「だからさ、兄さんには無理なんだってば」 私はからかうように、兄ウィリアムに言った。 「兄さんには、兄さんのいいところがあるのよ。 「確かにミッチの言う通りだよ」 兄は、私に何かを放ってよこした。 「俺には金もない。実績もない。だが、これだけなら誰にも負けないってものが一つだけある」 「夢の大きさ…でしょ?」 幼少の頃に両親を亡くし、それ以来、私達兄妹は貧窮極まりない生活を強いられてきた。 「いつか、俺はタイクーンになる。 そして。 「そうさ。夢の大きさなら誰にも負けない。そりゃ、俺はお前みたいに出来はよくないさ。でもな…」 兄はここで一呼吸置いた。 「でもな、あきらめちまったら、それまでだろ?」 兄の目は、少年のままの純真無垢な輝きを秘めていた。 ◆◆◆ 「―――つぅッ?!」 激しい痛みで我に返る。10年も前の夢を見るなんて……。 ◆ 人の思念を具現化する氷のメガリス。 「タイクーンになりたい」 兄は中心部でこう願った。 「殺るしかないな」 ヴィジランツの一人が、斧を構える。 「やめてッ!! 兄はまだあの中で生きているの! 何か…何か救う方法があるはずよ!」 魔物の中には消えかけてはいるが、しかしはっきりと兄のアニマが感じられるのだ。 「ミッチ…心配することなんて何もないんだ…。これでいい…これで…」 これでいいわけないよ! 「ラベール、邪魔をするなッ。もう、お前の兄を救う方法は一つしかないんだ!」 そんなこと分かっている。 「私が、なんとか説得するッ! だから、兄さんに攻撃するのはやめ―――きゃあッ!!」 魔物の一撃に、私は吹っ飛ぶ。 薄れゆく意識。 劫火術の詠唱を始めるディガーの姿。 ◆◆◆ ふぅーっと目が覚める。ベッドの上? 今までのは全部夢だった…? 「痛ッ……」 胸に強く、そして鈍い痛みを感じて、それは叶わなかった。 夢ではなかった。 その瞬間、私の中に今まで体験したことのない感情が芽生えた。 「ウィル・ナイツ……」 私は、兄を殺したディガーの名を口にした。 「必ず…殺してやる」 |
前に戻る 次に進む 小説コーナ目次へ戻る ホームへ戻る