初版 06.9.14, 最新版 08.12

ご覧になりたい絵か文字を押してください

 藤沢目次総目次



藤沢作品の魅力を書いた本(2)

藤沢周平本

********************************************************************************************

お詫び 2008.4.14
 70才(前期高齢者フフフ)を越して、根気とやる気がすり減ってきて、更新が進まなくなったし、書くことに手抜き(ネット引用、書籍帯の引用)が増えてきた。
 自分の感想も書けなくなってきた。というわけです。ごめんなさい。

この頁で取り上げた本

佐高信・田中優子『拝啓藤沢周平様』  ■荒蝦夷社 『没後十年藤沢周平読本』

■『藤沢周平のツボ』朝日新聞週刊百科  ■粕谷 昭二 『藤沢周平の礎 小菅留治』  ■松本健一 『藤沢周平が愛した静謐な日本』  ■新船海三郎  『藤沢周平志たかく情あつく』  ■>オール読物 07.12月号「今、藤沢周平に浸る。女性が愛する藤沢周平。風の果て~ドラマ制作秘話」 ■『藤沢周平事典』■松田静子 / 本間安子/ 小野田健『藤沢周平こころの故郷 海坂藩遙かなり 』■高橋敏夫『藤沢周平という生き方』  ■遠藤展子『父・藤沢周平との暮らし』■月刊『望星』編集部編『藤沢周平に学ぶ 〜「人間」は、「人生」はこうありたい・・』06.12月中旬刊 』東海大学出版会 2415円  ■雑誌『望星 〜藤沢周平に学ぶ「人間の品格」06.11月号』東海大学出版会  ■朝日ビジュアルシリーズ『週刊 藤沢周平の世界』   ■平凡社『別冊太陽スペシャル 藤沢周平』  ■遠藤 展子『藤沢周平 父の周辺』  

********************************************************************************************


008.12記

藤沢文学は、なぜ読む人の心を捉えるのか

田中優子・佐高 信『拝啓藤沢周平様 』
 (2008.8.13 イーストプレス 1600円) 

藤沢氏と同郷・同経歴の評論家といまなおお江戸を生きる粋人学者の絶妙のコンピが、縦横に読み解く! 
【目 次】

1 藤沢文学を生んだ風土(故郷はつらいもの;こだわり続けた庄内)
2 藤沢文学と品格(藤沢周平的価値観;長男と“厄介叔父”)
3 藤沢作品の主人公たち(寒梅忌によせて;主人公たちの生き方
4 “土”を見続けた時代小説家(江戸時代の荘内;なぜ時代小説を選んだのか)
5 今夜は読み明かそう(藤沢周平の濁のエネルギー;感情を抑えても溢れ出る魅力 ほか)


本の構成がおもしろい。たとえば、1(上の枠内)の「藤沢文学を生んだ風土」の左(故郷はつらいもの)は、2人の著者のうちのひとり佐高氏であり、右(こだわり続けた庄内)は、2人(佐高、田中)の対談となっている。田中氏は次の2では1の逆となっている。
【帯のうら〜本文より 佐高 信の文章】

 不遇かもしれないし、地位も名誉も金もないかもしれない。
 それでも失ってはならない人間の誇り、尊敬、情熱というものがあります。(中略)
 藤沢作品は、そんなことを直接的ではないがじんわりと教えてくれます。そして勇気づけてくれるのではないでしょうか。


【【帯のうら〜本文より 田中優子の文章】】

 まず、生きていくことが第一。兼愛も仕事も、すべて生きるついでですから。
 藤沢作品の主人公たちも、敗北感を覚えて後悔している。(中略)しかし、しっかりと自分自身を生きている人々の世界を藤沢周平はきんちんと書いている。
 それは作中の主人公たちが持っている品格ですし、それに気がついている藤沢周平の品格だと思うのです。



■この頁のはじめに戻る

********************************************************************************************


008.12記

藤沢周平さんとふるさとと

『山形新聞社 荒蝦夷社発行(仙台市) 没後十年藤沢周平読本』
 (2008.8.2 山形新聞社 1575円) 

 本書は山形新聞社連載をまとめた企画本です。
山形県は藤沢さんの故郷鶴岡のあるところです。また、藤沢さんが進学した山形師範学校(教員養成学校)のある場所が山形市です。

