エンジン脱着


  「エス」のエンジン脱着はそんなに困難なものではない。
  そのサイズからしてそれは想像できる。H1300は立派なガレージで設備がそろっていてもいやなもの。サブフレームのボルトを思い浮かべるだけでいやになる。丈夫なこと、おびただしい。だからでもないがその整備性は最悪。クラッチディスクの交換を除いてだが。それでもエアコンが着いていればもうだめ。あまりしたくない部類に入る。
  「エス」はそれにくらべれば滅法簡単。ただ、一人でするとなると少し話が違ってくる。そこで今回はそれを簡単にさせる方法を取り上げてみよう。もちろん二人以上でやれるならそれにこしたことはないが、今回のは本当に簡単。
 

「エス」のエンジンを脱着させるには大きく分けて2タイプある。「エス」自体を 固定させてする場合と「エス」を前後させてする方法がある。

  今回は前者である。これには右のように門型のエンジンつり下げツールが必要になる。これはパイプとCチャンネルを使って製作したもの。最近市販されている輸入ツールを使っても同じとは思うが当方使用したことがないので不明。ただ それはY字型の脚部をボディ下に入れなければならないため今回の場合クリアランスをチェックしたほうがいいとは思う。今回の方法は当時SFでのオリジナル法である。ただし筆者の近辺だけのモノだったのかもしれない。門型のそれを使うのは全国的だった様に記憶している。
  最初にボンネットだがこれが結構マニュアルどうりにヒンジをボディに残す方法でやっているのを見受けるのだが、これはヒンジピンを抜いてボンネットにヒンジを着けたまま脱着させるほうが便利。グリル脱着が不要に、さらに面倒なボンネット調整が 不要になる。この方法がお薦めである。ただ一人でというにはこの場合着ける場合少々工夫が必要。レース仕様の様に軽い場合は問題ないがノーマルの様に重い場合はやや困難な部類に入る。
  本題にはいるがこの方法のポイントはエ ンジンのポジションを水平に保ったままその作業を進めるところにある。エスのエンジンをミッション付で脱着の場合、ポイントはその角度にあるため。

 

まず「エス」をジャッキの限界点まで使って出来るだけ高く上げリジッドラックで固定。これは次のプロセスのためとミッションマウントやEXマニフォールド脱着を容易にさせるためでもある。以前の本編でも記したようにマニュアルどうりではなくEXマニフォールドから脱着させる方法もまたSF方式である。もしマニュアルどうりにEXフランジ(通称レンコン)からだと必ずマフラーの脱着が必要になってしまう。これはエンジン側に残るマニフォールドフランジボルトがマフラーから完全に抜け切れないため。この作業の詳細は以前この誌面で記述のため省くが注意事項として「エス」のアンダーフロアでのTレンチ 等の作業は特に注意されたし。狭い中でのTレンチ操作はなんらかの理由で滑ったりするとそれの反対面が顔面に襲いかかってくる。ただではすまないことになる。眼鏡にクラッシュした恐ろしい話を小耳に鋏んだことがある。充分に距離をもってされたし。

