◆パペット◆第31回 by日向 霄 page 2/3
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叫びながら、レマンは自身の銃を兵士に向けて放り投げた。ムトーが続く。銃と一緒に大きなため息をも投げるジュリアン。
近づいてきた兵士達は素早く三人に手錠をかけ、その上で彼らが他に武器や爆弾を隠し持っていないかチェックした。呆れるほど念入りに。
一人に二人ずつ兵士がつき、左右から抱きかかえられるようにして本部へ消えていくムトー達。その後ろ姿に、若者が呟く。
「何なんだよ、一体。どうなってんだよ」
装甲車に狙いをつけられたまま、彼らはじっとその場に佇んでいた。進めば殺される。しかし戻る場所もない。
「お帰り、と言うべきか」
三人を出迎えたのはヒューイットではなく、ゲーブル中将だった。“正義の盾”のトップであり、次期長官と目されている公安の実力者だ。大きな机の向こうで、ゆったりと椅子に腰かけている。
「よくやってくれた。君を信じた甲斐があったよ」
ゲーブルはレマンに向かってにやりと笑いかけ、兵に命じた。
「レマン大佐の手錠をはずして医務室へ連れて行ってやりたまえ」
「わしはもう大佐ではない。このままでけっこうだ」
「そうはいかん。お尋ね者二人をまんまと捕まえてきてくれた功労者を、粗末に扱うわけにはいくまい。長官にも、特捜部長への返り咲きを進言しておくよ」
レマンの表情が険しくなった。手錠をはずしにかかる兵士を突き飛ばすようにして、ゲーブルの方へ足を踏み出す。
「市民を殺戮するような組織に戻りたいとは思わん! ヒューイットは何を考えてるんだ! ポリスを破壊して、何を守るつもりだ?」
「やめたまえ、演技はもういい」
「演技だと?」
「君は立派に役目を果たした。マクレガーも喜んでいるだろう」
それ見たことかと言わんばかりに、ジュリアンがムトーを見やる。しかしムトーはレマンの後ろ姿を凝視したまま、ジュリアンの表情には気付かない。レマンの言動には、確かに不可解なところもあった。しかしさっき外で逸る若者を抑え、『公安の名折れだ』と叫んだあの態度には正義が滲み出ていた。無駄に命を落とさせまいとする強い意志。市民を攻撃する公安への深い怒り。
演技などではなかった。ゲーブルは俺達を謀ろうとしているのだ。
「すべて、お見通しだったと言うのか? わしが動くと踏んで、わざとマクレガーの勝手な行動を放置したのか?」
足を引きずりながら、それでもゲーブルの机にたどり着いたレマンの声は震えている。
対するゲーブルの顔には、変わらぬ余裕の笑み。
「あれは勝手な行動ではない。マクレガーは非常に操りやすい駒だった」
「何のために? 何故!?」
レマンの拳がどんと机を叩く。ムトーもまた拳をきつく握り締め、叫び出したい衝動をこらえている。
ゲーブルは静かに答えた。
「もちろん、ポリスのためだよ」
この部屋にいる兵士達も彼の駒なのだろう。目配せ一つで速やかに彼の意図を察し、レマンを部屋から連れ出していく。
「部長!」
手錠をかけられ、両脇を兵に固められているムトーに、レマンを追うことはかなわない。
「騙されるな! わしは断じて――!」
レマンの声は、重い扉の向こうに消えた。
「さて、ではそちらの麗しい偽者君にも席を外してもらうとするかね」
その一言で、兵士達はジュリアンを別の扉の方へ押しやっていく。
「待て! ジュリアンをどうする気だ? 俺はジュリアンと一緒でなければ何も話さない!」
一度離れたら、再び出逢う保証はない。どちらかが命を落としても、それを確認する術さえないかもしれないのだ。
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