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GS美神 リターン?

 Report File.0014 「可愛い彼女はゆうれい!? その4」
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”あたしが幽霊となった原因は約300年ぐらい前に丁度この辺りの山が噴火しそうになってたんです。そのままでは非常にまずいと鎮める為の人柱をささげる事になったんです。それがあたしです”

「げっ、人柱!?」

 横島は人柱と聞いて驚きの声をあげた。

「ふーん、成る程ね。だからか・・」

 令子はキヌの霊としての特殊性に納得した。

「どういう事っすか?美神さん」

「つまり、そう言った人柱になったものは普通、その地方の神、土地神になるのよ。人柱になるのは大抵、力のあった高僧とか穢れを知らぬ乙女だわね」

 令子は横島に説明した。横島は令子の説明しながらの視線を感じ、絶対覚えておかなくてはと命の危険を感じた。

(・・高僧なんてそういる訳無いんだから、大抵の土地神は女という事か?)

 よく大地母神とか表現される事があるように地は擬人化されるとき女として扱われるのだからあながち横島の認識に間違いは無い。

”そうです。でも、あたし才能無くて、成仏できないし、神様にも成れないし”

 そう言ってキヌはくすんと涙ぐんだ。

「うぉー、かわいすぎるーー!!」

 そんなキヌをみて横島は飛び掛った。

ドキャ!!

「やめんか!!」

 しかし、それは令子によって迎撃された。

「ぐぇ!」

横島は頭から落下した。横島は足をぴくぴくとさせ沈黙した。

「まったく、話が進まないじゃない」

 令子は手をパンパンと叩いてキヌの方を向いた。

”あのー横島さん大丈夫でしょうか?”

 キヌは横島の様子に心配そうに言った。

「大丈夫でしょ。日頃から鍛えてあげてるんだから」

 まあ、人間離れした丈夫さよねえ等と日々の横島のセクハラへの制裁を思いだしながらしみじみと言った。

”そうですか・・じゃ、大丈夫ですね”

 令子の気楽そうな台詞にキヌも気にしないことにした。

(気にしてくれ・・・おキヌちゃん・・・)

 現在、回復中である横島は思った。

「話は戻るけど、つまり、自分では何時まで経っても神になれないから代わりの人を探しているって事ね?」

 令子はキヌの言葉から推測した事を言った。

”はい、そうなんです。最初は横島さんに代わってもらおうかと思ったんですけど・・”

 キヌはその時の様子を思い浮かべながら言った。とてもじゃないが横島が自分の事を知っているようだったとは言えなかった。あの時の横島は様子が変だったからだ。

「ふーん、横島クンをねぇ。まあ止めて正解だったと思うわよ?でもどうして横島クンを?」

 令子にはどうして横島を土地神にしようとしたのか分からなかった。普段の横島を見ている限り、神にしようものなら禄な事をしないのは目に見えていたからだ。

”あれほど扱き使われて平気な人なら喜んで代わってくれるかなっと思って・・」

「んなわけないだろ!!」

 横島は復活したと同時にキヌの言葉に突っ込んだ。

”でも、(グスン)”

 キヌは余りの横島の勢いに涙ぐんだ。

「うぉー、泣くな。泣かんといてー」

 横島はキヌの様子にうろたえた。

「・・・まあ、横島ならその涙で何とかなりそうね。確かに他人と入れ替わる事が出来れば地縛は解けるから成仏しようと思えば出来るか・・手段としては間違ってないけど無理やりじゃ、自分が地獄行きになっちゃうわよ?」

 令子は苦笑交じりにキヌに注意した。

”・・そうですね。あたし、どうすればいいんだろ?”

 キヌはどうしようもないのかと沈み込んだ。

「まあ、私がいる間に何か方法があれば教えてあげるわ」

 令子はキヌの余りの落胆の様子に珍しくまともに対応していた。

「・・・・はっ! そ、そうだ!!」

 いつの間にか考え込んでいた横島が叫んだ。

「どうしたの横島クン?」

 突然叫んだ横島に令子は面食らった。キヌにいたってはびくっと身をすくませていた。

「えっ?あっ、すんません。急に大声出して、一ついい案が思い浮かびました」

 横島は笑って誤魔化しながら言った。

「横島クン、下らない案だったら分かってんでしょうね?」

 令子はさりげなく横島にプレッシャーを掛けた。

「な、何を言ってんですか、だ、大丈夫ですよ」

 横島は冷や汗をダラダラと流しながら言った。キヌはそんな様子の横島を心配そうに見守っていた。

「で、どんな案なの?」

「それはっすね、俺達がここに来た目的っすよ」

 横島は得意そうに言った。

「成る程ね、確かにそれはいい案ね?でも、落とし穴があるわよ?」

 令子は一寸意地悪そうな表情で横島に言った。

「分かっているっす。ここに出没している霊ってのが話のわかる奴かどうかどうか分かりませんから」

「気付いているならいいわ。その霊が神様に相応しい対象ならいいけどそうでなければ除霊だかんね」

 令子は横島の答えに満足そうに頷き横島に問答無用で除霊しないと言った。

「ありがとうございます。交渉はがんばります。おキヌちゃん待っててね」

 横島は嬉しそうに言った。

”あのーどういう事ですか?”