下回りの作業に続いてエンジンルームの中でラジエターのそれはすべてラジエター側に3本のホース類を着けたままにしておくと作業が早い。特にホンダオリジナルロングユニバーサルが非常に便利。当時SFではこれを非常に多用していたように思う。左のフォト参照。
  第2ステップとしてフロント側のリジッドラックを抜き、下図の様に極端な前下がりのスタンスに変える。こうしてエンジンの取りだしにかかるわけ。最初にに出来るだけ高く上げると記したのはこのため。こうすればエンジン下部のフィルターケースとノーズ の接触が 防げるし取り出しも楽になる。エンジンをやや水平に保ったまま門型ハンガーを引きだせばよい。
  第3ステップはエンジンミッション回りの 修理が終わった状態で再びエンジンを収める作業では「エス」のスタンスを前下がりのままエンジンハンガーにエンジンをほぼ水平につり下げハンガーを押し込む。エンジンルーム内にそれが入ると今度は再びジャッキをかけ「エス」を水平に持ち上げエンジンと「エス」のホリゾンタルラインを合致させる。エンジンをゼロゼロで吊った状態にしたまま下に潜り込み(アンダーフロアにチェインブロックのコントロールチェインを入れて潜ったままエンジン位置を決めてもよい)プロペラシャフトを片手で持ちもう一方の手でミッションエンドケース軽くを前方に動かし、セレーションホールにドッキングさせる。これはさほど困難な作業ではなく大抵1〜2度で可能。そこから完全に挿入させるのが慣れないとやや困難だと思うが、先述のエンジンとシャシーのホリゾンタルラインにセレーションが合致すればOK。プロペラシャフトないしクランクシャフトのどちらかを回転させてやればそれはできる。ただし完全にセレーション が軸方向に一致しなければ完全挿入は不可。コンマ数ミリの世界である。これが完全に挿入されると自動的に4つのマウントボルトはステーに入るはず。この場合マウントラバーエンジン側はシャシーにミッション側はミッションエンドケース側に残しておく。特にミッション側がずれる場合が多いがマイナスドライバー(大)でこじれば大抵入ってしまう。
  これがすめば後はもう簡単作業のみ。このエンジンハンガーを使 用した方法は、チェインブロックを固定させた方法と比べてエンジンのポジションに苦労させられないメリットがあ る。これは「エス」のエンジン脱着の中で最大のポイント、要であるためこの差は大きい。エンジンをつり下げた状態でエンジンの吊り角度をコントロールしなければならない。「エス」は水平状態のため始めミッション側を下げ、後に水平に戻す操作が必要、フロントマスクとの接触を気にしながらの作業はつらいものがある。さらに前後方向に「エス」自体を押したり引いたりしなければならないために一人ではかなりのコツとナレが要るように思う。この作業サンプルはエス6にて行ったがリジッドアクスルでも全く同じである。ただエス6のラジエターは非常に脱着が手間がかかる。シュラウドのボルトを取り、フリーにさせないとそのラジエターは取りにくい。フューエルポンプとの兼ね合いもあるのだろうがやりずらい。エス8のものは至極簡単に脱着が可能である。
  また今回のエンジンミションの脱着の目的は3速ホールド状態になったものを修理するつもりでおこなったもの。その内容は前回この欄でお話させていただいたシフトトラブルそのもので、だましだまし乗っていたものが上記のように3速に入ったままになってしまいエンジン脱着を余儀なくされてしまった。
少しだけエス6のトランスミッションについてのお話をさせていただくと、56号エス8は本当に数限りなくエンジンの脱着ミッションバラシを繰り返し慣れっこになっている。今回のエス6トランスミッションは10数年前にオーバーホールしたきりそのまま使い続けてきたもの。久方ぶりにバラシたが慣れっこになったエス8のそれと比べるとベルハウジングにあるオイルポンプ、さらにはクラッチリリースアームの手間がかかりエス8トランスミッションがいかに簡単か再認識された次第であった。ただ左のフォトの様にエス6のドライブギアだけはスパナでホールドできるためエス8より有利。ビデオ等でご存じの様にエス8の場合筆者オリジナル木製クサビロックでその脱着をはかっている。それにくらべればすっきりしたもの。
 

このミッション結局バラシたが原因不明。その発端になった3速ホールドはてっきりシフトガイドあるいはセレクターのものと思っていたが、そのエクステンションやガイドロックボルトをチェックしたがまったくもってその原因が見当たらなかった。さてはシンクロかシフトキーの飛び出しかと思いリアカバーを外しトップシフトピースを押し込むとなんの事はないスコンとニュートラルに戻ってしまったのだ。なんだこれは、と溜息交じりに茫然としたのだが、少々迷ったがここまでやったのだからと完全にバラシてしまった。が案の定やっぱり何もなかった。やはりごく僅かのクリアランスでシフトリンケージで何かが起こっているだろうと想像をつけてシフトエクステンション以下を別のものに換えてその対策とした。シフトレバーは換えがなかったのでそのまま使ったが、エス6の一部にスプリングの内蔵したタイプがありこれもそれなのだがこれがシフトトラブルの一因の様な気がしている。もともと4速が入りにくく(シンクロトラブルとは異なるもの)そのためシフトレバーに力が過剰にかかったためシフトガイドから外れシフト不能になるものだった。それをトラブルのたびに路上でシフトレバーを抜いてはめ直しては使っていた。がとうとう3速に入ったまま抜けなくなってしまい今回のバラシとなった訳。とにかく現在はそのまま使っているがシフトロックは発生していない。ただ4速が入りにくいのは依然として続いている。おそらく微妙なシフトレバーの操作で入る所をみるとどうもエクステンション内で起こっていそう。

  このエス6は昭和42年からずっと乗っているもので、今でも仕事専用車として酷使している。そのサイズがとてもいい。まさにシティコミューター然とした使い方をさせてもらっている。ほとんどがまったく普通のクルマとして使用し特別な儀式などは存在しない。何日もの間、ボンネットをまったくあけない場合が多い。これだからスズカにも多数の「エス」が集まれるのだと思う。そのパフォーマンスには驚くばかりである。ぜひ今年も多数の「エス」をスズカへ向けていただきたい。それではスズカは、紺碧ブルースカイの下で。

(1997/10 Tanimura)

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