--------------------------------------------------------------------------------
GS美神 リターン?
Report File.0041 「宇宙に響く子守唄 その3」
--------------------------------------------------------------------------------
”横島さん! 横島さん!! 横島さん!!! ”
”ううっ! な、何が…”
キヌの必死の呼びかけに横島は意識を取り戻した。
”くっ! お、おキヌちゃんは無事だった?”
少し朦朧状態だったが、自分の事よりもキヌの方が気に掛かった。
”はい!! それよりも横島さんのヒモが!!”
”わぁっ!! ヒモが…俺の魂のヒモがどんどん…!!”
朦朧とした意識が一瞬にして戻る程、衝撃的だった。ここに昇ってくるまでにも段々、細くなっていたような気がするので焦った。何気に気のせいか自分が薄くなっているように感じる。
ピキーーーン、ピキーーーーン
「くっ、まずい! このままでは!」
医者が叫び、急いで横島の身体の腕をとり、注射した。
「ま、まずいわね……!」
令子はふと考えが浮かんだ。が、それはばかばかしい方法だった。そんなのは効果ないと一度は否定するが、あの横島だという思いが実行してみる価値があると判断させた。
令子は横島を背中から抱きしめるように変えた。
ピキーーーン、ピキーーン
「おお! 持ち直したっ! 治療の成果かっ!」
先程まで慌しく動いていた医者が落ち着きを取り戻し始めた。医者はあくまで自分の処置が功を奏したと思った。
「はは、この男は…」
令子は冗談のような思い付きが的を射て少々、顔を引きつらせた。持ち直したのは決して医者のおかげでない事は令子にはわかりすぎるくらいわかった。
ぬ
自分の肉体がおいしい目にあっている事など露知らず、命の危機をひしひしと感じ、殆どパニック状態に陥っていた横島に忍び寄る影がいた。
”!”
気配に気付き、横島は顔を上げた。そこには写真に写っていた翼ある小悪魔グレムリンが居た。
”シャーーーッ!”
横島とグレムリンの目があうとグレムリンは威嚇してきた。
「どわっ!! グレムリン!? 何か予想と違って実物はでかいやないかーーっ! 何処が翼のある子悪魔やねん! 無茶苦茶でかいやないかーーっ!!」
グレムリンとご対面した横島だが、そのでかさに驚いた。何と言っても、自分よりでかい。虎かライオンぐらいは有りそうである。
そんなグレムリンと対峙した訳だが臨戦体制に入ろうにも人工衛星にしがみついている状態なので何も出来なかった。横島はダメダーーーッ!!と顔を引きつらせた。
そんな横島に無常にもグレムリンは攻撃をかける為、飛び掛った。
シュッ!
グレムリンが右腕を振る。手は猛禽類のように鋭い鈎爪になっている。
「あ゛ぅーーっ!!」
奇声を発しながら横島は何とか鈎爪から逃れる。が、更にグレムリンに追い詰められた。
「な゛っ!?」
パクッ! ガツッ!
”あぁっ!? よごじまさん!!”
齧られた。齧られてしまった。頭を…キヌは一瞬意識が遠のいたが、ここで気を失っては横島さんを助ける事が出来ないと無理矢理復帰する。
ジタバタ、ジタバタ、ジタバタ
だが、死んではいなかったらしく、元気に手足を動かしていた。しかし、それも少しずつ鈍くなっているような気がする。
『美神さんっ! 横島さんがっ! 横島さんがグレムリンに襲われていますっ! っていうか、齧られてます!』
キヌのSOSがスピーカーに流れ、令子に届く。キヌ自身の声がスピーカーから流れるのは横島経由である。
「何ですって!? こっちはそれ所じゃないのに!!」
予想していなかった事態に令子は焦る。ただでさえ急に横島の肉体の状況が悪化したのだ。もっとも魂と連動しているのだから当然かもしれない。
ピキーーーン、ピキーーーーン
「うぉーーっ! 持ち直したんじゃなかったのかーーっ!」
再び横島の様態が悪化し、医者は慌てた。無闇に薬を投与するわけにはいかないのだ。手段を考えるがうまく思い浮かばないでいた。
「上もこっちも、てんぱってるなんて…グレムリンはそんないきなり襲うような凶暴な奴じゃない…何か原因があるはず…」
『だって、だって、現に…』
『だーーっ! いてっ! いてっ! 言うーとろーっが、いい加減にせーっ! あーー、何か意識が遠のくーーっ!』
『よ、横島さーーんっ! しっかりーーっ!』
考えようとするがひっ迫する声が思考を邪魔した。
「だーっ! 少し黙りなさい。考えまとめれないじゃない!!」
令子は理不尽な事を叫んだ。その場に居たスタッフ達はあんた、鬼だぁと思った。
