ディスクに換える
  今回のテーマは、ドラムからディスクへの変換メカ話。
  前号からのS600R。この”S”の世界では、非常に不評のチェーンドライブシステムの大げさにいってみればエクスペリメンタルモデルとして譲生したS600R、サスポテンシャルを探るためにはどうしても避けられないフロントブレーキのディスク化を今回実施。
  ナカヤマでデビューし、フジ、ツクパと実戦だかシェイクタウンだかよくわからないレースを経て、いよいよナラシも終わり(前ドライバーかすでに回すだけ回しているフシがある)もういいだろうとサス・ポテンシャル、トライに踏み切った、と言う次第である。ナカヤマのようなコースではなおさらのこと必要だった。
  さて、”S”のディスクについては、御存じのように、Mタイプ用のアネット型と輸出用及びレースオプションとしてのタンロップ対向ピストンの2種がある。通常では、後者がもてはやされている傾向があるがこのGARAGEでは、反対の前者をお薦めしたい。
  理由は、まずそのパッド、小サイズのタンロッフは、不安このうえない。ひきかえアネット型は、その後発売されたH1300・145・CIVIC・サニーと互換性のある同じパッドを使用。Mタイプのフレーキシステムとしてのアネット型の不評からうまれたモノだと思われるが、その責任は、あの並列マスターシリンダーの小径によるストロークアップのいわば濡れ衣である。その証拠に、ドラムに採用されているシンクルマスターとアネット型の組み合わせは、Mタイプのフィーリングを御存じの方にとっては、信じられないフィールを持っている。さらには、ダンロップ対向ピストンの場合、ピストンが、キャリパー内でロックしやすい持病をも持っている。
  で、アネットタイプと言うことになるのだが、それには、もうひとつ大きなメリットがある。別のキャリパーをセレクト可能、つまりアネットタイプのブラケットにポルトオン可能のH1300用3ポットキャリパーを採用できることがそれ。言うまでもなくパッド面積の増大とキャリパー自体の剛性アップが、その最大の理由である。S600Rがアネット型を採用する理由は、実はここにある。
 
 

ただし間題点もあり、そのひとつにハブとキャリパーの接触で、それには、今回上の図のようにキャリパー側を削っているがハブ側をちょうど五つ星のものを円にしてしまってもいい。

  もうひとつは、キャリパー側のブレーキホース、ジョイント部が異なるためであるが、これには、フロンテクーペのものがズパリ使用可。ただし1点のみ、このブレーキホース、ボディ側のブレーキホースナットのピッチが違うために純正パーツのブレーキパイプのサス側のナットを交換する必要がある。このナットを換えるためには、ブレーキパイプ・ダブルフレアー加工が必要。これはブレーキパイプの専門店で加工あるいは、作製してもらえる。今回5ウェイジョイント側は、”S”のもの、サス側には、フロンテのものをセットしたものを作ってもらった。余談ではあるが、このことは、ブレーキパイプに関して純正パーツに頼らなくていいことを意味している。
上がドラム用、下がM type用、アッパーアーム
  キャリパーに関しては、以上で問題ないのだが、一番は、アッパー・ロワー各アームで、最大のネックである。CGおよび三樹書房出版のヒットパブリシング『ホンダスポーツ』で、かの吉田氏のリポートでもおわかりいただけるように、ドラムとディスクでは、長さが、大幅に異なっている。左下の各アームのフォトを御覧いただければ良くお分かり頂けるはず。それぞれのナックルのアッパー・ロワー各アーム取り付け部の寸法が異なるためにそれにしたがってアームも個々に寸法を変えている。だからこそペアリング等の間題で変更不可のナックルをそのままドラム用アッパー・ロワーのままセットすると異常なポジティブキャンバーの”S”ができ上がることになる。
上がM type用、下がドラム用、アンダーアーム
  一番簡単な方法は、アッパー・ロワーともに交換してしまうことなのだが、もしパーツがあったとして、現在の部品価格にして左右アッパー・ロワーアーム、のみでじつに14万円を越してしまうのだ。いろいろとチャレンジしてみた結果、上記の図のように大胆にもアッパーアームをカットしてしまった.ただしカットだけではだめで裏面にあるオリジナルパーツのアッパーアームブラケットのワイドなキャンパー調整代とのコンビネーションによるもの。
 
