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GS美神 リターン?

 Report File.0018 「可愛い彼女はゆうれい!? その8」
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「ふう、さて後始末しなきゃな・・悪いけどおキヌちゃん達にも有害だと思うから俺が良いと言うまでここから出ていてくれないか?」

 そう言いながら横島は切り飛ばした死津喪の蔓等を回収し始めた。

”えーと、わかりました”

”了解であります”

 キヌとワンダーホーゲルは横島の言葉に従った。確かに死津喪を葬った時の事を考えるとその方がよさそうであったから。

「あー、それから美神さんが精霊石を投げてからの事は内緒な?」

 横島は二人に口裏を合わせるように言った。

””どうしてですか?””

 二人はなぜ内緒にする必要があるのか分からなかった。

「まあ、あれだ。あの後、美神さん酷い目にあっただろ?多分、記憶が混乱してその辺の記憶を失っていると思うからさ、余り刺激を与えて思い出させると美神さんの心が持たない」

 二人はあの美神の悲痛な叫びを耳にしていたので頷いた。

「美神さんは気丈に見えても実際は心が脆い人なんだ。でも、そんな事言ったの内緒な?言っても多分認めないだろうし」

 横島は何かを思い出したように言った。

”良く分かっているんですね・・・”

 キヌは沈み込んだように言った。

「・・・付き合い長いからね、俺は・・でも、それはおキヌちゃんもだよ?」

”えっ!?”

 横島の意外な言葉にキヌは驚いた。自分はまだ今日会ったばかりだと言うのにそれを違うというのだ。

「ごめんね、詳しいことを話してあげたいけど時間がないんだ・・悪いけど離れてくれる」

 横島は切羽詰った表情で言った。

”時間て・・いつか話してくれますか?”

 横島の様子に本当に時間がなさそうだと気付いてキヌは追求をあきらめた。しかし、キヌは自分が成仏するつもりだというのに、未来について話している事に自分自身気づかなかった。横島にしてみれば、この後もずっと付き合い続ける事になるので変に思う事も無い。

「機会があればね」

”分かりました。それまで待っています”

 キヌは横島の答えに一応の満足を覚えて引き下がった。

「おキヌちゃん。ありがとう」

”あの、いいえ・・”

 横島の誉め言葉にキヌは照れて俯いた。因みにワンダーホーゲルは会話に入ってはいけない雰囲気を感じ取り、黙ったままだった。

「じゃあ、離れてくれる?」

 そう言っておとなしくこの場を離れていく二人を確認すると横島は溜息を吐いた。

「・・おキヌちゃんには悪いけど俺の記憶の事も文珠の事もしばらくは秘密にしといた方がいいだろうからな・・くっ・・魔力による記憶の封印か・・ぐっ・・何とかならんもんかな・・体内結界でも文珠でも、こいつの解呪も中和もできんかったから特殊なモノだよな・・くぐっ・くそっ!・・兎に角又効果の現れぬうちに始末しよう」

 時折痛みが走る頭に悩まされながら横島は作業を続け一人ごちた。突然、状況が変わっていた事や記憶が途切れるまでの事象からある程度事情を察した横島であったが切り札たる文珠でも効かなかったのでは打つ手はない。

 それでも作業自体は進めてあったので直ぐに残っていた死津喪の残骸を集めることはできた。

「よし!」

 文珠に[浄]の文字を込め発動させた。死津喪の残骸は見る見るうちに浄化されていった。

「ん!?」

 残骸が消え去った後には一粒の種が残されていた。

「何で残ったんだ?」

 横島は興味深げにその種を手に取った。植物の種にしては妙にでかい。文珠位のでかさがあった。

「・・・霊視しても文珠で[分][析]しても邪悪さはないな・・・無害な存在なのか? まあいいや、何かの役に立つかもな」

 横島はそう判断するとその種をおもむろに自分のポケットに入れた。

「後は美神さんだな・・少しの間の記憶を[忘]れてもらおうか」

 そう言って横島は文珠を作り出して[忘]を込め、美神に向けて発動した。

「これで、よし!っと、何とか記憶の封印解除手段と元の時へ戻る算段をつけなくちゃならないんだがな・・・」

 横島は一仕事も終わり落ち着いた所で令子を目にした。

「おおおっ!!!!」

 後始末に夢中であったため令子の姿をきちんと認識していなかった横島は余裕ができて令子を見た。そこに映った令子の姿は衝撃的であった。何と言っても浴衣がすでに衣服として機能していなかったのだから。

「半脱ぎ、ばんざーーーい!!!」

 すぐさま横島の理性は振り切れ飛びかかろうとしたが頭痛にそのまま倒れこんでしまった。

(うそーーん、折角のチャンスなのに・・・)