「ああ、もうとにかくこの状況を脱するには…そこのリポーター協力しなさい」
ビシッと茶髪のリポーターを指差した。人を指しちゃいけないって言われなかったんだろうか? まあ切羽詰った状況では仕方ないのかもしれない。
「えーと私ですか?」
突然、指名された茶髪のリポーターは戸惑いながらも令子のほうに来た。
「横島クンの様態を改善するのを手伝って!」
「はい?」
意味が掴めず戸惑う。
「いいから、こいつの腕にあんたの腕を絡めればいいの」
「ああ!」
ようやく、合点が言ったと茶髪のリポーターは少し戸惑った。先ほどの令子が取った行動を見ていたからおよその意味がわかった。
まあ、減るもんではないと令子の言う通りに右腕に絡めた。サービスとばかりに胸を押し付けて。
ピキーーーン、ピキーーン
「おおっ! 持ち直していく。そんなバカなっ! 医学はーー! 医学はーー!」
流石に今回の持ち直しで医者は自分の処置で持ち直したのではないと感じて、自分の存在意義にダメージを負い、頭を抱えて泣き叫んだ。記憶を失っていない横島がみれば某病院の医者を思い出したかもしれない様子であった。
「ふー、こっちは何とかなった。次は…」
令子がこちらを優先したのは横島の声から肉体よりは、まだ余裕があると判断したからである。
『横島さん!! 大丈夫でしたか?』
『ああ、大丈夫だ。でも、頭に鎖が無かったらと思うとぞっとする』
令子達が肉体の方にかまけている間に横島は抜け出せたようだった。
『でも、さっきの凄かったですね。確か霊波砲っていうやつですよね』
霊波砲、霊力の高い者には結構、ポピュラーで単純に霊力を束ねて放出するだけの攻撃方法である。だが、舐めてはいけない。使いようで必殺の技となる程の威力があるのだ。
『ああ、何かいきなり右腕が熱くなったような気がして、突き上げたら出た』
令子と茶髪のリポーターは思わず横島の右腕を見た。令子たちの様子を見ていた者もだ。
「「「「「「現金な奴…」」」」」」
一同はそっくり同じことを言い、この場に居る者は横島がどういう人物か理解した。
”さっきのは直撃せんかったけど、びびってはくれたようやな”
横島はグレムリンの顎から逃れてから、こっち何もしてこないグレムリンを見やった。すると、グレムリンは威嚇してはくるが、こちらには寄って来ようともしない。
”そうですね。”
”このまま、後は追い払えばいいんだけどな…っていってるそばから、ああっ! こらっ! 俺の魂のヒモっ!!”
がじがじ
グレムリンが尻尾を伸ばして横島の魂のヒモを引っ掛け手繰り寄せて齧っていた。
”い、何時の間に…”
”だぁーーーっ! 俺の魂のヒモーーっ!”
横島は危険も顧みずグレムリンに飛び掛った。
<歌を、歌を歌うのよ! グレムリンは綺麗な歌声が苦手なの!!>
”な、何ですとーーっ! グレムリン!! 俺の、俺の歌を聞けーーーーっ! ぶべっ!”
歌おうと身構えた横島を無常にもグレムリンは前足で叩き伏せた。
”横島さん!! …この子の可愛さ限りない、山では木の数萱の数…”
キヌは決心し、何か遠き日を思い出しながら口ずさみし始めた。実際には声が聞こえているわけではない。キヌの歌は霊波となって辺りに放射されている。それは直接心に呼びかけるものだった。
”ギ!?””うげっ”
グレムリンは戸惑いを浮かべ、その拍子に横島に乗せた前足に体重が乗った。
”尾花かるかや 萩ききょう 七草千草の数よりも…”
遥か遠き日の故郷の思い出がキヌの心に溢れ出した。
”ギッ! ギャ、ギャッ!””げげっぶっ! …”
動揺からかグレムリンは身体を何度となく動かし、その拍子に横島も踏みつけられ、終いには顔が青くなって泡を吹いていた。
”うう、誰か河の向こうで手を振っている。あれは…誰?”
横島は何気に死の一歩手前まできていた。
”大事なこの子がねんねする 星の数よりまだ可愛い…”
横島の状態など今や目に入っておらず、懸命に歌を歌う事だけをキヌは考えていた。
”ウギャッ!”
グレムリンは怯えて後退った。そのおかげで状態は変わっていないが横島は解放された。
”ねんねや ねんねや おねんねやあ♪ ねんねんころりや…”
ギャーーーーッ!!
そして、とうとうグレムリンは耐え切れなくなったのか逃げ去った。太陽の方へ向かって羽ばたいて行ったのは気のせいに違いない。
”…私、最近思い出せなかったのに、まだ覚えていたんだ。とっくに…って感傷に浸っている場合じゃないです…横島さんっ!”
”う…うう…”
”大丈夫ですか?”
”うぉーーーーーっ! 何だか分からないけど、力がみなぎる。不死身の男! 横島忠夫、ふっかーーーつ!”
ガバッ! と勢い良く叫びながら立ち上がった。
”横島さん、良かった!”
