ITMA2023 Milano

ITMAとは、欧州のテキスタイル分野における先進メーカーの集まり CIMATEX(Comité Européen des Constructeurs de Machines Textiles 欧州繊維機械製造連盟) が核となって開催する国際繊維機械見本市 (International Textile Machinary Exhibition) の事で、60年に及ぶ長い歴史を持っておりその大きさからも並ぶものなき催しで、パリ、バルセロナ、ミラノなど EU の主要都市を廻りながら 4年に一度開催される事から、繊維機械のオリンピックとも呼ばれています。 2011年バルセロナ、2015年ミラノ、2019年バルセロナに続く今回は、再びミラノで 6月8日から6日間に渡って、44カ国1600に及ぶ展示参加企業・団体を迎え行なわれます。
3年に及ぶコロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻、欧州における最重要テキスタイル生産国の一つトルコで起こった大地震 と、人々の暮らしに逆風吹きすさぶ中、ITMAは、これまでのお祭り騒ぎを離れ変貌を遂げるのでしょうか?
長年蜜月の関係が続いていた "コピー天国" 中国との間で、どう知的財産係争に折り合いをつけるのか? ここも注目に値する所です。

このHPでは、“染色” に的を絞って話題を追って行きます。 全容については、“ITMA2023 MIlano 公式ページ” からどうぞ。

Chapter 8 浸染・連染

Chapter 8(繊維加工関連) の出展総数は、(複数ブースを予定している企業をまとめると)436(2019年4月30日時点)ですが、その内訳ベスト5 は、@イタリア 146、Aドイツ 66、Bトルコ 62、C中国 34(本土 30+香港 4)、Dインド 28 で、前回と同じくこの5者で、ほぼ四分の三を占めています。 ちなみに、日本からこのチャプターへの出展者は、ニッタ業株式会社(コンベアーベルト)一社です。

この内、126社が染色加工機器関連のChapter 8-2に登録されており、Chapter 4-1-7 インジゴーのワープ染色での出展予定企業を加えると、132社になります。国別ベスト5は、@イタリア 34、Aトルコ 24、B中国 18(中国:本土 14+香港 4)、➃ドイツ15、 Dインド 8 で、以下、スイス 5、USA/スペイン 各4 台湾 3、 と続きますが、前回と同じくパッドバッチ用 Padder や Jigger、更には、試験室用機器、各種センサーメーカー、コンサルティングやマテハン関連、ボイラーメーカーまで参加していますので、 この数の差が直ちに染色機での国別技術力を表わしている訳ではありません。 (日本からの出展はありません。)

このChapter 8-2 の出展企業にアクセスするには、公式ページから、上部にある「EXHIBITORS」 → 中程まで下りて 「View Exhibitor List & Floorplan」 → 「Exbibitor List」→ (サーチ画面へと進み)この内「Chapter 8:Finishing」の中にある、 「8.2 Dyeing machines and apparatures」をクリック、表示される染色機・項目を指定したのち( Search )をかけます。 ちなみにここで分割されているのは、8.2.1 Continuous dyeing lines for tows and tops から 8.2.26 Other dyeing machines and apparatus までの26分野です。さて、サーチして示される、各出展企業のアイコンをクリックすると、上部左側にあるのは、“地球儀”マーク、 これで(殆どの場合)、その企業のHPが開きます。(終わったら、左上端の “X Close” で、元に戻ります。これらの動作に「Log-in」は不要です。) 余談ですが、最近では、各言語間での自動翻訳機能も少しは使えるものになって来ています。

既に前回までのまとめでも書いた様に、浸染、連染分野での新染色機へのアイデアは、殆ど出尽くしており、 今回も、出展メーカーを問わず、従来手法の延長上にある低浴比、水・エネルギーの省力化、AIコントロールを通して「SDGs/二酸化炭素削減」 を競っています。

その意味で、特に紹介すべき斬新な染色機が現れる事はないと思います。
それでも各社のホームページアドレスにアクセスすることによって、染色における世界の潮流や、 最新機をご自分の目で確かめる事が出来ます。 (ホームページには、それらを使用している “動画” も所々にあります。日々の作業に余り役に立たないかも知れませんが知識を高める為には有効でしょう。)

