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GS美神 リターン?

 Report File.0017 「可愛い彼女はゆうれい!? その7」
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 横島は倒れ伏し、頭周辺に血溜りが出来ていく。だがそれは頭の怪我が原因ではなかった。そう血は頭からではなく鼻から出ていたのであった。

(おお、下の毛も上の毛とおんなし色だというのは本当だった・・・ほ、本望じゃ・・)

 令子、キヌの心配をよそに先程の令子の・・・を思い出して鼻血は止まるどころか止め処も無く勢いを増して流れた。それは滂沱のごとく。

 そうなのだ。先程、横島は回避に難なく成功したがその時、視界に令子が入ったことが災い?した。そう令子が蔓の攻撃を迎撃するためにタオルを使った為、素っ裸になった令子の姿を避ける拍子にほとんど真正面からはっきりと捉えてしまったのだ。その後、頭を強くぶつけたがそれも非常識な程に丈夫な横島故に負傷なんてしていなかった。

 つまり、横島は興奮のしすぎにより、外傷も無いのに出血多量で死にかけていたのだ。もし、それを心配する二人が知ったら出血多量による失血死とは違う死が横島に舞い降りただろう。

『まずは、一人と言った所だな・・』

 死津喪も横島が倒れた事については不可解であったが戦闘不能であるのは見て取れたのでそう言った。幽霊である二人は死津喪から見れば戦力外なので注意すべきは令子のみと令子を見据えた。

「なんて奴っ!!」

 令子は死津喪の視線に負けじと睨み返した。

”み、美神さん!!”

 キヌは取りに行っていた武器と衣服を令子に急いで渡した。

「ありがと、おキヌちゃん」

 死津喪からは目を離さずに衣服と武器を受け取り、衣服・・浴衣をすばやく着て武器・・神通棍を構えた。本来ならその間にも攻撃してきてもいいはずだが死津喪はそれを静観した。

”横島さん!横島さん!!大丈夫ですか!?”

 令子の頼みを叶えた後、キヌは倒れ伏した横島を見に行っていた。

「・・・・(いいもん見せてもらった。今回はこれだけで猛吹雪のなか山に挑んだ甲斐があったってもんだ・・・)」

 横島は意識が朦朧とする中、先程の光景を脳内でプレイバックさせていた。もっともそれが原因で未だ鼻血をどくどくと垂れ流していたのだが。

”ああっ!!横島さん、しっかりしてください!!”

 そんな瀕死?状態の横島に顔色を変えてキヌは懸命に横島に呼びかけた。

「くっ・・よくもやってくれたわね。このお返しは10倍どころか100倍で返してあげるわ!!この美神令子がっ!!」

 キヌと横島の様子を横目で見て死津喪にそう宣言した。

『くっくっくっ、できるかの?』

 死津喪は令子を余裕の目で見据えた。

「はん、こちらが戦闘体制を整えるのを見逃したのを後悔させてやるわ!!」

 令子はそう言って神通棍を構えた。何時もより2割増で神通棍が霊光で光っている。

『ほんに、笑えるの?わらわが見逃しただと?まあ確かに結果的にはそうなったかの。だが実際はわらわもまた攻撃態勢を整えておっただけのことよ』

 そう死津喪が言い放つと4本の蔓が持ち上がった。その蔓の先が黒く変色していたがピシッと音が各々の蔓からすると、その黒く変色した部分が、がばっと勢いよく開き、バッタによく似た昆虫の上半身が現れ、前足の部分はバッタとは違って蟷螂のような鎌の形状をしていた。

「なっ!」

 令子はその変化に驚きの声をあげた。

『どうかえ、わらわの攻撃態勢は?ここの霊泉はいいのう。わらわを完成体へと近づけるのを早めてくれる。実にいい。あはははははーーー!!』

 死津喪は悦に入ったような笑い声をあげた。

「最悪・・このままじゃやばいじゃない。こりゃ、全くの赤字になるわね・・」

 死津喪を前にして令子は戦力分析を行った。どう見ても、切り札の高純度の精霊石を仕込んだイヤリングを使用しなければいけないと判断した。お金が大事な令子にとってこれは非常に痛かった。大体がこの死津喪に関しては依頼外のものであるから報酬は出ない。となると赤字である。とはいえ自分の命がかかっているのだからこれには代えられない。

