鳥たちの杜 第一章 営巣
内海に面した地方都市・籠川市は、大震災を紙一重で免れ、昔ながらの建造物や自然を数多く残している。
僕は烏丸聡(ラス)。この春(二〇〇六年)籠川市の名門私立校・明峰学園高等部の理系特進クラスに入学し、お隣の明智市から通学することになった。
木の幹や地面にひそむ小さなムシたちを観察するのが何より好きなことで、周囲にはちょっぴり変人あつかいされている。
僕の中学時代からの親友、葺合滋(キア)は抜群の身体能力と鋭敏な感覚を持つ毒舌家だ。訳あって両親と離れ、アパートでひとり暮らしをしながら県立定時制高校に入学した。
明峰学園の広大な敷地内には雑木林や竹薮などがいたるところに残っていて、さまざまな生きものが生息している。
珍しいムシに惹かれて林に迷いこんだ僕は、そこで授業にもろくに出ないでバードウォッチングをしている不思議な同級生、長田翔人(ながたしょうと)と仲良くなる。
明峰学園の部活動は中高一貫で、特に中国拳法部の人気が高い。
部長の塩屋隼一郎(しおやしゅんいちろう)は学園自警団の団長も兼務する三年生。
学園に不法侵入した不審者を取り押さえ、生徒の殺傷を未然に防いだ若きカリスマだ。
学園の自治は事実上、拳法部員と自警団の手中にあり、一般の生徒達は不登校やいじめから保護されて、平穏無事な学園生活を過ごしているようにみえた。
僕の幼なじみで同じクラスに入学した御影涼香(みかげすずか)は才気煥発な美少女だが、ネットいじめを見つけ出しては潰すのを趣味にしているメール魔だ。
御影は不自然に平和な学園生活に疑問をいだき、独自の情報網を使って調査を始めた。
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