ITMA2015 Milan

(注:作成から10年近く経過していますので、リンクの多くが無効になっていま す。)

ITMAとは、欧州のテキスタイル分野における先進メーカーの集まり CIMATEX(Comité Européen des Constructeurs de Machines Textiles 欧州繊維機械製造連盟) が核となって開催する国際繊維機械見本市 (International Textile Machinary Exhibition) の事で、60年に及ぶ長い歴史を持っておりその大きさからも並ぶものなき催しで、パリ、バルセロナ、ミラノなど EU の主要都市を廻りながら 4年に一度開催される事から、繊維機械のオリンピックとも呼ばれています。 2003年バーミンガム、2007年ミュンヘン、2011年バルセロナに続く今回は、欧州テキスタイルの本場イタリアミラノで 11月12日から8日間に渡って行なわれます。 近年テキスタイル産業の生産地が東アジア地域にシフトした事から CIMATEXでは、2001年から、アジア地域で同様の繊維機械見本市を開く必要性に迫られ、2001年と2005年に シンガポールにおいて二回の ITMA ASIA が開催されました。その後、2008年からは、場所を上海に移し、中国国際繊維機械展 CITME(CHINA INTERNATIONAL TEXTILE MASHINERY EXHIBITION)と共催する形で、 2年ごとに ITMA ASIA+CITME を開催しています。ここで、2014年度のITMA ASIA+CITMEの出展企業リストを見ると、参加企業・団体は、1,500を超えていますが、その内 1,000超が中国企業・団体(台湾を除く中国本土・香港の企業・団体)ですので、中国人による中国人のための見本市と言う感はぬぐえません。

ITMA2015 MILANO 出展者

これに対し、ITMA 2015の出展者リストを見ると、その出展数は、協会関係者を除いて 1,643(10月15日現在)を数え、中でも 地の利があり繊維産業の盛んなイタリアからの出展が 27%(443)と一位を占めるものの、以下、ドイツ 14%(234)、中国 12%(193;本土181+香港12)、インド 9.6%(157)、 トルコ 8.4%(138)、スイス 3.8%(62)、スペイン(57)・・・ と 46の国や地域からの参加者で構成されており、より “国際見本市” の名にふさわしい気がします。ちなみに、日本からの参加は、29企業/団体(1.8%)であり、台湾 36(2.2%)、韓国 34(2.1%)より少なく、フランス(33)に次ぐ規模となっています。ちなみに、前回 ITMA 2011 における出展者は公式発表で1,355者(45カ国)で、イタリアからの出展者が321ですので、割合的には24%と、 今回のイタリアからの出展者が異常に多い訳ではありません。 こうした巨大な見本市では、 1ブース各10分で見て回っても、16000分→ 267時間かかる訳ですから、事前に的を絞っておかないと、二日や三日の見学では、ほとんど何も得られません。 異国の地で、日本企業の出展者と懐かしく言葉を交わし時間を潰すのが関の山です。

そこで、時間を有効に使うのに手掛かりとなるのが、それぞれに付いている 「Chapter 番号」です。ITMAでは、繊維加工に関するカテゴリーを幾つものChapterに分け、今回のミラノでは、右の19 の区分に従って展示されました。その各々の*出展数を見ると、一位が染色関係の Chapter 8 の301 であり出展全体のほほ2割に及んでいます。以下、Chapter 1 紡糸・紡績等 282、Chapter 4 紡織機関連 180、Chapter 5 編み関連 127 と続き、5番目に多いのが、Chapter 9 の捺染関係の、110 です。もちろん、紡織機や紡績機は、展示に広いスペースを必要としますので、 展示数がそのまま展示スペースの大きさを表す訳ではありません。
*出展数: 一企業で複数のチャープターに展示を出す場合があり、出展者数と出展数は必ずしも一致しません。

今までそうであった様に、この見本市の終了後、日本繊維機械学会の報告書や業界紙でそのハイライトが発表されると思いますので、 お難い内容はそちらにまかせ、 このHPでは Chapter 8、Chapter 9 の出展企業の製品を中心に、私自身が興味を持った幾つかの染色機やシステムについて触れてみたいと思います。説明を分かり易くするため、 出展者のWebページや動画を可能な限りリンクしますので、是非ご自身の目でも確かめて下さい。

