8. カチオン染料 アクリル繊維 の染色

合成染料の歴史は、 1856年イギリスのパーキンによりシルクの染めに開発されたMauve (モーヴ) という塩基性染料 (Basic dye) に始まります。
Mauve は、バイオレットの色彩を持ち、十九世紀末のビクトリア時代を象徴する “高貴な紫” となりました。しかし、この時代に開発された塩基性染料は、 日光堅牢度が低く、当初使われていたシルクや綿の染色分野では次第に姿を消し、紙や皮革など非繊維分野への限定使用となって行ったのです。
一方、1950年に、デュポン社がアクリル繊維の工業生産を開始、羊毛に似た風合いと温かさから、ナイロン、 ポリエステルと共に三大合成繊維の一角を占める存在になりました。 塩基性染料は、他の水溶性染料の染料イオンが酸性(=アニオン性)を示すのに対し、染料イオンが塩基性(=カチオン性)を示す特徴を持っています。 この性質を生かしてアニオンの性格を与えたアクリル繊維を染める堅牢度の優れた塩基性染料が、デュポンやBayer により次々と開発されました。こうしたアクリル繊維に対して好適な塩基性染料をそれまでのものと区別してカチオン染料と呼ぶ様になりました。

アクリル繊維

アクリル繊維の主原料はアクリロニトリルです。 アクリロニトリルそのものは19世紀末に発見されましたが、これを繊維化に成功したのは1944年で、 工業化されたのは上にも述べましたように1950年です。 6年もかかったのは、第二次世界大戦が影響したのであろうと思います。 日本では1956年〜1959年にかけてほぼポリエステルと同時期に工業生産が始まりました。

現在市販されているアクリル繊維は、その重合主成分であるアクリロニトリルの含有量に応じて、 アクリル繊維とモダアクリル(または、モダクリル)に分けられています。 しかし、これらアクリル繊維の製造技術は比較的単純なため中国などとの価格競争に勝つ事ができませんでした。
近年、その巻き返しとして、難燃性を付与したり、強度を高めたアクリル繊維が開発されています。 また、アクリルは炭素チェーンの延長構造で構成されていますので、これを焼成して炭素繊維を作る技術も開発されています。

アクリルは、熱により溶融しますが、溶融点付近で安定性が低いため、ナイロンと同じ様な溶融紡糸は行われず、 一旦溶剤や無機塩水溶液や酸などに溶かした後、湿式、もしくは、乾式紡糸により紡糸されます。 アクリル繊維は、合成繊維なので、通常、精練で除去しなければならない不純物は付いていませんが、 汚れや紡績・編み立てのための油剤の残留が認められる時には、染色への影響が懸念されますので、1g/L 程度の非イオン活性剤を使用して、50〜70℃の温度で洗浄してやります。
(アクリル繊維の*ガラス転移点は80℃付近ですが、水の存在でそれより低くなります。くれぐれも温度を上げすぎない注意が必要です。)

*ガラス転移点(Tg) glass transition point : 繊維では、一定方向に揃った鎖状高分子同士がからみ合って安定しているが、 これを熱して行くと分子運動により、ある温度以上で、からみ合った部分以外が緩み始める。 この温度をガラス転移点(ガラス状態とゴム状態を転移する点)と呼び 染料の拡散が可能となる。(更に、温度が上がりからみ合いが解消されると、軟化や熔融が始まる。)


アクリル繊維の染色

アクリル の染色に使えるカチオン染料は数多くありますが、 そのいずれもが、水に溶けた時に、カチオン性を示す N+ イオンを構造中に必ず持っています。一方、上の章で示したアクリル繊維の構造には、カチオン染料が染着できるような場所はありません。 アクリル樹脂の製造に当たってアクリロニトリル単独の重合物では、溶解性や物性が悪いために、それらの改良を目指して、少量のアクリル酸エステル、 酢酸ビニルなどの非イオン性モノマーを共重合成分として含ませます。これに加えて、繊維として使用する場合には、 染色性を与えるためスチレンスルホン酸やアリルスルホン酸などのアニオン成分を添加しています。
しかし、そうしたアニオン成分の量は限られているばかりではなく、製造メーカーによっても違うため、アクリル繊維の染色に当たっては、 被染物のSF値(相対飽和値)および使用する染料の f 値(Dye Saturation Factor) を正しく知っておかなくてはなりません。これらの値を知ることにより、SF/f を計算すれば、その繊維に対する使用染料の飽和染色濃度(=CS) が出てきます。飽和染色濃度を超えて染色した場合には、ブロッキング現象と共に、未固着染料による湿潤堅牢度の低下が起こります。