 まだ話の飲み込めないキヌは戸惑いながら聞いた。

「わざわざ死人を作らなくてもあなたの代役ができるかもしれないってことよ。私達はここに出没する霊を除霊しに来たんだけどその霊が代わりになるようだったらねあなたの願いが叶うって事」

 令子は横島との会話を補足するように説明した。

”本当ですかぁ?わーい!!”

 キヌは体を一杯使って喜びを露わにした。

「ぬか喜びにならないと良いんだけど」

 令子は懸念を露わにした。希望を与えてそれが下手に砕ければキヌは悪霊と化す可能性があるからだ。現に何かの影響でそうなっているのか暗い想念がキヌの霊体の一部を黒くしていた。

「大丈夫っす。何か分からないけどうまくいく予感がするんスよ」

 横島は根拠の無い自信を感じていた。

「まあ、いいけど。目的の霊がどんな奴かわからないからね。余り期待しないほうが良いわよ?」

 令子は気休めに二人に言った。

「それじゃあ、さっそく問題の露天風呂に行きましょう!!」

 横島は勢い込んで立ち上がった。露天風呂というキーワードにちょっぴり妄想をのせて。

「そうね、でもその前に腹ごしらえしましょ。そろそろ、準備できてると思うから」

ぐぅ〜〜〜〜

 丁度タイミングよく横島のお腹がなった。

「はは、そうっすね」

 何故だか判らないが横島は涙がこみ上げてきていた。記憶は無くとも以前との余りの待遇の違いに出てきたのだろうか?

     *

「うーん、反応無いわね?」

「そうっすね。こっちにも反応無いっす」

 令子は手に霊探知機[見鬼君]を持って霊が出没するというスポットをうろついていた。少し離れて横島も予備に持ってきていた霊探知機[見鬼君]を持って霊を捜した。横島のその背後には騒ぎになるのを考慮して姿を隠したキヌが憑いている。

 [見鬼君]を作動させるにはある程度の霊力を必要とするからであり、横島が持っているのは使い方を覚えさせる為とその方が霊の捜索率がいいからである。

「はあ、どうせウチに霊がでてくれるんしたらムサ苦しい男よりもめんこいおバケがでてきて欲しいですわ。そうすれば客寄せになりますけん」

 令子達の様子を見ていたこの旅館の経営者の男がぼやいた。唯でさえここは僻地で交通の便も悪い。だが、ここの温泉の効き目は抜群によく湯治するにはもってこいの穴場として知られている。中でも最も効果があり目玉でもある露天風呂付近にむさ苦しい男の霊が出現するとあっては旅館側としては頭の痛いことである。

 幾ら害が無いといってもむさ苦しい男の霊では若い女性は寄り付かなくなるし、同性でも気持ち悪いだろう。現に噂がどのように広まったのか旅館を利用しようとする若い層は殆ど居らず経営が厳しくなってきている。

 このままでは商売上がったりになってしまうのではやく除霊してほしいと旅館の経営者の男は令子達の様子を見ながら切に願った。

「こうなったら、目撃証言のとおり女性が入ってないとダメダメなのでわ?」

 横島はさりげなく期待を込めて言った。聞いた目撃証言によると風呂に誰かが入っている時に現れている。しかも、目撃した者は誰もが若い女性なのだという。横島が期待を込めて言ったのも無理もなかった。

「そうね。それもいいかも。とりあえず、入ってみましょーか」

 令子は真剣な表情で言って入る準備をするためか脱衣所の方へ向かった。

「うおぉーー。言ってみるもんだーー!(さすが美神さん!露出も厭わぬとはさすがプロ!!必要とあれば躊躇わない!!)」

 令子の反応に横島はグッと拳を握り嬉し涙を流して喜びを噛み締めていた。感涙も覚め、ふと令子の向かった方を見るとそこには絶望が佇んでいた。

グラッ

 横島は頭が真っ白なり倒れた。その倒れた衝撃で今度は怒りが湧き上がり、絶望の根源に突っかかった。その絶望の根源は令子と対峙していた。

”じっ、自分は明痔大学ワンダーホーゲル部員であります!!寒いであります助けて欲しいでありますっ!!”

