◆パペット◆第14回 by日向 霄 page 1/3
-
「どうだ、具合は?」
部屋から出てきたマリエラに、ムトーは声をかけた。
彼女が出てくるのを、ムトーは椅子に腰掛けてじっと待っていたのだ。正確には、彼女かジュリアンのどちらかが出てくるのを、だが。
「やっと眠ったわ」
マリエラの声にも表情にも、ムトーに対するあからさまな敵意が浮かんでいる。それも無理はなかった。ムトーの容赦ない詰問のせいで、ジュリアンはまた発作を起こしたのだ。ひきつけを起こした子供のようなジュリアンをなだめ、寝かしつけるのは容易なことではなかった。
「彼を、そっとしておいてちょうだい。お願いだから」
ムトーを部屋に入れまいとするかのように扉の前に立ちはだかったまま、マリエラはムトーを睨みつける。
つとムトーは立ち上がって、目で彼女を招いた。
「食堂へ行こう。少し話したい」
「私の言いたいのは、彼に手出しをしないでってことだけよ。他に話すことなんてないわ」
「悪いが、俺にはあるんだ」
さっさと歩き始めるムトーの背中をしばらく見つめてから、やっとマリエラは足を動かした。
「君は、奴の何なんだ? ――いや、失礼。つまり、君がどれだけ奴のことを知ってるのか、いつから一緒にいるのか、そういうことを教えてほしいんだが」
ムトーはテーブルについている。マリエラは向かいに座る気にならず、壁にしつらえられたベンチに腰を下ろした。
「答える義務、あるのかしら」
「君が奴の正体を知っていてくれれば、これ以上奴を苦しめなくてすむ。君の希望を叶えられるんだ」
なんて嫌な男だろう。たとえジュリアンを生まれた時から知っていたとしたって、こんな男に教える気になんかならない。
「あいにくね。私は何にも知らないわ。彼の名がジュリアンで、指名手配中のテロリストだってこと以外には」
「君もテロリストなのか?」
「まさか!」
「でも女性というのは、相手が当局に追われている犯罪者だと知っていても、なお愛を捧げられるものなのかな」
「相手があなただったら、追われてなくても捧げやしないでしょうね」
マリエラの強烈な皮肉に、ムトーは声を上げて笑った。
「奴は美形だからな」
「見た目なんかじゃないわ! ジュリアンはあなたなんかよりずっと純粋で素直で繊細で、脆いのよ。私がそばにいなかったら、彼は壊れてしまうの!」
マリエラの剣幕に驚いたように、一呼吸置いてからムトーは言った。
「そうかもしれないな」
肯定されて、にわかに恥ずかしさがこみ上げてきた。自然に頬が熱くなる。マリエラはそっぽを向いた。
気まずい沈黙が降りる。破ったのはムトーだった。
続き
トップページに戻る