アマ小説家の作品

◆パペット◆第25回 by日向 霄 page 2/3
 ジュリアンの言うとおりだ。公安は既に新政府のメンバーを発表している。もはやチェンバレン達に出番はない。これぐらいの“噂”で統率が乱れるようなら、公安はとっくの昔に瓦解してるはずだ。
 だがしかし、すぐに二人の予想は覆された。
 ポリスで一、二を争う人気女優のロマンチック・コメディが再び中断され、ニュースの画像に切り替わった。さっきのムトーの地下放送に対するコメントかと思ったがそうではない。
 アナウンサーの後ろに、爆発する公安本部の絵が映っていた。
 本部が攻撃されたのかと思って、ムトーは目を瞠った。しかし実際には、本部ビル――もちろんこれも高層ビルだ――の一階と二十三階で小規模な爆発があっただけだ。
『……このテロ行為に対して、元国務長官チェンバレン氏による犯行声明が届いています。我々は決して屈しない。市民よ起て! ポリスを恐怖政治から救うのだ』
 ここでアナウンサーの手元に新しい情報が飛び込んでくる。市街地の警戒に当たっている複数の部隊に対しても攻撃が仕掛けられた。敵は一般市民を装い自爆テロを敢行した模様……。
「そりゃテロじゃなくて戦争だろ」
 思わずムトーはテレビに向かって反論した。もしチェンバレン達の反撃が事実ならいよいよ内戦に突入だ。
 興奮もあらわに繰り返し同じ情報を読み上げようとするアナウンサーの顔が、急に別人のそれに取って代わった。
 険しい顔つきの初老の男。公安警察長官ヒューイットだ。
『親愛なる市民諸君』
 独特のかすれ声で、ゆっくりと公安の最高権力者――つまりは現在のポリスの支配者――は言った。
『ポリスの平和を乱す愚か者どもの虚言に惑わされてはならない。我々は既に彼らを包囲している。今回の攻撃は連中の最後の悪あがきだ。何も心配はいらない。くれぐれも軽はずみな行動は慎むように。我々は諸君の賢明さを信じている』
 何のことはない。脅しだ。愚か者に賛同するような振る舞いを見せれば、その時点で“市民”ではなくなるという。
「まるで計ったようなタイミングだ」
 ジュリアンが言った。画面には、いくぶん落ち着きを取り戻したアナウンサーが戻ってきている。
「これで“漁夫の利”説が信憑性を帯びてきた」
「確かに、タイミングは良すぎる。わざわざ公安長官までお出ましになるなんて、これじゃ市民に動揺しろと言ってるようなもんだ」
 本部が攻撃を受けたことなど、隠しておけばいいのだ。報道管制は以前から行われている。どんなに目撃者がいようと当局が認めなければ事件は存在しない。まして今は戒厳令下だ。隠しようもないほど激しい戦闘が行われていたとしたって、何もリアルタイムでニュースを流す必要はない。
「また同志ジャンお得意の裏読みか? パニックを引き起こすために公安が自作自演してるとでも?」
「そうであってくれた方がまだましだ。チェンバレンと秘密結社が組んで公安相手に本気で戦争をおっ始めた日にゃ、地上はめちゃくちゃだ」
「ああ、なるほど。真の“漁夫”は別にいたんだった」
 地下が地上を潰そうとしている。
 少なくとも、シンジケートはチェンバレン側に武器を供給しているはずだ。いくら『女神の天秤』はじめ反政府主義組織が力を合わせたところで、まさか自前の兵器工場など持てまい。


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