(・・・楽しようと思ったのがそもそもの間違いだったわけか。さっさと退治しときゃよかったわ。どれもこれも横島クンのせいね・・・後で横島クンにはツケを払ってもらおう・・)

 覚悟を決めた令子が神通棍を構えなおした。

『ほーう、覚悟を決めたのかえ。ならばこちらも全力で応えてやろうかの』

 死津喪は殺る気満々で先ほど変化した蔓…虫蔓とも言うべきものが令子を包囲するように動いた。

「できれば、遠慮したいわね」

 令子は集中力を増しながら軽く答えた。

『そういうな、わらわの誠意を受け取るが、よい!!』

 死津喪は気合一拍で虫蔓4本の同時攻撃を令子に向かって行った。

「くっ!この!てぃっ!やっ!はぁっ!!」

 様々な角度から迫り来る虫蔓を何とか迎撃する令子。だが思いのほか虫蔓は強く、決定的なダメージは与える事が出来ずただ攻撃を凌ぐだけだった。

「このっ!(やばい!このままじゃジリ貧じゃない・・ここで精霊石を使ったらあの本体の死津喪を殺れない・・)」

 連続の虫蔓による波状攻撃に令子は少しずつ追い詰められていた。何とか虫蔓の鎌から逃れ、令子はダメージを受けずにいたが着ていた浴衣は所々が切り裂かれていた。端から見れば殆ど衣服として機能していない状態になりつつあった。

『ほう、なかなかやるもんじゃ。だが、そろそろ限界であろ?』

 死津喪はじわりじわりと令子を追い詰めていく快感に酔っていた。

「この妖怪ババァ!!いい気になるんじゃないわよ!!目に物見せてあげるわ!!」

 令子は挑発するがごとく言葉を投げた。

『・・妖怪ババァね・・・まあ、そなたら人間からすればそうかもな。だが、そなたとてそこの娘からすれば年増といえるのではないかえ?』

「なっ、わ、私が年増ですってーーーッ!」

 敵はさるもの挑発するつもりが死津喪に挑発し返されて令子は激昂した。

『ほほほ、怒るという事は自覚しているのかえ?』

 死津喪はニヤリと令子に笑いかけ更なる挑発を行った。

「お、おのれーー!!子々孫々末代まで祟ってくれる!!」

 令子は怨嗟の声と共に死津喪に飛び掛った。

『たわけ!!』

 死津喪は飛び掛ってくる令子を虫蔓で迎撃した。

「はっ!やぁっ!」

 令子は裂帛の気合と共に神通棍を振るい迎撃に来た虫蔓にくらわせた。先程の殆ど効かなかった攻撃とは違い、今度のは虫蔓に致命傷を与えた。瞬く間に3本の虫蔓が力なく崩れ落ちる。

『何!?』

 死津喪は驚きの声をあげ、顔を引きつらせた。

「これでおしまいよ!!」

 令子は実際には冷静だった。敵である死津喪の挑発にあえて乗り、油断を誘ったのである。令子は狙い通り、死津喪の単調になった攻撃に、今までセーブしていた霊力を全開にして虫蔓に攻撃を行い、死津喪に精霊石を食わせられる至近距離にまで近づいたのである。令子はイヤリングとして身に着けていた精霊石を死津喪めがけて投擲した。

ズガッ!!

ドゴーーン!!

 爆音と共にあたりが衝撃に見舞われた。

”きゃあ!!”

”うぉお!?”