 絶望の根源・・もといムサ苦しい男の霊が自己紹介し令子に助けを求めていた。そんな霊にかまわず横島は怒りをぶつけた。

「アホかーーっ!!貴様ーーーっ!!!!」

 横島は溢れんばかりの怒りのままにムサ苦しい男の霊ワンダーホーゲルに大声で怒鳴った。キヌはその余りの大音量に耳を押さえた。

”ひっ!!”

 余りの横島の怒りにワンダーホーゲルはのけぞった。

「あと5分・・・いや後3分が何で待てんのだっ!!あともーちょっとで、ほんまもーちょっとで美神さんのビューティホーな裸体が拝めた者をっ!!!!」

 横島は期待が大きかっただけにそれが叶わなかった事に血涙を流しながら主張した。怒りのためか無意識のうちに霊波を体から湧き上がらせていた。

”きゃっ!!”

”うぉ!!”

 それは霊にはきついものだったようでキヌもワンダーホーゲルも悲鳴をあげて横島より離れた。令子も横島のそれに呆然とした。

(な、何よ、こいつ!!この霊力は、この霊圧は何?)

 令子でさえも横島からプレッシャーを感じて踏ん張った。

「幽霊とはいえ、それが男のする事かーーーっ!!バカッ!バカッ!!バカッーー!!!」

 周囲にそんな影響を与えているとは露知らずに暴走をし続ける横島だった。

(このままじゃ、ムサ苦しい男の霊はともかくおキヌちゃんには良くないわね)

ゲシッ!

「止めんか!!このばかっ!!」

 悔しそうに「あーっ情けなやっ口惜しやっ」と呪詛を吐きながら洗面器を拳でがんがん叩いていた横島に令子は背中に蹴りを入れた。

「どぅわ!って、えっ?美神さん」

 横島はようやく正気に返り、青筋を立てて肩を怒らせている令子を見て怯えた。

「よ・こ・し・ま・く・ん・?」

「は、はい」

 余りの令子の迫力に横島は直立不動の姿勢を取った。

「・・良く聞きなさい。私達のような霊能力を持つものは簡単に呪詛・・恨み言を言っちゃダメ」

 令子は横島に自分達、霊能者、特にGSをやっている者は総じて霊力が強い、そういった者が強い思いを込めて言葉にしたりすると無意識のうちに呪いとなる事があるのである。所謂、言霊と呼ばれるものを説明した。時には霊能力に目覚めていない者でも強烈な憎しみを込めて言えば呪いとなる事もあるし、そう言った逸話も聞いたことがある筈だと横島に説明していく。

「最悪、それが原因で呪詛の対象か自分が死ぬなんて事があるんだからね」

その話を聞いて横島は青くなり、誰彼無く周囲にいたものに謝り倒した。

(・・さっきまでのが嘘みたいね。・・まいったわね。先生もとんでもない弟子を押し付けてくれたもんだわ。それにしても横島クンのあの霊力、霊圧は何なのよ。下手すりゃ私よりも高かった・・)

 先程の横島と今の様子のギャップに先程のは幻だったのかと思えてしまう令子だった。

(先生、横島クンについて隠している事があるんじゃないかしら、帰ったら聞いてみましょう)

 こと自分に関わることである為、いかなる手段を用いても聞きだすつもりになっていた。危うし唐巣神父!!

     *

「遭難?」

”はい、そうであります”

「あの雪山にか?」

 ここに来る途中に見た万年雪に覆われた山を思い浮かべ、遭難するのも頷ける険しい山だったなと横島はブルッと身震いした。あんな所に登ろうという神経が信じられなかった。

”自分は仲間とはぐれ、雪に埋もれて死んだのであります!!しかし、未だ死体は発見してもらえず、放置されております!”

 ワンダーホーゲルは化けてでてきた理由を訴えた。

「なるほど、じゃ、死体を見つけて供養すればおとなしく成仏するということね?」

 美神は露天風呂にある岩に腰を掛けて足を組んでワンダーホーゲルの行ったことを吟味した。

”はいっ!!そのつもりであります!!”

 ワンダーホーゲルは涙を流しながら言った。

(こいつ、心残りがあって成仏できないのか、その死体が原因で括られて地縛霊になっているのか判断しにくいわね・・・)

 令子はワンダーホーゲルの状態がどうなのか判断に迷っていた。

「美神さん!!こういう奴だったら良いんじゃないですか!?」

 ワンダーホーゲルの様子を見て十分以上に話の通じる相手と見て取った横島が期待を込めて言った。

「うーん、そうね。問題ないかな」

 令子は状態がどうであれワンダーホーゲルを山の神にするのに問題は無いと判断した。

”わーい、うれしいなっ!!”

