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GS美神 リターン?

 Report File.0037 「狼の挽歌 その7」
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「ちっ! ちょこまか、ちょこまかとっ!!」

 爆炎使いは大分、苛立ちを激しくしていた。

「ほほほ、それよりも私の刀にさっさと斬られてくださいな。私、生きた人を斬るの初めてでドキドキしてますの!」

 台詞を聞いていれば危ない人にしか思えなかった。もっとも見たとしても刀を振り回しているので同じかもしれない。

「あんたのような美人の言葉はできるだけ叶えてやりたいとは思うが、俺の命じゃそうもいかねえ!」

 爆炎使いは背中にぞくぞくっとした感覚を覚えるほど、妖しい色気を醸し出し、自分と命のやり取りしている氷雅に好感を覚えた。

「な、なんか、二人の世界って感じで、手を出せないわね・・」

 そんなやり取りを間近で立ち会うことになった令子は少し呆れていた。

「美神さん!」

「横島クン!」

 一時、戦線離脱していた横島が戻ってきた。これで事態が動きそうな予感を令子は感じた。

「美神さん、実は・・」

 そう言って横島は令子に小さな声で先ほどの放水ポンプの件を話した。

「でかした! しかし、良くそんな設備があったもんね」

 令子は予感どおり、決め手となりそうな話を持ってきた横島を誉めた。

「よっしゃー! これでキッスは俺のもんじゃー!」

 横島は叫ぶと爆炎使いへと[栄光の手・霊波刀モード]で斬りかかった。

「あっ! こらっ!」

 自分でも介入を戸惑うのに何をするかと静止したが横島は聞いちゃいなかった。

「うぉ!」

 爆炎使いは横島の斬撃を不意討ちの形で受けた。だが、魔装術による尋常でない反応速度により何とか表面を削られるだけという最小限のダメージで済んだ。魔装術を使っていなければ確実に頭に致命傷を受けていただろう。

「くっ、折角のチャンスだったのに! あれで決まっていれば美神さんのディープ・キスは俺のもんだったのに、何故よける!!」

 横島は悔しそうに涙までためて言った。

「避けるわーーっ! それに何訳判らん事を言っている!!」

 爆炎使いはほざく横島に怒りを覚えた。

「あら、隙有りですわよ?」

 そんなやり取りをして、自分から注意が逸れたのをチャンスと氷雅は攻撃する。

「ぐぉ!」

 爆炎使いは咄嗟に攻撃を右腕でガードするが、攻撃の方が強力で防御を上回り、装甲を斬られ身が傷つきうめいた。

「てりゃ!」

 そこを又、すかさず横島が攻撃する。

「どぁ!」

 それは爆炎使いは何とか避ける。が、そこへまた氷雅が攻撃する。

「だぁ!」

 爆炎使いは体制を崩しながらも何とか避ける。

「正直すごいわね。横島クン、氷雅って女と連携取れてるわね。いえ、横島君が合わせているのか・・」

 令子は横島と氷雅の連携して攻撃する動きに驚いた。良く見ると横島がタイミングを合わせているようだが、よく名前も知らない女の動きが分かると感心した。あれも才能の一つというならとんでもない奴だ。

(まあ、私だってさっきまでの動きを見ていたから、やろうと思えば出来ない事はないけど。でも今、私が加わっても仕方ないわね。混乱させて今の有利な状況を壊す事になりかねないわ。良いでしょう。もう直ぐ決め手となる状況が起きる。その時が私の動く時。悪いけど私に赤字をつけさせたあんたに慈悲は掛けないわ)

