◆パペット◆第14回 by日向 霄 page 2/3
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「俺は、奴をどうこうしようとは思わない。捕まえようとか、傷つけようとか、そんなつもりはないんだ。結果的に苦しめてしまったのは確かだし、それについては不用意だったと反省してる。だがもし奴が何者かに記憶を操作され、あるいは封印され、いいように操られているんだとしたら、奴はその糸を断ち切らない限り自由にはなれないんだ。
俺は奴を操っているものを知りたい。そんなものはいないと言うなら、確実な証拠が欲しい。一連の暗殺事件の真相を、俺は知りたいんだ」
でも、たとえ事実がどうでも、どうせ自分の信じたいようにしか、信じないくせに。
マリエラはそう思ったが、口に出しては違うことを言った。
「自由とか真実とか、男の人は好きね、そんな言葉が。私の父もそうだった。今のイデオポリスには本当の自由はないとか、真実を追求して正義を実現しなくてはとか、そんなことばかり。でもそのあげくに父が手に入れた物は何? 政治犯の汚名と、妻の愛想づかし。たった一人の娘をレベル6に置き去りにして、今頃どこで哀れな屍をさらしていることか……。家族を不幸にしてまで追求しなきゃならない真実なんてあるのかしら。自分の家族も幸せにできなくて、どうして世の中を良くすることができるの? 一番身近で、一番大事なはずの人さえ救えなくて、どうして―――」
こんな状況でなければ、ムトーもマリエラの言葉に肯けたかもしれない。しかし今はいらだちを抑えることができなかった。ジュリアンを鍵とする陰謀を、そんな卑小な問題と比べることはできない。イデオポリスを覆う虚偽のベールをはがせるかどうかの瀬戸際なのだ。虚構の平和と繁栄の下で平穏な家庭生活を営むことが、真の幸福だとはムトーには思えない。
「自己満足であることは認めるさ。俺一人の力でできることなど、たかが知れてるってことも。しかし―――」
「もういいわ」
マリエラは強い口調でムトーの言葉を遮り、ため息をついた。
「いくら話しても無駄よ。平行線だわ。あなたにはあなたの役目があるんでしょう。それがジュリアンを滅ぼすことでないように、祈るしかない。ジュリアンがどうしてここに連れてこられたのかわからないけど、もしあなたと出逢うためなのなら―――」
今度はムトーが口をはさむ番だった。
「連れてこられた? トラップにかかったんじゃないのか?」
語気の強さに驚きながら、マリエラは答えた。
「迎えが、来たのよ。それで、ここに連れてこられたの。っていうか、正確にはここにつながるトラップに、だったんだと思うけど。扉を開けて、その中に押し込まれて、意識を喪って、気がついたら、ここに」
「それは、シンジケートの人間だったのか?」
「わからないわ。とても、そうね、とても堂々とした感じの、物語に出てくる神の門を守る巨人のような……。ジュリアンを連れていくのが役目だと言っていたわ。ジュリアンに死なれては困るって。それ以外のことは何を訊いてもはぐらかされて……」
マリエラは必死であの不思議な案内人との会話を思い出そうとした。
「まだジュリアンの役目は終わっていない。彼はそう言っていた」
「まだ終わっていない……。一体誰が何を奴にやらせようとしてるんだ!」
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