参考に、私が興味を持った数社を羅列しておきます。
   A. MONFORTS TEXTILMASCHINEN GMBH & CO. KG (独) 
  DyStarのEcontrolや、Econtrol T-CAプロセスが述べられているのが、懐かしかったです。
   ACME MACHINERY IND. CO., LTD. (台湾)   (コンベアードライブによる L.R. 1 : 2.5〜3.5 での染色。)
   ALLIANCE MACHINES TEXTILES (仏)   ROTORA、RIVERA、 FUTURA、 COLORA、VENTURE とユニークな名の各種染色機を展開。
   CARE APPLICATIONS, SLU(Spain)   染液の噴霧システム(by ECOFinish)により水の使用を激減との事。(製品染め)
  反応染料にも有効であるとの事であるが、ミセル内部への染料拡散手法、アルカリ添加、固着後の詳細については不明。)
    (噴霧システムによる染液付与については、こんな映像もありました。 IMOGO AB(スウェーデン)
   COLOURIZD LTD.(香港)  ウオッシュダウン様製品への糸染め
   DANITECH ENGINEERING AND SOLUTIONS SRL (伊) 
     総合染色管理システム“SEE-DO”による一発率の向上を目指す。pH や塩濃度も管理。
   DYECOO TEXTILE SYSTEMS (オランダ)   お馴染みの超臨界染色。
      2年前の映像ですが、 ベトナムの染工場で撮影された映像が ありました。
   FONG'S EUROPE GMBH (独)   老舗染色機メーカーTHENを含む。
   L.A.I.P. S.R.L.(伊)  ノーチラス:デリケートな素材向けベルトコンベアー式染色機、 ポセイドン;広幅ベルベット生地専用染色機。
 NANO-DYE TECHNOLOGIES LLC (米)  カチオン化綿による水使用の劇的削減。塩の不使用。
   排液への反応染料排出をなくす事で、発がん物質を激減すると言うが、カチオン化剤そのものが与える発がん性、
   処理によるムラ染めリスク、反応染料への影響(日光、摩擦、塩素、色相・・)等については不明。
   NOSEDA S.R.L. (伊)  日阪製作所との技術提携契約あり。
   ORNEK MAKINE SAN. VE TIC. A.S.(トルコ)
     ここのHPには、連続的に行う8色スペースダイ機とヒートセッターの映像がありました。 日本では、なかなか見られないと思います。
             MDS 60 SERIES SPACE-DYE HEAT SET LINE
 ROTASPRAY GMBH (独)   このメーカーは、私の現役時代、捺染での抜染効果を安定させるため、乾燥生地への適度の水分補給を行う
  ローターダンパーを販売していました。 今回は、“ROTA SPRAY”で、反応染料は元より、バット・硫化・インジゴ等にも挑みます。
  (上の“CARE APPLICATIONS, SLU”と若干被りますが、HPの技術情報は、より具体的です。)
  SCLAVOS S.A. (ギリシャ)  Dry Salt Fine Dosing (DSFD)による固型塩の自動補給。
  SEDO ENGINEERING SA(スイス)  「スマートロイコインジゴ」=電気化学プロセスによる還元インジゴで、 環境有害物質の大幅削減。
   (ついでに、インジゴロープ染色をフルにまとめた動画です。   JUPITER COMTEX PVT. LTD(インド)
  THIES GMBH & CO. KG(独)  近代染色機の老舗メーカー。


Chapter 9 捺染

「Chapter 9.1 Printing machinery」で抽出される企業は49社、前回の58社から約20%減っています。めぼしいところでは、@イタリア 14、Aトルコ7、B中国5(本土 4+香港1)、Cオーストリア 4 Dインド/スイス/米 各3 となり前回14の中国が特に減っています。

ここでも、“革新的” と言う程の、話題を持つ捺染機は見当たりません。
現状を知りたいと言う事であれば、次の三社のHPを見ておけば十分でしょう。
   J. ZIMMER MASCHINENBAU GMBH(オーストリア)     REGGIANI MACCHINE SPA(伊)     SPGPRINTS B.V.(オランダ)