Chapter 8 浸染・連染

Chapter 8 の出展総数は、上にも挙げた 301 ですが、その国別内訳ベスト5 は、@イタリア 112、Aドイツ 42、Bトルコ 36、 Cインド 21、D中国 19(本土 16+香港 3)となっており、この5者で、四分の三に達します。 ちなみに、日本からこのチャプターへの出展者は、日阪製作所ただ一社です。
この内、約70社が染色機を製造していますが、中には、パッドバッチ用 Padder や Jigger だけしか取り扱っていないメーカーもありますので、多くの先進国染色機メーカーがこぞって参加していた昔の姿を思うと少し寂しい気がします。
染色機メーカー以外は、精練・漂白レンジや乾燥機、後加工用パッダー、テンター、更には、自動化支援企業やマテハン関連、パーツメーカーまで、 雑多な企業が参加していますが、生地に特殊風合いを与える起毛機や洗浄機、あるいは、防縮加工機が目に付くのも、 イタリアと言う風土のなせる技なのでしょうか。中国検閲,法輪功,チベット,人権, 反共産主義,台湾独立,民主主義,多党制,共産党独裁,専制,漢民族独占,東トルキスタン,新疆ウイグル自治区,独立運動,弾圧,高智晟,銅鑼湾書店
染色機の中心となる液流染色機において、空気の流れを利用する Aerodynamic technology が提唱され既に30年以上の時が流れ、今では、Then の Air-flow や、Thies の Luft-Roto ばかりでなく、中国やトルコなどの染色機にも “エアジェット” の言葉を付した機種が多く見られます。
これに限らず、新機能に対するアイデアは、1999年の ITMA Paris 迄に出尽くした感がありますが、 これだけ大きな機械展になると、新奇さで目を引く染色機がなお現れてきます。 特に、高性能で価格の安いマイクロプロセッサーがふんだんに使える世の中になった事で、デジタル技術を活かし、染色の制御ばかりではなく、 染色後の洗浄、次浴の準備・液替えに至るまで多面的に省力・省資源を推し進める染色機の登場が期待出来ます。

ここで、ITMA2015 にノミネートしているメーカーが作ったユニークな液流染色機を幾つか挙げてみます。
ALLIANCE MACHINES TEXTILES(仏)  RIVIERA ECO+ この染色機も、エアジェット駆動メカニズムを持つ縦型液流染色機で、1:2/1:3 と言う低浴比での染色を可能としています。この低浴比でできる被染物のロープムラを防ぐため、従来は Pad-batch や Tubular Knit のシルケットで使われてきた “バルーニング” の手法を液流染色機に取り込んでいます。(なお、この染色機は、 EXOLLOYS ENGINEERING(印)のHPにも出て来ます。)  
    RIVIERA ECO+
・この分野では老舗であるBRAZZOLI(伊) の大型液流染色機では、低浴比での下部液溜りの染液の均一化を目指し、 従来の縦方向に加え横方向からの染液注入を行なう新特許技術 “INNOTECHNOLOGY” を採用しています。(ちなみに、今回のITMAに出展はしていませんが、中国にTEXLINK と名のメーカーがあり、その “even-flow” と言う技術は、コンセプトも見取り図もこれに酷似しているのですが、二社の関係はよく分かりません。OEMで生産委託でもしているのでしょうか?)

TONG GENG (台)の 綿用常圧液流染色機 NOV では、その内部にモーターの力を借りない Self Rotating Chamber (特許)を有する事によって、30%のエネルギー削減を成し遂げただけではなく、 1:5 の低浴比においても、Max. 450M/min の速度で被染布を流せるとの事です。50〜500gr/m2の幅広い目付の生地にも対応し、擦れによる表面荒れやピリングも少ない ため、 綿100%だけではなく、レーヨンやウール、スパンデックス混の染色にも最適だと言います。見取り図がないので、 この Self Rotating Chamber の構造がどの様なものか分かりませんが、ITMA に行かれる方はお見逃しなく。
JUVER(スペイン)は、試染用の小型機が得意なメーカーです。 同社の TURBO JET HT は、縮み易く皺になり易い生地、組織的に前セットが難しい生地、表面荒れが起きやすい生地等、 低浴比でラピッド染色をするのが難しい生地に特化したユニークな横型液流染色機です。 
ちなみに、
・Then(独)は、AIRFLOW SYNERGY として、AIRFLOW を中心に据えた工場全体のマネジメントを提案しています。
・Thies(独) Luft-roto は、現在 Luft-roto plus SII にまでアップグレードされています。