 山形新聞社は寒河江浩二・山形新聞社編『藤沢周平と庄内』、山形新聞編『藤沢周平が愛した風景』などがあるように作家の地元の利をいかした出版でしょう。

【おもな著者と作品名】

 第1章 私が選ぶ藤沢作品ベスト12 (高橋義夫)
  用心棒日月抄/春秋山伏記/義民が駆ける/三屋清左衛門残日録/回転の門/蝉しぐれ/一茶/雲奔る/橋ものがたり/隠し剣秋風抄/詩塵/漆の実のみのる国

 第2章 藤沢作品の表現世界 (中村明)
  風/姿/女/剣/心/食/顔/笑/喩/視/始/終

 第3章 藤沢周平 その生涯の追憶 (蒲生芳郎)
 出会いの頃/同人誌時代/療養生活/妻の発病と死/「溟い海」で新人賞/直木賞受賞後/転機の『用心棒日月抄』/多忙な日々/昭和五十年代の豊熟期/『蝉しぐれ』前後/歴史小説/実りの時期

 第4章 藤沢周平を語る
畠山弘/井上史雄/井上ひさし/高山秀子/久保田久雄/山本陽史/池上冬樹/牧野房/佐伯一麦/東谷慶昭/佐藤賢一

 第5章 藤沢作品と私 49人の方々の短い文章

 第6章 シンポジウム 没後十年 藤沢周平の魅力を語る


■ずいぶんたくさんの著者です。
■中村明「藤沢作品の表現世界」はいろんな作品から引用されていて興味深かった。
     ■表紙カバーの装幀が 赤色のモノトーンとはなあ

■この頁のはじめに戻る

********************************************************************************************

 

008.9記

一度で二度おいしい?

『藤沢周平のツボ 〜至福の読書案内』
 (2007.12.30 朝日新聞週刊百科編集部 編  525円) 

 いささか気はずかしい題名「ツボ」「至福の」のこの本は、 朝日新聞社『週刊 朝日ビジュアルシリーズ 藤沢周平の世界』(06.12〜07 全30巻) に掲載されている文章を集めたものです。というわけで、“一度で二度おいしい” といえます。
 とはいえあの大判の本を持ち歩くわけにはいかず文庫本で助かります。

【おもな著者と作品名】

「藤沢周平のこの名著、私ならこう読む!」。時代小説家、現代作家、評論家、研究者、エッセイストなど、名うての本好き・藤沢周平フリークたちが示す、読み解きのツボ。関川夏央、杉本章子、立松和平、後藤正治、宇江佐真理、あさのあつこ、重松清、町田康ほか22名が、初期名作『暗殺の年輪』から遺作『漆の実のみのる国』まで、シリーズものを含む29作品を読みとく。

関川夏央が読む『暗殺の年輪』/北原亞以子『雲奔る 小説・雲井龍雄』/成田龍一『義民が駆ける』/辻原登『闇の歯車』/後藤正治『喜多川歌麿女絵草紙』/立松和平『春秋山伏記』/平出隆『一茶』/杉本章子「用心棒日月抄」シリーズ/吉岡忍が『回天の門』〔ほか〕

 あさのあつこが読む『風の果て』 宇江佐真理が読む『本所しぐれ町物語 』『橋ものがたり』がいいなあ


********************************************************************************************

■この頁のはじめに戻る

008.4記

藤沢先生って誰のごどがや?

粕谷昭二 『藤沢周平の礎(いしずえ) 小菅留治』
 (2008.2.22 東北出版企画 1800円) 

           

 故郷に帰省した作家は、作家然とはしてなかったらしい。あくまでも、小菅留治としてふるさとの人と接していたという。
それが、帯にある「藤沢先生って誰のことだや?」のことだろう。

 そういう故郷の人々が語る藤沢さんの回想集。土地の人ならではの思い出が語られている。他書では使われてない写真も多く興味深い。(カラーだったらいいが、コストがあがるからなあ)

【目次】

■旧知の人たち(五十嵐久雄さん--小学校時代の同級生/佐藤久雄さん
    藤沢さんと「乳兄弟」 ほか)

