ない。とりあえず誰としたのかだ…」

 手がかりは口紅の色…

(美神さんは除外だな。あの人はもっと鮮やかな色だった…)

 今日の令子の唇を思い出しながら否定した。次々に口紅をしている女性を思い浮かべていく。あの口紅の色をつけていたのは取材スタッフの女性陣を含めていき、候補は二人に絞られた。MHKシスターズのリーダーの人と茶髪の人である。

「くそっ! (あの二人のうちどちらかとキスを…接吻をしたのに…もったいねーーっ!) おのれーーっ! 俺が宇宙で死に掛けていたときにおいしい目見やがって、許せんっ!! この肉体めっ!!」

ガンッ、ガンッ、ガン!

 横島はほとんど発作的に壁に頭を打ち付けた。バカである。結果、血を流血させ、意識を朦朧とさせることになった。

(ああう…俺ってバカ? だよな…)

その後、何とか復活した横島は前にかねぐら銀行の件で知り合ったチエとの事を思い出しながらそれを2人に置き換えて妄想し、興奮して鼻血を出した。



「…って、おい、横島。何、浸ってやがる。さあ、吐け!! 何をしたんだっ!」

 回想に浸っていた横島をさっき直前まで話していた友人に現実に引き戻された。しかも、何か口走ったのか追求されている。

「えっ? 何って…」

 横島はこの流れはやばいと感じた…このままでは久々に袋にされてしまうと本能が警告していた。

「ま、ま、まさか…」

 話しかけていた友人がヨロヨロと後退った。そして…

「MHKシスターズに不埒な事をーーーっ! あんな事やそんな事をーーっ! したんだな。したんだなーーーっ!」

叫んだ。

「何? 貴様、MHKシスターズにセクハラをしたのか!!」「抱きつきまくったのか!?」「ベーゼをか!?」「胸をつかんだか!!」「気もちよかったか!?」 「でかかったか!?」

 それが呼び水となったのか男子生徒が横島の周りに集まり次々と追求が始まった。最後の方は何か主旨が変わっていたようだが。

「ちょ、ちょっと待て、お前ら! 俺は何の覚えも無い!!」

 横島は手がかりはあったが覚えていないものを追求されてもと焦った。この場に令子がいたならなんと言っただろうか。実際、キスしたのは確かでありそれは横島の生命維持に必要だったからだ。もっとも生命維持の方法については横島には令子は教えていない。理由は聞かれなかったからだ。

「ええい、問答無用じゃーーっ!」「いてまえーーっ!」「「「おおぅ!!」」」

「何でじゃーーっ!」

 第何回になるのかわからない横島袋叩き大会が始まった。

「また、始まったわね」

「横島さんに神のご加護を…」

「グリンちゃん、今は横島さんの所に言っちゃだめよ? 痛い目に遭っちゃうからね?」

 参加しなかったものは巻き込まれないように退避した。

「横島君が居ると退屈しないわね」

「ホント、見ているだけであきないわ」

「騒乱の星の下に生まれたんですかね…アーメン」

 口々に勝手なことを言いつつ騒ぎをながめるのであった。


     *


「もう、仕事になんないじゃない! あんまりしつこいようなら営業妨害で訴えてやる!!」

 令子は余りにも頻繁にかかってくるキヌへの勧誘に辟易していた。とはいえ、転んでもただでは起きない。かかってくる電話はすべて録音し、しつこい輩は然るべき手続きで訴える証拠を、ついでに霊波を乗せて軽く呪ってやった。軽い頭痛や腹痛程度なら、強い霊力と技術があれば電話越しでもできるのだ。

 そう言った処置のお陰か昼を過ぎる頃には余りかかってこなくなった。

「もう、なんでこの手続きは面倒なのよ! この分は横島クンの給料から引いてやる」

 何気に横島が不幸になる言葉を吐きつつ、令子はグレムリンを保護するための手続きを整えていた。なんだかんだ言っても、その辺は面倒見がよかったのだ。今まで時間がかかっていたのは各種手続きを申請し通すのに時間がかかったからだ。この辺はGS協会もお役所と同じであった。

「面倒起こしたらただでは済まさないんだから」

 多少嫌々ながらも保証人はGSたる自分の名前を明記した。

「これで良し! 後はGS協会に届けるだけね」

 整えた申請書類を封筒に入れると立ち上がった。

「あ…そういえば…」

 面倒ごとを片付けて多少、気分が晴れた令子だがこれから向かう場所を思い出して立ち止まった。

「そうよ、これ出す所はあいつの部署だ…ふふ、ふふふっ」

 令子は復讐するは我にアリと気合をいれ、どんな仕返しをしようかと考え込んだ。

「そうね、確かあいつに関する情報がこの辺に」

 令子は情報ファイルの一つを取り上げページをめくる。

「あった。これをうまく活用すれば、あいつをギャフンと言わせれるわ!」

 そう言って意気揚々と令子は事務所を出て行った。


     *


ぱちっ

「………! うっ……」

 夜中、突然目を覚ました横島はぷかぷか浮いて寝ているキヌを見て一瞬、驚き大声をあげそうになり、無理やり手で口を塞いで防いだ。その試みは成功し、キヌは目を覚まさなかった。グリンもスヤスヤと部屋の隅に作った巣で寝ている。

