コラム

日本の四季を化学する−第3回 花火の化学−

今回で3回目となりました「日本の四季を化学する」シリーズ。
 こう暑い日が続きますとよく冷えたビールでも飲みながら,花火見物でもしたいものです。ということで,今回は花火を化学してみましょう。

1)花火の種類

打ち揚げ花火 打ち揚げ花火

夏の日本の風物詩の一つにあげられるのが,花火。花火は火薬と金属粉や金属の化合物を混合したものに着火し,火薬が破裂し,金属粉などが燃焼するときの色や破裂音を鑑賞するもので,毎年夏になると全国各地で大規模な花火大会が行われています。三津和化学があります大阪でも,PL教団(教団経営のPL学園は高校野球の名門)の「教祖祭PL花火芸術」(毎年8月1日。この日は”花火の日”だそうです。)や淀川花火大会(8月の第1土曜日に開催)は有名です。

おもちゃ花火 おもちゃ花火の一例(昨年の社員旅行にて)

しかしながら,花火には火薬が使われるため,昔から火災・爆破事故がつきものでした。したがって現在では火薬類取締法という法律で製造から消費までが規制されており,花火大会で派手に打ち上げられる「打ち揚げ花火」(火薬類取締法の法令用語では打ち揚げ花火は「煙火」といいます)を打ち揚げるには「花火師」(法令上は「煙火打揚従事者」といいます)の資格が必要です。一方,おもちゃ屋さんでも入手できる「おもちゃ花火」(「玩具花火」)は消費(使用)に際しては資格免許は必要ありません。また,ショーやイベントの演出効果として使われるスモークやパーティーなどで使用されるクラッカーも法令上は花火に分類されます。

2)花火と火薬の歴史

演出用花火 演出用花火の一例

花火の起源を語るには火薬の歴史を避けて通るわけにはいきません。中国では後漢の時代から道教の道士(仏教でいう僧侶)らによって不老長寿,不老不死を目的とした薬物研究(「錬丹術」といます)が行われ,金や水銀が不老不死の薬とされて重要視されていました。その過程で鉱物を中心とするいろいろな薬物の性質が明らかになっていき,唐代初期の七世紀末には硝石(硝酸カリウム)と硫黄の混合物が激しく燃えることが発見されています。

火薬は12世紀の北宋時代からまず武器として使用されるようになり,日本人がはじめて火薬に遭遇したのは鎌倉時代の文永の役(1274年)と弘安の役(1281年)のいわゆる「元寇」のときです。ヨーロッパに火薬に関する技術が伝わったのも13世紀に入ってからですが,初期のころはロケット花火のようなものを敵陣に打ち込んで威嚇したりと,花火と火器の区別がはっきりついていませんでした。

日本で花火がおこなれるようになったのは16世紀の鉄砲伝来以降のことで,慶長13年(1613年)に徳川家康が江戸城内で花火見物を行ったのが「花火」という語句が記載されている最古の記録だそうです。その後江戸時代になると鍵屋,玉屋といった花火師が登場し,町人花火として発展していきました。

明治,大正になるといろいろな化学薬品が輸入され、色や大きさ,そして明るさも著しく変化しました。昭和に入ってからは太平洋戦争の戦火の拡大に伴い花火の打ち揚げは禁止されていきましたが,終戦後には1946年9月29日と30日に土浦市で開催された第14回全国煙火競技大会(現在の土浦全国花火競技大会)が戦後初の花火大会となりました。

3)花火の原理

打ち揚げ花火には打ち揚げ後の破裂の仕方によって「割物」,「ポカ物」などがあり,「割物」は破裂時に球状に火花が飛散する,最もオーソドックスな打ち揚げ花火です。「割物」の場合,割薬といわれる玉を破裂させるための火薬を紙などで包み,その外側に「星」を配置してその外側を丈夫な玉皮で覆います。この「星」が飛び散って燃焼することによって夜空に華麗な花が咲くわけですが,どのような花が咲くかは「玉」を作るときの火薬,「星」のつめ方や量,そして各種薬品の配合比などによって異なるため,花火職人の腕の見せ所となるわけです。

4)炎色反応(ちょっと専門的なお話になります。)

では,花火の色はどうやって出しているのでしょうか。花火では発色,発光,発煙,発音などを目的としてさまざまな化学薬品が混合使用されています。花火に使用される薬品の代表的なものを表にあげました。このうち花火の色を左右するのは炎色剤で,炎色剤に用いられる化合物中の金属イオンの炎色反応により発色します。

