『純粋に』でした。
 読んで下さってありがとうございます。

 後書きです。
 普段はこういう項目を作らないんですけど。
 後書きで色々言えるほど深い作品を書かないんで。根が浅はかなんですね。
 でも今回は仕方なく書きました。


 ぶっちゃけた話、この作品を読んでどう思いましたか?
 私は「ウィルが嘘をついてるんではないか?」と思いました。
 彼の説明は結局「ファンタジーのなんでもあり世界観を利用したなんとでもなる説明」に思えるからです。
 例えば。
 ウィリアムがアニマを捧げて願いを叶えたのであったら、彼が魔物化するのは何故なのか?
 これも説明しようとすればなんとでもなります。
 燃えるアニマで器である肉体が変容した、とか。
 これなら、コーデリアのアニマが代償になっても、彼女が魔物化しなかった説明もつきます。
 彼女には肉体がなかったので。

 またウィルの「殺されかけた、じゃなくて、死に損ねたんだ」というセリフ。
 これはウィルが死を望んでいたかのように取れます。
 すると、「死んであの世でコーデリアに会いたい」と考えるのが普通でしょう。
 しかし、ウィルの説明が正しければ、コーデリアのアニマは消滅しており、あの世で会うことは出来ません。
 でもこう考えれば、説明がつきます。
 ウィルの願いが「あの世で会いたい」ではなくて「ただ消えてしまいたい」であったなら。
 しかし、これらのことは「こうも考えられるよ」という話で、結局証拠というものがありません。
 つまり彼の説明は不自然な点が多いのです。

 でも。
 こう考えたら気分が楽になるよ、ってありますよね?
 ポジティブシンキング。
 ウィルの説明は確かに証拠ありません。しかし、考える方向が前を向いています。
 ファンタジーなんて所詮物語を安易に弄んでいるだけ、なんて言われますが、
 前向きに。私はこの姿勢をファンタジー小説に教えられました。

 結局、ラベールが兄を失ったという事実は変わりません。
 ウィルがコーデリアを失ったという事実も変わりません。
 幸せに生きようにも、二人の中に暗い闇が一生つきまとうのは確かです。
 それでも。
 もしこうであったらもっと幸せだっただろうに、とかそういうのじゃなくて。
 純粋に…、今を生きて欲しい。


 あ、そうそう。純粋に、で思い出したけど。
 superior(優れている)とかinferior(劣っている)という単語はthanという前置詞を取らずに対象を比較します。
 これは「優劣」という概念そのものが比較であるからだそうです。
 この小説では、「差別」「区別」「比較」というものを意識してみました。
 結局はありがちな「絶対性」「相対性」のお話なんですけど。
 この二つの言葉は、少し手アカが付きすぎているので、本文では「純粋」「比較」としました。

 相対的な判断は確かに大切ですけど。
 これは「ファンタジー」であって「サイエンス」ではないんですから。
 絶対的に。
 純粋に。
 時にはそれもいいかもしれません。

◆◆◆

 蛇足的な文章を続けてみました。

 時は流れた。
 ウィルが依頼を受けて調査に向かった鉱山が崩れたり、
 またエッグを葬る為に潜入した船が沈没したりと、彼の身に数々の危険が訪れたが、
 その度にウィルは帰ってきた。

 それは兄の力によるものなのか…誰にも分からない。
 分からないけれど。
 私は信じている。
 だから―――だから、私は精一杯幸せに生きようと思う。

 時々、ウィルのプロポーズの言葉を思い出す。

 「コーディーとキミと…どちらが好きかとか正直言えないんだ…」

 「でも私のコト、好きなんでしょ?」

 ウィルは照れくさそうに頷いた。
 頷かれて、私の顔にも熱が帯びる。

 「比較とかじゃなく、純粋に…、ね」

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