コラム

社員の化学日記−第2話 「レアメタル [rare metal] 」−

最近,新聞などでこの「レアメタル」という単語をよく目にします。直訳すると「まれな金属,希少金属」という意味になりますが,皆さんはこれがどのような金属なのかご存知ですか?これは,ひとつの金属の名称ではなく,地球上に存在する金属のうち,産出量が少ないものの総称であり,全部で47種類(元素)あります。

中学や高校で習う化学の教科書には,必ずといっていいほど周期表が載っていましたよね。一般的には水素[H]からローレンシウム[Lr]まで,103元素あります。 「全103元素中,47元素がレアメタル?以外に多いな」と感じる方もいるかもしれません。確かに種類は多いのですが,一般的な金属とは産出量に大きな差があります。


では,一体どれほどレア(希少)なのでしょうか?身近な金属と比較してみましょう。 皆さんがよくご存知の鉄[Fe],これは世界で一番多く生産・消費されている金属なのだそうです。その年間生産量は13億トン。いまいちピンとこないですよね。分かりやすく例を挙げますと,

・地球上で最大の哺乳類 シロナガスクジラ(30m)がおよそ200トン
                             → 650万頭分に相当
  ・全長265m 戦艦大和が65,000トン → 20,000隻分に相当

やっぱりピンとこないですが,すごい量だということは分かって頂けると思います。

それに対し,レアメタルの中で,最も生産量の多いのはニッケル[Ni]という金属ですが,これの年間生産量が130万トン。なんと鉄の1/1000程度しか生産されていません。 重さの比較で言うと車(1000kg)とラジコン(1kg)くらいの差があるわけです。 最も多いニッケルですらこの量ですから,レアメタルがいかに希少な存在であるかが分かって頂けると思います。


さて,レアメタルが希少な金属だということは分かりましたが,一体どのような場面で使用されているのでしょうか?これほど珍しい金属なのだから,私たちの普段の生活には関係はないだろうと思っていませんか?実はそうでもないんです。

生活に近いところでは,スポーツ用品や時計などにチタン[Ti],健康器具などで有名になったゲルマニウム[Ge],人工骨や接合ボルトにタンタル[Ta],夏の必需品,缶ビール等のアルミ缶強度増加にマンガン[Mn],パソコンやテレビ,携帯の液晶パネルには欠かせないインジウム[In],携帯電話や電気自動車の電池材料にコバルト[Co],そしてセレン[Se]は光を電気信号に変える働きがあり,コピー機などに使用されています。

工業系では,鋼材材料にモリブデン[Mo],車の排気ガス浄化装置にプラチナ[Pt], ステンレスの原料にクロム[Cr],切削工具等の超硬工具に使用されるタングステン[W],強力な磁石製造にはネオジム[Nd]などなど

レアメタルは,金属をそのまま使用することもありますが,他の一般的な金属に少量添加することで,化学性能や物理性能を向上させる働きがあるものが多く,人の体にビタミンが必要であるように「産業界のビタミン剤」として注目されています。


このように,レアメタルの名称を聞くことがなくても,私たちの生活にはこれほど多くのレアメタルが使用され,活躍しているのです。 皆さんも,身近な生活に隠れた小さな「化学」を探してみてはどうでしょうか?そして,レアメタルに限らず,資源には限りがありますから,これからは使い捨てではなく,大切に使い,リサイクルするということも考えていかなければなりません。 生活と化学の関係を,身近な例で知ることによって,資源の大切さを学び,少しでも化学に興味を持ってくれる人が増えれば幸いです。

【くぼてつ(ペンネーム)】

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