--------------------------------------------------------------------------------
GS美神 リターン?

 Report File.0013 「可愛い彼女はゆうれい!? その3」
--------------------------------------------------------------------------------


”あ、あのがっこうですか!? がっこうってなんです?”

 キヌは横島に言われた言葉が分からず問い返した。

「へっ?学校って・・」

 横島は真顔で学校とは何かと問われ困惑した。

(学校? どういうことだ? 俺は今、何て言っていたんだ!?)

”どうしました?”

 キヌは返事をしない横島を怪訝そうに見詰めた。今の彼女には先ほど横島を殺そうとした邪念は無かった。その為、憑物が落ちたように本来の可憐な姿に戻っていた。

「えっ?いや、ごめん。他の事に気が取られていた。おキヌちゃんは学校を知らないの?」

”はい! 私、300年近く幽霊を・・って言っちゃった。ど、どうしよう”

 本来の目的を忘れて人のいいキヌは正直に自分が幽霊と告げてしまってオロオロと慌ててしまった。

「あのさ、おキヌちゃんが幽霊だって言うの俺、分かっているんだけど・・・」

 横島は慌てるキヌを見かねて言った。

”そ、そうだ。当初の予定通りにしなくっちゃ”

 よっぽど慌てているのか横島の言う事なんて聞いちゃいなかった。

「いや、だからさ・・・」

”うっ!!ああっ・・持病のシャクが・・・!!”

 キヌは突然、胸を抑えてしゃがみ込んだ。

「お、おキヌちゃん!?」

 大体がしてキヌは幽霊であるのだから持病なんて関係ないのだが長年の経験によるものか真に迫るものがあった。その様子に横島は騙された。ひょっとしたら失った記憶の断片がそうさせたのかもしれない。

”む、胸が苦しい・・”

 キヌは演技を続けてた。

「た、大変だ。そうだこういう時は胸をさすればーーーっ!!」

 そう言って横島はキヌに飛び掛った。記憶が完全であればそんな事はしなかっただろう。ある意味、横島はキヌを神聖視していた節があったから。だが今の横島にそんなものは存在しない。つまり煩悩の発露対象に入っていたのだ。

”え!? きゃぁーーー!! ああっ! ダメッ!!”

 急に横島に抱きつかれ、しかも、変な所(みなさんの想像にお任せ)を触られたキヌはパニックを起こし突き飛ばした。

ドンッ!

「うぉわっ!」

 キヌの突き飛ばしは思った以上に力があった。横島は勢いよく吹っ飛んだ。そして、その方向には妙に飾り付けのされた棚?があった。それはとーとつだがキヌが横島の先回りをして罠にはめるべく仕掛けたものだった。

ドサッ!

 まさにお約束で見事にその仕掛けを発動させた。その仕掛けは単純で落石を起こすものだ。即ち、横島の視界に大きな塊が迫ってくるのが移った。

「どひぃーーっ!!」

 横島は超人的な速さで回避すべく転がり落石を回避した。その瞬間、轟音と共に飾り付けされていた棚?は落ちてきた岩によって完膚無きまでに破壊された。その様子を見て横島は冷や汗を掻いた。

”ああっ! ごめんなさい。大丈夫ですか!?”

 まったくもって横島の自業自得であり、キヌにとって本来の目的達成が失敗したのに横島の心配をした。

「ああう、あうあう」

 横島は涙目で近寄ってきたキヌに抱きついた。よっぽど怖かったのだろう。丁度、横島が膝立ちになって抱きついたので自然と胸に顔を埋める事になったのだが今回はキヌに罪悪感があったのか拒まずそっと抱きしめて頭を撫でた。横島の態度が庇護欲を掻きたてたのかもしれない。

 しばらくすると横島は落ち着いたのかキヌから恥ずかしそうに離れた。二人は目線が合うと顔を真っ赤にして俯いた。

「あ、あのさ。おキヌちゃん、何か困ってるんだろ?俺じゃ役に立たないかも知れないけど相談に乗るよ。それに霊に関しては頼りになる美神さんもいるからさ」

 横島は俯いたまま照れくさそうに言った。

”あ、あのありがとうございます。ところであなたは何と言うお名前なんですか?”

 キヌは自分は知らないが自分を知っている少年に尋ねた。名前を聞けば思い出すかもしれないと。

「え!? お、俺、名前言ってなかったっけ!?俺は横島、横島忠夫だ。よろしくなっ!おキヌちゃん!!」

 横島は目の前の少女を知っていると認識していただけに彼女も自分を知っていると錯覚して名乗っていなかった。

”はいっ!よろしくお願いします。横島、横島忠夫さん!!”