花火に用いられる化学薬品[参考文献3)より抜粋引用]
酸化剤 塩素酸カリウム,過塩素酸カリウム,硝酸カリウム(硝石),硝酸バリウムなど
炎色剤 ・赤炎:硝酸ストロンチウム,炭酸カルシウムなど
・黄炎:しゅう酸ソーダ
・青炎:花緑青(酢酸銅・亜ひ酸銅),硫酸銅など
・緑炎:炭酸バリウム,硝酸バリウム
・白炎:三硫化アンチモン,炭酸バリウム
発光剤 アルミニウム,マグネシウムなど
火花剤 鉄粉,フェロシリコンなど
発音剤 鶏冠石(硫化ひ素),三硫化アンチモンなど
助燃剤(還元剤) いおう,鶏冠石(硫化ひ素),三硫化アンチモンなど 
発煙剤 ・赤煙:ローダミンBコンクなど
・青煙:フタロシアニンブルー,メチレンブルー
・黄煙:鶏冠石,バターイエローなど
・緑煙:オイルイエロー,フタロシアニンブルー
・白煙:亜鉛末,亜鉛華など
・橙煙:オイルオレンジ
笛剤 ピクリン酸カリウム,没食子酸

硫酸銅五水和物(胆礬)
銅イオンの炎色反応 硫酸銅五水和物の結晶(上)と銅イオンの炎色反応(下)

炎色反応は,アルカリ金属(Li,Na,Kなど)やアルカリ土類金属(Ca,Sr,Baなど)などの金属が燃焼時に発光する現象で,高校の理科の教科書にも出てきます。白金線の先にアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンなどの金属イオン溶液をつけてバーナーの炎の中に差し入れると,溶液をつけた部分の炎の色が金属の種類によって赤や黄色や緑になります。ではなぜ燃えたときに発色するのでしょうか。これを専門的に詳しく解説すると非常に時間がかかってしまうので,超簡単に解説することにしましょう。

一般に原子やイオンに熱などのエネルギーを与えると,そのエネルギーは吸収され,原子を構成する電子の運動エネルギーなどとして消費されます。しかし吸収されたエネルギーの一部は,光として放出されます(植物が光合成をして光から生育に必要なエネルギーを得ているように,実は光もエネルギーの一部なのですが,その詳細の説明は省略します。)。この放出された光が私たちの目に見える光(紫外線や遠赤外線等とは違って,目に見える光を可視光線といいます)であるときは,燃焼によって赤や緑や黄色に光っている(発色している)ように見えるわけです。与えた各種エネルギーが光などの別の形のエネルギーに変換されて放出される現象は,ほとんどの原子や分子で観測することができ,家電製品の蛍光体などや各種化学分析の基本原理として応用されています。花火もその応用例の一つであり,花が開いたときの色調は「星」を製造するときに炎色剤となる薬品の混合比の微妙な違いによって生まれるものなのです。

5)おまけ:語呂合わせと化学

最後に恒例(?)のおまけです。化学という学問は本サイトにも載せているような元素周期表が基本になっているためか,化学者は何かというと元素や化合物を順番に並べたがるようです。そして化学を専門分野に選択してしまうと,専門的になればなるほど順序,系列が頻出し,頭を悩ませてくれます。これが「化学は暗記科目である」といわれる所以なのかもしれません。(でも,化学好きの人間からすると歴史の年代を覚える方がよほど暗記科目のような気がするのですが・・・。)

元素周期表をはじめとして,イオン化傾向(イオン化系列ともいいます),今回の炎色反応の色などは高校までの化学でも学習しますので,先生からこれらを覚えるようにいわれて化学嫌いになってしまった方もいらっしゃるかもしれませんが,その際に語呂合わせで覚えることを習ったりしませんでしたか?  歴史の年代では「うぐいすナクヨ(794年),平安京」,「イイクニ(1192年)つくろう鎌倉幕府」なんて覚えさせられましたが,化学でもいくつもこのような語呂合わせがあります。

  • 元素周期表の横の並び;
     水(H)兵(He)リー(Li)ベ(Be)ぼ(B)く(C)の(N,O)船(F,Ne)・・・
  • 元素周期表の縦(第1族);
     エッチ(H)でリッ(Li)チな(Na)母(K)ちゃん,ルビー(Rb)せし(Cs)めてフランス(Fr)へ
  • イオン化傾向;
     借(K)りよか(Ca)な(Na),ま(Mg)あ(Al)あ(Zn)て(Fe)に(Ni)す(Sn)な(Pb)ひ(H)ど(Cu)す(Hg)ぎ(Ag)る借金(Pt)
  • 炎色反応;
     リ(Li)アカー(赤)な(Na)き(黄)K(K)村(紫),動(Cu)力(緑)借(Ca)りると(橙)する(Sr)もくれない(紅)馬(Ba)力(緑)

覚えやすいようにいろいろアレンジの仕方があるようで,語呂合わせばかりを集めたWebサイトもありますので,お暇なときに検索されてみてはいかがでしょうか。

※参考文献

1)「花火の科学」細谷政夫,東海大学出版会(1999).

2)「中国古代の科学」薮内 清,講談社学術文庫(2004).

3)「ポピュラーサイエンス5 いい伝えと化学」古橋昭子,裳華房(1988).

4)「面白いほどよくわかる化学」大宮信光,日本文芸社(2005).

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