アマ小説家の作品

◆パペット◆第4回 by日向 霄 page 2/3
 出生カルテにはアクセスできるのに、どうして入院時の詳しいデータを見ることができないんだ?
 ムトーはジュリアンの在籍していた中学の名簿を出してみた。
 半年も入院したのなら、卒業が遅れたのではないかと思ったのだ。
 卒業者名簿の中に、ジュリアン=バレルの名前はなかった。
 卒業していない?
 もう一度ジュリアンの画面に戻る。
 3年で中学を終え、高校へ進んだとある。休学も留年もせずに中学を卒業しているのだ。
 高校の名簿を見た。
 ジュリアンの名はある。
 もう一度中学のデータを出した。今度は在籍者記録を検索する。
 ジュリアン=バレルは確かにその中学に入学していた。名前の横に、入学した日付と、卒業あるいは退学した日付が出ている。ジュリアンは中学に1年半ほどしか在籍していなかった。
 その日付は、彼が病院にいた最後の日付と同じだった。
 まさか―――。
 いや、この情報が全て正しいとは限らない。弟のつづりだって間違っていたのだ。ジュリアンの経歴と学籍簿の記録が食い違っていたからといって、誰かがデータを操作したということにはならない。むしろ操作したのなら、こんな食い違いは注意深く排除されるはずだ。
 ジュリアンは病院を退院したが中学には戻らず、家庭教師か何かで残りの学業を終えたのかもしれない。そして高校に行った。それが何かの間違いで、中学をきちんと終えたことになってしまった……。
 だがもし、退院したのではなく、死亡したのだとしたら。
 死亡日付が退学の日付になるのもうなずける。退学したのではなく、学籍を抹消されたのだ。死んだのだから……。
 本物のジュリアンはとっくの昔に死んでいて、レベル6に逃げ込んだジュリアンは全く別の人間だとしたら。
 考えられないことじゃない。市民権の売買により他人になりすましている人間は決して少なくはない。もし罪を犯すか重傷を負うかすれば、出生時に登録したDNAとの照合で他人であることがばれてしまうが、特に何事もなく過ごせばそのまま他人として生きおおせることも可能だろう。公安のチェック機能とて完璧ではないのだから。
 しかし。
 ジュリアン=バレルはそのDNA鑑定で割り出されたのではなかったか?
 単に死者のデータを操作して生きているように見せかけるだけでなく、DNA記録まですり替えることが可能なのか? 可能だとして、そんなことをする必要があったのか。ジュリアンは――いや、”狼”は、市民としては生活していなかった。誰かになりすます必要があったとは思えない。まして結果的にDNAのおかげで足がついたとあっては―――。
 ムトーはため息をついた。
 俺は何が知りたいんだ? ヤツが偽物なら満足なのか? それとも―――。
「珍しく長かったですわね、大尉」
 コンピュータルームの受付をしているアン=ワトリー少尉が、部屋から出てきたムトーに声をかけた。
「何を調べてらしたんです? まだ”狼”のこと追ってらっしゃるんですって?」
「ご名答。ただし、調べてたのは”狼”と目されてる男のことだ」
「目されてる?」


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