 キヌは素直な性格だったからか横島が名乗ったとおりに少年を認識した。

「えっ!いや、俺は横島忠夫だよ。姓は横島、名は忠夫だ」

”えーと、はい。横島忠夫さんですね。すいません”

 ぺこりと素直に名前を間違えたことをキヌは謝った。

「いや、良いんだ。勘違いさせるような言い方した俺のせいだから。ところで相談だけど多分、おキヌちゃんが抱えている問題、美神さんなら何とかしてくれると思う」

”そうなんですか?”

「ああ、どうしてとは聞かんでくれ。俺にも分からんけど何故か確信だけがある。美神さんが言っていた霊能者の霊感ってやつかもしれない」

 本当はもっとあやふやな自分の記憶から導きだされたものなのであるがそうした方が良いと勘も告げていたのであながち嘘を言っているわけではなかった。

”わかりました。横島さんを信じます!!”

 キヌはどんな問題を抱えているのかまだ何も言っていないにもかかわらず自分に向けて屈託の無い笑顔をした横島の言葉を信じた。

「じゃあ、まずは美神さんの所へ行こう」

”はい”

 いつの間にやら先程までの疲れから回復した横島とキヌは目的の場所である人骨温泉の旅館へと向かった。


     *


 所変わって人骨温泉の近くにある雪山に異変が起きていた。

ザクッ!

ザクッ!

 もうすぐだ・・・もうすぐ・・・自由に・・・

 もう春に入っているというのにこの雪山は霊的な要素があるのか万年雪に覆われており、年がら年中とは言わないが季節を問わず吹雪になる。そんな雪山の谷底から這い上がろうとするものがあった。

 その這い上がろうとするものは何度か失敗し、ずれ落ちたりしているがそれでも懸命に這い上がろうともがいていた。その恐るべき執念は実を結び谷底からの脱出を成し遂げようとしていた。

 そう、もうすぐ・・

ザクッ!

 ・・自由になるのだ!

 この這い上がるものが谷底から這い上がった時、何が起ころうというのか、それは誰も知らない。気付いてもいない・・・


     *


「いやー、やっと着いた」

 そう言って横島は額に掻いた汗を服の袖でぬぐった。目の前には良くある決まり文句「ようこそ人骨温泉へ」が正面に書かれた広告塔とでも言うものが立っていた。側面にはこの旅館名「人骨温泉スパーガーデン」と書かれていた。ただし、この辺りに旅館関係はここしかないのであまり意味が無い。

”ここだったんですね”

 そう言ってキヌは眩しそうに旅館を見た。

「知ってるの?」

 横島は何気なく聞いた。

”はい、たまに人恋しくなった時にたまにこそっと”

 そう言ったキヌは横島の手荷物をひとつ両手で持って浮いていた。それを見ただけでもキヌが幽霊としては格段の力を持つことがうかがえた。通常の霊では物、というか物質的なものを持つことは通常、不可能なのである。しかもそれを長時間となるとできる霊は稀である。もっとも未だ霊的知識に乏しい横島は気づかずそれよりもキヌの言葉のほうに気がいった。

(そうか、おキヌちゃんは幽霊だから・・)

 横島はキヌが幽霊である為に人とは一緒に居れなかったのだと感じた。特に一般人であれば霊など普通は恐怖の対象でしか有り得ない。それに温泉地だから家族連れも多いだろう。彼女は家族の縁が薄い人だったから…

(あれ、俺なんで彼女には身寄りが無かったって知っているんだ?)

ズキッ

「っ!まただ。何か大事なことを思い出そうとする度に頭痛がする」

 横島は急にまた痛み始めた頭に手を当て耐えた。

”大丈夫ですか?横島さん”

 そんな様子の横島にキヌが心配そうに尋ねた。

「大丈夫さ。それより、ごめんな。荷物を持つのまで手伝ってもらっちゃって」

 横島はやっと痛みが治まった頭を上げ申し訳なさそうに言った。実際に横島の持っていた手荷物ひとつだけでも結構な重さだったのでずいぶん助かったのである。

”いえ、これぐらい別に良いですよ”

 キヌは照れながらいった。

「じゃあ、美神さんの所へ行こうか」

”はい”