これら三社が主として扱うのは、大量生産用の大型捺染機ですが、今回目につくのは、“Oval Printing Machine”や“Octopus Printing Machine” と呼ばれる、Tシャツなどへの、製品捺染機で、下の三社を含め、多くの企業が展示しています。
 ADELCO SCREEN PROCESS LTD(英)    KTK, LDA (ポルトガル)   SULFET BASKI MAK IMALATI SAN VE DIS TIC LTD STI(トルコ)

それ以外に、余り目にする事のない珍しい捺染風景と言えば、
 フロアカーペットへの滑り止め加工機  BIAMAK TEKSTIL MAK. SAN. TIC. LTD. STI.(トルコ)
 フロック捺染(植毛加工)   MURATEX TEXTILE MACHINERY LTD. CO.(トルコ)    が、見つかりました。

さて、最後は 「Chapter 9.2 Degital printing machinery」関連企業は53社。ここでも、前回の61社から15%強減っています。
内訳は、@中国 12、Aイタリア 12、Bインド/トルコ 各5、Cイスラエル 3 などですが、欧米勢の中には、エプソンやコニカミノルタ、ミマキ、ブラザーなどの関連会社が含まれており、京セラ、 リコー製など日本由来のインクヘッドも多く使われています。ちなみに、“Chapter 9.5 Inks” の中には、FUJIFILM INK(英)、が入っています。 (出展日本企業は、京セラ一社です。)  

この分野に対する私自身の考えは、前回「ITMA2019 Barcelona」の中で、長々と述べてますので、興味のある方は、ご一読下さい。状況的に、大きな変化は起こっていないと思います。 (“インクヘッド” 自体の仕組みや性能は変わっていない訳ですから、後はその数や並べ方を変えるしかありません。)

このチャプターでも、私の興味を引く展示物は、ほとんどありませんでした。
実際どの程度役に立つかは分かりませんが、以下の展示物は、話題になるかも しれません。
MAS SRL(伊)  インクジェットによる両面捺染 - MAS Vertical。生地送りを垂直に行っている。(特許)
(中国メーカーのSHENYANG SKYAIR SHIP DIGITAL PRINTING EQUIPMENT CO., LTD.は、 4台のプリンターを使い、独自方式の「両面ダイレクトプリント」を行うインクジェットプリンターSDM3300を 展開している。)
TWINE SOLUTIONS(イスラエル)  糸を対象としたインクジェットプリンターです。    映像
S. ROQUE - MAQUINAS E TECNOLOGIA LASER, S.A. (ポルトガル)   通常のスクリーン捺染とインクジェットシステムの組み合わせで、製品捺染を行う。ただし、同様の“ハイブリッド型”は、 他にも幾つかあります。

染料メーカー

ちなみに、Archroma は、ITMA出展者リストのどこを探しても見付けられませんでした。
今回「16.5.1 Dyes and pigments relating to the dyeing and finishing industry」 をSearchすると、46社が抽出されます。
これを国別で見ると、インドが16社と、二位トルコ(8社)/三位イタリア(7社)を圧倒しています。 ただし、46社のうち実際に染料を製造しているのは、22社と半数にも達しません。 (その中には、ハーブや野菜を原料としたNatural染料や、直接染料のみ、分散染料のみ、あるいは、顔料だけを製造している企業もありますので、 積極的に新規染料を開発できる“総合染料メーカー”は、DyStar くらいでしょうか? そのHPには、 “At ITMA, DyStar will be featuring a suite of product and process innovations which include Cadira®, Dianix®, Evo®, Indigo, Jettex®, Levafix®, Procion®, Remazol® and more.” とありますので、SDGsに対する DyStarの現在の総合的取り組みを展示するのでしょう。)

ちなみに、Archroma は、ITMA出展者リストのどこを探しても見付けられませんでした。

サマリーに代えて (6/20記)

今回のサマリービデオは未だ出ていませんが、 開催中のデイリーフラッシュを始めとする様々なショートビデオが、下の “Browse Our Media Gallery”(後半は過去のクリップ)にまとめられています。

  Browse Our Media Gallery

ついでに、“ITMA Daily Live” も参考までに加えておきます。( 残念ながら “染色” について取り上げられている部分は余りありませんが、これらを通してみれば、 世界の繊維産業が目指している未来が少しは見えてくるのではないでしょうか。)  ITMA Daily Live