コラム

社員の化学日記 −第99話 「無題 」−

今日は10月1日。

早いもので2016年(平成28年)もあと3か月となった。 ついこの間,歳が明けて桜が咲いて,うっとおしい梅雨が来て,猛暑の日々。 その猛暑の日々も9月に入って収束し,最近の通勤風景では上着を羽織って出勤する人もチラホラとみえるようになった。

ただし,今年の9月は台風と雨が多かった印象がある。いわゆる秋雨前線が活発に活動し, 台風も今年で18個目となる台風18号が日本列島を縦断するコースをとる見込みらしい。

Web情報によると今年の台風の特徴は,
 ・例年4月までには太平洋北西部及び南シナ海において熱帯性低気圧(台風の卵)が発生しいてたが,今年は5月まで発生しなかった。(北西太平洋では例年より非常に強い太平洋高気圧に覆われ,熱帯低気圧が発生しにくい状況が続いていた。)
 ・7月下旬以降には1週間で3個の台風が発生するなど台風や熱帯低気圧の発生ペースが上昇し,日本へ上陸する台風の数も例年よりも多くなった。  ・9月20日に台風16号が上陸し,1993年及び1990年にならんで観測史上2位である6つ目の台風が上陸した。現在発生している台風18号が上陸すると7つ目の上陸となる。ちなみに観測史上最も上陸した台風が多かったのは2004年の上陸数10である。
 ・台風の進路は太平洋高気圧の外周に沿うように大きな弧を描きながら日本へ接近するのが通常であるが,台風10号は二度も鋭角な方向転換を繰り返しながら北上し,1951年に気象庁が統計を取り始めて以来初めて東北地方の太平洋側に上陸した。

気象学的にみればもっと細かな特徴があるのだろうが,よくわからないのでその辺はおいといて・・・。 台風発生の度合いは大気中の水蒸気量,すなわちその生成源となる海水の水温によるらしく,太平洋赤道域東部(ペルー沖)の海水温が上昇する「エルニーニョ現象」と 密接な関係があるらしい。

「エルニーニョ現象」は地球温暖化の状況を表す言葉としてテレビの天気予報や環境問題を扱ったテレビ番組でもよく使用されている。 このエルニーニョ現象が直接的・間接的に影響を及ぼすのは日々の天候や私たち人間だけではない。

海水温の上昇は海洋生物の生態系にも影響を与えている。 海水温が上昇すればプランクトンが異常発生しやすくなる。 いわゆる「赤潮」の発生である。赤潮は魚類のエラに詰まって窒息死させるなどの影響があり,中には毒性物質を体内に生成するプランクトンもいるらしい。 そういう部類のプランクトンが他の生物に捕食されていくと,食物連鎖による生物濃縮によってより上位捕食者である海鳥やクジラ類,アシカなどの鰭脚類の大量死が発生することになる。

これから旬となるカキなどの貝類を食べて「あたる」というのも,貝そのものが毒素を作り出すよりも上記と同じ生物濃縮が原因である。

貝毒といえばノロウィルス(正確には,ウィルスなので毒性物質とはことなるが)が有名であるが,その他にも以下のように,主として渦鞭毛藻類や珪藻,紅藻などの植物プランクトンや細菌類が生成する化学物質が知られている。
 下痢性貝毒:オカダ酸,ディノフィシストキシンなどのポリエーテル類
 麻痺性貝毒:サキシトキシン,テトロドトキシン(ふぐ毒としても有名)などのアルカロイド
 神経性貝毒:ブレベトキシン類などの環状ポリエーテル化合物
 記憶喪失性貝毒:ドウモイ酸(グルタミン酸に構造がよく似た天然アミノ酸の一種)

ドウモイ酸が体内に大量に取り込まれると,脳の海馬のグルタミン酸受容体と結合して脳細胞が興奮・死滅し,脳障害,中枢神経障害を引き起こして死に至るとのこと。 日本の徳之島ではこのドウモイ酸を体内で作り出す「ハナヤギ」という紅藻が駆虫剤として使用されていたらしい。 「ドウモイ酸」はハナヤギの現地名である「ドウモイ」に由来する。

また「オカダ酸」は「岡田さん」が初めて発見したのではなく,それが初めて単離された海綿動物クロイソカイメンの学名(Halichondria okadai) に因んだものらしく, そのロイソカイメン の学名は動物学者の岡田弥一郎に因んで命名された。

話はグッと戻ってしまうが,天気予報では「台風○号」というように気象庁が毎年1月1日からその年に発生した順に台風に番号をつけている。

この番号以外では,従来は米国で人名の名前(英語名)をつけていたが,平成12年(2000年)から,北西太平洋または南シナ海の領域で発生する台風には同領域内で用いられている固有の名前 (同海域で発生する台風防災に関する各国の政府間組織である台風委員会の14の加盟国または地域が提案した名前)を付けることになったとのこと。

この名前は「アジア名」と称される命名法で,上記の委員会加盟国が提案した計140の名称を発生順につけていき,一巡したら最初に戻って順に名付けていくというもの。 今現在日本に近づきつつある「台風18号」はアジア名「チャバ」(命名国または地域:タイ),初めて東北地方の太平洋側に上陸した「台風10号」はアジア名「ライオンロック」 (命名国または地域:香港)であった。

【参考】気象庁ホームページ

【道修町博士(ペンネーム)】

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