  今回のアネット型ディスクブレーキASSYはほとんど新品パーツで組みあけたもの。ヒストリックマシンにおける永遠のテーマ、使うのがもったいないのか、使わないのかもったいないかである。56号S800Rも同じ様に新パーツで組みあげた、そのスペアパーツでもあったが、使いきってしまった。この組み立てシーンは、VideoS・Series8にも収録。とにかくロワーアームもそのまま。このロワーアーム、前号でリポートさせて頂いた様に、交換するとなるとけっこう時間がかかるため、省かれたのは費用だけではない。
  かくして14万円と時間・労力を節約。結果、加工したアッパーアーム、よじれるばかりのツイスティなナカヤマで11000rpmも回しまくる走行パターンでもなんら問題は発生しなかった。問題が生じたのは、まったく別のキャブレターにであった。幸か不幸か、前からの症状で、シフトアップ時に回転が落ちる、ギア比を疑ったりしていたが良く分からなかった。それがはっきりしたのが、CVキャブのバキュームピストンが降りてこなかったことが、その原因であった。つまり上がるだけ上がったピストンが、おそらく加工精度不良シリンダー(このキャブシリンダーは砂型リピルド)で温間時のみ4個とも降りてこなかったことから、混合比が極端に薄くなってドライパーチェンジ時にスタートしずらかったもの。この対策は、次号にリポート予定。
  話を元に戻して、ブレーキシステムを変更すると最後には必ずしなければならないサスアライメント調整について。どんな定盤やアライメントテスターがあろうとなかろうと最終的に調整するものは、キャンパーシムとタイロッドであることを肝に銘じてどんどんやってしまうことである.数値も大事だけれどもクルマは走ってなんぼのものである。テスターや数値を無視して調整しては走るを繰り返して気にいるフィールが得られるまで、やるのも素人ならではのメッソドではある。これで結構結果が出るものである。心配な向きには、その後サイドスリップテスターに通してみれば良い。まただめ押しにはタイア摩耗チェックがある。機器の少ないガレージフリークには、これが一番である。ひとたぴ気にいるセッティングがつかめたらシムの厚さやタイロッドの位置を記録(接写の効くストロボ付きカメラがベスト)しておくことは、言うまでもない。ただしサスは、生き物であることを忘れすに、常に走らせてから答を出すこと。自分の”S”は、自分が一番知っていることに自信を持って素人ならではの、素人しかできないやり方でオリジナルアプローチでチャレンジしてみよう。
 
ランダムメカリポ−ト。
  チェーンドライブの迷信、この特異なリアサス兼駆動システムについては、実に低次元のモノからリアサス工学の高次元のモノまで含んでいるから非常に興味深い。これに関して別の号にて詳しく、楽しくリポートしてみたいと思っている。
  今回は、その中でも馬鹿げているが、信じられないことにクルマ雑誌にもたまに見受けられる迷信、ひとつ。
  チェーンドライブには、ディファレンシャルがない、プロペラシャフトがない。本当にあるのだ、こんなことをまじめに記述している雑誌が。ま、日本独特の違うものへのアレルギーのなせることとは思われるが信じられないことではある。
  更にもうひとつ、これはかなりのレベルで”S”もメカも御存じの方でも結構なんの疑いもなく信じられている現象。チェーンドライブ特有のテールを持ち上げるワインドアップモーション、と記述され、これを賞賛する向きも多いがここにオカシサがひとつ、本来なら、言い換えれば、正常ならこくわずかのモーションはあるにしても、完璧に快感しうるヒップアップモーションは、実は、リアタンバーが抜けかけ、あるいは、完全に機能を失ったものに見られる現象であること。このことは、その挙動が見られるときがリアタンバー交換の目安といえる。
  チェーンドライブについては、無限に語れる楽しい話がある。別の機会におもい切りリポート予定。
  左の図は何だとお考えになるか、実は、先日クラブメンバーで寄ってたかって丸こと1台パラシ解体した”S”のシャシー切断面で、この部分を見られた方も少ないと思われる。トーションバー、シャシー側の6角ホルダーで、これはどのパーツリストはもちろん、マニュアルにさえも載っていない。平板のシャシーに挿入された鋳物で、アリ地獄的にホルダーに入る構造である。
 
  さて上のフォトは、”S”のシリンダーヘッドをエンジン脱着なしに取りはずしたもの。マニュアルには、エンジンを取りはずしてからの作業になっているが、エンジンマウントを取り、エンジン自体を水平近くにすれば取りはずし可能。
  が、結論から言えばこれは、おすすめできない。条件がある程度整わないと非常な困難が待ち受けている。その条件とは、まずそのエンジンシリンターヘッドが、過去2〜3年以内にはずされた過去があること。何年もはずされた形跡のないものは、エンジン単体になったとしてもそれはかなりの困難さがある。後方、下側のスタッドボルトがさぴついて抜けずらいから。さらに助け人が数人いるかどうか、両腕を伸ばした状態で重いシリンダーヘッドをただでさえ抜きずらいものを抜き持ち上げる困雑さは、かなりのもの。それにくわえてスタッドボルトの長さが同じでない。上げたり下げたりして抜くためにヘッド面に傷をつけやすいし、またヘッドを載せる時のはうがこのリスクは、さらに高い。以上の理由でこれは×。急がば回れである

(1992/7 Tanimura)

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