 興奮のし過ぎで鼻血を撒き散らしながら横島は意識を失った。その後、大声を上げた横島が気になってひょいっと顔を覗き込ませた幽霊組二人が倒れている横島を発見して大騒ぎになった。


     *


「さてと、あの死津喪って訳わからない妖怪も退治したし、赤字だけど・・無報酬だったけど・・コン畜生! ワンダーホーゲルの死体も供養することになったし、後はおキヌちゃんの件ね」

 あの後、直ぐに目覚めた美神は幽霊二人組みから事情(大騒ぎが終わったあと横島と筋書きを立てた)を聞いて後始末を始めた。多少、疑問点も有ったがそうたいしたものではなかったので気にしないことにした。そんな事後処理をする間に気絶していた横島も復活した。

”そうだった・・あたし、成仏するつもりだったんだっけ・・・”

 あの時の横島との会話で機会があったらと言われたがよくよく考えるとこれから成仏する自分には機会がないと思うと急に寂しくなった。横島や令子とだって知り合ったばかりなのにもうお別れをしなければならない。

 長い間、幽霊をやってきて、これ程人と親しく話したのは死後なかったことだった。

”これって未練になるのかな?”

「さて、おキヌちゃん、ワンダーホーゲル、準備はいい?やるわよ!!」

”はいっ!”

 キヌは先程までの思いを振り払い、待ちに待った成仏実現への想いを抱くことにした。

”はっ!!”

 ワンダーホーゲルもいよいよ自分が山の神になれるとドキドキしながら返事した。

「よしっ!始めるわよ!!」

 令子はそういうと両手で印を組んで集中し始めた。しばらくすると内より高まった霊力が現れ始めた。

『・・・この者を捕らえる地の力よ!!その流れを変えて、この者を解き放ちたまえーー!!』

 令子は霊力を言葉に乗せて術を行使した。

バチバチ!

 術が行使された途端にキヌの足がぼやけ光り輝き紐のような物が現れきれた。

『・・・解き放ちし、地の力よ!!その者を捕らえよ!!』

ビュン!!

今度はワンダーホーゲルの足元が光り輝き紐のようなものが接続された。

”おおっ!!”

 バシュッ!!

 その途端、ワンダーホーゲルは登山スタイルだったのが白装束になり、手には弓、背には矢筒を背負い腰には角笛といった所謂、典型的な山の神スタイルに変わった。因みにキヌはそのまま巫女さんスタイルである。

”こ、これで自分は山の神様っスねーっ!!”

「とりあえずはね。でもまだ駆け出しだから。力をつけるにはまだまだ永い時間と修行が必要よ」

 令子は山の神となったワンダーホーゲルに注意とアドバイスを施した。

”やっぱり、あたしって素質がなかったんですね。あんな姿になりませんでしたもの・・・”

 キヌはワンダーホーゲルを見るなり落ち込んだ。

”じゃあ、自分は山の・・自分の領域に戻るっス。自分の死体の供養はお願いするっスよ・・ありがとうございました!みなさん、元気でーー!!・・・おおっ、はるか神々のすむ巨峰に雪崩の音がこだまするっスよ!!”

 そう言ってワンダーホーゲルは喜び勇んで角笛をぷぴーと鳴らしながら山の方へと飛んでいった。

「・・変な奴だとは思ったがあれ程とは・・」

 横島はワンダーホーゲルのアレな退場の仕方にあきれていった。

「いーんじゃない」

 所詮人事と令子は切り捨てた。

”ありがとうございました。これであたしも成仏できます”

「いいのよ。まあ、確かに赤字出しちゃったけど・・・赤字・・ああ、赤字かーーー、はあ、赤字・・結局やらなくちゃいけなかったことだしね・・」

 令子はこの仕事が赤字であることを思い出して頭を抱えた。

”横島さん・・ありがとうございました。あなたと出会えなかったら、あたし・・・”

「おキヌちゃん・・・」

 横島もキヌとのお別れが近づいたかと思うと寂しくなった。

”あたし、わすれません。幽霊を押し倒した男として次の人生でも語り継ぎたいと思います”

「語り継がんでくれっ!!そんなもん!」

 横島はキヌの言葉に力一杯、拒否した。

「ふーん、そんな事したんだ。見境無いのね」

 令子は冷たい目で横島を見据えた。

「うわーーー!! それは誤解っスよ!! 美神さん」

 そんな目で見られた横島は慌てて弁解しようとした。

”お世話になりました。これで成仏できます。さよなら・・・”

 そんな二人を見るとクスと笑いキヌは今世の別れを告げて成仏しようとした。

「おキヌちゃん・・(ええ娘やった・・ほんまええ娘やった・・胸が少々小振りやったのがあれやけど」

 横島はキヌを触り放題した時の事を思い出していた。というか最後の方は言葉に出していた。

「あんたねえ・・・」

 令子は横島の態度にあきれ返った。

”もう、横島さんのスケベ!!知らない”

 キヌは横島の呟きに顔を真っ赤にさせ、成仏を途中で止めて横島の頭を殴った。

ポカっ!