■作家への土壌(話し上手の母・たきゑさん、寡黙な父・繁蔵さん
    妻の命を救えなかった無念 ほか)

■描かれた庄内(寺社/山河 ほか)

■藤沢文学後世へ(山形大学プロジェクト/藤沢作品の庄内弁研究 ほか)


【著者】

山形県西田川郡温海町(現、鶴岡市)に生まれる。1965年、荘内日報社入社。1968年、毎日新聞社入社。山形支局長などを経て、2007年11月酒田通信部記者で毎日新聞社退社。現在、山形市在住


■この頁のはじめに戻る

********************************************************************************************

008.4記

『漆の・・』に秘められた、藤沢周平が行き着いた“場所”とは

松本健一 『藤沢周平が愛した静謐な日本』
 (朝日新聞社 2007.10.30 1400円) 

 

「藤沢周平の書く文章は静謐である」という人がいます。さて、あまりお目にかからない「静謐(せいひつ)」とはどういう意味でしょうか? 
 「1. 静かで落ち着いていること。また、そのさま。「深夜、書斎で過ごす--なひととき」「2. 世の中が穏やかに治まっていること。そのさま。「--な世情」」(Mac OS X10の辞書)

 この辞書の意味は、ま、理解できます。しかし、「藤沢周平が愛した静謐な日本」との著者(編集者?)のつけた書名はわかったようでわかりません。(私の読みが浅いからか(笑))

 
【帯・ネットの書評から】

 「漆の実のみのる国」に秘められた、藤沢周平が行き着いた“場所”とは?
数多くの名作を生み、日本人の心を揺さぶり続ける藤沢文学の神髄を、これまでにない独自の視点で読み解く画期的な藤沢周平論。

 巻末には、今年3月に行われた講演を収録。遺作『漆の実のみのる国』に描かれた米沢藩主・上杉鷹山と、戦前の修身教育を受けた少年時代の藤沢周平との因果関係を見抜く独自の視点が見事だ。


 この著者どくとくの表現・言葉使いには抵抗がある。(例 「ごくまっとうな悪」というイロニー)
 が、読んでいると、藤沢さんの小説のおさらい読書をしているという気になります。

■この頁のはじめに戻る

********************************************************************************************

2008.4記

時代に対峙する人間の誇り

新船海三郎 『藤沢周平志たかく情あつく』
 ( 新日本出版社   2007.8.30    1900円 ) 

 封建の時世に一個の人間として生きようとする下級武士の姿をとらえて描いた藤沢周平。99年刊「人生に志あり藤沢周平」をもとに、「白き瓶」論を加えて改訂。〔「人生に志あり藤沢周平」(本の泉社 1999年刊)の改題改訂〕 「白き瓶 小説 長塚節」論を軸に新たな藤沢文学の魅力を味わう注目の作家・作品論。(ネット書評より)
【目次】

1 ひとり行く林間の小道は―作家の軌跡と「白き瓶 小説 長塚節」
  (闇に海鵜を描くのは生活の論理と文学の論理 ほか)

2 国の本は民にあり―上杉鷹山と新井白石と
  (狐狸が棲む城内幕閣をも揺るがした郡上一揆 ほか)

3 ふるさとは遠くに、近くに―「又蔵の火」から「臍曲がり新左」へ
  (郷里はつらい土地でもある兄にかわって言うことがある ほか)

4 転機は春の日差しに似て―市井の武家・青江又八郎、俗世の詩人・一茶
  (浪人にも生活者の眼ただ酒にはしゃいだ朝は ほか)

5 愛あり、友ありて人生―「海鳴り」「蝉しぐれ」、三屋清左衛門
  (いつか心が真っ直ぐに老いる不安、哀しみが ほか)


■この頁のはじめに戻る

********************************************************************************************

08.4 記


『オール読物』

文芸春秋社 07.12月号  940円

「今、藤沢周平に浸る。」

■後藤正治 藤沢周平作品に寄り添う女たち

 『蝉しぐれ』のふく→おふくさま
 『彫師伊之助捕物覚え』シリーズのおまさ
 『用心棒日月抄』シリーズの佐知
 『海鳴り』のおこう  の4人の女性をとりあげ、後藤は書く