「あっ!悪いけど旅館に入るとき騒ぎになるといけないから姿を消して着いて来てくれる?できるよね?」

 横島はこのままだと騒ぎになると気付きキヌに言った。

”はい、できます!・・でも荷物が・・」

 キヌは手に持っている荷物を見て言った。

「ここからは俺一人で持っていくよ。もともと俺一人で持ってきていた訳だしね。じゃあ、行こう」

 横島はキヌから荷物を受け取り旅館に入っていく。キヌは一般人に見えないように姿を消して横島に着いていった。



「遅かったじゃない。横島君?」

 旅館の人に案内されて令子の所にやって来た横島がかけられた第一声がそれだった。

「それは無いんじゃないっすか?こっちは重い荷物を持ってきたんですから」

 お茶も入れてすっかりくつろいでる様子の令子を見て横島はぶすっとして言った。

「一寸美人の仲居さんのお尻に見とれて目尻を下げて来た奴が何言ってんの。そんなだからこっちは何時、助手が犯罪に走るか気が気じゃないのよ」

 令子はそう言って冷たい眼で横島を見た。

「俺はそこまで無分別じゃないっすよ!」

 横島は持ってきた荷物を下ろしながら反論した。

「それより、横島君、何を連れて来たの?」

 もうその話は終わりと令子は横島の後ろにある気配を感じて言った。

「あっ、わかりますか。やっぱり」

 横島は頭を掻きながら言った。

「当然よ。私を誰だと思ってんの?」

 そう言って令子は横島の背後を見つめた。横島が入ってきた時から気付いていたが別段邪悪な気配を感じたわけでなし悪さをする様でもないので仲居さんが去るまで黙っていたのだ。

「おキヌちゃん、出てきても良いよ」

”はい、横島さん”

 そう言ってキヌは姿を表した。

(ふーん、この子、只の幽霊じゃなさそうね。自我もしっかりとしている、安定もしている・・)

 令子はキヌを見て一般の霊とは違う事を感じた。

「このおキヌちゃんとはここに来る途中で知りあったんすよ」

「横島君の事だから、この子が幽霊とは気付かずにナンパしたんじゃないでしょうね?」

「それはないですよ。一応、一目で幽霊だって分かりました。美神さんの教えがあったからですけど」

 横島は実際、美神の指導で霊視については最初の頃よりもマシになっていた。霊が見えるようになる事はそれだけトラブルに巻き込まれる確率が上がるのである。その理由は霊は自分が見える相手に寄ってくるからだ。その霊の正邪はべつとして。だから一概に霊能に目覚めることが良い事とは限らないのである。横島も美神の指導で霊視の加減を覚えるまで何度か襲われて逃げ惑う羽目に陥った。もっとも命がかかっていたので覚えるのは早かったのは幸いであった。

「あたりまえでしょ。そう言うのは早いこと覚えてくれないとこちらが面倒になるんだもの」

”あ、あの、はじめましてキヌって言います。横島さんがあたしの悩みの相談に乗ってくれると言ってくれたんでお邪魔させていただきました”

 キヌは令子に挨拶をしてペコリと礼をした。

「横島君が相談ねえ・・・」

「えっ、いや、まあ、俺じゃあんまり解決策なんて思いつかないかなと思って美神さんの手をお貸し願えないかなと・・」

 横島は令子とは短い付き合いながらそれなりに人物像を掴んでいたのであまり期待はしていなかった。

「ふーん。まあ、聞くだけだったらいいわよ?」

「な、なんですとーー!」

 横島は美神が金が絡まなければ指一本動かさないと思っていた。そしてダメ元でと思って相談を持ちかけたのだが話だけでも聞くと言ったが故に驚きの声をあげた。

バキッ!

「あ、あんたね・・・自分で相談を持ち掛けときながらその態度は何?」

 令子は横島の態度にすかさず右ストレートを食らわせた。まあ、そんな態度に出られるのは身から出た錆とも言える。

「すみ゛ま゛ぜん」

 横島は畳にダイブした体制で謝った。

”大丈夫ですか!?横島さん”

 キヌは一寸再起不能状態の横島を助け起こす。

「まあ、仕事にかかるまで少し時間があるから単なる暇つぶしよ。で、どんな話?」

「ありがとう、おキヌちゃん」

”はい”

 キヌはポッと頬を赤らめて言った。何とはなしに横島とキヌの間に甘い空間が形成されようとしていた。

「で、話は。私、暇じゃないんだけど」

 そんな二人の様子に令子は先程とは180度違う言葉を言った。

「あんた、さっき暇つぶしや言うたや無いですか!!」

 そんな令子の態度に横島は突っ込んだ。

「やかましい!!」

バキッ!

 令子は条件反射のごとく横島にまたもや右ストレートを食らわした。横島はまた勢いよく畳にダイブした。

「ひ、ひど・い・・・」

 ガクッと横島の頭が垂れた。

”ああっ!、横島さん!? 横島さん”

 慌ててキヌは横島を介抱した。

「まったく。で、その悩み事とやら話してくれる?」

 令子はキヌに話を促した。

”いいんですか? あたしはこの辺で大体300年位、幽霊をやっているんですが・・”

 キヌは自分の身の上を話し始めた。これが切っ掛けで、この場にいる3人は長い付き合いとなるのだがこの時点では誰もそうなるとは思いもしていなかった。いや、横島だけは違ったかもしれない。今は忘れているとはいえ一度は経験している事だから。


(つづく)

--------------------------------------------------------------------------------
注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






<Before> <戻る> <Next>