損害賠償請求控訴事件
鳥羽至英教授(専修大学)が、「会計」の平成9年2月号、3月号で「日本コッパース有限会社事件とそれが残したもの−−ミクロの幸せとマクロの不幸−−」という論文を載せていらっしゃいます。
この論文は、「税理士界」第1113号(平成9年6月15日)に掲載された「日本コッパース事件の教訓」と題した江村稔名誉教授(東京大学)の講演録で知ったものです。鳥羽論文には、他の学者の関連論文が脚注で紹介されています。
鳥羽論文は、「ミクロの幸せとマクロの不幸」という表現で、東京高裁判決がもたらした問題点を鋭く指摘しています。
「ミクロの幸せ」とは、被告監査法人と会計士業界がついた安堵の吐息を指す。私がこの判決文をホームページに載せようとしたきっかけになった「JICPAジャーナル」の記事を、鳥羽教授は、「(勝てば官軍となる)傾向を顕著に示しており、・・・公認会計士業界としての"一応の"安堵感も窺うことができる」と評しています。公認会計士の中にも、この判決に忸怩たる思いを抱いてる者がいることを言いたかった私としては、会計士業界を一括りで評論されることには無念さを感じずに入られません。
しかし、大切なのは「マクロの不幸」の方です。
「マクロの不幸」とは、「我が国の公認会計士監査に対する役割期待という問題」「我が国の公認会計士監査の水準の問題」「企業会計原則及び監査基準・準則の規範としての有効性」などです。
「財務諸表監査における公認会計士による不正発見の役割を、「ほとんどゼロ評価」といえる程度にまで過小評価したこと。」
「公認会計士の監査の実態に深く切り込むことなしに、被告監査人の責任の有無が必ずしも今回の事件に本質的とはいえない争点を中心に判断されてしまったこと」入担が監査要点であるかどうかが争点となりましたが、監査人が、補助者を使用するにあたり、適切な計画に基づいて十分に指導監督したかどうか判断すべきであったと、鳥羽教授は批判されています。
「企業会計原則には、法的な拘束力はない。あるとしても、証券取引法による会計処理並びに会計報告に関する基準であり、商法の計算書類規則を越えて商法第32条2項の公正な会計慣行であるということはできない。」という江村教授の鑑定を裁判官は受入れました。そして、本件の有限会社には、財務諸表監査における規範として企業会計原則は適用されないと結論を下したのです。
また、最後に、鳥羽教授は、「・・・監査報告書に「われわれの監査は一般に公正妥当と認められる監査基準に準拠して」と記載することの意味を、監査実務に従事する公認会計士さえ理解していなかったことが結果として明らかにされたことである。」このように監査報告書に「記載することの意味とそれに対する責任をもう一度"勉強"する必要があるように思われる。」と公認会計士を痛烈に批判されています。
どうも、うまく鳥羽論文を要約することができませんでしたが、この論文を読んでみて、私は、今まで頭の中でもやもやと煮え切らずにいた問題がすっきりと道筋を立てて明らかにされた思いがしました。そして、これから考えなければならない問題点も明らかになりました。
[up net on 97/8/3]
損害賠償請求控訴事件
主文
事実及び理由
第一 申立
第二 事案の概要
第三 争点に対する判断
一 本件監査契約の当事者
二 本件監査契約の内容
三 定期預金の入担の有無についての監査の要否
四 本件監査と不正発見目的との関係
五 内部統制組織の不備と監査の関係
六 定期預金の実在性と利用可能性
七 定期預金の残高証明書の直接入手義務の有無
八 定期預金通帳の不存在等と第一審被告明和監査法人の注意義務違反の有無
九 第一審被告明和監査法人の社員(承継人を含む。)に対する請求
一〇 第一審被告東京海上に対する請求
十一 結論
[up net on 97/8/3]
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