「楽しく仕事が出来ているかい?」 | |
1.部下を伸ばす上司と部下を駄目にする上司 部下の能力を伸ばす技 部下にやる気を出させることが重要 部下となる新入社員に対しては、理系や技術系の学部や研究室からの出身の有無に関わらず、学生時代の知識や技術をそのまま継続している場合でも、企業や組織では仕事や研究の進め方ややり方が大きく異なるので、最初は丁寧に指導していくことが必要となる。しかしながら、単純に仕事の段取りや技術的な内容だけを教えても部下は決して成長しない。彼らは企業での決められた教育期間を過ぎたら自立して自分自身で考えて行動に結びつけて行かねばならない。 多くの新入社員は、大学や大学院で学んできた技術や研究の内容をそのまま企業で継続していける訳ではない。例えば類似の技術分野であっても、対象となるものが異なり、また目的も異なることが常にある。企業や組織が最も期待することは、測定された生データ(証拠:evidence)に基づいて仮説(hypothesis)を立てながら解析の流れ(手法:procedure)から、現象や原因を総合的に考察(Consideration)して解決していく能力である。 著者自身も学生時代に広域変成岩(いわゆる三波川広域変成岩)の相平衡岩石学を研究していたが、企業の研究所に配属されてからは、ガラス原料となる珪砂資源などの原料の現地調査や試験・分析を行い、またガラス熔解のための反応状態の解析や耐火物の侵食や反応などの研究を行っていた。企業で担当していた技術分野は大学や大学院で研究していた内容と幸いにも類似していたが、研究開発での進め方は大きく異なっていた。そのような実際に異なる仕事の進め方に対して、次第に学生時代に経験しまた習得した考え方や技術をできる限り応用できるようになってきた。だから著者は多くの部下の育成をこうした状況で効果的に成長させたいと思うのである。 そのためには、若手や新人の部下に「やる気」を起こさせることが大切であろう。昭和、平成、そして令和の時代を経てこの数十年間に仕事の進め方や部下に対する人事的な考え方ややり方、あるいは上司や部下の考え方も大きく変わってきた。いわゆる「ど根性ドラマ」のような団塊の世代の上司の時代から、お友達スタイルの平成の部下の時代まで、個人の生活スタイル、部下の扱い方や教育の仕方も大きく変わらざるを得ない状況になった。 そのために、我々のような上司たちも教育や育成の方法を変えるようにしないといけないのである。部下のやる気を出させるためには、部下となる新人の個性をよく観察して、考え方や癖ややり方を知ることである。そして、そのような状況において部下の将来の方向を左右する最も重要なポイントは部下の性格である。たとえ大学や大学院において優秀な成績を習得ていても、また学問的あるいは技術的な知識が豊富であっても、仕事や業務に対する適性が低い場合には、それに適合した業務(仕事の内容)を与えることが重要となる。したがって、新入社員としての部下の誰もが研究開発の第一線で活躍できる訳ではないのである。研究開発における第一線級の技術者、あるいは技術チームを支える多くの技術者、またそれを支援する分析技術者や技能者、あるいは技術営業を行う技術者など、上司は部下の教育や育成の期間にその適性を充分に読み取って、部下の能力や人間性を伸ばす方向に指導していくことが求められる。 多くの場合には上司は部下に対して求められている内容を考えさせるように実際の仕事の進め方を課題として与えることが良いと思う。そのような教育の中で部下がやる気を出す仕事や業務の内容を上司や教育者は見極めていかなくてはならない。基礎的な技術研究に適している人、常に新しい技術に挑戦をしたいと考える人、総合的に技術を並行処理できる人(私が導入教育を受けた頃にはいわゆるπ型の技術者と言われた人)、1つの業務のみしか実施できない人、あるいは常に指示待ちの人、など部下には多くのタイプが存在する。 上司は配属後に1年以内の期間(あるいはもっと短い期間)で部下の将来の適性をある程度把握しなくてはならない。すなわち、教育を受ける部下の多くに対しても気持ちよく仕事ができるように早く適性を見極めることが必要となる。したがって、教育の期間は技術内容ややり方を単純に教えるだけでなく、部下の将来の道を決める重要な期間となるのである。 著者が教育を受けていた頃の今の団塊の世代たちの先輩による教育では、とてもそのような余裕は無かったと思う。しかしながら、そのような時代であるからこそ、教育を受ける側で自分の進むべき道を判断する必要があった。そうした中から、仕事や業務に対しても自発的に動くという自主性が出てきたと思う。確かに自主性が出なければ団塊の世代の先輩たちに教わった若手(今の我々)は課題解決型の仕事や研究活動はできなかったはずであろう。そうした意味でも団塊の世代の先輩たちに教わった若者にはある意味でハングリー精神が宿ったのであろう。 「やる気」とは技術力そのものではない。すなわち、教わる本人が仕事や業務や研究を進めていくモチベーション(動機付け)である。したがって、上司や教育者は教育や育成の期間中は若手の技術者の個性や能力や癖をできる限り理解して、モチベーションを引き出す努力をしていかねばならない。
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