エスとエスの考察。

ご存じの様に「エス」の名を冠したモデルが登場した。S2000である。これは、なんとS1000を熱望した当時から30数年ぶりに登場したことになる。なんと気の長い話であることか。しかしこちらも気が長く待ってました、とばかりにラインナップに加えてしまった。予約後、出るわ出るわ、ムック本が。いったい何誌出たのだろうか。このニューエス登場のフィーバーぶりが計り知れるもの。雑誌媒体の異様なS2000についてのリポートが溢れていた。とりあえず大抵のものは目を通 したつもりだが、あまりにも現実の「エス」についての部分で、リアルさから離れた表現やリポートが目についた。今回、そのことや、両者のインプレッションについて「エス」の真実にせまりながら記したいと思う。さらには両方のオーナーとしてより客観的なコメントも出来るはず。ただこの紙面 では全てをフォローすることが出来ないと思う。詳しくは時間が許せばHP等で配信すればとも考えている。基本的にはイラストにあるS800M(たまたま車検拾得日が近い事もあって)との対比をメインにして記したい。対比に当たって今の状態、つまり現代における比較なので「エス」、(ややこしいので以下S800を「エス」、S2000をS2000とさせていただく。)は今の状態、ロードユースの日常仕様で記することにする。この「エス」は、よくあるイベント仕様のような非現実的でない仕様でないことを最初にお断りしておく。そもそもがこのイベント仕様が問題で、古いから、クラシックカーだからの決め付け論理での記述が多々目に付いた。その責任の半分ぐらいはコレクションホールにある「エス」(車高調整がミスっている)等のもの。それは紛れもない博物館・イベント仕様の見本なのだが、私たちの「エス」は現役なのだ。これが「エス」の他のヒストリックカーと決定的に異なる違いだ。重いスティールホイールに、さらに当時のタイア装着では実用車としては話にならない。Mタイプならば4.5JスティールホイールにSP3、さらにホイールキャップ装着のオリジナルルックスもまたイイのだが、静的イベントでしかその仕様は現実的にありえない。現代で実際に使用されている状態と比較してこそS2000との対比がリアルに出来るし本当に興味深いもの。その様な対比リポートも、ごく僅かあったのだが内容は消化不良のモノになっていた。具体的表現がなく概念論のみで残念。余りにも純正仕様にこだわれば、まず実用車としては不可能になる。例えばタイア一つ取り上げても、Mタイプ以外はすべてダンセーフ・バイアスタイアでなければならないことになる。このイベント仕様を礼服仕様と呼んでもいい。知識は必要だが「エス」のポテンシャルを知れば、そんな仕様で日常化させるのはもったいないの一言である。決めるときはスティールホイールにSP3を奢り正装としよう、がしかし日常使用の時はそのポテンシャルを出しきれる仕様がベスト。ここら辺はクラッシックとして持つか、現役として乗るかの問題であり、また両方もあると思う。すくなくともどちらにとってもそのセンスが煌めくことは確かだと思う。もしS2000の購入を悩む「エス」の現役オーナーがいらっしゃれば、その問題は切実な問題となってくるはず。どちらがいいのかと。しかし常識的に見て、その文化や歴史をヌキにし考えれば決まったも同然だと思うし、筆者もその動力性能に関しては恐らくそうだろうと思っていた。まったくハンデなしに見ようと思っていたから当然であるが。ところがなんと違うのだ。

この「エス」筆者の処に来た時はエンジンブロー、ピストンに穴が開いていた。当然レビルドしたのだが、その時レース用の別 のエンジンも予定していた。これ幸とばかりにさる高名レーシングチューナーに同時にお願いしてしまった。そしてまず目的のレース用のサンプルとしてこの「エス」のエンジンが先にやってきた。ハイチューンロードユニットをマスターピースとして稼働させ、そのフィードバックから、後に控えるピュアレーシングモデルを完成させるプランである。この興味深いチューンはいずれリポートしようと思っている。ロードヴァージョン「エス」の仕上コンセプトは最低限の修理、つまり車検ラインを通 過出来る状態にして、走りながら不具合箇所を潰す手法をとった。