LAIP(伊)の Nautilus はエアジェットを使わず水だけで低浴比染色を実現しようとする染色機で、その名「ノーチラス」にふさわしく、潜水艦を思わせる外観を持っています。 リンクページに仕込まれているビデオを見れば分かりますが、 その内部の生地送りにはアッと驚く方法が採られていますので、(PCによっては、ストリーミングに少々時間がかかりますが)楽しみながら見て下さい。 一見の価値は有ります。

液流染色機以外も幾つか紹介します。
C.D.B.(仏)は、ルーズ・ ストック染色綛染め のそれぞれに、新しいコンセプトによる合理的且つ近代的な染色を提案しています。
浴比感受性のため小ロット化への対応が難しい分野でも幾つかの染色機が開発されています。
POZZI (伊)は、 POLY-P-ONE modular dyeing machine と呼ぶシステム機で、複数の小パッケージを同時に使用したり、別々に使用する事で小ロット化と同時に多色対応も行なおうとしています。
UGOLINI (伊)では、ビーム染色で小ロット対応ができる SP Torpedo システムを示しています。

・きめ細かい対応で定評のある FLAINOX(伊) は、 ウール素材用製品染め機 AOM/C-WOOL も開発しており、その外観は、従来の製品品染め用染色機と大きく異なっています。
・同じく製品染めの分野で GRANDIS (伊)からは、"ATC" Static dyeing machines と呼ぶ脱水槽一体型の染色機が出ています。一見パッケージ染色機とも見えるこの染色機の面白さは、動画からもよく分かります。

さて、ここからは、新奇性はないかもしれませんが私自身が見た事が無く、興味を持った染色機を動画で見ていきます。
ANTEX SAS (伊)によるス ペース染色機つまり一本の糸を何色にも染め分ける手法が幾つか映されています。(その内あるものは、ビゴロプリントの現代版 とも言えるものであり、またあるものは、 ポリクロマッチックダイイングを彷彿させます。) 同様のコンセプトを持つ染色機(捺染機?)は、 CEDİT MAKİNA(ト ルコ)からも出されています。 (上のスペース染色機の動画は削除されましたので、代りに彼等のITMAでの動画を入れておきます。)
・上の液流染色機 Nautilus で紹介した LAIP(伊)は、ここでも興味ある染色機?を展開しています。ページ中にビデオあり。 T4C   

連染分野での新しいアプローチは、私が調べた限りでは見当たりません。
ただ、パッダーそのものに関して言えば、KUSTERS (独)に関連する数社が、swimming roll として素材に合わせて形状を調整するマングルに注力しているのが目に止まりました。 もっとも、これについても私が知らないだけで、業界では以前から使われているマングルなのかも知れませんが。

連染と言えば、インジゴ染めを拡布状で行なう連続染色機が。MEMNUN MAKINA (トルコ)から、MKB -2000 と言う品番で出されています。ロール幅は、200cm で、平均加工速度は、20m/分と言います。(この企業のHPは、時々見れなくなります。もし、見れなかったら、時間をおいて再度試して下さい。 いずれにせよ、この染色機が会場に展示される事はないと思いますが・・。)
従来のインジゴロープ染色においては、環境対応を高める為、苛性ソーダやハイドロサルファイトの削減、 洗浄時の水処理の軽減を可能にする窒素使用技術が、INDIGOGENIOUS (特許)として、MASTER(伊)から紹介されています。(同様の窒素使用技術は、Chapter 9 に名のある、Looptex(伊)も持っている様です。)

