ギャンは、走らない。
滅多なことでは走らない。
何があろうと走らないというほどではないが、走ろうとしない。


ドッグランでギャンが小走りにでも走ったとすると、ワン友は、「走ってる〜!」、「ギャン君、走ったっ〜!」と歓声と拍手が聞こえてくる。それほどギャンの走りは珍しい出来事なのである。

以前、朝霧のドッグランへ行ったときのこと。
気に入った女の子フラットのあとをのっしのっしと追いかけて行くが、ディスクやボールを必死に追いかけるその走りの速さにおいていかれ、早々と諦めモードのギャン。遠くからじっと見つめていたかと思うと、そのワンコがレトリーブしてくる場所へ先回りして待機するありさま。
さすがに先を読んでるな、と感心する反面、口から出てくるのは「あ〜情けない!走れよ〜。」の一言。

これも、あるドッグランでの話。
いかにもフラットといったハイパー・フラットの飼い主さんが、「ギャン君がうらやましいです〜。うちのはギャン君よりずっと大人なのにちゃかちゃかしっぱなしで〜‥‥。この落ち着きとふさふさコートに憧れます〜!無いものねだりなのは分かってるんですけどね〜。」とかなんとか。
ふさふさコートと言ってもらえるのはストレートにうれしいこと。
しかし、ハイレベル(?)なまったりを誉めてもらうのはうれしさもあるけどちょっと複雑な気分。
そのとき、自分自身の心の底から、密かにつぶやきが聞こえてきた。
「時には、無性にちゃかちゃかに憧れることもあるんですよ!無いものねだりはお互いさま〜!」


どうしてこうなったのか振り返ってみれば、思い当たることも‥‥。

まず第1に、1歳ぐらいになるまでドッグランや自由に遊べる公園へほとんど連れてやらなかったこと。走る機会を与えてやらなかったのが悪かったのかもしれない。そうだとしたら、これは、こちらの責任!

第2に、血統的なこと。ギャンの親戚犬とはよく遊んでもらっているが、よく走り回っているフラットもいれば、走り回るよりも飼い主の周りでゆったりと遊んでいるほうが好きなフラットもいる。思うに、他の犬舎のフラットは概してもっとちゃかちゃかしているという話も聞くし、ギャンの出身犬舎は比較的まったり度の高いフラットなのではないか、と。

3番目は、もしかして足腰に不安を抱えているのではないかという点。
これも可能性としてはないことではないが、同胎犬、親戚犬など出身犬舎からそのようなフラットが出ていないと聞いているので、とりあえず大丈夫と見ている。脱臼とか股関節形成不全のワンコでも走るときは目いっぱい走るそうだから、逆にいえば、走らないからといってそれが故障のせいだとも言えないのもはっきりしたことだ。
いずれはそういった検査も必要となるかもしれないが、これといった異状も認められないので、今はギャンを注視し続けるにとどめておこうと考えている。ちょっと安易かもしれないが、毎日接している自分の眼力を信じて‥‥。

4番目。ひょっとするとこれが正解なのかもしれないと密かに思っているのが、ギャンは走らなくてもよいときにはむやみに走らない、ということ。無駄なことはしない、と考えているのなら、これは賢いフラットに違いない。でも、人間に例えると、理屈ばかり言う小生意気なガキのような憎たらしい性格でもないし‥‥、これについては今後のギャンを見ていくことで次第に判明してくるだろう。


なんだかんだ言っても、ギャンが疾風のごとくかっこよく走る姿をいつも見ていたい。
先日、オフ会会場のドッグランで、瞬間的にではあっても勢いよく走るギャンを見て、「ギャンが走った〜!」と喜んでいたら、隣で見ていたあるフラット・ママから、「ささやかな幸せですね!」と冷やかされてしまった。
ウマイこと言うなぁ、と思ったが、まさにそのとおり。
ささやかなことで最大限の喜びを与えてくれるのが、ギャンなのである。 (10/10/2003)
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