ピックアップの高さ調整

随分前のお話ですが「音の抜けが悪いので」とハイスペックの配線材への交換を依頼された事があるのですが、ギターをチェックさせてもらうとピックアップがメチャメチャ低くなっていました
弦とピックアップの距離が相当離れていてこれではちゃんと音が拾えていません
「ピックアップの高さはこれで良いんですか?」と聞くと「買ったときのままでよくわかりません」と。
製品出荷時の調整がちゃんとされていない事もありますが、弾いているうちにボディの振動に共振して勝手にネジが回りだして低くなる事もあり、適切なピックアップ高になっていない事は実は良くあるんです
そこで配線材交換の前にまずピックアップの高さ調整をする事を提案させて頂きその場でちょっちょっと調整して弾いて頂いたところ
「え!?こんなに変わるんですか!」と目を丸くして驚かれました
そうなんですピックアップ高で音はかなり変わるんです
懸案だった音の抜けは配線材など変えなくてもこれだけで解決できてしまいました

ピックアップ高調整はドライバーと定規があれば誰でも出来るチューンナップですのでここはぜひチャレンジしてみて下さい
そこで今回はピックアップ高さ調整の仕方をご説明します

まず最終フレットを押さえた状態でピックアップのポールピースと弦の間の距離を1弦・6弦それぞれ測ってメモしておいてください

上画像のように片手で最終フレットを押さえてもう片方の手でポールピースと弦の距離を測ります
画像の例の場合ピックアップ高は2ミリと言う事になりますね
高さ調整をする前に現状を把握しておくのは調整している間に訳が分からなくなった時に元に戻せるようにする為です
定規は画像の物のように端がゼロになっているものを使用してください
弦高を測るのにも使えますし楽器管理グッズの一つとして持っておかれる事をお勧めします
100円ショップでも工具売り場に行けば似た物がありますよ!


ピックアップと弦の距離でどう云う風に音が変わるのかと言いますと

ピックアップ⇔弦が近い 
メリット:音量と高域が出るようになりピッキングニュアンスが出し易くなる
デメリット:音量が上がる分ブーミーな音になりがち、高域がキンキンうるさくなる

ピックアップ⇔弦が遠い 
メリット:高域の角が取れてマイルドな音になりピッキングの粗が目立ち難くなる
デメリット:音量・高域共に落ちて抜けが悪くなる

あと、微妙ですがノイズにも影響が出ます
ピックアップの高さに関係せずどんなピックアップ高でもノイズレベルは一定です
対してピックアップした弦振動の音量は弦との距離で変わります
例えば今かなりピックアップと弦が近い状態で使用されていたとします
現状では高域がキンキンしてうるさいのでピックアップをうんと下げて弦から遠くしました
すると音量が小さくなったのでアンプのヴォリュームを少し上げる事にしました


お気づきでしょうか?ピックアップが拾うノイズはピックアップ高に関らず一定です
ピックアップを下げた事で小さくなった音量を補う為にアンプの音量を上げればノイズも大きくなります
弦の音量が下がるのにノイズ音量は変わらないと云う事に納得行かない方もいらっしゃるかも知れませんが、弦交換の時に弦を外した状態でアンプに繋いでみて下さい
弦が無くてもノイズはいつも通り鳴っているはずです
もし、音叉をお持ちなら(今は持っている人少ないですよねぇ)その時音叉を叩いてからピックアップに近づけ、徐々に遠ざけてみてください
音叉の音は遠ざけるほどに小さくなり、最終的には拾わなくなりますがその間もノイズは鳴りっぱなしである事で上記理論がご理解頂けるでしょう
上記理論のイメージをグラフにしてみました 縦軸が音量レベルです
上図@のグラフ青棒が初めの弦音量でグレー棒が初めのノイズ音量です
ピックアップを下げた(弦から離した)結果Aの様に弦音量が下がった
ノイズ音量はピックアップ高に関らず一定ですのでこの時のノイズ音量は@と同じです
下がった弦音量を補う為にアンプのヴォリュームを上げると云う事は弦音量・ノイズ音量共にかさ上げする事になります(Bの薄茶色で潰した部分)ので結果Bのように初めよりもノイズ音量が上がってしまいます
グラフはイメージしやすいようにかなり誇張していますので実際にはここまでノイズ音量が増えると云う事はありませんが、微妙にですがノイズはピックアップ高が高いほど小さく低いほど大きくなってしまうと云う事です

だからと言ってあまり弦に近づけ過ぎると弦がポールピースに当たって音詰まりが出たりピックアップの磁力が弦振動に悪影響を及ぼす事もあります
まずはめいいっぱい弦に近づけて見てから好みの音になるように少しずつ下げていく方法をお勧めします
この時ピックアップの磁力の強さにより近づけられる限度は変わります
磁力の違いはポールピースに鉄(例えばドライバーの先など)を引っ付けたり離したりするとどれくらいの磁力があるのか感覚的に分かりますが一般にハムバッカーはシングルコイルに比べて磁力は弱めになっています