    *ブロッキング現象  -染着座席の数が限られている時に、 特定の染料がそれに強く結びつく事で、他の染料の染着を妨げる現象



アクリル繊維の結晶化 度は、ナイロンやポリエステルなどに比べて低く、染料とイオ ン結合を起こすアニオン部分が、 染料とより接触しやすい状態になっています。
また、スルホン基という強酸基と、強塩基としての染料の結合ですので、その反応速度も極めて速いのです。 従って、アクリル繊維をカチオン染料でうまく染めてやるためには、初期吸着を出来るだけ抑えながら染めてやる事が必須となります。 それを可能とするために、繊維親和性を持つカチオン型の染着座席封鎖剤を添加すると共に均染剤も添加します。 この均染剤は、緩く染着した染料を引き剥がし他に移染させる働きをするものです。
芒硝にも弱い緩染効果があります。使用量が多くいりますが、染色後簡単に除去されるので、染着座席を封鎖し続けることはありません。
これらに加えて、アニオン性の染料親和型の緩染剤もありますが、効果のある染料は限定されますし、多く使うと染料残が多くなります。
ここで大切なことは、繊維親和型のカチオン緩染剤の使用量と、カチオン染料の使用量の合計が被染物の飽和濃度を超えてはならないことです。 この濃度を超えた緩染剤の使用は、未固着の染料を増やし湿潤堅牢度の低下を引き起こします。



ブロッキング現象を防 止するもう一つの重要な点は、染料の選択です。
アクリル繊維に使用されるカチオン染料は、その染色性・堅牢度から5つのクラスに分けられており、このクラス分けを、「K値」として表わします。 従って、ブロッキング現象を避けるためには、同じK値を持つ染料を組み合わせる事が大切です。 このK値を決定する最大の要素は、その染料の大きさと形です。つまり、カチオン染料の場合も、他の染料と同じように、 繊維との間に V der W力が働いているのです。K値の 1〜5 を A〜Eで表わしている染料メーカーもあります。 (これらの値が分からない時は、配合試染で、15分位染めた色と、残液で染めた色を比較し染料間の相容性 (compatibility) を確認します。)


カチオン染料でのアクリル染色について一般的な処方を示します。
1. 40-50℃の染め浴を用意する。
      Y% o.w.f.  緩染剤(計算して最適量を出す。下記参照。)
    20% o.w.f.  芒硝 
      1% o.w.f.  酢酸ソーダ を入れ、酢酸で pHを、4-5に調整.
2. 溶解した染料を二分割で投入。染料が染液に均一に回るまで撹拌。
3. 85℃へ昇温。2℃/分。
4. 95℃ まで 1℃/3分で昇温。
5. 100℃へ2℃/分で昇温。
6. 100℃で30-60分染色。
7. 60℃まで1℃/分で徐冷し液を排出。
8. 水洗。
9. 60-70℃でアニオン性活性剤を使用しソーピング。
(10. 必要に応じてフィックス処理(例. アニオン性多価フェノール誘導体 -カチオンフィックス 3A (センカ)等)

・アクリル繊維の染色はpH4〜5で最も染着率が高くなります。しかし、その影響はあまり大きくはありません。カチオン染料そのものも、 このpH域で最も安定。
・染料は酢酸で良く練ってから、熱湯を加え80〜90℃で撹拌溶解します。一般にカチオン染料は高温になる程溶解度が高く、 温度が下がると急速に析出するので冷まさないように注意しながら溶解します。
・緩染剤の使用量は、次式で求めます。  Y =(繊維の飽和値 X DC) - [ ( 染料の使用量 X 染料の f 値) の和]÷ 緩染剤の f 値
ここで、DCは染色係数と呼び、染料や緩染剤により占有される繊維染着座席の繊維内全染着座席に対する割合です。実測では、繊維により、0.3 から 0.8まで、二倍以上の開きがありますが、通常パッケージ染色で、0.6〜0.8、ウインス染色で、0.8〜0.9の数字を使います。 大きく設定するほど緩染効果は上がりますが未固着の染料も増えてしまいます。
・100℃を超えるとアクリル繊維が徐々に硬化するため染色温度は100℃が一般的です。
・染色後の徐冷は必須です。ここで急冷すると*失透したり、風合いが硬くなったりします。70℃までは、特に注意が必要です。
   *失透(devitrification) :結晶状態が変化し透明性を失うこと。

モダアクリルの染色については、この失透現象や、染色性を改良したものもありますが、含有成分に、染料の還元を引き起こす成分が含まれる可能性があり、 その染色性、推奨染色処方については、原糸メーカーに確認することが賢明だと思います。

