牛の人工授精技術の効率的利用法とその技術への適応


 今回、私たちがお世話になった酪農家、江川さんのお宅では、ホルスタイン(乳用牛)中心で肉牛(黒毛和種)も

幾頭か飼っていた。牛は牛舎内で、首輪を付け飼われるスタンチョン方式をとって飼われていた。これは中山間地域

の多い東北では一般的な方式だ。他の農家と違ったところは、江川さんご自身が人工授精士の資格を持っておら

れ、自身で人工授精を行なうことができた。(普通は獣医師にしてもらったりする)これにより、牛人工授精技術を巧

みに利用した経営を行なうことができていた。



1、技術の効率的利用法

 以下に一般の牛人工授精技術を諸技術ごとに分けに図示する。

そして、江川さんのお宅では実際どのような牛の繁殖作業を行なっていたかについて述べる。

@人工授精

A受精卵移植

BF1種
利点

受胎率が高い

雌雄の産み分けが可(雄)
@とAの中間

欠点

雌雄の産み分け難
受胎率が低い

目的の牛(生まれる牛)

肉・乳牛
肉・乳牛
肉牛
 @に関しては、コストも低く一般的な技術である。しかし、雄側からの改良、すなわち能力の優れた雄の遺伝子を持つ

子牛を短期間で多数生ませることはできたが、雌側については1年に1頭の子しか得られなかった。従って、乳牛より

肉牛に対して利用する機会は多かった。また、Aに関しては、@ではできなかった雌側からの改良が、過剰排卵処

→補足)を施すことで可能となった。しかし、受精卵の受胎率(繁殖成功率)が@に比べ低く、コストもかかる。

 そのため、実際の現場では特に乳量の多い雌牛にだけこれを使うことにしている。最後に、Bの活用方法としては

@A両方の性質を持っていることから、乳量の少なくなった牛に良質の黒毛和種の子牛を生ませ、効率的に収益率

を上げる工夫をしていた。


黒毛和牛

2、技術への適応の必要性

 研修では、前述のような一般的な技術の利用を行なう上での最も重要な作業を教わった。それは、繁殖過程の作

業で技術の利用の前の準備や、利用後から出産までの牛の世話についてだった。江川さんは酪農家である前に人工

授精士であるため、牛の繁殖には関しては人一倍気を使っていた。繁殖においては繁殖成功率の向上こそが一番重

要なことだという考えから、技術を利用することはもちろんのこと、その前後での牛の観察は毎日細かいところまでチェッ

していた。例えば、利用前には、牛の子宮に手を入れてその広がり具合を診る。これは、子宮の広がり具合で人工

精をする際の着床や受精卵の成長の良し悪しに影響が出ることから行なっている。また、利用後には、病気に関し

は特に気を付けなければならないので、毎日、牛を観察することとすぐに病気であることを察知するのに必要な知識

持っていることが重要である。飼料においても、病気を未然に防ぐ上でいろいろな知識が必要になる。

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