”うーん、何だろ? この無駄に沸いてくる熱き血潮はっ!!”
見る見るうちに横島の体が光り輝き、存在感が増していた。
”でも、良かったです。グレムリンさんが逃げてくれて…”
”そうだな、逃げなきゃ退治しないといけないもんな…”
悪霊と違って生き物と横島は認識していた為、退治するのには抵抗感があった。
”あっ! 見てください! タマゴですよ!!”
キヌが人工衛星のパネルに乗っかったタマゴが置いてある巣を見つけた。どうやって巣を作ったのか疑問があるが、この際、どうでも良かった。
”こいつを守ろうとしていたから、大人しい筈なのに襲ってきたのか…こいつどうしよう?”
横島は物珍しげにタマゴを手に取った。ダチョウのタマゴ程の大きさはないがそれでも一回り小さいぐらいで十分でかかった。
”美神さん、どうしますか?”
<…(そうね…好事家にだったら売れるかしら? 結構珍しいから良い値で売れそうね…)とりあえずそのままにしておく訳にはいかないからもって帰ってきて>
令子の頭に様々な思惑が浮かび、お金につながるだろうと機嫌の良い声が伝わった。
”は…いっ!?””!!”
ピシッ!
<どうしたの?横島クン?>
ぱかっ
”あらっ!”
キヌはあらまあと口に手を当てた。
”孵った…”
横島はタマゴが割れて出てきたものを見て固まった。
<はあ? 帰ったって。これから帰るんでしょうが?>
”み?”
それはパタパタと尻尾を振り、上機嫌な様子で浮いていた。その姿こそ横島が想像していたグレムリンであった。
”違うっス…タマゴが孵ったんスよ…”
<なんですって!? …金のタマゴが…>
まさしく令子にとり、グレムリンのタマゴは金を産むものだったのがおじゃんになったのである。そのショックは大きい。それが故にその思いを口に出している事に気付かなかった。
”………””………”
横島とキヌは無言で顔を見合わせ苦笑した。金に結構がめついと思っていたがここまでとは思っていなかったのだ。
”みーーーっ!”
ひしっ
そんな横島達に関係なく、一声鳴くとグレムリンの赤ん坊は横島にしがみつきスリスリと体を擦り付け甘えた。
”きゃあ! か、可愛いっ!!! 横島さん、触っても良いですか?”
キヌはその愛らしい姿にグレムリンの赤ん坊に夢中になった。
<それより横島クン。そろそろ帰って来なさいよ。早く帰ってこないと死んじゃうわよ?>
”うわぁーーーーっ! そうだった! 忘れてたーーーーっ! おキヌちゃん!”
無茶苦茶大事なことを忘れてほのぼのしていた自分をバカと思いつつ横島はグレムリンの赤ん坊を抱きかかえて急いで戻り始めた。
”あっ! はいっ! 横島さんっ!”
その後をキヌも慌てて憑いて行った。
”みぃーーーっ!”
グレムリンの赤ん坊のご機嫌な鳴き声がのんきに響いた。
「で、なつかれちゃったわけか…」
横島の頭に乗っかっているグレムリンの赤ん坊を見て、この懐き様じゃ売れないわね…まだ、売り飛ばすことを考えていた令子は仕方なしにあきらめた。
「飼って良いですよね!? 私がちゃんと面倒見ますから」
飴で赤ん坊を育てる幽霊がいるぐらいなんだからと顔を輝かせ、令子に迫った。
「わかった、わかった。でも、機械にいたずらさせちゃだめよ? 今の社会じゃそれ大変なんだから。下手すりゃ害虫として退治しなきゃいけなくなるわよ?」
「その辺は大丈夫っス。言う事聞かなければ、怖い人に売り飛ばされるって…」
ひょい!
どがっ!
「うごっ!」
「誰が怖い人じゃ!」
横島の言葉に反応して令子は制裁し、横島は地に伏した。ちなみに殴られる瞬間、グレムリンの赤ん坊は危険を察知してキヌの胸に飛び込んでいた。
「…誰も美神さんって言ってないのに…」
ドクドクっと頭から血を流し意識を朦朧とさせて横島は言い、遂に力尽きガクッと倒れた。
「ああ、美神さん、貴重な映像ありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ。良い番組できそうですか?」
「そうですね。メインのはずだった横島飛行士には残念なことですがそれ以外はばっちりです。編集すれば何とかなると思います」
「「「放送できない部分もありますけどねーー!!」」」
MHKリポーターの今回メイン外だった3人が声を揃えた。
「きゃっ!」「いやん!」
リーダーと茶髪のリポーターはポッと頬を染めた。
「じゃあ、失礼します。お疲れ様でしたー」「失礼しまーす」「失礼」「では」
MHKのスタッフ達は立ち去った。MHKリポーターのリーダーと茶髪はいったい何をやったのか非常に気になる事ではあった。
(つづく)
--------------------------------------------------------------------------------
注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。