クーペの検証 10

エス」のモデルはご存じのように2つに分けるならチェーンドライブとリジッドアクスルに分けられる。が、もう一つの分類としてコンバーチブルモデルとクーペモデルとすることが出来る。前記のドライブスタイルでの分類に関してはGARAGE4号でリポートさせていただいた。今回は後記の分類によるクーペにまつわる話をあれこれと記述。まずクーペ。基本的にこれを取り上げたのは先のチェーンドライブと同じでまったく「エス」フリーク間では、その評判が悪い。恐らくスポーツカー=オープン2シーター・フォーマットの先入観かオープンモデルの爽快感か、さらには通 常のクルマフォーマットからの非日常感からなのか、はたまた日本で当時のモータースポーツ・レーシングバージョンがほとんどコンバーチブルモデルをベースとしていた事からなのかは定かではないが現状はそんなところだと思う。ただしヨーロッパ仕様では大半がクーペモデルだったらしい。そこで先述のチェーンドライブと同様に少々クーペの弁護をさせて頂くつもりでリポート。まず、現状はスズカ大会での大雑把なデータにみるとその比率は圧倒的にコンバーティブル多数である10対1、つまりコンバーチブルモデル10台にクーペ1台と言うことになる。元来ヒストリックカーというもの、少ないほどそのモデルがもてはやされる傾向にあるのだが「エス」の現役性のなせる技で性能の優るものが人気モデルとなっている。と言うことはクーペには性能が劣る要素があることになる。性能であるなら、それは恐らくほとんどの方がお気づきだと思う。重量 である。今回の本文はここにある。果たして本当にそうなのだろうか。確かに過去の「エス」各モデルのカタログ、マニュアル等で見ると50〜150程のバラツキでクーペが重く表示されている。クーペに関してどのモデルでもそれほど差があるとは思われない。使われているクーペ専用パーツはほとんど同じもの。パーツ多分、下、つまりボディ関係がそのモデルで増減した結果 だと思われる。クーペの検証を以下、片意地はらずにゲーム感覚でコンバーティブルと、そのディメンションの差を遊んでみよう。先述のオープンモデルのウエイトにはご存じの外装パーツ、例えば通 常リアトレイに格納されているデフレクタートップ(これはけっこう重い)なんかはどうなっているのかが不明。したがって先のデータは無視して検証に入る。まずクーペのルーフから。これはにはインシュレーターとライニングが含まれるが、方やコンバーチブルモデルでは、あの重い幌フレームと幌本体、その固定パーツであるボルトとボディ内のブラケット。さらに幌を固定するフック3点に、あの重いウインドウフレーム、テンションボルト、バルクヘッドセパレーター。細部を語れば、例のディフレクタートップを固定する金具2点、さらにはトノカバー用ピンが8個ある。さらに幌カバー、トノカバーも入れておこう。対するクーペのほうには先述のルーフパネル1式とフロントシールド(天地が長いので少々重い)と左右のサイドウインドウとそのサッシと固定金具だけである。さてこの勝負、基本的な屋根にあたる大きい部分で、どちらが重いと思われるだろうか。

●S600クーペ用テールゲートエンブレム

更に加えればオープンモデルには左右の剛性を確保させるためのボディメンバーたるボックス断面 の部分がリアバルクヘッド上にある。これはけっこう重いはず。クーペにはそのパーツは存在しない。したがってこの屋根部分はクーペの勝ち。つぎはテールゲートとトランクリッド。テールゲートの重さはほとんどガラスの重さ。ガラスなしのテールゲート持ったことのある方にはよくお解かりだと思う。とても軽い。ほとんどガラスの重さである。コンバーチブルモデルのトランクリッドはレース等で取り替えたことのある方にはよくご理解いただけるはず。非常に重い。したがってこの部分は引き分け。ヒンジはコンバーチブルモデルの方が長い。今度はドア。これは見えている部分だけ、つまりサッシとサイドウインドウ後方上部の角部分(コンバーチブルモデルは円弧 状になっている)だけ重いので僅かにオープンの勝ち。つぎにガスタンク。コンバーチブルモデルでエス8リジッドのものは優に38リッターは入る巨大なモノ。クーペは左リアピラーにある小さなモノ。カタログ表記は30リッターとあるが筆者のエス6クーペには25リッターの表記が見られるが金輪際20リッター入ったことがない。ましてやフルタンクになればその差は大きい。ここは完全にクーペの勝ち。以上で総合的に見ればどうもクーペの方が軽いのではないかと言う結論になりそうである。百歩譲っても同程度じゃないかと思われる。とすれば先述のコンバーチブルモデルの選択理由に対抗出来るスペースユーティリティや対候性はカタログどおりにビジネス使えるモノ。事実、筆者は日常コミューター然とした使い方をしている。

もしクーペがオープンモデルと同じ重さなら、どう考えてもスポーツモデルとしてはクーペの方が優秀である。なぜなら、今を見れば、常識は逆である。オープンモデルの方が重い(シティカブリオレが非常によい例)のは当たり前。能あるクルマのデザイナーは屋根をつける。軽量 、高剛性ボディはスポーツカーにとってパワフル高レスポンスエンジンと同等に必須アイテムである。同じ重量 ならクーペの方が遥に高剛性のシャシー性能が手にはいる。コンバーティブル「エス」の操縦性からその高剛性シャシー性能は立証済み。だからそのクーペモデルは全「エス」中で最もシャシー剛性のある「エス」バージョン と言うことになる。またエアロダイナミクスから見てもクーペの方がベストなのは明白である。更にそのスタイリング、「それが嫌なのだよ。」とおっしゃるむきもいらっしゃるのだが、そこは趣味の問題でお許しいただきたい。60年代の丸いイメージは実にその時代のフォーマットを外していない。当時のオープンスポーツモデルには、ほとんどそのクーペモデルが存在したし、ルマンやタルガフローリオ仕様にいたってはその究極である。かの吉田匠氏がツクバで「エランと遊んであげた」と語られるブルーのクーペレーシングバージョンはまさにその、ノリだったに違いない。そして今、このGARAGEがお手元に届くころに前後してホンダから発表されるニュー「エス」S2000が前記とまったく同じ理由でクーペモデルが存在あるいは追加発表されることを切に祈りたい。上のイラストは「エス」のテールゲートの国内型(イラストはエス6用でエンブレムがエス8とは異なる)で、国内全モデルに設定されていた。ただ当時から不思議な事に、この国内用テールゲートはもちろん小さいリアガラスもシールラバーもすべてパーツは欠品していた。入荷するのはすべて2の部分が狭いモノでリアガラスの大きな輸出用しかなかった。また極く僅か国内販売されたMタイプクーペにも国内用テールゲートが着いていたと記憶している。

1.はウィンドウの寸法が異なる。

2.の幅が輸出用は少ない。

また下のテルゲートエンブレムのフォト(エス6)について。このパーツ本当によく間違われているので、ご注意のほどを。正解はフェンダーエンブレムと同じもの。厳密に言えばナット締めのものだが、過去何冊か発行された「エス」本のミステイクの為、「エス6コンバーチブルモデル」のトランクエンブレムHONDAS600と綴られたものを装着している「エス6クーペ」が余りにも多すぎるのでここに掲載させていただいた。ちなみに最近の別 冊CGホンダ・スポーツ(株)二玄社刊の15pカラーフォトが×、22pの当時のパブリシティモノクロフォトのものが正解。

(1998/10)

 
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