「良かったね、おキヌちゃん!!」

 キヌは飛び跳ねて喜び、横島と手と手を取り合って喜び合った。

”はっ?何がでありますか?”

 3人の話しについていけないワンダーホーゲルが質問した。

「あんた、成仏やめて山の神様になんなさい」

 令子はワンダーホーゲルに話の骨子となる事を単純明快に言った。

”え!?・・・や、山の神様!?”

 突然言われてワンダーホーゲルは意味を図りかねていた。

「そう、山の神様」

 令子はもう一度、理解させるべく言った。

”やるっス!!やらせて欲しいっス!!俺たちゃ街には住めないっス!!遠き山に陽は落ちるっス!!”

 ワンダーホーゲルはようやく意味を理解した。その途端、ワンダーホーゲルの脳裏に雪山賛歌が鳴り響いた。

「よろしい!あなたもこいつで良いわよね?」

 令子はワンダーホーゲルから色よい返事を聞いてキヌに話しかけた。

”はい、この方でしたら!!”

 キヌもワンダーホーゲルの様子を見ていて異存は無いと返事した。何より、どうやら山を愛しているようだから自分なんかよりも相応しいと思ったのだ。

「横島クンは・・ま、どーでもいいわ。当事者じゃないし」

 この件を提案した割には低い扱いを受ける横島だった。

「・・・・・」

 何時ものごとく無情な扱いに横島は言葉が出なかった。

”じゃ、さっそくお願いします”

 キヌは早く成仏したいのか令子に催促した。

「そうね。でも、一寸待ってね」

 令子は逸るキヌを抑えて言った。

「み、美神さん、まさかこの後に及んでお金になん・グハッ!!」

 余計なことを言いかけた横島は令子の拳によって沈黙させられた。

「違うわよ、全く。あんたが私をどう思っているかよく分かったわ」

 制裁により床に這いつくばっている横島に令子は冷たい視線と共に言葉を投げた。

「す、すんまへん・・・」

 意識を朦朧とさせながら失言を後悔した横島であった。

”大丈夫ですか?横島さん・・”

 何時までも起き上がらない横島を心配してキヌが声を掛けたが横島は沈黙したままだった。

「いい、こいつはここまで出張ってきているけど基本的には地縛霊なの。だからこいつとおキヌちゃんを入れ替えてもこいつは山の神になれてもおキヌちゃんは地縛されたままだからおキヌちゃんの希望通りに成仏できないの」

 先程まで判断に迷っていたが横島の言葉に令子は決意して言った。

「・・・嫌な予感」

 気が付いたのか美神の言葉に倒れた体を起こしながら呟いた。

「察しいいわね。助かるわ」

 令子はニヤリと笑いながら言った。

「やっぱ、俺が行くんですか!?春ったって雪があるんですよ」

 ここからも見える山を指差しながら横島は言った。

「だから横島クンに行ってもらうんじゃない!」

 令子は罰も兼ねてねと内心で思いながら言った。

”横島さん・・・”

 キヌは横島の様子を気遣いながら言った。

「くっ!いくらおキヌちゃんの為とはいえ、雪山に行かなくては行かなくてはいけないとわ・・」

 声を掛けられた横島はキヌへの人情と困難との板ばさみに悶えた。そんな様子に令子は早いとこ進展させる為に横島に背を向けて言った。

「帰ったら背中流してあげよーかな」

 少し媚態を含ませた甘い声で言った。内心、舌を出していたが。

「任せてください。必ずや発見し遺体を回収してきます」

 急に横島は真顔になり決意を固めて言った。

”横島さん、ありがとうございます!!”

 そんな横島にキヌは感謝を込めて言った。

「はは、当然じゃないか」

 横島は照れるなと頭を掻いた。

「死体の場所は?」

 そんな横島を横目でみながらワンダーホーゲルに聞いた。

”だいたいの見当しかつかないのです!も、申し訳ありません!!”

 ワンダーホーゲルは神妙な姿で受け答えた。

「・・雪の中うろつかないかんのか・・・」

 その言葉に横島は先程の情熱?も萎えかけた。

”横島さん・・あたしも憑いていきますから”

 微妙に字が違うような気がするがキヌは横島に同行する事を申し出た。

「全然分からないよりはましよ。じゃ、がんばってね」

 令子はそう言って皆を送り出すことにした。もちろん、自分が動くつもりは更々無かった。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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