アマ小説家の作品

◆パペット◆最終回 by日向 霄 page 1/3
 メインコンピュータルームは、当然機密中の機密だ。中へ足を踏み入れることができるのは、ごく限られた人間だけ。元特捜部員と言ってもムトーにそんな権限のあろうはずもない。お尋ね者のジュリアン=バレルにも、もちろん。
 だが今、扉は勝手に開いていた。二人を迎え入れるかのように。
「ようこそ。そしてお帰り」
 声がこだました。その声に和するように、『処理不能、私は消滅する』という機械音が鳴り続けている。
「コンピュータ、なのか? それとも、誰かいるのか?」
 人の気配はない。少なくとも、部屋の中には。
「まさかまたマリエラの親父だなんて名乗らないでくれよ」
 ジュリアンの言葉に、かすかな笑い声を返し。
「私はコンピュータだ。人間ではない。従って、人間の親では有り得ない」
 ユーモアを解する、妙に人間くさい声に戸惑いながら、ムトーは尋ねる。
「爆発を起こしたのはおまえなのか? 自爆しろとどこかから命令が出たのか? 何故俺達をここへ入れた?」
 答える義務はない。しかしコンピュータは返事をよこした。
「厳密に言えば、爆発を起こしたのは私ではない。聞こえていると思うが、隣で『処理不能』と騒いでいる奴の仕業だ」
「他人事みたいだな。同じコンピュータなんだろ?」
 聞き返したのはジュリアン。
「同じではない。我々は別のシステムだ。私は奴の動きを監視し、万一エラーが起きた時に復旧する役目を負っている」
「じゃあ何故爆発を起こす前に止めなかったんだ? 暴走の徴候はなかったのか?」
「自爆はエラーではない。あらかじめプログラミングされていたことだ」
 驚くにはあたらない。機密を守るためなら本部ビルの破壊ぐらいやるだろう。そのための爆薬を仕掛けた人間がいなければ、いくらコンピュータが血迷ったところで爆発など起きない。
「私もまた、君達に話をするようプログラミングされている。奴が処理不能の事態に直面し、自爆を起動した時には、その原因となった人間を受け容れるようにと」
 原因となった人間?
「俺達が、処理不能の事態を引き起こしたって言うのか?」
 怪訝な表情のムトーの横で、ジュリアンは笑みを浮かべている。
「キーワードは“楽園”。そして“マリエラ”だ」
 ジュリアンが『そのマリエラは別人だ』と断言した直後に、コンピュータはおかしくなったのだ。
「さぁ、早く俺達をあの場所へ帰してくれ。そのためにわざわざ招き入れてくれたんだろ?」
 もはやジュリアンは勝利を疑わない。すべては、俺達の幸せのために仕組まれたのだ。
 だがムトーには、まだ納得がいかなかった。
「こうなることは、すべて決まっていたと言うのか? すべてプログラムどおりだと? 一体誰がそんなプログラムを書いたんだ? “楽園”を作ったのは? 何のために、何が目的で? 何故、俺達なんだ?」
 何もわかってはいない。ずっと堂々巡りをしているだけだ。最初からずっと。


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