「てっ!」

 その後、キヌはプイと膨れっ面で横向いた後、再び成仏しようとした。

「ああっ!おキヌちゃん待って、こんなお別れは一寸」

 2度と会えない別れとしてはアレなので慌てて引きとめようとする横島はキヌの足から伸びるひものような物を掴もうとした。

「ああっ!それはダメよ!」

 それを見た令子が慌てて横島に注意するが遅かった。

ガシッ!

 横島はそれを掴んでしまった。

”「えっ!」”

パシュッ!

 横島とキヌが一瞬だけ淡い霊光に包まれた。

「あーーあ、やっちゃった・・」

 令子はそれを見て頭を抱えた。

「え?え?」

”ど、どういうことでしょう?”

 令子の態度に横島は青くなりキヌは意味を図りかねた。

「つまりね・・・おキヌちゃんは永年ここに地縛されていたでしょその名残が横島クンが掴んじゃったアレなのよ」

 令子はダメよねと首を振りながら説明した。

”「ということは・・」”

 横島、キヌの息の合った問い返しに令子は頷いた。その言葉からおよその事は察することはできたのだろう。

「そ、今度はおキヌちゃん・・横島クンに括られちゃったって事よ」

 令子ははっきりと結果を言った。

「ななな、何ですとーーっ!」

”そ、そうなんですか!?”

 横島はその言葉に慌てますます青くなった。なんせ、キヌが希望していた成仏を邪魔してしまったのだから。それとは逆にキヌは心なしか嬉しそうな顔をした。

「・・・まあ、成仏させようと思えばできないことも無いけど」

 令子はニヤリと笑って二人に言った。

「ほ、ほんとですか!?美神さん!!」

 横島が令子に詰め寄った。余りの勢いに令子は少しのけぞった。

バキャ!

「ぐへ!」

「少し、冷静になれこの万年セクハラ男が!!」

 令子は条件反射的に横島を殴り倒した。

「・・・今回は何もしてないやん・・」

 倒れピクピク足を動かしながら横島は虫の息で言った。

”あの、方法あるんですか?”

 キヌは不安そうに聞いた。令子はおよそのキヌの心情を汲み取ることができた。

「方法は二つあるわ・・安いのと高いの」

「安い方法は何です?」

 何時の間にか復活した横島が聞いた。

「(相変わらず理不尽な奴・・)安い方法?それはあんたが死ねばいいのよ」

「はあ!?」

 横島は何ちゅう事言うんだこの女はと心の中で思った。

「そうすれば、おキヌちゃんの地縛もとけるし、あんたの成仏につられて連鎖的に成仏するから」

 令子は理由を告げた。

”それはいい考えですね”

 キヌはそれを聞いて納得した。

「いい考えなわけ有るかっ!! 俺はまだ死にた無いんや! ねーちゃんといいことしたいんやーー!!」

 横島は形振りかまわず叫んだ。いくら何でもそれはないやろうと。

”・・・高い方はどうなんです?”

 あまりな横島の態度に無理と分かったキヌはもう一つの方を聞いてみた。

「あんた、お金持ってる?」

 令子は現実的なことを聞いた。

”・・・・”

 問われたキヌは幽霊だから当然ながらそんなもの持っていなかった。単なる人柱だったわけだし。

「支払能力がないんだから聞くだけ無駄よ。だからこうしましょう。うちで料金分働きなさい。それで料金分貯まれば除霊してあげるわ」

”本当ですか?”

 何だかんだ言っても横島達と出会ったことで成仏する気は薄れていたのでキヌは素直に喜びを表した。令子もその辺の事を感じての申し出だろう。

「ええ、給料は奮発して日給30円!どう」

 令子はもうこれ以上はありえない高待遇よみたいな態度でニコニコして言った。もし、横島がまともな状態であれば突っ込みもしたであろうが生憎まだ現世には帰還していなかった。

 とことんあこぎな令子であった。であるが

”やります!いっしょーけんめー、働きます!!”

 キヌは別に給料が幾らでもいいと思った。どうせ、何十年かすれば横島は死ぬのである。そうすれば自分も同時に成仏できるのだからいま少しこの幽霊ライフを楽しもうと決心したのであった。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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