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GS美神 リターン?
Report File.0038 「横島の学校生活 その5 〜 昼食時間」
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「おっ! 横島、今日もおキヌちゃん特製弁当か、だがもう悔しくないぞ。俺もだからな!」
友人Aは勉強会の報酬とも言えるキヌ特製の弁当箱を掲げた。
「・・言ってろ」
横島は友人Aを取り合わず、取り出した弁当を無造作に開けた。
カパッ
そこには真中に梅干だけが置いてあるだけだった。俗に言う日の丸弁当だ。
「・・・横島。またおキヌちゃんを怒らせたな・・何をやらかしたんだ? ん? 言ってみな」
友人Aが横島の弁当を見て問い詰めた。
「何!?」「横島! 何をやった」「ま、まさか不埒な事を!」
友人Aの問い詰めを聞きつけた奴らが横島を包囲した。ここ最近で横島の弁当が日の丸であった時はキヌが不機嫌であるという事が知れ渡っていた。そういう時は他に作ってくれる弁当も何時もよりグレードが落ちるのだ。楽しみにしているだけにそれは報酬としてもらう友人達にとっても問題といえる。食い物の恨みは深いのだ。
「は、は、は、ナニヲイッテイルンダ。ココロアタリナンテ、ナイヨ・・」
冷や汗をたらし、目をそむけて言う、その態度は明らかに何か有った事を表している。
「ええい、誤魔化すな!」「取りあえず袋にするか」「やっちまえ」
殺気だった奴らが物騒な事を言って横島を袋叩きし始めた。
「なんだ! そりゃーーっ! どぉわーーー!」
横島は問答無用な仕打ちに悲鳴を上げた。
「しかし、最近、何時もの事とはいえ横島君もタフよねぇ・・」
「病院送りにならないのが不思議なくらい」
傍目に埃が立って困ると弁当を持って避難する女子たちが呟いた。
「で、今回は何が原因だったのかな? おキヌちゃん」
ニヒヒといいながら女子達は女子達で原因を追求していた。
「えーと、その・・」
キヌは何とも言いにくそうにしていた。
「くすくす。おキヌちゃんて意外に独占欲強いのね」
”えーと、ちゃんと私を見て欲しいというか・・やっぱりそうなんでしょうか?”
キヌは女生徒の言葉にしょんぼりとした。ある意味、嫉妬等は負の感情である。それは霊体であるキヌにとっては余りよろしくないものであった。負の想いを大きく抱える事は怨霊となる原因になるのだから。
「そんなに悪い事じゃないわよ」
「そうそう、多かれ少なかれ、そんな感情は誰だって持っているんだから」
「余り気にする必要ないわよ」
「どっちかって言うと女より男の方が独占欲が強いとも聞いた事があります」
「あっ、それ私も聞いた事ある!」
キヌへの追求のはずがいつの間にか別の話題へと流れていった。そんなものは日常茶飯事である。
そして、突然騒ぎが収まった。その瞬間、男子生徒の声が響き渡る。
「なにーーっ! 貴様っ! キ、キスだとーーーっ!」「デ・カルチャーッ!!」「キス? キスとはなんだーーっ!」「か、神は死んだーっ!!」
横島がようやく原因を吐いたのか男子が騒ぎだした。
「失礼な、神は死んでなどいません!」
そんな男子の叫びの中、ピートは一人の男子生徒の言葉に反論した。
「う、うるさい。モテル男が何を言うかーーっ!」
「もてる、もてないは関係ないですよ」
そう苦笑して、差し入れられたお弁当をどうしようかとピートは思案した。男子生徒の言葉もただ言っているだけで本気で言っているわけではないので深くは問い詰めない。そのような事は以前にやってしまい、とてつもない口論となってしまった事があるのだ。今はただ、軽く注意するだけである。
(食べきれないのは今日の夕飯にすればいいですね。皆さんの心に感謝を)
ピートは最近ご飯に食いはぐれない事に感謝した。弁当の差し入れは非常に家計の助けになるのだ。主に唐巣神父がであるのだが。ピートはその気になればその辺の草木から精気を分けてもらえば事足りるので大丈夫なのだ。取り敢えず騒ぎに巻き込まれて大事な食料を無駄にされないようにピートはそそくさと避難した。
