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GS美神 リターン?

 Report File.0019 「横島の学校生活 その2 〜 おキヌちゃん高校デビュー」
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「で、先生どういう事なんです?」

 令子が唐巣神父の教会に来ての第一声がそれだった。

「いきなり来てどうしたんだね?主語が抜けてるから何を聞いているか私にはわからないよ」

 唐巣神父は令子のケンカ腰の言葉に大体見当はついているが窘める為にあえて聞いた。彼女がここにやって来る理由は今の所、心当たりは一つ横島の件だけだった。

(横島君・・一体何をしでかしたんだい?美神君の態度を見る限りよっぽどの事を仕出かしたんだろうな・・)

 内心、冷汗を掻きつつも令子を見つめた。ここに怒鳴り込んでくるということは少なくともセクハラではないのは確かだろう。

「うっ、だからですね。横島クンの事です!」

 勢いのまま唐巣神父から聞きだそういう心算があったのに焦りからか、初歩的なミスで勢いを殺してしまった令子はまずったと思いつつも聞いた。

「横島君?横島君がどうかしたのかね?」

 やっぱりと思いながらも平然と唐巣神父は受け答えした。

「彼は一体何者なんですか!?」

 令子はずずーいっと唐巣神父に顔を寄せて言った。

「な、何者って、どういう意味だね?」

 そんな様子の令子の迫力に唐巣神父は仰け反りながら言った。それなりに心当たりはあるのだが話すわけにはいかない。特に文珠の事は下手に話せば金に意地汚い弟子の事、必ず横島に無理させてでも文珠を作成させて使い倒すか潰す可能性があるので絶対話すわけにはいかなかった。

(もっとも今の彼には作れないようだが)

 どちらにしろ記憶を失う前の・・未来から来た横島の状態ではないのだから話したとて信じることはできないだろう。もっとも物証は有るには有る。唐巣神父の目の前で出して見せた文珠だ。あれは今は唐巣神父が大切に保管してある。貴重な品であるには違いないから。作り出した横島自身は文珠がどれほど貴重な物か理解していなかったようだ。でなければ放ったままにはしておかないだろう。

「それは・・つまりですね。彼にはおかしい所があるんです」

 令子は言いにくそうに言った。

「(そうだろうねぇ・・)おかしいとは?」

 心当たりがあるが話せないので唐巣神父はとぼけるしかない。

「例えば霊力の大きさ、霊圧の高さです。あれは素質云々だけで片付ける事はできません!どちらも何の訓練もしてないはずなのに私と同等かそれ以上なんて異常です。これでも私は若いとはいえ業界でもトップクラスの霊力・霊圧を誇っています。その私でさえ先生の下で苦しい訓練をして今の霊力・霊圧に高めたと言うのに」

 令子は横島が霊力を全開で使った時を思い出し声を荒げていった。

「ふむ」

 唐巣神父は顎に手を当てて思案する。彼が目にした時の霊波刀や文珠の事を考えれば令子を上回っていても不思議ではない。少なくとも自分よりは上であったのは確かなのだ。

「横島クンは確かに技術的には拙い部分もあるけど、どう考えても霊能の訓練をそれなりの年月をかけてやったとしか思えません。それだというのにそれに付随する霊能や霊に関する知識が全然ないんです」

 令子は横島に対する疑問点を挙げていく。

「そうなのかね」

 実際の所は横島が記憶を失っているのが主な原因だろう。

(もっとも記憶が戻ったとしても、十分な知識があったかは疑問なんだけどね。もしそうならそれは美神君・・キミの所為なんだけどね)

 記憶を失う前の彼も言っていたが彼がGSになる為の技術、知識を師事していたのは令子である。しかしその時その扱いを聞いた限りではどうも正しく行われていなかったのではないかと思われる。