Chapter 9 捺染

Chapter 9 における出展総数は、110 で、ベスト5 は、@イタリア 28、A中国 19(本土16+香港3)、Bインド(10)、Cトルコ(9)、Dスイス、オランダ(共に 5) です。ただし、日本企業に関して言えば、エプソン、ローランドの二社がイタリアとして出展しているだけではなく、 ミマキがオランダ、ムトー(武藤工業)がベルギーの企業として登録されていますので、リストにおける四社 (フジフィルム、コニカミノルタ、ミヤコシ、東伸工業)に加えると今なおそれなりの勢力である事は間違いありません。 また、多くの企業で、自社機に日系メーカーのプリントヘッドを搭載している事も付け加えておきます。
Chapter 8 では、実際に染色機を製造・展示しているメーカーは、全体の四分の一以下でしたが、Chapter 9 では、約半数が捺染機を製造しています。しかし、その内容を見ると、インクジェットプリンターしか製造していないメーカーが 34 も含まれており (Chapter 8 にも IJ を取り上げたメーカーが二社ありましたので)従来の “有版捺染” のデジタル移行が一層鮮明になっています。

上でも書いた様に従来のスクリーンプリンター分野では、Flat-bed、Rotaly 共、目新しい捺染機は見当たりません。特に、IJ 機も手掛けている所はそちらに軸足を移そうとしている姿勢が明らかで、数年来新規機種は発表していません。その様な状況下、 捺染面でのボリューム感が重要な製品捺染用のスクリーンプリンターがやや目につく程度です。
ROQ (ポルトガル)    Oval Evolution

M&R(米)    Abacus II    Diamondback     Predetor LPV
浸染分野の染色機でもIT 化が大きく進んでいる事は、従来型有版捺染の分野でも同様です。インクジェットの大きなセールスポイントが、 現場環境の改善ですので、こちらもそれに対抗し小奇麗な捺染機が紹介されています。
MHMS(オーストリア) は、ERA12 と名付けたRotaly Printer を展示する予定です。ほとんどの操作を自動化し、 今風のタッチパネルオペレーションを基本としています。 
(この分野では、当初展示を予定していたスイスの老舗 Busserが、急遽参加を辞退した事が象徴的です。)

インクジェットの分野では、このHPの第18章で予想した様に大型機で生産速度を競う時代は終った様です。「18. デジタル捺染 -世界の新鋭機」
その内容を振り返りながら、今一度、それぞれの現状を見てみましょう。 
Reggiani の、ReNOIR は、今までに世界で数十台売れたそうです。現状は、そのReNOIR と共にそれを若干小型化した ReNOIR-Compact に力を入れている様です。(2017年の段階では、“compact” の名は、転写紙用の機種に使われています。)    ReNOIR         ReNOIR-Compact
・Stork(オランダ) は、既に、spgprints と社名を変えています。その 紹介ビデオ(こ の動画は削除されました。)に、数秒 Sphene らしき映像は出ていますが、同社のHPを見ても Ruby V-II (他社からのOEM品)のカタログしか見つかりません。(2017年には、この機種も販売中止されている様です。)。
Durst (伊)は、捺染精度を上げるべく前回のITMAで紹介した Kappa 180 のプリントヘッドとその配置を改良した様ですが、生産速度 Max.580m2/hour そのものは上げていません。捺染幅を広げた Kappa 320 では、生産能力が Max.890m2/hour となっており大幅に上がっている様に見えますが、捺染幅がほぼ倍になる事で、 折り返し回数が大幅に減る分ヘッドの*有効吐出時間と距離を稼げる訳ですから驚くべき数字でもありません。 (2017年現在両機種共紹介ページがなくなっており、代わって、Alpaシリーズが展開されています。)    Kappa 180
*折り返すためにタイムラグ(時間)が必要な事は、 容易に理解できると思いますが、柄への “色差し” を完全にするためには少なくとも1ヘッド分行き過ぎなくてはなりません。その分更に時間と距離が無駄になります。  (インクジェットプリントにおける プリントヘッドの動き。)
Zimmer (オーストリア) は、今回の ITMA でも引き続き Colaris を最上級機として扱っています。   Colaris
・2011年に登場した MS (伊)の LaRio は今なお世界最速のインクジェットプリンターです。しかし、私が知る限りLaRioは、中国の山東如意科技集団有限公司に一台売れただけです。 (山東如意科技集団有限公司と言っても分からないと思いますが、レナウンを買った会社と言えば合点がいくと思います。 伊藤忠とも資本提携しています。)これだけの規模の企業で、生産も販売も共に行なう訳ですから、LaRio の高い生産性を活かす余地はありそうです。いずれにしても、MS にとって、“世界最速” と言うフレーズは、それ以外の機種を販売する大きな助けとなる事は間違いありません。 ちなみに、MS は、LaRio を始め複数のプリンターでオープンインク方式を採っている様です。
・Osiris Inkjet System に関して言えば、2011年にその全てがTenCate に引き継がれたと言うニュースが最後、かつてその中心企業であった Xennia (英)自身もITMAへの参加を見送ってしまい、その現状は、 インターネットでも探れませんでした。   Osiris ISIS
日本の大型高速機についても調べてみましたが、やはり同じ様な状況の様です。
・コニカミノルタにおいても、今回のITMAに、NassengerPRO 1000 より更に上位の機種が登場する*気配はありません。     NassengerPRO 1000