 その衝撃は戦闘圏外にいたキヌたち幽霊二人にも及んでいた。辺りは精霊石の爆発により煙に覆われ視界が悪くなっていた。やがて煙が晴れて来た時、見えたのは仰向けに倒れ伏した令子であった。

「ぐっ」

 令子はうめきながらも何とか立とうとするが力が入らなかった。

『隠し玉はここぞという時まで取っておくものよな』

 死津喪はほぼ決まった勝負にほくそ笑んだ。死津喪の腹より5本目の虫蔓が生えていたのである。最初あった4本の虫蔓は使い物にならなくなっていた。3本は令子により破壊されたが最後の1本は投擲された精霊石を死津喪より離すために精霊石を掴み高みに持っていったところで精霊石が爆発したのである。それ故に戦闘圏外にいたキヌにまで爆発の衝撃が届いたのである。

「な、何て奴・・・」

 令子は根こそぎ霊力を使い果たし、気力も打ち砕かれようとしていた。

『おほほほほ、今一歩力が足りんかったのう、おっほっほっほっほほほ』

 死津喪の高笑いがこの温泉地に響いた。その場に居た者は死津喪に恐怖を覚えた。

「・・もうダメなの?・・たすけてよ、ママ・・・」

 ここに来て令子の精神的弱さが露呈しかけていた。

『ほほほ、ただ殺すのでは面白くないかもしれん。四肢を裂き、もがき苦しむのを見る事にするか?それとも近隣の男共を操って犯し殺すか?くく、どうするかね・・』

 死津喪は令子をどう料理するか考え始めた。。

「くっ、そうよ令子、ママが言っていたのよ。強い子になりなさいって・・だから、だから・・」

 最後の気力を振り絞り神通棍を杖代わりに何とか令子は立ち上がった。

『ほう、もうボロボロで勝つ算段が無いというに立つかえ?その気力、そして人にしては抜きん出たその霊力・・気に入ったぞえ。そなたを我が種の苗床としようぞ!!』

 死津喪はやっと令子の処遇を決めたとばかりに宣言した。

「な、何を!?」

 気力だけで立ち上がった令子に死津喪の攻撃は避けようがなかった。何時の間にやら破壊されたはずの蔓4本が再生を果たし、それをもって死津喪は令子の手足を一本づつ絡ませて捕らえた。そして令子を自分の眼前まで引き寄せた。その様はHアニメの触手物さながらでマニアが見たら感涙したかもしれない。

『わからんのかえ?そなたにわらわの種を埋め込み育てよと言っておるのよ。そなた自身を養分としてな。埋め込む場所は女であるからして子宮が良かろう。丁度、そこへ通じる穴もあるゆへな』

 死津喪はニヤリと笑い第五の蔓を令子の眼前に突き出した。するとその先端が開き中から種らしきものが浮き出てきた。

「イ、イヤーーー!!」

 令子は抗いようもなく迫る運命にとうとう、心が折れた。

『悲鳴をあげても無駄よ・・誰もそなたを助ける事などできぬ・・さて、種を埋めるとしようかえ』

 確かに死津喪の妖力によるプレッシャーで身動きできないキヌたち幽霊二人は動く事も出来ないでいる。死津喪は言ったことを実行する為、拘束している令子の四肢のうち足を拘束している蔓を動かし、令子の足を強制的に広げた。

「イヤよ、イヤ、イヤ、イヤーーッ!!」

 令子は必死にもがくがどうにもならなかった。

『観念するがよい。なに、わらわの種を育てるに当たって最高の快楽を最後に与えてやろう。これはそなたが死すまで続くのだよかろう?』

 そう言って死津喪は最後の作業に入った。即ち5本目の蔓を令子の秘部に突き入れようとした。令子は恐怖の余り気絶した。その方が幸せかもしれない。

ザシュ!!

『ぐぁっ!!』

 死津喪が悲鳴を上げた。今まさに突き入れんとした蔓が飛来してきた光の円盤によって切断されたのである。

ザシュ!!ザシュ!!ザシュ!!ザシュ!!