いずれにしても、現在の日本では、アクリル繊維の染色を行うことは余りありません。 私たちの身の回りのアクリル製品の染色は、殆どが中国を含めた第三国で染色されたものです。
また、それが日本製と表示してあっても、カーペットなどの大量生産品は、原着という製造時にポリマーに色素を練り込み着色する方法(Gel dyeing) による原糸が使われています。
こうした点からすると、現状、日本でカチオン染料を使って染めるのは、アクリル繊維よりもカチオン可染タイプのポリエステルの方が多いと考えられます。

<追記>
アクリルには、アクリルニトリルを重合したオーロン型(カシミロンF、ピューロン、エクスランDKP、ボンネルU-17、トレロン、ベスロン)、アクリル ニトリル85〜90%とビニールビリジン10〜15%を共重合したアクリラン型(
ボンネルP、エクスラ ンS)があり、前者は、主 にカチオン 染料で染色され、淡い色、中色には、分散染料も用いられる。後者は主に酸性染料で染色される。

カチオン可染ポリエステル の染色 Cation Dyeable Polyester -CDP

カチオン染料は、相対的に他の染料グループに比べ蛍光色を含めて鮮明な色相のものが多いことが特徴です。 また、アニオンとのイオン結合も、強酸、強塩基の反応で進むので強い結合力を示し、染料を選べば十分に高い湿潤堅牢度を得る事が出来ます。 (ポリエステル用の分散染料は、CDPにも良好な染着をします。しかし、CDPは通常のポリエステルに比較して熱に弱いため、 その染色においてはポリエステル程の高温はかけられません。このため、分散染料で濃色まで染める事は難しく、コスト的にも高くつきます。 また、カチオン染料の方が昇華堅牢度や湿潤堅牢度も勝りますので、中濃色にはカチオン染料が使われます。)

ポリエステルは、テレフタル酸とエチレングリコールを脱水重合する事で合成されます。 その使いやすさ、優れた物性により現在では最も大きなシェアを持つ合成繊維になっています。 この重合反応の中にスルホンイソフタル酸を 0.8〜4.0%添加し改質することにより、カチオン可染ポリエステルが合成されます。三大合成繊維と言えば、ナイロン、アクリル、ポリエステルですが、 ナイロンはシルクを、アクリルはウールを、そしてポリエステルはコットンを目指して開発されたと言います。 その意味で、このカチオン可染ポリエステルがポリエステルでありながら、 ウールの柔らかさも兼ね備えているという事実は面白い偶然かもしれません。

こうした繊維の進歩と同時にカチオン染料そのものにも進歩が起こっています。
それは、分散タイプの登場です。
従来型のカチオン染料はその使用に対して、様々な使いにくさがありました。これを改良したのが、"分散タイプ" と呼ばれるカチオン染料です。

このタイプは分散型ですので、 染色に先立ち熱湯で練ると言う面倒な溶解工程が要らず、 簡単な撹拌でぬるま湯に分散していきます。染浴中では、分散した状態ですが、昇温中に徐々に分散性が失われ被染物に吸着していきます。 このため、緩染剤や均染剤も必要ありません。また、アニオン性を持つ染料とも相容しますので、混紡品の染色にも同浴で対応できます。
 
最後に、この分散型カチオン染料での、カチオン可染ポリエステルの染色処方例を上げておきます。

60℃で染浴を張り、以下の染料と助剤を入れる。
 x % Kayacryl ED染料 (ぬるま湯で 分散溶解)
 酢酸/酢酸ナトリウムで、pH4に調整。
 0〜3g/L 芒硝
120℃まで下の例を参考に昇温する。120℃で最低30分染色。
染色後は、水洗、またはソーピング。









<補足>
・カーペットやラグなど生産ロットが大きく染色もし難い素材については、紡糸時に染料や高度に微粒化した顔料を添加して行なう原着(原料着色: Gel Dyeing)が広く行なわれています。毛布などは、こうした原着の糸を使う他、更に柄を与える捺染が行なわれます。
・特殊な分野の染色として、メチルアルコールに塩基性染料を溶解し、 その中に(過酸化水素+可視光)の条件で漂白した真珠を長期間浸けて着色する手法があります。(現代では、放射線照射(主としてコバルト60によるγ 線))や安価輸入品などでは樹脂コーティングによる着色も行なわれている様です。)
・アクリル繊維は保温性が大きく吸湿性が小さいため、汗を表面に出しやすい編み構造にして、 速乾を謳ったスポーツアパレルやインナー用途に広く使われています。 また、この逆にアクリル繊維を改質して水分を多く含める様にしたしたアクリレート繊維を、 吸湿発熱する繊維と組み合わせた吸湿発熱素材も作られています。
・最近では、超極細化したアクリル繊維や、機能剤を練り込んだ機能性繊維として、 今までとは違った切り口での販売促進もさかんに行なわれる様になっています。
・アクリル繊維を高温で焼成すると炭素繊維が得られます。