「ふふふ、もてない男共よ。俺は着実に大願成就へ向けて進んでいるのだ!! 先の出来事で俺は着実に2歩、いや5歩は進んだーーーっ!!」
横島は開き直ったのかダンと片足を椅子に乗せ片手を挙げて叫んだ。何時の間にやらマントらしきもの(風呂敷)を肩に着けていた。
「くっ!」「何か、目標はアレだが邁進している姿がまぶしいぜ!」「俺にはそこまで夢中になれる目標などない」
そんな横島を友人達はある者は悔しそうに、ある者は羨ましそうに見た。
「まったく、懲りない奴ね」
「桃源郷か・・」
「でも、何だか実現させそうな気がする」
「なっちゃん、そういう霊感強いもんね」
離れた所から見ていた女生徒達が口々に言った。
「そう言えば、横島君の言っていた先の事って?」
”この前の仕事で・・”
「ふんふん・・成る程、そりゃ横島も舞い上がるわね」
「綺麗なお姉さん達にねえ・・」
「あんなのの何処がいいのかしら?」
”それだけじゃないんです。氷雅って人の・・”
もし、キヌがチエとの大人なキスを目撃していたらどうなっていただろうか。
「「そーなの!!」」
「偶然とはいえ、やっている事は横島君らしいと言うか・・」
「スケベよ!! 不潔!!」
「女の敵ね!!」
”・・横島さん、やっぱり胸が大きい方がいいのかな・・”
「おキヌちゃん・・気にしているところ違うのね・・」
そもそもキヌは幽霊であるのだから胸云々以前の問題である。
「ねえねえ、ピート君はさっきの話しどう思う?」
女生徒の内の一人がいきなり同じように避難していたピートに話を振った。ピートはクラスの空気により、男子よりも女子のほうに立ち位置が近くなっていた。それ故に女子と一緒に食べる事が多い。
「へ? さっきって、複数のお姉さんがって奴ですか?」
「そ、男性的視点からどう?」
「僕のは余り参考にならないと思いますが、人それぞれですかね。僕の知っている(貴族)社会とかではそう言った付き合いって、男でも女でもザラでしたし・・」
ピートは何かを思い出すように告げた。
(あのボケ親父も母さんと出会うまでは派手に付き合っていたと聞いてるし・・)
自分の父親を久方ぶりに思い出して、少々不快になった。色々と父親に対してのわだかまりがあるのである。
”私の住んでた所は違いましたけど、小さな村とかでは女の人が複数の夫を持つとかっていうのはあったみたいですけど・・それに男の人でも偉い人とか、複数居ましたし”
「そ、そうなの?」
そこで女生徒達はこの二人の話は余り参考にならないと改めて感じた。自分達と違うのだ倫理観が。一人は中世、もう一人は江戸時代であるのだから。
*
「あーー、腹が立つ! 結局赤字だーーーっ!」
令子以外に誰もいない事務所にとっても、とっても悔しそうな声が響いた。そのせいで窓が大きく震えたのは錯覚ではないだろう。令子の機嫌はかなり、というか殆ど最悪といっていいほど悪かった。
原因は先程掛かって来た電話にあった・・
プルルルーーン、プルルルーーン。
電話が唐突に美神令子除霊事務所に鳴り響いた。令子はその所為で不機嫌な思いを抱くとは露知らず、新たな依頼とホクホク顔で受話器を取った。
「はい、こちら美神令子除霊事務所。ご用件は何でございましょうか?・・・はあ!? GS協会! あ、はい、えっ!? ちょ、ちょっとそれ話が違うじゃ・・いえ、話が違いませんか?」
いい気分は一瞬にして180度、違う方向へ覆された。
『・・・であるから、賞金は前の額のままだ』
電話の主の声が無常に令子の耳に響く。
「そんな・・それってそちらの落ち度じゃないですか! 私には関係ないはずです」
爆炎使いを捕まえた賞金額の吊り上げ交渉を何時間にも渡って行い、勝利したのが無駄になると言う、令子は必死に食い下がった。
『そうは言っても、その話は無事に引き取れたらと言った筈だよ。我々はまだ引き取っていなかったんだ』
「でも、手続きは済んでいました」
『もともと、君が交渉したのは結構、無理なものだったんだよ。交渉前の賞金が出るだけでもましだと思うけど』