 令子は爆炎使いを睨みつけた。

「てぇぃ! 鬱陶しいわ!」

 爆炎使いは裂帛の気合を発した。その途端、体に纏っていた炎の勢いを一瞬、数倍にまで増した。

「うわっ!」「きゃっ!」

 炎の煽りに横島は咄嗟に[サイキック・ソーサー]を展開したが堪らず後退する。氷雅はその影に隠れた。

「いい加減にけりをつけさせてもらうぞ!!」

 縛炎使いが両手を合わせ、離していくとその中心に炎の塊が出来た。それは赤から白へと徐々に色が変わっていく。

「な、何かやばい雰囲気・・」

「そうですわね・・」

 氷雅はこのやばい雰囲気に横島を盾にする事にした。

「そうだ、もう直ぐ奥の手が出ます」

 横島は振り返らずに背後で嫌に近い位置に居る氷雅を気にしながら言った。爆炎使いは気付いていないが横島には今にも放水を始めようとするチエ達を見たからだ。

「奥の手?」

「放水です」

 横島は手短に説明した。何となくそれだけで彼女には伝わるような気がしたからだ。

「ああ、あれ」

 氷雅は確かにこの状況なら適切ねと納得した。横島の考えどおり彼女は察する事が出来た。

「出せ!」「喰らいやがれ!!」「来る!」

 横島の放った警告は果たしてそれは放水か、爆炎使いの切り札か、どちらを指していったのか微妙だった。令子は或る事に気がついて慌てて横島、氷雅の後ろに隠れた。

 次の瞬間、凄まじい爆音が鳴り響いた。爆炎使いも横島達も何か叫びを上げたが爆音に掻き消された。辺りには水蒸気が巻き起こる。水蒸気爆発が起こったのである。


”よ、横島さん、美神さん! 無事ですか!?”

 危ないので避難していたキヌが横島たちの居た所に呼びかけた。呻き声が聞こえてくる所を見ると無傷ではないようだが生きているのは確かだった。

 水蒸気が収まってくると人影が見えてくる。

”ああーーーっ!”

 キヌはその光景を見て声をあげた。そこにはボロボロになった衣服を纏った横島と氷雅が折り重なって倒れていた。それだけなら悲鳴に近い声をあげはしない。何故なら横島が氷雅を押し倒したようになっており、氷雅の胸に顔を埋め、あまつさえ左手はその胸に当てられていたのだ。因みにお約束のように氷雅の丁度左胸辺りは破れて剥きだしになっていた。

「死、死ぬかと思った。しかし、何か気持ちいいよな。特にこの感触」

 二度目の台詞を口にしながら横島は何故か心地よい感触を楽しんだ。特に左手は柔らかいものを掴んでおり、それが妙に生暖かい。思わずニギニギと指を動かした。

「あん!」

 妙に色っぽい声がした。

「へっ!」

 その声に横島は正気に返りガバッと上半身をあげた。ただし、左手はまだ掴んだままだった。

”横島さん・・”

 そんな横島にムーっとしたキヌが目の前に浮かんでいた。

「おキヌちゃんは無事だったんだね!」「い、あん!」

 横島はキヌが何故、機嫌を損ねているのか分からなかった。そして、またもや色っぽい声が聞こえた。横島の下から。横島は無意識のうちに掴んだ乳房を揉んでいたのだった。

「何だ!? お、おぉーっ!!!」

 横島はやっと気付いた。自分が直に乳房を触っている事に。思わずその感触を確かめる為に手を動かした。

「ん!」

 それに反応するように氷雅は身じろぎした。

”もう、何時まで触っているんですか!?”

「うっ、へっ! あ、あん!」

「くくく、や、やったぜ。ちちだ。なまちちだ。ばんざーい!」

 キヌが激昂するも横島は乳を揉んでいると言う衝撃の事実に聞いちゃいなかった。終いに氷雅が気付いた事にさえも。

「な、なんですの!? ん! て、何をやっているんです・・あん! ・・ええい、いい加減に離せっ!」

 氷雅は一瞬、何がどうなっているのか混乱したが、好きに胸を触られている事だけは分かったのでそれを止めさせる為、実力行使にでた。

どかっ!

