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GS美神 近くて遠い夢

 Report File.0005 「大逆転シナリオ その5 再計画編4」
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*注意)このお話はオリキャラが主体で既存のキャラは名称でしかでて来ません。
    それがお嫌な方は読まないことをお勧めします。



 彼等は嫌な想像を振り払うべく休憩を入れる事にした。

「みんなは何にする?」

「俺はいつものハニーブラッド」

「アニキと同じなんだな」

「カァ、紅茶」

 イルは皆の注文を聞き用意するべく部屋を出て行った。意外な事だがこういった雑事もイルがこなしていた。

「なあカーク、俺達はうまくやれるかな」

「不安なのカァ?」

「まあな、計画については納得はしているがどうにも不安を感じるんだ」

「カァ、タシカァに各々のケイカァクを見ればフカァク定要素が多い。でもそれはシカァタない」

「仕方ない?」

 アンカー兄は聞き返した。

「カァ、その通り。イルはこのケイカァクについてはセカァイを敵にする事と同じだと認識している」

「・・・そうか、横島を消滅させる事は即ちこの今の世界をリセットすることでもある。世界はそれを望まないという事か」

「そうだ。だカァら成功率は5分5分で進めようとしているし、横島もカァン全に消滅させようとは考えていない」

「可能性を残しておけば世界からは最小限の干渉しか受けないと?」

「そうイルはカァンがえている。ある意味、これはアシュタロス様への挑戦でもある」

「確かにそうだよな。アシュタロス様は宇宙意思に敗れたともいえるからな・・・」

「成功すればアシュタロス様の・・俺達の希望を叶えられる事を証明できるんだな」

「カァ、その通りだな・・・」

 部屋に残っていた者達はそれぞれの思いに耽った。暫くするとイルが各々の飲み物を持って現れた。

「待たせたな。ん?みんなどうしたんだ?」

 イルは部屋から出て行った時と少し違う重い雰囲気を感じて問うた。

「ああ、いや先程の話で嫌な事を想像してしまってな。それで更にダメージを受けてしまったのさ」

「・・・そうか」

 イルはもう少し問いただそうかと考えたが思い直した。あまり、言いたくない事を聞き出すのは趣味じゃないと。最も必要とあればそんな主義はどこぞに行ってしまうのだが。

「お茶にしようぜ」

「そうだな」

 イルは持ってきたものをそれぞれに配り、暫くの休憩を楽しんだ。

     *

「さて、リフレッシュした所で続きを始めようか」

 イルはそろそろ始めようと提案した。

「ああ」

「賛成」

「進めてくれ」

 全員の意見が一致したのにイルは頷いて話を始めた。

「これから話すのはこのメンバーの中で一番厄介な存在、小笠原エミだ」

 そう言って壁に貼り付けてあった小笠原エミの写真を指す。

「呪術においては現役GSの中で、いや世界でも有数のエキスパート。現代の魔女といっても良いだろう。それだけに彼女は我々魔族の手口に通じている」

「それは美神や六道もではないか?」

 アンカー兄はどちらかというと美神や六道の方が危険だと認識していたのでその疑問を口にした。

「それは美神にしろ六道にしろ我々魔族に対しての手法は力押しが基本だからだ。彼女たちについては人間としては規格外な霊力によって我々魔族の弱点を突き破ってきた。まあ、六道の場合はあの強力な式神たちがいるからだがな。それに彼女たちには付け入る隙が多いからな。さて、小笠原エミが厄介なのは彼女たちの言う所の姑息な手段について一番良く知り対処する事ができるという事だ」

「カァ、姑息な手段カァ・・・大半の魔族はそれを用いる」

「小笠原エミは確かに厄介だ。自分の中にある闇を飼いならしているからな。こちら側に引き込む事は無理だろう」

「下手な小細工をすれば逆に見破られて反撃を食らってしまうだろう。故に小笠原エミに対してはなんの策略もなくただ依頼で離れるようにするだけに留める」

「まあ、それが正解か。でも、どうする?多分俺が操ったりした人物に依頼させればばれる確立は高いぞ?」

「それにタイガー寅吉もいるんだな。俺達に似た能力を持っているんだな」

「その辺は考えている。GSという職業でも得意先というものがある。小笠原エミにも殆ど専属といってもいい所がな。そこから依頼がでるような状況を作り出すさ。そうすれば、こちらが操っているわけではないからばれる事もない。それにどっちかって言うとこれはタイガー寅吉対策だからな」