・クラボウとミヤコシが共同で開発した DynaPrint 400 (開発品番TXP 18A) は、和歌山染工に納入された実績(2009年度)はあるものの、それ以後のActivity は聞きません。
追記 10/25   新聞発表によると、コニカミノルタは、NassengerPRO 1000 より更に生産効率の高い、「ナッセンジャー SP-1」 を本ITMAで展示する様です。同IJ機は、LaRio や Osiris ISIS と同じくシングルパス方式を採用する事で、生産速度を上げていますが、同時に同方式での低濃度を補うべく、 三段階でのインク吐出を行なっています。(このIJ機の “SP” は、Single Pass から取っていると思われますが、シングルパスでは、 全巾に渡ってプリントヘッドを配するため折り返す必要が無く高速化が計れます。 反面、付着量を大きくするためインク吐出量に対する工夫が必要です。) 11月のITMA2015が始まれば、もう少し詳しい情報が入ると思います。

と言う事で、インクジェットの主流は、依然として生産性を追求した大型機ではなく、より小回りのきく中型機(〜小型機)だと思われます。 しかし、その領域は百花繚乱で、正直な話、他を圧して優秀な機種があるのかないのか良く分かりません。 いずれにせよ、それなりのインクヘッドがうまく使われてさえいれば、それ相応の仕事は出来そうです。例えば、A-TEX ULTRAJET(マレーシア)の、DPM-K24 は、24個のヘッドを使用し、Max.600m2/hr の能力を示します。こうした点から考えれば、 結局、メーカーからの技術サポートと供給/価格を含めた使用インクの良し悪しで自社用の機種を選ぶのが正解であると思います。(上の“DPM-K24”の パンフは既に削除され、2017年現在、最高位の機種として、32個のヘッドを持つMPM-K32
Max.800m2/hr )が販売されています。)

ここで、今回の出展各社のHPを見て、インクジェットの分野で私なりに興味を持った三つの機械を紹介します。 もし、会場に展示されていたら是非見て下さい。 
KORNIT DIGITAL(イスラエル) Allegro     このIJ機は、今回のITMAで私が最も興味を持った捺染機です。“ゼロエミッションプリント” は誰しも興味を持つ所ですが、このIJ機は、460cm(幅)X 699cm(長さ)X 214cm(高さ)の限られた空間でそれを成し遂げます。正に、生地をセットしボタンを押せば必要な全ての工程を済ませた捺染物が出て来る世界です。 しかも、その速度が Max.300m2/hour と言う事ですから文句のつけ様がありません。
      Allegro
同機は、Spectra Polaris(フジフィルム)のプリントヘッドを64個(内カラーインク用には56個?)使って大ヘッドとしていると思われますが、 これだけヘッド数を増やすと顔料インクと言えどもかなりの濃度まで行けそうです。当然、固着樹脂とそれに使用する触媒を厳選したに違いありません。 これが、「Inline fixation agent」 と言う聞きなれぬ単語を使っている理由でしょうか、通常の前処理剤とは一味も二味も違いそうです。(ちなみに、KORNITの製品は、 日本では上野山機工(株)が扱っており、Allegro は既に日本でも紹介されています。)

TEK-IND (伊)は、ALFA DIGITAL と言う名前で、製品捺染にスクリーンプリントとインクジェットを組み合わせたハイブリット?機を展開しています。 この動画で見る様に、下地が濃い素材に白色顔料を十分量置く為の現実的な方法だと思います。 ただし、それぞれの絵柄に合わせ下地用の紗を用意する必要はあります。
・顔料使用のインクジェット分野では、将来の環境対応を旨に、UV硬化樹脂対応に特化した機器が、IQDEMY (スイス)から出されています。下の動画で取り上げている対象は繊維ではありませんが、環境面から考えると意味あるアプローチと言えるでしょう。
    IQDEMY Maglev printer