Appendix アクリル混紡品の染色

上にも書きましたが、 アクリルを染める染料は、カチオン性を持っています。 これに対し、他の部族の染料は全てアニオン性を呈します。(バット染料や分散染料も染色の拡散移行段階ではアニオンとしての性質を示します。)  従って、(分散型ではなく)通常のカチオン染料と他部族の染料の混合使用では、イオン結合による沈殿のリスクが常に生じます。 カチオン染料の使用に当たっては、いつもこの事を頭に置いておかなくてはなりません。

ここでは、アクリル/ウールとアクリル/綿の二種の混紡品について、その染法を検討してみます。

(1) アクリル/ウールの染色
アクリルは元々ウールを目指して開発された繊維です。そのため、この混紡品は、普通、温かくバルキーな素材として企画されます。 染色においては、その特徴を残す事が肝心です。 ここでは、先ず鮮明な色領域への処方としてミリング型酸性染料とカチオン染料を併用した一浴二段染法を説明します。

精練   0.5-1.0g/l 非イオン活性剤  室温から、3℃/分で70℃まで昇温、70℃X20分処理。後、ぬるま湯洗い、水洗。

 染色処方   浴比 1:10-30
 ・初浴調整 30-40℃
   2-5%  酢酸アンモニウム  --- pH調整剤 酸性染料としては、少し高めのpHで均染を図ります。 
   1-3% 沈殿防止剤      --- 酸性染料とカチオン染料がイオン結合を起こし沈殿するのを防止します。 
      x%  酸性ミリング染料  --- 鮮明色領域で良好な湿潤堅牢度を与えます。

 ・*10分撹拌した後、1℃/分で、80℃まで昇温。 この昇温中に、酸性ミリング染料を十分にウールに染着させます。

 ・ 0-2% カチオン緩染剤    --- カチオン染料に先んじて投入しカチオン染料の染め足を抑えます。 
    2-3% 酢酸(80%)      --- pHを4.0に落とし、カチオン染料に適した染色条件にすると共に、ウールの還元性を弱めます。 
       y% カチオン染料     --- **十分に溶解した染料を分割添加します。

 ・80℃で5分間染色を続けた後、30分かけ100℃まで昇温、濃度に応じて100℃×20-60分染色。

 ・染色後、20分かけ70℃へ徐冷し液排出。 

 ・水洗の後、必要に応じて***ソーピングを行ないます。
  
  *極淡色の場合、この時間をやや長めにします。  
 **染浴に酸性染料が残っている場合は、酢酸添加とカチオン染料の添加の間に若干の時間を与え酸性染料の更なる吸収を図ります。
***ソーピングを行なう場合は、アニオン活性剤を使用し 60-70℃で行ないます。

この染法は、先にアニオン性の酸性染料をウールに吸尽させ、後からカチオン染料を加える事で、コンプレックスを作るリスクを減じるものです。
酸性染料の選択点としては、アクリルへの汚染が少ないもの、カチオン染料の選択点としては、 ウールへの汚染性が少なく還元に対する安定性の高いものを選ぶ事が大切です。
いずれの場合もメーカーの資料を参考にして下さい。ウールへの汚染性が大きいカチオン染料は、 再現性を損なうばかりでなく耐光堅牢度を大きく低下させるリスクがあります。

極淡色の場合、片染めでも対応できる場合があります。一般的に、酸性染料のアクリルに対する汚染は、 カチオン染料のウールに対する汚染より少ないため酸性染料による片染めが有効ですが、 混紡率や素材の持つ組織によりどちらの見場が良いか試染して決めるのが無難です。
黒や紺などの濃色の場合には、ウール側に、含金染料を使う必要が出てきます。しかし、酸性含金染料での完全吸収は不可能なため上記の方法で、 コンプレックスの生成を防ぐ事は難しく、染法としては、上とは逆に、カチオン染料を先に染め(boilX30-60分)、 70℃への徐冷を経て50℃まで冷却した後、含金染料を加え、再び85-90℃へ昇温しウールを染めると言う、 二浴法に準じた複雑な方法を採らなければなりません。(もちろん、中間にソーピングを挟み完全二浴法で染色しても構いません。)

2) アクリル/綿の染色
ここでは、カチオン染料と反応染料を使用する場合の染色法を検討します。
この混紡品で最も確実な方法は、やはり二浴法で、淡色から濃色まで広い色相・濃度に対応出来ます。