暗にそれで納得しないなら払われないと令子は理解した。
「・・・(くっ、人の足元見て!)分かりました」
令子は渋々、承諾する事になった。
『まあ、気落ちするのは察するがね。上が決めた事なんだ。下っ端の僕じゃ無理なんだよ。あきらめてくれ。その代わりといっちゃ何だが、もし今度、機会があればその時は賞金の倍払うという念書をもぎ取ってあげたんだけどね。あとで送るよ』
「そうですか(そんなの貰ったって、捕まえる気なんて起きないわよ!)」
令子は内心で愚痴る。とてもじゃないが捕まえる費用はとてもじゃないが賞金だけでは、しかもそれが倍額でも賄えない。割に全然合わないのである。
『念書、もぎ取るの結構苦労したんだよ? どうだい食事でも?』
軽い調子で電話の相手は令子を誘った。
「遠慮しておきます」
考える事無く即座に令子は断った。恩着せがましく誘ってくるなんてと内心憤慨した。
『やれやれ、美神君はガードが堅いねぇ』
その言葉に令子は電話の相手が、肩を竦めるジェスチャーをして見せる姿が浮かんだ。
「あなたといったらそれだけで済みそうにないですもの」
機嫌が悪くなっている事も有って、少々刺のある言い方をする。
『おやおや、そんな3凶とも言・』
だが、相手は引くどころか油を火に注ぐような言葉を吐いた。
ピシッ!
『おっと失礼。はは、そんな手を出すわけないじゃないか。そんな事したら西条君に殺されるよ』
「お兄ちゃんか…最近どうしているのかな…」
突然、慕っていた人の話題を振られ幾分、令子は気を取り直した。
『元気にやっているみたいだよ。色々とね…この間、かわいい後輩ができたとか言ってたっけ…』
が、電話の相手は更なる爆弾を火に放り込んだ。
バキッ!
「……………」
『おや? どうしたんだい? おーい、美神くーん!』
もうここまでくれば電話の相手が令子をからかいまくっている事に嫌でも気付く。
「ちょっと、気分が悪くなりましたので」
これ以上、相手にしていると精神衛生上悪いと判断した令子は話を切った。
『そうかい? そりゃ、お大事に。じゃ、また今度』
ツー、ツー、ツー
電話相手は告げるだけ告げるとさっと切った。
「……………」
ガッシャン!
令子は受話器を乱暴に叩きつけた。その拍子に叩きつけられた受話器は中折れした。
といったわけである。
令子はつけていた帳簿を放り出した。
「ああーーーっ! むしゃくしゃする! こんな気分になったのは全部、あいつが悪いのよ! この借りは絶対返してやる!!」
さっきまで割が合わないと思っていた。だが、こんな思いを抱かせたからには、それ相応の報いを受けさせねば気がすまない。この時ばかりは採算なんて度外視してもやってやると令子は心から誓った。
*
「へっくしょーーい!!」
ズズー
「どうした、風邪かい?」
「いえ、何でもありませんよ。ボス」
ああむず痒いと、鼻をすすった。
「病み上がりだ。気をつけるんだね」
「はい。しかし、ボス、よく助けてくれましたね。俺はてっきり処分されるのかと思いましたが」
気遣う上司に恐る恐る尋ねた。
「その方が良かったのかい?」
「いいえ、滅相もない。ありがたい事ですよ。ホント」
部下はブルンブルンと手を振り否定し、感謝する。
「処分するのも、助けるのも手間は殆ど同じだったからねぇ。だから、処分するのは惜しかったから、助ける事にしたのさ」
「いやあ、嬉しいです」
一応、上司からは一定の評価を得ていた事に安心した。
「お前ほど使える手駒が今の所、無いからねぇ」
言外に他に居たら処分していたと言われているような気がしたが黙って部下は聞いた。
「傷が癒えたら確りと働いてもらうよ」
上司はニヤリと笑った。
「仰せのままに・・」
上司の冷たくも妖艶な笑みに、そう言えば最近、似たような笑みを向けられたなと部下は思い、そういう女性ばかりに縁があるのだろうかとブルッと震えた。
(つづく)
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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。