『死神の指環』 秋の放課後、公園にて。 「―――で、今日の運勢は…げ、なんで死神クンが出てきちゃうのよぉ〜」 カードをめくっていたのだ。正確にはタロットカードを。 死神(DEATH) 「あ〜あ、嫌なカード引いちゃったなぁ、もぉ〜」 由佳はぼやいた。 「せめて逆位置だったらさ、再生とかカルマとか復活とか逆転とか…あ、医学っていうのもいいよねー」 ぼぉ〜っと自分が白衣の天使になった姿を想像する。 ◆ 妄想が宇宙的に展開した頃――― 「―――ん? 風?」 思ったときには遅かった。 「ふえ〜ん、早速不幸だよ〜」 あわてて由佳はカードを追いかけた。 ◆◆◆ 既に日は暮れてしまった。 「お小遣い半年分なのに…。死に物狂いでパフェ…我慢したのに…」 ぽろぽろと落ちる涙を拭いつつ、なおも探し続ける。 ◆ それでも見つからなくて。 「世界の逆位置…かぁ…」 世界(THE GLOBE) 「不完全って言ったら、このタロットカードのことよね…。 由佳はなんだか不安になって、もう一枚カードを引いた。 星(THE NAIAD;水精ナイアス) そういえば―――由佳は明日の天気予報が雨だったことを思い出した。 「やっぱり今日中に探さないと!」 由佳は勢い良く立ち上がった。 しかし、確実に肉体の限界は近いらしく、足下のふらつきを抑えることはできなかった。 「やみくもに探し回る力はもう残されていない…。 とんでもない推理を原動力に、由佳は砂場へと駆けだした。 ◆◆◆ 見かけは子供、頭脳も子供の迷探偵は、必死に砂場を掘り返す。 「な、なんか…今、すっごい鈍い音がしたよ…?」 由佳はおそるおそる異物を掘り出してみた。 「し…し…し……死体〜〜〜ッ!?」 「痛ぅッ…よりにもよって、俺を…死者呼ばわりするとは…」 「死体がしゃべった〜ッ!!」 「…俺は死人ではない」 そう言うと、男はズズズ〜っと砂場からはい上がってくるではないか。 「死体…じゃないの?」 由佳はおずおずと近づき、うわずった声で話しかける。 「俺は死んでいないし、死にもしない」 男は低く、淡々と答えた。 「…そして生きてもいない」 「でも、でも、よかったよぉ〜。 少女は再びスコップで砂場を掘り始める。 「ねぇ、キミはここに埋まってたんだよね? 私のタロットカード見なかった?」 「ぶ、無礼な! 決して埋まっていたわけではないぞ。 そして、あと少しでミッドガルドというところで、スコップの一撃を脳天に喰らったのだが。 「私、北欧神話は大好きなんだけど…今はそれどころじゃないから」 カード掘りをやめようとしない少女。全然会話が成り立たない。 「俺が探し出してやろうか」 「え!? 手伝ってくれるの?」 少女の顔がぱっと明るくなる。 「交換条件として、アンタがニヴルヘイムに来てくれるなら、探してやってもいい」 「はへ?」 「ニヴルヘイム女王ヘルの戦力になるなら、その願い叶えてやろうと言っているんだ」 由佳にその言葉の意味が分かるはずがなかった。 「もぉ! なんでもいいから手伝ってよ!」 「契約成立だ」 男の口元がつり上がる。 「ニヴルヘイムに来ることを忘れるな」 「はあ? ニヴルヘイムって死者の国でしょ? その時、生暖かい風が少女の肩をなでた。 「俺は死神オレイアス。そしてアンタは三日後に死ぬ」 最近暑い日が続いたからなぁ〜―――由佳は思った。 |
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