アマ小説家の作品

◆パペット◆第14回 by日向 霄 page 3/3
 ムトーは激しく拳をテーブルに打ちつけた。もどかしかった。謎の周囲をぐるぐる回るばかりで、肝心なことには一向に手が届かない。
「君は平気なのか? ジュリアンはただの賞金首じゃない。明らかに何かに操られ、利用されている。奴と一緒にいるのは危険だ。これからまだどんなことが起こるか……」
 マリエラは頭を振った。
「もう同じなのよ。どこにも帰る場所なんかないんだから。彼についていくのが、私の役目なんだわ」
 役目。
 さっきから、何度も彼女が口にしている言葉。ジュリアンの役目、案内人の役目、そして俺には俺の役目があるんだろうと、彼女は言った。ひょっとすると。
「君は本当は奴のお目付役なんじゃないのか? 奴が狂ってしまわないように、奴を安定させておくための鎮静剤―――。君自身も、偽りの記憶を植え付けられて、操られているんじゃないのか?」
 マリエラは目を見開いた。一体この男は何を言い出すのだろう。あまりのばかばかしさに、笑いの衝動がこみ上げてきた。
「あなたは何様のつもりなの? 自分だけが正常で、自分だけが何の力にも流されていないと思ってるの?」
 抑えきれない笑いのためにマリエラの顔はゆがみ、声は甲高くなった。そのヒステリックな症状に、ムトーは眉をひそめる。
「俺は少なくとも自分の意志で奴を探した。自分の意志で奴を探そうと決めて、自分の意志でレベル6に降りてきたんだ」
 こらえきれずに、マリエラは笑い声を上げた。
「だからそれが『植え付けられた』ものでないとどうして言えるの? どうしてあなただけが操り糸から逃れられると思うの?」
「俺は―――」
「じゃああなたはあなたの意志でこの場所に来たの? あなたはここにジュリアンが来ると知っていて、そうしてわざわざトラップに落ちたの? 違うでしょう? あなたは何も知らなかった。あなた、あのおじいさんに言ったじゃない。『あなたが仕組んでいるんじゃないのか』って。そうかもしれない、そうじゃないかもしれない。でもあなたも結局は、流されているのよ」
 ばかばかしい理屈だと思った。それとこれとは話が別だ。女はいつも、そう、大抵の女はいつもそんな間違いを犯すのだ。問題の本質を見誤り、自分の関心の範囲に無理矢理押し込み、混同する。
 だがそう思いながらも、ムトーは反論できなかった。あの老人の掌でもてあそばれているように感じたのは事実なのだ。
「確かにそうだ。だが俺はそれに甘んじようとはしていない。むしろ決して流されたくないからこそ、こんな茶番を仕組んだ奴を捕まえたいんだ!」
 自分の声がヒステリックになるのを、ムトーは抑えることができなかった。
 マリエラはそんなムトーを満足げに見つめ、勝ち誇ったように言った。
「立派な心がけね。でもそれすらも、誰かの思うつぼなのかもしれないじゃないの」


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