ピックアップの数が増えればその分だけ磁力の影響も大きくなりますので、例えば同じシングルコイルでも3ピックアップのストラトキャスターは2ピックアップテレキャスターよりもピックアップと弦の距離をやや広めに取る必要があります
目安としてはストラトキャスターのようなシングル3ピックアップの場合1弦で2ミリ、6弦で3ミリが限度でしょう。これ以上近づけると磁力が弦振動に悪影響を与える可能性が高くなります
レスポールのようなハムバッカー2ピックアップの場合は1弦で1,5ミリ、6弦で2ミリくらいが限度でしょう
ベースの場合は磁力よりも弦振動のエネルギーの方が圧倒的に強いので磁力で引っ張られると言う事はほとんど起きませんが、その代わり弦の振幅が大きいので近づけ過ぎると弦が振動した時にピックアップに当たってしまいビリ音になる事があります
ベースのピックアップの場合は1弦で2ミリ、4弦で3ミリ、5弦で3,5ミリくらいが限度でしょう
(EMGのアクティブピックアップは磁力はかなり小さめになっていますのでこれよりも弦に近づけても磁力の影響を受ける事はありません)

またピックアップポジションによっても音量は変わります
同じピックアップ高の場合リアよりもフロントの方が音が大きくなりますのでまずリアの高さを決めてこれとバランスが取れるように他のピックアップ高を調整すれば良いでしょう

好奇心旺盛な方は実際にわざと限度を超して近づけてみられて「こう云った悪影響が出るのか」と体験されてみられる事をお勧めします
特に限度を超したピックアップ高のストラトキャスターで6弦ハイポジションを弾くと明らかにヘンテコな音になって磁力の影響を実感する事が出来ます

ピックアップの高さ調整は誰にでも出来て(つまり費用ゼロ)かなり大きな効果が出るチューンナップです
ただし、下げ過ぎるとピックアップが外れてボディの中に落ちてしまいますのでエスカッションやピックガードの表面より低くはしない方が良いでしょう
またピックアップ高さ調整ネジの回り方が軽くなったら内部にあるバネが伸びきった状態ですのでそれ以上ピックアップ下げるとボディの振動に共振してネジが勝手に緩くなってしまいます
ネジの回り方に抵抗を感じる所まで戻して使用して下さい


ハムバッカーのようにポールピースの高さ調整の出来るピックアップの場合は各弦で高さ変えてみても音は変わります
ほとんどのギター・ベースは指板表面にR(アール)と言われる湾曲が付けられており、ハムバッカーの様にピックアップが平面な場合3,4弦が弦から遠くなり音量が落ちて各弦のバランスが悪くなります
そこで指板Rに合わせた形にポールピースの高さをそれぞれ調整するのですがそうするとこんな感じになります
画像左から1弦→6弦となります
「3弦まだ低いやん」
と気付かれた方!あなたは鋭い!
なぜ3弦が低いかと言いますとプレーン弦はその弦が太いほど大きな音量になります
一方巻き弦は巻き弦の中心にあるのコア(芯線)が太いほど大きな音量になりますが
4弦のコアは通常3弦のプレーン弦よりも細いため音量が小さくなりますのでそれを補う為に高めにセットしています
「でもなんで2弦と3弦がおんなじ高さなん?」
気付きましたか!?更にあなたは鋭い!!
普通に考えれば同じプレーン弦であれば指板Rに沿って3弦のほうが高くなるモノと思われるかも知れませんが太いプレーン弦の3弦は2弦よりも大きな音量になりますのでそれを補ってバランスを取るとこの様になるのです
「ん?でもウチのストラトは3弦が一番高いで?」
お〜ソコにも気が付きましたかぁ〜
そうですよね、フェンダー系のピックアップは2弦が一番低く3弦が一番高い
こんな感じに

実はこれ、大昔の名残なのです
フェンダーがギターを製造し始めた頃はエレキ弦もアコースティック弦のように1・2弦がプレーン弦で3〜6弦は巻き弦と云う組み合わせが普通でした
ですので一番太いプレーン弦は2弦で一番コアの細い巻き弦は3弦の為にこの様に2弦が一番低く3弦が一番高くなっているのです
3弦がプレーン弦になってから一体何十年経っているか分かりません(少なくとも私がギターを弾き始めた頃は3弦プレーンが当たり前でした)が何故いまだにこの高さの組み合わせなのか??
それはこのバランスの悪さじゃないと昔のあのロックの音がしないからです
耳に刷り込まれた感覚はバランスの悪さでさえ「良さ」にしてしまうものなんですよね〜
ちなみにジミヘンは右用のストラトキャスターを左で弾いていましたので5弦の音が極端に小さく3弦がやや喧しめだったのでしょう
(私はマニアではないのでそこまで掘り下げて聴きませんから分かりません)

しかし昔のロックに思い入れの無い諸氏には受け入れがたいバランスの悪さでしか無いと思いますがそう云った方にはリンディー・フレーリンの「Tall D」や
フェンダーの「VintageNoiseless」、ディマジオ「Virtual Vintageシリーズ」などのように4弦のポールピースを高くして3弦プレーンの現代の弦に合わせたバランスになっているピックアップもあります

話はハムバッキングのポールピース高調整に戻りますが、基本の音はピックアップ本体の高さで作ってポールピースの高さは各弦の音量調整として下さい

ピックアップの高さ調整、いかがでしたか?
文章が多くて分かり難かったかも知れませんが他所でピックアップ高について述べている所を見たことが無かったので今回取り上げてみました
なんでこんなに効果があるチューンナップを取り上げる所が少ないんでしょう?
お金が掛からないから面白くないのでしょうか?
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