現在8割はフォローし、ロードユースを700キロ程済ませた今、これが凄いの一言に尽きる。S2000の方が先に納車(現在1500キロ)だったが、「エス」が仕上がるに連れてその評価が「エス」に傾き始め今、最高潮に達している。これは本当に何だろうと思う。紙面 に限りがあるために詳細は記述出来ないが、その訳を以下でざっと探ってみたいと思う。まずサウンド。筆者が期待したS2000のモノは250psに9000rpmのスペックから、あのマルチシリンダーインラインフォアのサウンドを想像。特にそのアイドルから数ミリ程度のブリッピングに於ける鋭い「つき」とパワー感。極く低いデシベルで、風を感じさせるサウンド、を期待したのだが、ものの見事に裏切られた。極く普通 の4輪車そのものだった。

ただ1000キロナラシまで4〜5000rpmを守った後、レヴリミットまで一気に回すとそれなりの高速カムに乗ったメカニカルサウンドを拝聴することになった。一説によるとS2000はそのロムに1000キロ走行を記していて、オドメーター1000キロ表示でなんらかのプログラムが起動するらしいと。そうかどうか不明だが多少アイドルからの数ミリブリッピングに僅かなそれらしさが見られるようになっている。ただ、ここにもホンダ自慢のニューVTECが純粋なスポーツフィールをスポイルしているように思えてならない。実に不自然な回転フィールであり、メカサウンドが異様に高まり、結構疲れるノリがある。極端に例えればS2000はプリセット型トルクレンチで、「エス」は従来のトルクレンチとでも例えられる。プロセス、過渡が余りにも極端とも言える。パワーフィールに乏しい。ターボのような安直なスープアップに頼らないNAスピリット(大歓迎!)、メカパラノイアの根性からその進路を逸脱しているように思える。切り替わりを持たない「エス」のカムでも低速から超高回転ゾーン10000rpmまで淀みなく実用域として存在するのだから。2リッターであるからなのだろうか。もちろん環境問題もあるのだろう。S2000はLEVなのだ。そこにこそ現代メカパラノイアスピリットでその克服があればなあと思う。それに較べると、この「エス」のそれはアイドル1200rpmから何のストレスもなしに一気に10000rpmまで駆け登っていく。またブリッピングにしてもインラインフォアのバイク達にせまる。回せば全くそれらと識別 不可の高周波サウンドを発している。このMタイプは筆者56号のレーシングマシンよりもチューン度の高いパワーユニットを搭載。当然ハイコンプ、ハイカム仕様だがアイドルは1200rpmでピタリと安定しているし検査ラインでもアイドル特殊でない数値でパスしている。そのパワーフィールたるやS2000と勝負してもいいと惑わせる程なのだ。重すぎるS2000(それでも回せば滅法速い)に較べて750キロのウエイトのなせる技か、気持のよい吹け上がり、ボロイタイアでフル加速すれば、2速シフトアップ時にスキール音まで発してしまうほどのもの。はたまたその素晴らしいサウンドのせいなのかは不明。そしてS2000シフトフィール。NSXの復讐戦の様を呈している。そのシフトフィールデザインはこれでもかと言わんばかりにその対策をとったもの。素晴らしいシフトフィールに仕上がっている。ただ「エス」と同じかと問われれば少々異なる。やや無機質なタッチとでも言おうか。「エス」のようなカチッとした音を伴なうフィールは走行中は感じられない。S2000の恐ろしい程太いシフトレバーに較べて「エス」のそれは細いのに、あのフィールが実現できている。それは何だろう。さらに機械好きの視点で見ればあの巾着のような辻褄合わせのモノはよくない。「エス」の様にラバーブーツからクロームのシフトレバーが露出したルックスがいい。