「とぼけないで下さい!」

 令子の勘が唐巣神父が何かを隠している事を告げていた。

「そうは言ってもね。私も詳しくは知らないのだよ。今じゃ、君の方がよく知っていると思うのだがね」

 唐巣神父は自分がかけていたメガネを取って拭き始めた。

「それはそうかも知れませんけど・・」

 唐巣神父に紹介を受けた時、唐巣神父も素質が凄いと言っていたのだ。確かにそうだった。でも何か上手く説明できない奥歯にモノが挟まったような感じを受けていた。

「彼の霊能はどんな感じだね?」

 拭き終わったメガネを掛けなおしながら唐巣神父は聞いた。

「今の所、先生が言っていた霊波刀を自由に出すまでには至っていません」

 令子はそう言ってはっとした。霊波刀自体形成するにはかなりの霊力と霊圧、それを可能とする集中力が必要なのである。今の横島には集中力が無かった。

「そうか・・・美神君、横島君については深く考え込んでも仕方ないんじゃないかね?彼が何者であったとしてそれが君の何になると言うのかね?」

 令子は唐巣神父の言葉を吟味した。確かにセクハラ自体には多少うんざりすることも有るが、あの年頃ならば誰もが持っている欲望だろう。行動は余りにもストレートすぎるが・・そこがかわいいと思えるときも有る・・・か、かわいい!?

 令子は何をとんでもない事を考えているとカァと頬が熱くなるのを感じて慌てて頭を振った。唐巣神父はそんな令子の様子をいぶかしんだが黙って見ていた。

「そうですね。何で私、横島クンを気にしてるんだろう・・」

 頭を冷やしてから令子は自嘲した。

「彼は君の弟子だよ。それ以上でもそれ以下でもない。そもそも君に害をもたらすなら私は紹介などしないよ」

 唐巣神父は令子の態度に少し今までと違った様子を見て取ってよい変化だと今は亡き令子の母に祈りを奉げた。

「分かりました。先生のことは信頼しています。この件についてはもうお聞きしません」

 その言葉を令子から聞いて唐巣神父はほっとした。

「彼に何があるにしろそれは何れ分かることだと私は思います」

「はい」

 唐巣神父の言葉に令子は素直に頷いた。

     *

「なあ、その娘誰だ?っていうかその娘、幽霊だろ?大丈夫なのか?」

 等、口々に問われて横島は引きつった笑いを見せていた。ここは横島が通う高校の教室だ。ここに来るまでにも横島はキヌを引き連れてきた為、かなり目立っていた。噂の中心となっているキヌは物珍しいのか辺りをキョロキョロと見渡していた。

「ああ、大丈夫だ。この娘、キヌっていうんだけど悪霊と違って単なる幽霊だから悪さをすることは無いよ」

 横島は質問してきた輩達に答えた。

「かわいいなあ」

 というのがこのクラスの大半のキヌに対する印象であった。大体がしてこのクラスは既に人外としてバンパイア・ハーフのピートを受け入れているのだ。なので幽霊であるキヌもたちまちの内に受け入れられ、放課後になる頃にはこのクラスのマスコットにまでなっていた。キヌのようなタイプの娘は男女共に受けがよかったのもそれを促進させたのだろう。

「ふーん、そうなんだ・・」

「だよね・・」

 今も女子たちと輪になって色んな話題を聞いたり話したりしていた。特にキヌの時代ギャップもあったりして、それはそれで楽しんでいた。キヌにしてもこんな沢山の人間と一辺に話せるようになったことに嬉しそうにしていた。

「間違ったことは教えんなよ?おキヌちゃんは素直すぎてすぐ信じるから」

 と横島は級友どもに念を押したがさてどうなるのか。

「色々大変だったようですね」

 心配そうに見ていた横島にピートが声をかけた。

「ああ、まあな。雪山に猛吹雪の中、挑まなイカン様になるわ、何かすげー強そーな妖怪まで出てくるわで大変やった。そのおかげで死にそうになるし。でもいい事もあったんだぜ?」

