◆パペット◆最終回 by日向 霄 page 2/3
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コンピュータは言った。
「ある実験を行う時には、いくつか予想を立てるものだ。その意味で、このような結果はまったくの予想外ではない。だが現実にはここへ到るまでの間に様々な分岐点があった。我々はただの機械だから、人間の意志を完全にはコントロールできない。何故君達が今ここにいるのか、それを逐一説明するのは不可能であり、第一それは私の役目ではない」
役目。
機械さえもが、そんな言葉を口にするのか? ああ、違う。そうではない。機械であればこそ、決められた仕事以外のことをこなす必要はない。
「もう時間がない。私ももうすぐ消滅する」
秒読みが始まっていた。彼――という人称を使っていいものだろうか――が“奴”と呼ぶ方のシステムが、とうとう本当に自分自身を破壊するスイッチを入れたらしい。
「教えてくれ、最後に一つだけ――!」
ムトーの叫びは轟音にかき消された。閃光とともに、重力が消えた。
何も見えなかった。
闇ではない。あまりに明るすぎて何も判別できないのだ。
体は果てしなく上昇する感覚を伝えてくる。浮遊とは違う。きっと空に向かって放り投げられたボールはこんな気分を味わうのだろう。ボールならいつかは下降を始める。しかしいつまで経っても落下の感覚は訪れない。
――教えてくれ、最後に一つだけ。
聞こえるのは、自分の声。
――俺のしたことは、無意味だったのか? 俺は――俺が自分で考え、感じ、行動したと思っていたことは、すべて幻に過ぎなかったのか?
ただの道具でも、人形でも、それ相応の意味はあったろう。使う人間にとっては。でも俺は――俺が欲しかったのは。
――そんなことを、機械に問うてどうする。
誰かの声。
誰の声だ?
――自分の人生の意味を、おまえは他人に問うのか?
だって仕方がない。自分で選んだと思っていたことが、あらかじめ決められていたことだとすれば、自分が自分であることにどんな意味があると言うんだ。
――結局、大尉の負けなのよ。
アン。君を死に追いやったのはこの俺。マクレガーも、サラも、直接には知らない諸々の人々も。ああ、でもそう思うのは俺の驕りに過ぎないのか? なすりつけてしまえばいい。すべては神の思し召し。哀れな人形に罪を着せないでくれ。
――僕が何をしても、それは全部あんたのせいなんだ。あんたが悪いんだよ。
おまえを撃ったのは、この俺の手だった。どうして他の誰かの手ではいけなかったんだ。どうして。
――ムトーのどこがいいわけ?
――だってムトーはあたしのこと、可愛いって言ってくれたもの。
誰だ、俺のことを話しているのは。
――最後に幸せになっちまえばいいんだ。そうすれば、全部俺達が仕組んだことになる。
不幸は人のせい。幸福は自分の努力の賜物か?
――帰ってくるよね、ムトー。
――そりゃ帰ってくるわよ。あなたがこうして待ってるんだもの。
誰が、俺を待ってるって?
――はっきりしてることが一つある。あんたのそのあまのじゃくな性格は、あんた自身の責任だってことだ。
ジュリアン。
そっちこそ、その嫌味な性格は生まれつきだろ……。
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