「ぐはっ!」

 氷雅から蹴りがでて横島は吹っ飛んだ。氷雅は無言のまま、左手で胸の部分を隠し、起き上がった。

「ひいい、堪忍や。出来心やったんや。良い感触やったんやーーっ!」

 横島は得も知れぬ雰囲気の氷雅に怯えた。実際の所、氷雅は胸を触られた事については、それ程怒ってはいなかった。横島は一応、命の恩人なのである。胸を触られるぐらい、命を失う事に比べれば安いものだった。だが、横島の態度に嗜虐心が沸き起こった。

 氷雅は無言のまま傍に転がっていた霊刀ヒトキリマルを拾った。

「ひぃーーっ!」

 その様子を見た横島は尻餅をついたまま後退った。

「くすっ、私の胸を触った代償を頂きましょうか。うふふ、人を斬った感触ってどんなものなんでしょうね? さっきの方は甲羅でわかりませんでしたから、あなたで試させてもらいましょう。ああ、楽しみですわ・・」

 氷雅はすっと一瞬にして間を詰めると無造作に刀を振り下ろした。

パサッ

 横島のしていたバンダナが切れ地面に落ちた。しかし、横島の額には傷はない。それを見るだけで恐ろしい技量を持っていると言えた。

(こ、こいつは、本気でアブない・・!! アブなすぎるーーー!!)

 横島はさーっと顔から血の気が引くのを感じた。それと共に危ない色気を氷雅から感じ、ぞくぞくっとした。

「い」

「い?」

 氷雅は横島の言葉を繰り返す。

「嫌じゃーーーーっ!」

 横島は脱兎のごとく逃げだした。

「! すばやい! 逃しませんわ!!」

 氷雅もまた、少々出遅れたものの刀を振り回して横島を追いかけだした。氷雅の口元には笑みが浮かんでいた。この状況を暫く楽しむ事にしたらしい。

”横島さんのバーカ・・自業自得です”

 キヌは横島の余りの態度に拗ねて傍観した。

「・・何をやっとるんだ」

「・・呆れます」

 支店長とチエは横島と氷雅に呆れ溜息をついた。

「ふう、まさかこんな酷い有様になるとはな・・」

 普通、こんな状態になれば店を預かるものとして茫然として自失状態に陥ってもおかしくない。しかし、支店長は冷静であり感慨深げに店内を見渡した。店内はボロボロになっており、幸いにも火自体は消えており、これ以上の被害は出そうに無かった。最もどう考えても改装しなければ使い物にならない状態であったから何とも言えなかった。

 支店長は何も言わなかったが特殊窓口部隊のメンバー達には背中が煤けている様に見えた。

「支店長、襲撃犯達を警備隊が激戦の末、捕らえることに成功しました」

「そうか」

「はい。ただし、被害はかなりの数、のぼった模様。幸いにも死傷者はいませんでした」

「損害額には頭が痛くなりそうだな。まあ、一番大事な信用は守れたからいいとしよう・・後はこちらに残った奴か」

「そちらは美神令子女史がケリを着けるために向かった模様」

「奴に対してはもう我々に残された手は無いな。事後処理をする事にしよう」

「そうですね」「「「はい」」」

 支店長達は後始末をするべく作業に移った。


     *


ジャリ

「ううっ」

 爆炎使いは人が近づいてくる気配を察して、痛む体を無理に起こした。先程の水蒸気爆発の折にかなりのダメージを受けていた為、纏っていた炎は消え、甲羅の装甲は所々ひびが入ってボロボロだった。動くたびにポロっと一部が欠けて地面に落ち、安定性を欠いて消えた。

「今度こそチェックメイトよ」

 近づいてきたのは令子だった。彼女も所々、服が裂け、擦り傷だらけになっていたが、その姿は威風堂堂であった。爆炎使いはその姿をまぶしそうに見た。

(魔装術の制御も限界か・・さっきのでよく持ったな・・自滅するのは性に合わん。ここらが潮時か・・)

 爆炎使いは魔装術を解いた。

「覚悟出来たようね」

 令子の持つ神通棍は今までの鬱憤を晴らさんと光り輝いていた。

「・・・」

 爆炎使いは無言で返した。

「じゃ、遠慮なく」

 令子は神通棍を爆炎使いに振り下ろした。それは見事に脳天に命中する。

ドガッ! バチバチバチバチバチ

「ぐはっ!」

 余りの神通棍の威力に爆炎使いの体が飛び跳ねた。

「ふう・・終わった」

 令子は止めをさせたと額の汗を拭った。

「・・・やっぱり3凶にてを出すんじゃなかった・・」

 爆炎使いはピクピクしながらも最後の言葉を放ち、首をがくっと落とした。

「・・当たり前よ。3強の一人たる私に手を出そう・・ん? なんかニュアンスが違ったわね・・」

 令子は腕を組んで顎に手を当て考え込んだ。

(今日? ・・違うわね頭に3が付くんだから・・3卿? 3境? 3凶!)