それから問題のトランスミッション、各誌に紹介されている中でリダクションギアについての記述内容は不可思議につきる。まさしく「エス」のそれとまったく同じではないか。なのに前例がないような記述が目だった。ただS2000のアウトプットは下からで「エス」は上側からアウトプットされていることが異なる。それが車高の差を生んでいるのかも知れない。とにかく「エス」とS2000とは驚くほど似ている部分が存在する。ビハインドアクスルもほぼ同じ。加えて大いに紙面 に登場したS2000のハイXボーンフレームのこと。見た瞬間これは「エス」だと思った。つまりあの仕組みはシャシー剛性アップのための手段だが、その原点は「エス」にあり。頑丈なラダーフレームにモノコックと呼んでもいいボディシェルをボルトオンしたものが「エス」。それを一体型モノコックシェル+サブフレームで実現させたもの。類まれなエンジニアリングと素晴らしいアイデアを駆使してホンダだけが創る事の出来るもの。「エス」がその類まれな誰をも魅了する高回転型パワーユニットだけのチカラでこんなふうに愛されてきたものではない。その操縦性、剛性あるシャシーの成り立ちとその恩恵によるサスアビリティの高次元実現がその要素になっていることも忘れるわけにはいかない。ちなみにこの「エス」Mタイプはシリーズ中もっとも高剛性のモデル(Mクーペはもっと高い。)でそのドアシャット音は完全に高剛性誉高いS2000を凌駕している。実際S2000の音は悪い。信じられないだろうが事実なのだ。エンジンについては今のジャーナリスト達に解かりやすいだろうが、シャシーの方もちゃんとした眼力で見て欲しいものだ。「エス」は高剛性シャシーからそのサスセッティングに目を見張るものがありセッティングを整え、キチンと仕上げれば異次元の世界に突入する。タイアのグレードを上げれば上げるほどそのサスはハイレベルになっていく。Sタイア等のハイグリップの装着によってさらにグレードアップすることでもよくお解かり頂けるはず。サスが、シャシーがついてくるのだ。加えて決定的にその差を付けてしまうのはそのボディ。始めて見るS2000をほとんどの人が「こんなに大きいんですか。」と訪ねられるし、「エス」は「エス」で「こんなに小さかったかな。」とおっしゃるのが常である。この落差はすごい。運動性では大は小を兼ねることはない。ただ付け加えればS2000はそのサイズを感じさせないドライブフィールがあり、優れたシャシーであることは歴然としている。がその電動パワステはレスポンスに優れたいいものだが、あまりにもオンザレール感覚が強すぎてコンピュータゲームぽい感が筆者には否めない。もう少しインフォーメーションのあるステアフィールがあればとも思う。ボディの大きさともかかわるがスポーツカーなのだから地を這うスタイリング、最低条件として1100ミリ台の車高であって欲しかったしスタイリングから見てもリアのマスが大きすぎリアスタイルが全く個性的でなくなってしまっていることもマイナス。なんでSSMの様にテールをフラッシュに出来なかったのか残念。ただS2000をリフト等で上げてみればそれは素晴らしい景色が展開する。メカが明快な成り立ちや構成に加えてシンプルで機能美を伴ったメカワールドが存在する。機会があれば一度覗いて見ることをお勧めする。それにしても上部の、カサ高さが残念。ただ現在に於て安全ボディや高剛性シャシーの実現のためにはやむを得ないのかも知れない。ただこのS2000やはり39年式なのだと思う。きっと様々な設変を加えたバージョンがラインアップされるのだろうし、軽量 ハイパワーバージョンもいずれ登場すると思う。そしてそれがクーペモデルであることを切に筆者は切望する。屋根が取れる心地よさよりも、思い描くラインがより速くよりリニアに実現するストレスのないマシンの方が心地よいスポーツカーだと思う。S2000はNSXと較べれば圧倒的に「エス」に接近したモデルと言える。が、このS2000を乗りこなすと、言うよりはそのポテンシャルを使いきるには「エス」の経験があればかなりやりやすいことは事実。大抵は戸惑うだろう。市街地では特にそうだと思う。高回転型の4輪市販車は世界を上げて非常に稀だから。普通 に9000rpmの世界を味わっている私たちにほとんど違和感なしに受けいられるはず。これはまさしくよそにないホンダのDNAであり、1.5リッターF1からの脈脈と受け継がれた文化でもあるから。新しい兄弟に祝福を。大会まで約一か月、素晴らしいメカ話をたらふくを携えて「エス」をスズカへ。
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