 そう言ってその時の事を思い出したのか横島は青くなったり赤くなったりした。端から見ると大丈夫かと声を掛けたくなるほどだ。

「あのキヌって娘の事ですか?」

 ピートは話の輪の中心に居るキヌを見ながら言った。

「それもそうだけど、それだけじゃないんだよな・・でへへへ」

 そう言ってだらしなさそうに横島は笑った。今にもよだれが落ちそうな笑いだった。さすがにその反応にはピートも引いた。

「そ、そうですか。それは良かったですね」

 ピートは冷や汗を掻きつつ言った。

「まあな、大願成就の第一歩を踏み出したわけだし」

「大願成就ですか?」

「おう、女体の神秘を追求し極め!俺の・・俺だけのっ!!」

ダン!

 横島は興奮の余り、足で椅子を踏み付け、拳を突き上げた。

「俺だけの桃源郷を作り出すのだーーーーっ!!」

「「「おおう!!」」」

パチパチパチパチ

 横島のこの宣言に其の心意気や良しと男子の幾人かの賛同を得ると共に拍手を浴びた。

バキャ!

「そんな事、大声で叫ばないで!!」

「クラスの恥じよ、恥じ!!」

「もうスケベ!!」

「女を馬鹿にするんじゃないわよ!!」

「不潔よっ!!」

 だが、誰が最初に始めたのか分からないが何時の間にか横島はクラスの女子に囲まれタコ殴りにされた。

”「横島さん・・・」”

 そんな様子にキヌとピートは溜息を吐いた。



「まあ、何だ。色々経緯があってなおキヌちゃんは俺に括られちゃったってわけさ。だからおキヌちゃんは俺から離れることは余りできないんだ」

 タコ殴りにあいボロボロになったにも関わらずしばらくすると復活した横島が学校の帰りがけに詳しい事情をピートに話していた。

「相変わらず理不尽な回復力ですね」

 ピートはバンパイア・ハーフである自分の回復力よりも上回るのではないかと思った。どう見てもお仕置きが終わった時の状態は病院行きが相応しかったのだ。それが10分もせずにケロリとしていたのである。

「まあな・・俺自身もそう思わんでもない。まあ、しばらくすればおキヌちゃんも行動半径が増えて行くらしいから、ずっと一緒に居なくちゃいけないって事にはならないらしいけどな」

 実際の所は女子に囲まれタコ殴りされた時、主にケリでやられていたので横島の異常なまでの視力がスカートの中を捉え、それにより生み出された煩悩による霊力の活性化が回復に手を貸していたのだ。

”横島さん、あのこーこーって所、すごく居心地がいいですね”

 キヌが今日、始めていった場所、高校の感想を言った。

「おキヌちゃん、高校だよ、こ・う・こ・う。そうか、まあ気のいい奴らばっかしだからな」

 キヌの間違った発音を訂正しつつ横島は言った。

”そういう意味じゃなくてですね、うーんと霊的にです”

 的外れな横島の返答にキヌは訂正を入れていった。

「ふーん、そうなのか?俺にはわからんな」

 横島は理由が思い当たらず頭をかしげた。確かに浮遊霊なんかを結構見かけたりするが実害は無いし学校だからだろうと簡単に片付けていた。

「ああ、それ分かります。確かにそうですね。多分、あの辺には地脈が走っていて霊溜りみたいなのができているんだと思います」

”そうなんですか?”

「多分ですけど、だから浮遊霊なんか結構居るでしょ?」

”そうなんですよね。そっちのお友達もできそうで嬉しいです”

ムッ!