「3凶!?」

 令子はその言葉に思い当たり、叫んだ。

ガシッ!

 令子は気絶している爆炎使いの胸倉を掴み揺すった。

「こらっ! ちょっと待て! あんた、3凶ってどういう事よ! あんな奴等と一緒にするなーーっ!」

 ガシガシ揺するが爆炎使いの反応は無かった。3凶という言葉には心当たりがあった。自分が合格したGS試験の時の上位3番までだった美神令子、六道冥子、小笠原エミを指して呼ばれたものだった。そんな事を言われるくらい試験内容が凄惨だったらしい。

 六道冥子、小笠原エミは令子にとって様々な意味でとても厄介な存在だった。

「私はエミや冥子とは違ーーーーーうっ!!!!!」

 辺りに令子の悲痛な叫びが木霊した。


     *


「えーー! おキヌちゃん! それ本当!?」

 令子はキヌの報告に愕然とした。

”はい、何だか分かりませんけど、あの銀行強盗さん達が成仏したのは確かです”

 キヌは申し訳無さそうに告げた。

「では、契約達成と言う事で」

 支店長はニヤリと笑い、契約書を差し出した。嫌味ったらしく眼鏡の縁まで光る演出具合だった。支店長にしてみれば数多くの被害が出た今、依頼料を払わなくても良いと言う事は万々歳だった。

 特にあの爆炎使いについては本来なら自分達だけで対処しなければならなかったのが、金を払わずにうまく令子達を使えたし、そのお陰で金では買えない信用を守れたのだから被害なんぞ目を瞑れる。支店長にとってはありがたい話だ。

「・・分かりました。あ、赤字・・」

 差し出された契約書にサインしたあと令子は首をがくっと落とした。しかし、実際は舌を出していた。というのも、問題となっていた銀行強盗の幽霊達が持ち去ったお金は令子が既に手に入れていたからだ。契約が完了したからにはそれは正式な依頼料としてせしめる事が出来るのである。しめて、約1億円2千万円。もっとも、今回の爆炎使いを相手にした事で質の良い精霊石を消費したので、報酬と賞金を合わせても赤になるのではあるが。

(次はGS協会ね。話に聞いていたよりもずっと手強かったのよ。何としても賞金を吊り上げてもらうようにしなければ割に合わないもの)

 令子は赤が確実なので出来るだけその損失を減らす事にした。うまく行けばチャラにまでは持っていけるかもしれないと算段をつけ始めた。

「み、美神さん。仕事の話は終わったんでしょ。なら、俺への報酬も下さいよ。こう、ムチューっと」

 そう言って横島が興奮しながら口を突き出した。

「アホかーーっ!!」

 しかし、赤字による機嫌の悪さと空気を読んでいない横島に令子は一撃を喰らわした。

「ぶべらっ!!」

 勢いよく横島は飛んだ。惚れ惚れするような飛びだった。半分は無意識のうちに衝撃を軽減する為に自分で飛んでいたからでもある。

 ズシャ!

 横島は着地する時、顔から見事に突っ込んだ。キヌは心配そうに見るも原因が原因だけにどうするか決めかねた。

「し、しどい・・・」

 ボロボロになっている横島は呟いた。

「くすくす、大丈夫?」

 そう言って助け起こしたのは特殊窓口部隊のメンバーのお姉さん達であった。

「だ、大丈夫であります!」

 助けてくれたのが美人のお姉さんであると知ると横島は現金なもので直ぐに元気になり、すぐさま腕を振って大丈夫である事をアピールした。

「残念だったね。折角がんばったのにキスしてもらえないなんて」

 横島はお姉さん達3人に囲まれて慰められ、先程の失意もなんのその、直ぐに機嫌を直した。

「いいっす! いずれ報われる日が来るはずっすから!」

 横島はあははと笑った。

「「「クスっ」」」

 お姉さん達はそんな様子を見て笑い、すっと目配せした。

チュ!

