チェーンドライブの真実


チェーンドライブの不評について。
前号でお伝えしたように、今回はチェーンドライブ特集。スペースの許す限り楽しいお話をお届けしたいと考えている。前号でも触れたように、ちまたに溢れた迷信や、誤解、ぬれぎぬ、さらにその注目すべきポイントも盛り込んで、語り尽くせれば幸いである。
この特異なリアサス兼リア駆動システム、本来なら、そのユニークさゆえにもっと評価があればとも思われるのだが、残念ながら、あまり芳しいものではないのが事実である。ただしこの世の風評とは別に頼もしい方々もいらっしゃる訳で、その名をチェーンドライブクラブと言い、エスロクをメインに、度量でエスハチのチェーンタイプを加える、楽しいクラブがあることをつけ加えておこう。
ま、このように頼もしい例外もあるのだがチェ−ンドライブは一般的に、評価が低い。とくにレーシングマシン然としたエスロクについてはそのするどいエンジンレスポンスや吹け上がりにそのEXサウンド、さらにはそのシンプルなエクステリアの魅力にあって、それなりに評価を得てはいるが、その仲間にリジットサスを持つエスハチのチェーンタイプにいたっては、悲惨なものがある。
今回の記述について、まずお断りをしておきたいのだが、すへてについて筆者のひとつの意見として受け取って頂ければ幸いである。このことで楽しい討論か繰りひろげられるなら、それは、まさしく筆者の意図するところなのである。したがって、これから記述する内容について、ご意見のある方はコメントを事務局までどうぞ。

さて本題であるが、その前に、チェ−ンドライブの簡単なディメンションを、前号でも触れたように、ぱかげた認識を訂正していただく意味も込めてもう一度おさらいをしてみようと思う。チェ−ンドライブ、この特異なサス兼駆動システム、早い話がNSXも真っ青のアルミサスペンションで、駆動システムとしてばかりが前にでていて、サスとしてポジショニングが低い傾向がある。そのことから、デフがない、フロぺラシャフトがない、などと、ぱかけた認識か生じた節かある。もっともホンダ=バイクから、その認識が生まれたことも否定できない。さらにはBMW車に代表されるシャフトドライブによるバイク駆動系の対比イメージによる発生の可能性も考えられる。現在の出版物にも、見受けられる、超初等の誤解ではある。FWD車をベ−スに4駆にモディファイすれば、そのまま使えそうなレイアウトで、FWD車のリアサスに駆動輪を持ち込んだと思って頂ければいい。そこからチェ−ンによる駆動が誕生したと思う。そしてそれは完全独立のリアサスを実現し、さらにキャンパ変化0の(実際は、僅かにキャンバ変化している。)モノであり、後でも触れるが驚くほどのサスストロークを持ったサスになっている。したがって、コーナリンクパフォーマンスについては、後で述べるとして、その乗り心地は、リジッドサスとは比べ物にならない良さである。
さて、このシステムの発想の原点は、何なのだろうか。一説には、トランクスペースによるとされる説がある。「S」シリーズは、当時のホンダにとって初めての乗用車でもあったわけで、十分に考えられる説ではあるが、この考えは、あのメットインタクトの発想(ヘルメットスベースを稼ぐためにエンジンシリンダーを傾けてしまった。)とおなじで夢のないメカであリスポーツ車としてのピュアなデザイナーの誇りに欠ける。あの本田さんがそんな発想をはたしてしたのだろうか。短く、回転運動のみの、上下動もないプロペラシャフト、シャシーに固定されたディファレンシャルハウジング、チェーンを内蔵したオールアルミ製のオイルバス式トレーリングアーム。このことは何を意味しているんだろう。そう、完全な独立サスとバネ下重量の軽減がそのはず。だから、アルミ鋳造のチェーンケース。したがって、営業政策のためにここまで、駆動とリアサスをいじってしまうものだろうか。ホンダの名刺がわりに創られた「S」がはたして、その性格を−変させてしまう恐れのある基本部分を運動性能とまったく関係のないトランク容量アップのためにリスクを侵してまで採用したのだろうか。
ちなみに、前回のスズカで久米さんにお訪ねした内容の内、「S」のエンジンについて、そのバルブガイトにステムシールが存在しないことについての質問に、「それは宗一郎さんが、『パルフ同りに抵抗のある物は入れるな。』じゃあオイル下がりはどうするんですか、と尋ねると、『こうすればいい。』とエスロクフリークには、御存じ、例のパルブガイトエアーチューブを指示されたとのこと。インテークマニフオールドとクランクケースをつなぐアレである。実に徹底したメイキングポリシーであり、また既成概念に捕らわれない合理性にあふれている。このようなスピリットからトランクスペースのためにサスを創るセンスは、生まれないと思う。それは、アイテアの段階で、後から生まれたオマケでは、なかったのか、と思った時、実に愉快で、楽しくて、ほほえましい相似性に気がついた。
これも前回のスズカ大会でのゲストとしてお招きしたNSXのラージプロジェクトリーダーである上原氏のはっきりとした技術者としてのコメントをここにご紹介しようと思う。氏は、NSXにおけるあのロングテール、おおむね不評であることが多いが、それについて、きっぱりと明言された。「あれは、今言われているように、トランクのためにデサインした物ではなく、エアロダイナミクスの追求の結果生まれた物で、トランクとしては、あとから生まれたものにすぎないものです。」、つまりトランクは、スポーツ車本来の運動性能追求デサインの結果、生まれたオマケてあるということ。また氏は、「スタイリングとして、良くないといわれることがありますが、これからの同種のクルマを見て下さい。きっとあの様になるはずです。」とずっと穏やかに話されていた氏が、この件に関しては、かなりきっぱりと断言された。そして今、もうお分かりいただけると思う、その後発表された同種のクルマを見て、なるほどと思った次第である。
基本スタンス
さて、チェーンドライブに話を戻して、その不評の原因から推察してみようと思う。まず、チェーンドライプの基本スタンス、左上のイラストを御覧いただければお分かり頂けるはず、リジッドサスと比較して前上がりであり、リジッドサスは、前下がりである。このことから、様々なことが推察される。まずリジッドサスがどうして、前下かり、つまり、後ろ上りなのか、ここに風評とは、まったく逆のモノが存在する。リジッドサスでレース活動を続けてきた筆者が、長年悩んできた原因が上のイラストにあり、それがそのままリジッドサスの大いなる欠点だと思う。リアサスのストロークが余りにも少なすぎることがそれ。それに引き替えチェーンドライブは、信じられないぐらいのたっぷりとした容量のストロークをもっているのだ。だから、リジッドは、後ろ上り、つまリオーバーステアの傾向である。さらにリジッドで、乗り心地優先、マイルドコンセプトのMタイプにいたっては、そのオリジナルスタンス、もうほとんど見かけなくなったがそれは言葉に絶するカタチ、まるでドラッグスターのようなヒップァップスタンスだった。ソフトなサスを採用するリジッド、ストロークアップのためにはホットロッドしか選択接はなかった。じゃ、チェーンドライブはとうなのか、ストロークたっぷりのリアサスでベストであったのか。もしそうであれは、おそらく迷信や誤解はともかくとしても、これほどの不評を受けなかったと思う。実は、リジッド・リアにおける事とまったく同じ現象がチェーンドライブ・フロントに起きていてそれが前上りのスタンスとなり、アンダーステア傾向をもたらした。ストロークないフロントサス、あくまでも粘るリア、そこから発生する異様なコーナリンク挙動、サイド・ホッピンクである。おそらくこれが一番の不評の要素だと思う。だからこそ、それに気がついて、前を下げて、少なくとも水平のスタンスに持っていけばフロント過重も増え、いい方になると考え、車高調整装置の備わった「S」をいじると、恐怖のフロントリジットが待っている。ダンパーが完全に沈んだ状態になってしまう。それじゃ、リジンッドと同じじゃないかとなるのだか、違うのは、フロントサスは、アッパーアームブラケットを変更し、その気になればホイールハウス上部にタイアをぶつけられるくらいのストロークアップが実現可能。それにひきかえリジッドサスは、修正不可、シャシーの変更しか手がない。だからこれはチェーンドライブの○。