Zimmer Austria は、インクジェットでは(付着量が少なく)対応できない、毛布などの厚手素材に、クロモジェット を奨めています。(18章参照)

インクジェットを離れて、単に知識を増やすための情報です。
PURDE MAKINA(ト ルコ)のローラー捺染機。私が知っているのは昔のドラム型なので、こうした縦型は始めて見ました。   縦型Roller Printer
・これも話では知っていましたが、現物を見たのは初めてです。フロック加工と言い静電気と接着剤を利用し、布や金属の表面に極く短い毛を植え付けます。     MURATEX TEXTILE (トルコ) FLOCK PRINTING MACHINE

FOCUS LABEL からは、フロキソ (樹脂製凸版)技術応用のラベルブリンターですプレート作成機と共に使用すると、安価に高速でラベルのプリントが出来ます。      LX     プレート作成

その他 染料、助剤メーカー など

Chapter 15 は、いわゆる染薬助剤メーカーが属する Chapter です。着色材料としては、染・顔料だけでなく、 原料着色(繊維製造時に行なう着色)に使うマスターバッチのメーカーやフロック加工用の微小繊維を扱っているメーカーまであります。
時代を反映して、染・顔料メーカーの多くは、インクジェット用のインクの開発にも力を注いでいます。中には、IJ 用インクに特化し複数のメーカーのプリントヘッドに合わせた製品を販売している KIIAN DIGITAL(伊)、HONGSAM DIGITAL TECH (中)や、EPSONと共同で、インク開発を行なう FORTEX (伊)も出展者リストに含まれています。(同様に、各社のヘッド用インクを開発しているSTS INK(米) が、Chapter 9にノミネートされています。同じくChapter 9には、インクジェット用の転写紙を販売するFELIX SCHOELLER(独)が展示ブースを設ける様です。)

染料については、中国やインド、インドネシア、台湾、トルコなど新興勢力のメーカーも数多く出展していますが、ここでは、日頃からなじみの深い三メーカー の染料・染色エリアでの動きを見てみましょう。
Huntsman  -HP を見てると、新規反応染料として2010年から展開している AVITERA SE を引き続き大きく宣伝するものと思われます。(しかし、これは染色機を含めたシステムオペレーションを基本としていますので、 日本でそのまますんなり使える訳ではありません。) 酸性染料では、従来からあるLANASET 及び ERIOFAST (ナイロン用反応染料:ナイロンカーペットの連染)の補完レンジとして、特にナイロン/スパンデックスの染色に的を絞った LANASET PA が作られましたが、AVITERA 程には力を入れていない様です。
Archroma(旧クラリアント色材部門)  -HPでの染料レンジを見る限り、従来分野で新規な染料は見当たりませんが、本ITMAに対して、幾つかの話題 を用意しています。染料に関して言えば、先ず、デニム用途に天然由来成分から抽出した染料を、EarthColors として紹介します。また、インクジェット分野に対しては、inkpresso として、画期的な技術を発表をするとしています。 その他、助剤分野でのアプローチ・商品も用意されていますのでITMAに出かける方は一読しておいて下さい。
DyStar   -昨年同社から Remazol SAM として11の染料からなる新レンジが発表されました。分散染料の分野においても、7つの染料からなる Dianix XF2 レンジが発表されています。それ以外にも数種の新染料が発表されていますので、 (古いポケットから探し出したものもあるにしろ?)大したものだと言うのが私の率直な感想です。 今回のITMAに当たって、これらの新レンジ、新染料をより大々的に宣伝するのではないでしょうか。 もう一つ、15年春に、現在唯一超臨界染色を推進している DyeCoo への染料供給の 契 約 が、成されました。これについて言えば、Huntsman と疎遠気味の DyeCoo と、ITMA への話題を一つでも増やしたい DyStar の思惑が一致したと言うのが最もありそうなところです。