「タイガー寅吉か。確かに厄介な奴だ」

「タイガー寅吉も横島と同じく不当な扱いを受けてるんだな」

「カァ、まあ、それは我々にとっては好都合というものだ」

 タイガー寅吉、彼はこの場にいる者達から本人が想像できないほど高い評価を得ていた。特に同じような能力を持つアンカー兄弟がいるからこそともいえるが。

「彼だけは確実に潰します。この計画が失敗しても」

 イルはその時、凶悪な表情を浮かべた。

「潰すのは惜しいんだがな」

「何か良い方法があるんですか」

「まあな」

 そう言ってアンカー兄はにやりと笑った。

「お聞かせ願いましょう」

「奴は精神感応者だ。それを利用するのさ」

「ほう、お手並み拝見といこうか」

 素直にイルは感心した。

「アニキ、”変容”させるんだな」

「その通りだ」

「久しぶりなんだな。新しい”兄弟”が増えるんだな」

 アンカー弟は嬉しそうに言った。

「どういうことだ?」

「タイガー寅吉は精神感応者だ」

「それは知っている」

 イルは何を今更といった感じで言った。

「精神感応者は総じて感受性が高いし、心・・・魂は柔軟だ。でなければ精神が持たない」

「それで?」

「彼は精神感応者として強い力を持っているが精神的防御が未熟なんだ。だから、こちらから俺たちアンカー兄弟の精神を接続して逆流させてしまえば」

「なるほど、洗脳か」

イルはアンカー兄弟の言葉を聞いて納得した。

「カァ、洗脳とは違う。精神の在り様そのものを変えてしまうんだ」

「洗脳とは違うのか?」

「ああ、全然違う。洗脳ではなく変容だ。我等からの働きかけがタイガー寅吉を魔族へと導く」

「そんなに簡単に行えるものなのか?」

「確かに1回の接触でいきなりとは行かないと思う。だが、一度でも変容が始まればほっといても少しずつ変わっていき最後には魔族に変わる。ただ、問題は彼が能力を行使してくれなければならないが」

「一度接触すればチャンネルができるんで離れた所からでも接触できるんだな」

「接触するタイミングを作ればいいんだな?」

「ああ」

「わかった。その時、タイガー寅吉が一人になる状況を作り出す事を考えよう」

 イルはアンカー兄弟の案に乗る事にした。

「ああ、頼むぜ。その代わり結果は期待してくれ」

「ああ、期待するよ。さて、次は伊達雪之丞だな」

「こいつもある意味、厄介だな。魔装術を使いこなす事で小笠原エミ程でないにしろ自分の中の闇を飼いならしている」

 アンカー兄は伊達雪之丞について知っている事を述べた。

「カァ、小笠原エミとは違って伊達雪之丞には隙がある」

 だが、カークはアンカー兄の言葉に自分の意見を主張する。

「特に、横島忠夫の力を見せ付けられた形になっている今、ライバルと定めているから余計にな」

 イルがカークの言葉を補足する。

「力への渇望・・・」

「ある意味、伊達雪之丞は我等魔族の心に近い」

「カァ、当然だ。そうでなければ魔装術は使いこなせない」

力に対する渇望は魔族たちにとっても覚えのあるものだ。それは彼等の基盤でもあるといえる。

「・・・伊達雪之丞に関してはやる事は一つ。己の無力を思い知らせる事だ。しかも、同じ人間によって」

「力への渇望を増大させるのだな」

「そうすれば伊達雪之丞は魔装術に呑まれるだろう」

「だが生半可な相手では伊達雪之丞をそこまで追い詰める事はできないぞ?特に正攻法で行くなら。こと戦闘力だけで言うなら伊達雪之丞は人間界では5指に入ると思うのだが」

「搦手で行くにしても伊達雪之丞が固執する人物はあまりいない」

「確か固執する人物って横島忠夫や弓かおりぐらいしか思いつかんな」

「一番のこだわりを持つ者、ママ・・母親については亡くなっているしな。弓かおりにしてもまだ繋がりが薄いといえる」

「それについては心当たりがある。打って付けの相手だ」

「へえ、誰だ?」

「・・・伊達雪之進、伊達雪之丞の父親だ」

「聞かん名だな」

「そりゃな、表社会でも裏社会でもなく、闇社会とでも言うべき所に潜む者だから」

「闇社会?なんだそりゃ?」

「我々、魔族並みにえげつない事を平気で日常的にやってのける事のできる奴等が住む街がある都市の地下に存在するのだよ」

「そんな所があるのか」

「ああ、私も最近知ったんだ。アシュタロス様がコスモプロセッサーを起動して世界中に悪霊や魔族をあふれさせた時にな・・・」

「何となく予想がついた」

「多分、その予想であっている。つまり、世界中で大騒ぎになっていたのにある街だけが混乱しなかった。それも当然だ。そういう奴等が毎日・・多分今も同じような騒ぎをやっているんだからな。その街は魔界の一部と言っていい場所だよ」

「カァ、マカァイ都市伝説」

「本当に在ったのか・・住民が例外なく霊能力者だという街」

「普段は霊的加護かなにかで隔離されていましたがあの時だけは霊的封鎖の影響でそれが解けたようです」

「幾ら相手が霊能力者たちって言っても悪霊とかはともかく魔族には普通かなわんだろう」

「ああ、そうだ。幾らその街がそこらのとは変わっていても強力な魔族には適わない。でも、一人例外がいたんだ」

「それが伊達雪之進か」

「そういうことだ。奴は上級魔族さえ問題にしなかった程だ」

「そういう言い方をするということはその場にいたのか。」

「ああ、あれは見事としか言いようがなかった」

「獲物は何だったんだ?」

「素手だ」

「はっ?」

「だから、素手、ブラスナックル。飛び道具なんて一切なし。実にシンプルに殴るだけ」

「本当かよ。魔装術とか使わずに?」

「そう、単純に拳に霊気を乗せて殴るだけ。まあ、蹴りも有るけど」

「・・そういや、横島忠夫の父親の横島大樹も似たような事してなかったか?」

「それの霊能力者版だな」

「カァ、横島大樹も霊能力に目覚めたら同じように?」

「可能性は有るんじゃないか?あの横島忠夫の父親だし・・・」

 魔族たちの間にしばしの静寂が訪れた。

「・・やぶ蛇にならないだろうな?」

「さあ、そればっかりはやってみないと」

「・・それもそうか・・・」

「とりあえず、伊達雪之丞には彼の父親の元へご招待という事で」

「「「お、おう」」」

 ここに来て魔族たちは何かとんでもない事しでかそうとしてんじゃないかと不安に駆られ始めていた。いや、最初から分かっていたのではあるが。頭で分かるのと心からの実感とは違うのだと。


<続く>

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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