先ず、染色前の精練ですが、綿と同じ精練条件(高温、強アルカリ)では、アクリルに大きなダメージやひどい黄変を引き起こしますので、 上と同じく非イオン活性剤での湯洗いに留めます。
染色に使用するカチオン染料の綿汚染は小さく、反応染料のアクリル汚染もさほど大きくないため、 二浴法においてはどちらを先に染めても同じ様なものですが、反応染料の染色を先に行なった場合、 その反応染料にカチオン染料がかぶる事によりアクリルサイドの濃度が落ちたり、 湿潤堅牢度や摩擦堅牢度の低下を落とす事が経験的に知られています。 そのため、二浴法では、カチオン染料での染色を先に行ないます。具体的な染色処方を以下に示します。

1) カチオン染料でのアクリルサイドの染色。   --- 通常のアクリル染色に準じて行ないます。
2) 徐冷、湯洗いのあと、    2g/L アニオン活性剤 80℃X20分のソーピングを行ないます。
カチオン染料の綿汚染は大きくはありませんが、綿上に残留しているカチオン染料は、反応染料とコンプレックスを作り、 染色再現性を落としたり、スペック染色の原因となったり、日光堅牢度を低下させたりする可能性があり、 それを防止させるためにここでのソーピングを行ないます。(濃色には必須。)
3) 反応染料による綿サイドの染色。
ここでの反応染料の染色は、中温タイプの染料で通常の綿染色条件に準じて行ないます。この温度帯の染料を使うのは、 アクリル繊維への悪い影響を抑えるばかりではなく、一旦染色したカチオン染料が炊きだされ反応染料とコンプレックスを作るのを避けるためです。
4) 水洗の後ソーピング     2g/L アニオン活性剤 80℃X10分。
ここでの、ソーピングは、カチオン染料の吐き出しを避けるため緩めに設定せざるを得ません。その点で、洗浄のし易い付加型の染料 (例.レマゾール)を使います。ソーピングの後は、水洗し、通常の綿染色で行なうフィックス処理を行ないます。

二浴法は確実ですが、どうしても時間と手間がかかってしまいます。
これを簡便に行なうために、カチオン染料と反応染料を使う一浴一段染法もありますが、ここでは、カチオン染料として分散タイプのカヤクリルED染料、 反応染料としてカヤシオンリアクト染料を使用した一浴法を紹介します。

    ・淡−中色     初浴設定40℃
       0-2g/L  カヤキレーター N-1   --- 金属イオン封鎖剤です。
       1-2g/L カヤクバッファー AC   --- カヤセロン リアクト染料を高温固着させるための pH 6.5 を与えます。
           x%  カヤクリル ED染料   ---  ぬるま湯で分散させて加えます。
          y% カヤセロン リアクト染料 --- 高温で溶解して加えます。
       0-20g/L 無水芒硝
 
染色手順  40℃で上記染料・薬剤を投入し10分間処理、15分かけ70℃に昇温、そこから25分間で100℃まで温度を上げ 30-40分染色。 染色後は、70℃まで徐冷し、水洗、湯洗、ソーピングを行なう。

    ・濃色 浴処方は、淡−中色の場合に準じますが、ここで使う無水芒硝の量は、60g/L です。
(カヤクリル ED染料は、多量の芒硝の使用により分散性が壊れる可能性があるため、芒硝の添加の前にできるだけ ED染料の染着を促す染色法を採ります。その詳細は、次の通りです。)
 
染色手順 40℃で染料と (芒硝以外の) 薬剤を投入し10分間処理、25分かけ85℃に昇温10分間染色、20g/Lの芒硝を添加、 10分後残りの40g/Lを添加し10分間処理、25分かけ100℃まで昇温し40-60分間染色。 染色後70℃まで徐冷し、水洗、湯洗、ソーピングを 行なう。

ソーピングは、2g/L のアニオン活性剤を使用し、70℃X10分の条件で行ないます。(濃色ではニ回)

(カヤシオン リアクト染料のビルドアップには限界があり、黒の様な極濃色は出ません。やはり、二浴法を採る必要があります。)

アクリル繊維の混紡には、ウールや綿以外に、ナイロンやポリエステル、レーヨンなど幾つもケースが考えられます。 アクリルサイドは通常カチオン染料が使われますが、ナイロンやポリエステルとの混紡で、極淡色の場合には、 分散染料のみで染める事も行なわれています。その意味で、アクリルがらみの染色処方は多種多様ですが、 ここで挙げた幾つかの例を参考にして、それぞれの場合の最適条件を設定して下さい。