最後に、私が興味を持ったトピックを付け足します。
HEIQ (スイス)     同社は、2004年設立の新しい会社ですが、ポリエステルへの染色促進剤 DYEFAST を発表しています。 半信半疑な部分も多分にありますが、その謳い文句 を聞いただけでも、ダメもとで検討する価値はありそうです。ただし、当然ながらMETI Positionは不明です。

おわりに

以上、私の独断と偏見で見たITMA 2015 出展者チェックは終了です。テキスタイル分野の技術的発展はほぼ終わった様に思えますが、これだけ大きな見本市となると何かしら新しい発見があります。 しかし、 ITMA の様に広い会場では、十分な下準備をしておかないと、ただの物見遊山となり、肝心のものは見れません。 その準備に少しでもこれらの情報が役に立てば幸いです。また、私も含め ITMA に行かない多くの人にとっても、これを機会に、今の世界にある多くの技術に接する事は決して無駄な事ではありません。 (私自身は、この章をまとめるのに500に及ぶ企業のHPを訪ね、楽しく時を過ごしました。)

このHPの内容を追って、上の各項では、染色機や捺染機を主体に紹介しましたが、今回の ITMA 出展企業への探訪で、より印象に残ったのは、 素材そのものの持ち味を極限まで引き出そうとするイタリアテキスタイル業界の飽くことなき姿勢でした。 具体的に言うと、とっくの昔に確立された筈の起毛や物理的風合い加工の分野で、なおそれを改良しようとする様々な機器に出会えた事実です。 心底、彼等の懐の深さを見た気がします。

次回、2019年のITMAは、再びスペイン バルセロナで開催されます(20-26 June 2019)。それまでにテキスタイル分野でどんな新しい技術が生まれるのか楽しみに待つ事と致します。

追記 2015/12/5

ITMA 2015 の閉会から半月が過ぎ、当時の様子を示す映像が出て来ました。 それらを追いながら実際にはどの様な内容であったか簡単に振り返ってみます。 (映像は、広く世間に公表されていて、著作権問題が起こり難い YouTube のものを使用します。)
今回のITMAのメインテーマは “SUSTAINABILITY” と言う事で、下のプロモーショナルビデオでは、その面でインパクトが強いデジタルプリントが主たる話題として取り上げられています。 逆に言えば、浸染分野に大きな動きがなかったと言う事でしょうか? 思い描いていた通りです。
    ITMA2015 Primotional video

ITMA 2015 Day 1 Highlights 第一日目はトップ映像にふさわしく人目を引く大型デジタル捺染が並びます。私自身は、 プリント速度を追うシングルパス機の必要性には疑問をもっていますが、是非はともかく、 衆目を集め、技術力をアピールするための大きな広告塔になる事は間違いありません。ビデオに登場するのは、順に、 MS LaRiospgprints の PIKEKonica-Minolta Nassenger SP-1 です。この内、私が事前に関心を持たなかったspgprints の PIKE
(Fujifilm Samba print heads 使用) は、 一号機が、ドイツの大手捺染企業KBCで、来年四月から、続く2号機が、ポルトガルの Adalberto Estampados で、来年後半から本生産に入ると言います。いずれもそれぞれの国で最大手の捺染企業です。 (それにしても、日本と似た生産構造を持つ EU の捺染企業において PIKE が受け入られると言うのは一つの驚きです。) これが、長年彼等と信頼の絆を培ってきた、spgprints (=STORK)の底力と言うものかもしれません。 (PIKE を含めた同社のプロモーショナルビデオが新しく作られています。 なかなかスマートな作りになっていますので参考までにリンクしておきます。 → Sustainability video SPGPrints 2015 (この動画は再生できなくなっています。))
LaRio のインク吐出量は、4-72pl となっているのに対し、PIKE は2-10pl となっています。また、映像でのアーチ数は、LaRio が8列、PIKE が6列です。生産速度は、平常運転時で、LaRio 35m/分(max. 75m/分) 600×600dpi、PIKE 40m/分(max. 75m/分) 1200×1200dpi となっています。PIKE については、各アーチ毎に43個のプリントヘッドが使われているそうです。 それらの配置がどのようになっているか大いに興味ありますが、映像を見る限りでは分かりません。 (シングルパスといえども、使っているヘッドの構造、並べ方によって、同じ場所に複数回インクを吐出する事は可能です。) Nassenger SP-1 については、公表数値データーがないので、性能面での比較は出来ませんが、捺染速度を上げる一方、それによる不良反の大量発生を防ぐため、 ノズル詰まりをカバーする画像処理技術を盛り込むアプローチを加えています。(これは他社にはない優れた特徴です。 この点に対する英語の説明が十分理解されれば良いのですが・・・。) 今の所、成約話は出ていませんが、イタリアのコモに自社のデモ・センターを設け公開するそうですので、興味を持ったユーザーが訪れる事でしょう。
いずれにせよ、これら高速デジタル捺染機が次回ITMAまでにどの程度世界に広がるのか先入観を捨て見守る事に致します。

