コラム

社員の化学日記 −第98話 「元素発見について 」−

このコラム,思いがけない人が読んでいて色々聞かれることがあります。

最近では,「ニホニウム(Nh)」について。

T.T.さんの疑問

「三津和化学はこの世の中にある元素全てを在庫していると聞いているのにコラムでは誰も取り上げていないのはなぜ?」ということ。

話題の元素はウンウントリウム。

発見者が日本チームによるものと認められて日本に命名権が与えられ[ニホニウム]と名付けられた元素。 発見時はまだ名前が無く,暫定的に[ウンウントリウム]と呼ばれていました。 [ウン]は数字の[1],[トリ]は数字の[3],[ウム]は元素を意味しているので,[ニホニウム]より[ウンウントリウム]のほうが −113番目の元素− ということが分かって便利だと思うのですが。 !

ちなみに2010年に命名された[コペルニシウムCn]は,112番目の意味の[ウンウンビウム],2004年承認の[レントゲニウムRg]は111番目だから [ウンウンウニウム]と呼ばれていました。

このニホニウム,(日本で)見つけられといっても,手にすることができないどころか,加速器で無理やりに作りだされた元素で, できて0.002秒で消えてしまうので存在感が薄い。 併せて,約138億年前といわれている宇宙誕生からの元素生成の過程で作られた可能性が無いに等しいと考えられていることから, 宇宙の仕組みを解明する手がかりになりにくいことが,もうひとつ興味を持ちにくいことではないでしょうか。

宇宙誕生は,ビックバンが始めだといわれています。

その大爆発のときに,素粒子ができ(以前取り上げました),1秒後に素粒子が結びついて陽子や中性子ができました。 そのころの宇宙の温度は想像できないほどの超高温のため,宇宙空間にこれらの粒子が飛びまわっていました。 やがて温度が下がって粒子の動きが低速になり,陽子と中性子が結びつくことができて原子核が出来上がったといわれています。 そのときの温度はかなり下がったといっても約100億℃,時間はビックバン後約1分。

しばらくこのような状態が続き,約38万年後に原子核が電子を捕まえられる温度に下がり,初めての原子である水素原子が出来上がった。 次いでヘリウムができ,それらの原子が集まって恒星が誕生。 恒星では核融合反応により重い元素が次々に作られました。

太陽は[水素H]の核融合から[ヘリウムHe]が作られていることはご存知のかたも多いでしょう。 太陽より大きい恒星では[ヘリウムHe]から[炭素C]が作られ,それにヘリウムが付いて[酸素O]ができています。

しかし恒星の核融合で作られる元素は[鉄Fe]までといわれています。

原子番号26である鉄は元素の中でもっとも安定していることが分かっており,鉄ができた時点で核融合が止まってしまうためです。 〔鉄は人体の血液のヘモグロビンの成分でもあるところから,生物の進化に対して地球の埋蔵量の多い鉄が使われたことは自然の成り行きと思われます。〕

又,[元素の魔法数]という不思議な現象があります。

ある元素が宇宙に存在する割合が,理論より極端に多いという現象から導き出された説で,陽子や中性子の数が魔法数の数になると原子核が安定になるという考え方。 この研究によって自然界での元素生成過程が解き明かされ,宇宙の仕組みが分かる可能性があるということです。

鉄より重い元素がどうやって作られたのか?その原子核の研究を進め,宇宙でどのようにして元素ができたかを知ることが第一。

元素に日本に関する名前が付けられることは誇らしいことではありますが,そのことから得られる理論の数々を,興味持って待ち望んでいます。

【今田 美貴男】

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