 それを皮切りに令子の四肢を拘束していた蔓も光の円盤によって切断された。それと共に重力の法則に従い令子は落下した。

フワッ

 それをやさしく受け止めた者がいた。それは死津喪が最初に戦力外と片付けた横島だった。

『き、貴様ッ!!』

 死津喪が怒りに震え、令子を抱えた横島を右手で攻撃しようとするが既に横島は右手の攻撃範囲から離脱していた。

『何だと!?』

 死津喪は驚きの声をあげた。何故なら死津喪の腕は最長10m近くまで伸縮自在に使えるのである。その範囲から一瞬で抜け出したのである、驚きもしよう。

『なんなのだ?』

 死津喪は驚きと共に横島を注視した。一瞬で離れる事ができるなら一瞬で近づく事もできるからだ。

「美神さんは何れ俺のもんにするつもりなんだ。手前のような奴に傷ものにされるのは不本意だからな。それにあんたの相手をするには今に時点の美神さんじゃきつい。でも俺だったら今のあんたになら十分勝てる」

 抱えていた令子をそうっと下ろすと言った。

『人間風情が言いよる』

 死津喪は横島を軽く見るように言ったが実際は違う。先程勝った令子相手にしてもかなり追い詰められていたのだ。一歩間違えれば倒れていたのは自分である事を理解している。それでも勝てたのは自分の種として伝達された知恵とそれを活用できる本能だ。そして今の横島は最初にあった時の横島とはぜんぜん違うと死津喪は認識している。最初の時でも令子よりも霊力があると認識していた。今も霊力自体は変わっていない。なら何が違うのか?覚悟が違うのだと死津喪は感じていた。

「一体、どういう状況なのか飲み込めないが一つだけわかる。それは俺の目の前のあんたは倒さないといけないってことだ」

 横島はそう言って右手を掲げた。肘から手先までが霊光で覆われ始めやがて手甲のような物が現出した。手の指先は鉤爪のようになっている。

”あれが本当に横島サン!?”

 ワンダーホーゲルは短い付き合いではあるがあの雪山への登山にて大体の人柄を把握したと思ったが今はそれも怪しくなっていた。

”横島さん!?”

 キヌもまた、自分の知らない雰囲気の横島に戸惑っていた。それ程までに今の横島は違って見えた。

「大丈夫だよ、おキヌちゃん」

 横島は死津喪から目を反らさずに声をかけた。

”はい!”

 だが、その一声だけでキヌは自分の知っている横島であると確認できてほっとした。

『むう、八つ裂きにしてくれようぞ』

 死津喪は完全体では無い故に横島に対抗できないと判断していたが、逃げることはできない。ワンダーホーゲルの死体を苗床として又移動手段としていたが、この霊泉に根付いたが為に移動手段を失っていた。霊泉より汲み上げた霊力は再生に回され自己の成長へつぎ込むだけの余力は無かった。万に一つの可能性と自己保存の本能に押されて死津喪は横島に挑んだ。

「ああ、さっさと終わらせようか。俺にシリアスは似合わんからな?」

 横島はおどけて言った。

『ふざけるな!』

 死津喪は横島の言葉に怒声を浴びせ、再生途中でも何とか使える蔓2本と両腕を伸ばして攻撃した。

「わりいな、チェックメイトだ」

 その死津喪の必死の攻撃も横島によって軽くいなされた。それらは霊的手甲、横島の言う所の[栄光の手]の鉤爪の部分が5本とも伸びてムチ状になり、蔓は絡め捕られ動きを封じられた。死津喪の攻撃は蔓2本と両腕による4本である。ならば[栄光の手]の残る一本はどうしたのか?

『見事じゃ・・・』

 それは見事に死津喪の胸中心を貫通していた。

「じゃあな、手前はこの横島忠夫が極楽へ送ってやる!!とっとと逝きな!!」

 そう言うと横島は死津喪との距離を一瞬で零にして彼の切り札とも言える文珠[浄]を左手で死津喪に叩き込んだ。

『ぎゃあーーーーっ!!』

 死津喪は断末魔の声と共にその体が浄化され崩壊し消滅していった。

”やったーー!”

”やりましたね。横島さん!”

 事の成り行きを見守らざるをえなかった幽霊の二人組みも死津喪の最後を見て喜び合った。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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