 仲良く話すキヌとピートの二人を見て何だか横島は面白くなかった。

「なあ、ピート、霊溜りって何だ?」

 だからか二人の会話を遮るようにして横島は質問した。

「えっ?霊溜りですか?僕も詳しくは先生から聞いてないんで美味く説明できませんけどいいですか?」

 ピートは気分を害すことなく横島の質問に答えようとした。

「ああ」

 横島は簡潔に同意を示して説明を求めた。

「霊溜りについて話すにはまず地脈について話さなければなりません。地脈についてはご存知で?」

「大体のところは」

 令子の講義で一応、説明されたのを思い出す。確り覚えなければ折檻が待っているので必死に覚えた。だがそれだけではやる気は出ない。

 その辺は令子も心得たものでアメも用意してあった。講義の後、小テストのようなものを用意してあり合格ラインを超えていればキスしてあげると言われて必死こいて覚えようとした。その中に地脈についてはあったが霊溜りについては無かった。その内あるのかもしれないのでここで聞いてても損は無いだろう。

 キス自体は一度だけ達成できた時に、誤魔化されるのかと思ったが本当に頬にだが一応してくれたので今ではすっかり講義については確り覚えようと意欲満々であった。テストが100点だったら唇にしてあげると言われているが達成していないのでそこまで令子がやってくれるかはわからない。

「まあ、地脈は簡単に言うと霊力の河です。源泉はこの地球そのもの。霊溜りというのは池とか湖に相当します。偶に神族や魔族が意図的に作った所・・言わば貯水池のようなものもありますけどね。まあ、そういう所は大抵は土地神が管理してるはずですし」

「なあ、霊泉ってのもその一種か?」

 ピートの説明に横島は前の仕事で人骨温泉の露天風呂で死津喪が言っていた事を思い出して聞いた。

「そうですね。そのものではないですけど」

 ピートもその辺はうろ覚えなのか自信無さげに答えた。

「と言う事はだ。さっき話したが霊泉っていうので死津喪って妖怪がえらい急速に回復したみたいなんだが、あの学校に幽霊とか妖怪とかいれば力が増すってことか?」

 横島は要するに学校でGSが関係する類の事件に巻き込まれてしまう可能性があるのかと危惧してピートに聞いた。

「さあ、どうなんでしょう?それは僕にもわかりませんね。僕自身にはそんな影響はないですし」

 確かに気にはなるなとピートは思い後で唐巣神父に聞こうと考えた。

”私もー!”

 二人の会話を聞いていたキヌもピートの意見に同意した。

「そうなのか?」

「ええ、引き寄せられやすいって事はあるかもしれませんけど。単純に居心地がいいですね。まるで故郷にいるみたいに」

 ピートは懐かしそうな顔で言った。

「そういえばピートの故郷ってイタリアのどっかの島だっけ?」

 横島は前に聞いたことを思い出しながら言った。

「そうですよ、機会があれば遊びに来てください。何にもないですがのんびりはできますから」

 ピートは故郷について話すのが嬉しいのかニコニコしながら言った。多少、土地柄か閉鎖的な所があるがピートの知り合いなら快く受け入れてくれるのも判っていたから。特に横島のように種族に頓着を見せない者は歓迎されるだろう。

「美人なねーちゃんは居るんか?」

 横島にとり最優先事項とでもいうべき事柄について真顔で聞いた。

「・・・いますよ。まあ、みんなバンパイアかバンパイア・ハーフですけど」

 そんな横島に呆れつつもピートは島の年若い人達を思い浮かべいった。若い連中は偶には刺激が欲しい等と言っていたから横島なんかは男女共に刺激材料として歓迎されるかもしれない。

「そうかそうか、なら何れ行かねば。今は見ぬ美人なねーちゃんを求めて!!」

 横島は大願を成就させる為と張り切って言った。

”・・・・(怒)”

 横島の言葉を聞いて機嫌を悪くするキヌ。だがそんな様子には全然気付かずに数々の妄想を叫ぶ横島だった。ピートも流石にその様子を見て苦笑いするだけであった。

 因みにキヌが横島に括られてからは食事の用意は全てキヌがやっていた。よって、横島は家に帰った後もキヌの機嫌が直らずカップめんだった。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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