「へっ?」”あっーー!”

 横島は何が起きたのか理解できなかった。一瞬、お姉さん達が近づき甘い香りがして3箇所に何かがふれた感じがした。キヌは端からその見ていたので声をあげ、そのまま口をあんぐりと開けていた。

「う、うそぉーーーーっ!!」

 やっと横島は理解した。唇ではなかったものの左右の頬、それに額にキスされたのだ。確りとその箇所にキスマークがついていた。

「クス、クス、クス、がんばったからね」「お礼よ」「良かった?」

 お姉さん達は笑いながら手を振り持ち場に戻った。

「良かったわね。横島クン」

 やれやれ、まだまだ純情少年なのねと令子は呟いた。

”横島さんのバカーーーッ!”

 キヌはショックで支店から出て行った。

「はは、ラ、ラッキー!?」

 横島はそう呟いたが真の意味でラッキーなのはこの後だった。

 スッと現れ横島に背後から抱きついた女がいた。

「うわっ!」

 首筋に冷たいものを、背中にむにゅっとしたものをそれぞれ感じた。それは首筋には刃物が当てられ、背中は胸だった。

「あんまりいい気になるんじゃないわよ。今回は見逃すけど、今度会った時斬らせてもらうわね」

「ひょ、氷雅さん」

 先程までの嬉しいやら恥ずかしいやらの気持ちは一気に吹き飛び冷汗を掻く。今は首筋と背中の感触で恐いやら気持ち良いやらで訳が分からなくなっていた。

ペロッ

「ひぁ!」

 横島の首筋を舐めると氷雅は消えた。

「今度会える時を楽しみにしているわ」

 という言葉を残して。

「お、俺は会いとうない・・」

「あんた・・一体何したのよ・・」

 令子は横島と氷雅の間に何があったのか知らなかったのでそういう言葉を吐いた。もし知っていたなら自業自得と言っただろう。

「あはは」

「さて、仕事も終わったし、帰るわよ」

「はい!」

 令子たちは依頼が済んだのでもう用はないと支店を出ようとした。横島も令子に倣ってついて行こうとしたが声を掛ける者がいた。

「横島君」

 呼び止められた横島は立ち止まり、令子はそのまま気にせずに外に出て行った。

「あっ、えーと、チエさんでしたね」

 横島は数瞬考えて思い出した。

「あら、名前を覚えてくれていたの?」

 横島の答えにチエは笑顔になった。

「もちろんっス! 美人の名前は忘れないようにしてるっすから!」

「あなたにはサキの事でお世話になったから礼をしたくて」

「いや、別にそんな。お礼を期待して助けたわけじゃないっすから」

「そう」

 チエはスッと横島の頬に手を当てた。

「えっ?」

「頬にさっきのキス・・口紅の後がついているわよ?」

「ああ、これっすか。帰るとき恥ずかしいですけど、こんなの一生無さそうですから記念に写真でも撮ろうかと・・」

 横島の言葉が途中で遮られた。チエの唇によって。

「わおー、チエさん、だいたーん!」「やるー!」「大人のキスね・・」「困るな・・風紀の乱れが」

 横島とチエのディープなキスに支店に居た者たちが口々に感想を放った。

「ぷはっ!」

 ようやくチエに開放された横島は驚きの余り呼吸も忘れていたので喘いだ。

「あなたが一番喜びそうなお礼・・良かったでしょ?」

「・・・」

 横島は頭がパニックしてフリーズしていた。そんな横島の唇にチエは人差し指をあてた。

「あなたはさっき、こんなの一生無さそうっていったけどそんな事ないわ。磨けばあなた、良い男になりそうだもの。がんばりなさい」

 チエは言い切ると指を唇からはなし、横島の耳に唇を寄せ囁いた。

「!」

 その言葉を聞いて横島は驚き、目を見張った。

「クス」

 チエはその様子に笑い、踵を返した。

「チエさーん、最後、なんて言ったんですか」

「魔法の言葉よ」

「えー教えてくださいよ」

 そんな会話が聞こえてくるが横島は未だフリーズしていた。それは何時まで経っても出てこない横島を心配して呼びにキヌが来るまで続いたのであった。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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