 横島はそろそろと物音を立てずに部屋を、アパートを出た。向かうのは東京タワー。


「…ふう、風が気持ちいいな…」

 しばらく横島は風に当たりながら夜景を眺めた。

「しかし、参ったな…記憶を封印されるなんて。このままじゃ、非常にまずいよな」

 横島は気持ちを落ち着けていく為にワザと声を出した。今の横島は記憶を無くす前、つまり不本意ながら逆行してしまった横島であった。

「文珠で何とかしようとしたけど、どうにもならんかった。逆に修復しようとした時は焦った。こりゃ、根気良く地道に解封するしかないか…」

 実際には何かの力で記憶が封印されているのだ。さっき、何とかしようと奥の手である文珠を使ったがどういうわけか効果を発揮しなかった。

 仕方なく、今までの事を整理しようと回想する。自分の時と記憶を封印されている時の横島とではかなりずれて来ている。

「しかし、どういう事だ? 俺の時と違って、滅茶苦茶、おいしい目を見やがって! 何か自分なんだが腹立つ。キスなんてまともにした事あるのなんて大分後の事なのによーっ! どちくしょーーっ! 俺の青春返せーっ! ハァ、ハァ、ハァ…でも、どう見たって俺がここに、この時間に居るのは誰かの陰謀だよな」

 記憶を封印されている時の自分も本来の自分も同じだが、いざその記憶を思い返すと自分そっくりの別人が体験していたようで自分が体験した実感がなく気持ち悪い。

「どうなってんだ、今の状況…訳がわからん。気がつけば逆行してるし、ついでに記憶も封印される。どう考えてもこの状況は誰かが関与しているとしか思えん!」

 だが、心当たりはないわけではない。それにこんな事ができる人間は限られてる。そう言った者の動きは隊長なら、掴めるだろう。できそうなのは魔法関連に強いものだ。そうなるとDr.カオスか魔鈴ぐらいしかいない。だが2人はそんな事をしないだろう。少なくとも問答無用には。

「となると神族か、魔族…」

 神族にはこんなことする奴の心当たりはない。だとすると魔族となる。

「有るな…とっても。どれくらいかはわからん」

 横島は腕を組み考える。おそらくアシュタロス派だろうこの状況に陥った原因は。

「だが、分かったからといってどうにもならないんだよな…」

 どうも、記憶が封印される前よりも時間が流れている所を見ると時空消滅内服液の効果が消えたのか、それとも似た効果のある物だったのか。

「…さしあたって、そんな事よりも、今、最も必要なのは記憶の封印を完全に解封する事か…」

 そうなのだ。今の状態は偶々以前にグレムリンの攻撃で封印に亀裂が入ったから一時的に戻っただけ。その前にも戻ったがあれは強引に封印を解こうとしての結果で反動が凄かった。

「このままだと記憶を封印されている俺という別人格ができてしまう。それはまずい」

 幸いにもこの前の一件で記憶封印にガタがきた。これでダムの決壊の如く徐々に激しく封印は解けるはずだ。

「でも、後一押し、いや二押しは…いや文珠の性で多少直っちまったから、五押しぐらいした方が良いか…」

 段々回数が増えていくのは、かなり強固な封印のようで自信が持てないからだ。封印が解けたら解けたでまだ解決しなければならない問題は山済み…でも、やれるものからやるしかない。

「ん! 今回はここまでか…」

 随分、考え込んでいたのか空が白み始めていた。

「朝焼けか…夕焼けじゃ無いのが残念だけど…」

 横島は昇り始める太陽が生み出す光景に魅入った。

―――昼と夜の一瞬のすきま…短時間しか見られないから、よけい美しいのね。

 どうしようもない俺なんかでも良いって言ってくれた女の好きな風景…。そんな女の為に強くなると決意した。結局、自分自身の力が足りなかったから、彼女を失った。初めて好きだと言ってくれた女の為にも、自分を卑下する事だけは止めた。自分を卑下する事は彼女を貶める事になる。

 その思いが記憶を封印されても生きているのだろう。それが同じ事件に関わったのに事態を少しずつ変えていっている要因だ。…多分。

「必ず、再開への道は遠そうだよ。ルシ…」

ビュウーーー

 風が舞い横島の言葉をかき消した。

「…………! へっ!? あれ、俺寝ていたのに何で!? それにここどこだよ」

 気がつけば知らない所、しかも、高い場所にいるのだ。混乱して当たり前だろう。

「なんか、すげー高い。赤い鉄塔? ま、まさか、ここって東京タワーかよっ!!」

 あたりを見渡し自分がどこにいるか理解した横島は呆然とした。

「………何でここに居るかは後で考えるとして、どうやって降りればいいんだ?」

ビュウーーー

 無常にも風が吹きすさぶ。横島はどうやって降りればいいのか思案し、立ち往生するのであった。


(つづく)

--------------------------------------------------------------------------------
注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






<Before> <戻る> <Next>