ITMA 2015 Day 2 Highlights
 続く二日目は、ニットエリアの話題で始まります。 そのハイライトは島精機のホールガーメントシステムです。 先進国におけるファッション産業の一つの行き方を示しています。この日も締めくくりはReggiani と Zimmer のインクジェットプリンターです。ちなみに、最初の Reggiani のプリンターには、大きく “NEXT” の文字が打たれていますが。映像を見、説明を聞く限り、この機種は同社のHPに出ている Reggiani “ReNOIR-COMPACT” だと思われます。
(ニットセグメントで、これらのITMA Highlights から離れて、私が興味を持って眺めたビデオが一つありますので、紹介しておきます。Santoni ITMA 2015 Denim Addicted project

ITMA 2015 Day 3 Highlights
 三日目は、先ず、不織布の製造機が大きく取り上げられています。これに続いて、Alpha Ink Jet (米)からのインクジェット用水性顔料インクへのコメントが入っています。不思議な事に、この企業は、ITMA2015 の出展者リストには入っていませんが、そのコメントを聞く限りにおいて、同社の新レンジは濃度・色相・堅牢度の三拍子を満たしているとの事。 本当ならば、私が18章で予言した新世代の顔料インクに一歩近づいたのかもしれません。 最後は、染料メーカーとして Archroma が取り上げられています。同社が会場で発表した内容を、染色技術者の目で見れば、(
確かに一般受けはするでしょうが)何ら新規性はありません。結局の所、 本ITMAのシンボルワード “持続可能性” に的を縛って行なったマーケティングの勝利(対ダイスター/ハンツマン)と言えるでしょう。

ITMA 2015 Day 4 Highlights
 四日目の映像もインクジェットの話題から入っており、製品への直接捺染を主分野とする Kornit が大きく取りげられています。後半になり、やっと従来型染色機メーカー SUNTEX(中) が登場しますが、内容的には、後加工や織機に関するもので、浸染用染色機に関して新しい話は何も出て来ません。(この辺りで、御愛嬌に、DyeCOO の “D” の字一つ位出て来てもよさそうにも思いますが、気配すらありません。)


ITMA 2015 Day 5 Highlights
 最後の五日目は “SUSTAINABILITY” に関連して、畜エネルギー繊維や、ECO-tex など、技術的に興味はありますが、染色加工からは少し離れてしまいます。そして、ここから、産業用途として、ラージフォーマット用の Aleph の LaForte がちらっと写り、最後は、EPSON がロブステリ社と共同開発した産業用インクジェット捺染機の「モナリザ」の新型機二種で締めくくられています。(リンク先の“モナリザ”は、2017年段階のものですの で、ITMAで発表されたものと同じではありません。)

以上、これらのビデオを見る限りにおいて、今回のITMAは、 インクジェットに始まり、インクジェットに終わったと言っても過言ではありません。

しかし、アークロマの資料ではインクジェットでの現行の生産量は、年間200億m2の捺染生産品の内、僅か2%と言う事です。
“More than 20 billion linear meters of printed textiles are produced every year. Currently, only around two percent of these are made using digital printing techniques.”   by Archroma Home Page  2015年12月5日現在

現実には、我々の回りを見ても、捺染物の比率は、浸染で染められた物に比べると極く僅かです。
これを無限の可能性と捉え、テキスタイル業界全体の地図がインクジェットにより大きくに塗り替えられると思えないのが、正直悩ましい所です。

今後出て来るであろう、会場に実際足を運ばれた方々の報告書が、この追記以上のものをもたらす事を願って止みません。