もちろん、前記のチェーンドライブに関することは当然当てはまるけれども、これから記する内容は、誤解、迷信の類である。私たちは、エスハチをバリエーションを大きく分けて表現する時には、手っ取り早くチェーンタイプ、リジッドタイプと呼称しているが、これが問題なのだ。なぜなら、エスハチのエンシンは1001125番からピストン形状が馬力アップ対策のために低くなり、それがリジットサスとシンクロして変更になっていて、エスハチのパワーアップ対策はMタイプになる前に完了されている。つまり、Mタイプ前のリジットタイプがエスシリーズでは一番良く走るタイプであり、30Fのキャブレターがセットされていることで、それは、わかる。したがって、チェ−ンドライブに搭載されたエンジン、半球形を絵に描いたような形状のピストンで、立ち上がりはいいものの、伸びのないフィーールて完成されていないのが、その呼称とシンクロして、いつしかチェーンタイプほだめ、に繋がってしまったと言う訳。
エンジンのせいか、その呼称ゆえにチェーンタイプ自体の評価になってしまったし、もちろん前記のエスロクをも含めた評価も加わってのこともあるが。がしかし、現在、存在する、エスハチ・チェーンタイプは、ほとんとかシリンダーヘッドを削り、リジットタイプの仕様になっている。それは、インテークマニフォールドとシリンダーヘッドの接合面を見れば、でっぱったマニフォールド面が確認できる。今となれば、まったくのオリジナルのチェーンタイプ仕様のエンシンは、貴重品である。
また、下のイラストは、町中にはぴこったソフトバイクの元祖、ロードパルのオイルバス・チェーンケースで一目で分かるその相似性はいかがなものか。因果関係があるのかないのか、興味のあるテーマでは、ある。相似性のついでに、話をそらせると、エスロク・インテークマニフォールドのボアと2本のスタッドボルトピッチがK社のZなにがしと同じなのはなぜか。エスシリーズのペイントカラー内、白は、かぎりなく白に近い、グレーであり黄は、レモンイエローではない、アイボリーに寄った淡いライトな隠し味を含んだ飽きのない色だが、これもエスよりは遠かに後に発売されたM社の初代RXなにがしの白と黄とほとんと同じ、1色ならいざしらず、2色も、となるとそれは何だろう。さらには、それのホイールはなんとエスと同じアハルトパターンのモノであった。

話がそれてしまったが、チェーンドライブの魅力に、異常さに僅かしか入り込めなかったが、また別の機会に語れたらと思う。
最後につけ加えれば、筆者のもとにあるエスロククーペ、手もとにきてからこの3 メッセージを一つ、現在、当事務局ではオーナーーズサーベイ実施中。特に今回パーツに関して、より具体的に良い状況にするために、せひご協力を。住所・氏名・TELとお持ちの「S」のシャシ−NO.・エンジンN0.を明記の上、当クラブ事務局まで届け出られたし。それでは、スズカで。

(1992/09)

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