   「----深い洞察力が女性像の輪郭をつくり、物語を紡いでいく、主人公に寄り添う女たちは、
   藤沢作品の伴奏曲とも主調音ともなって読者の胸に響いてくる」


■女性が愛する藤沢周平

  あさのあつこ  匂いたつ男、薫る女
  松岡  和子  シュウヘイホリックの諸症状
  岸本  葉子  居場所
  上橋 菜穂子  透明な底まで
  中江  有里  情熱と執念の女を演じて
  南   果歩  藤沢先生からの葉書
  三宮 麻由子  藤沢流描写の謎

■竹山洋 風の果て~ドラマ制作秘話

  NHKテレビドラマ(2007)の脚本家語る

■この頁のはじめに戻る

********************************************************************************************


『藤沢周平事典』

勉誠出版 2007.11予定 3990円

出た! 4000円の事典

        ●ホームページから●http://www.bensey.co.jp/book/1950.html

「たそがれ清兵衛」「蝉しぐれ」「用心棒日月抄」「よろずや平四郎活人剣」など275の代表作に、関連人物、雑誌、キーワードなど57の一般項目を加えて解説。 ブックガイドとしても最適な、ファン・研究者必携の一冊。

第一部作品篇   第二部一般項目篇  第三部付録 書誌・年譜

事典なら4000円も安いかもしれないが、でも単なるファンの年金生活のおじさんにはいかにも高値。書店でまだ見てない。書店員に「出してきて」というのも気が引けます。

■この頁のはじめに戻る

********************************************


松田静子 / 本間安子/ 小野田健著/ 鶴岡藤沢周平文学愛好会 協力
『 藤沢周平こころの故郷 海坂藩遙かなり 』

三修社 2007.8.10 1700円

鶴岡のひとたちの著作本

目次から

 1 ・藤沢文学を生んだ北国の風土と気質
  ・藤沢周平とその作品 ゆかりの地図-鶴岡(海坂)版-

  ・松田静子・本間安子「作品ゆかりの地・舞台23」
  ・松田静子「海坂藩の女性たち」

 2 藤沢周平の世界
  ・萬年慶一「文学碑」から「記念碑」へ
  ・対談 工藤司朗・太田祥子 小菅先生の思い出を語る  

  ・「藤沢周平記念館」構想
  ・「海坂藩」映画ロケマップ
  ・ほか


作者について
松田静子さん 山形の高校の国語の先生。「鶴岡藤沢周平愛好会」顧問。鶴岡市の ホームページに「作品の地を訪れる」などを連載。

「学校ぎらい」『半生の記』文春文庫によると
 「小学三年生のときの担任は難波主税先生だった。
 ----ところで(難波先生の)娘さんの松田静子先生だが、先生は私の小説の古くからの読者で、つい二、三年前まで、私が亡父の教え子であることをまったく知らない ままに、勤務校の研究紀要に「藤沢周平のさまざまな風景」などという小論文を 発表されたりしていたという。
 世の中はおもしろいというべきか、あるいは不思議というべきか」

本間安子さん 藤沢周平さんが湯田川中学(小・中合同校舎)に勤務していたときの同僚。


庄内地元の人たちならではの本です。小説舞台の写真や『蝉しぐれ』のラストの 「砂丘の出口に来たところで------馬腹を蹴って、牧助左衛門は熱い光の中に 走り出た」砂丘は、「安部公房の『砂の女』の舞台となっている。映画化されたとき、ヒロインを演じたのが故岸田今日子さんである」なんて記述もある。

藤沢周平さんの教え子の「小菅先生の思い出を語る」 「藩校 至道館」なども 興味深い。

■この頁のはじめに戻る

********************************************************************************************

07.7 記

高橋敏夫『 藤沢周平という生き方』
PHP新書 2007.1.29 700円

苦しみと悲しみを交わしてはじめて人はわかりあえる!

目次から
■交感 苦しみと悲しみの交感―藤沢周平という生き方
■鬱屈 鬱屈からはじまった―書くことと鬱屈との関係
■助走 さまざまな可能性にむかって―発見された十四作品をたしかめる
■跳躍 かならず人は跳躍のときをむかえる―八年の歳月の、さらなる鬱屈がそうさせた

■出来る なにからも学び、なにごとも可能にする青春の日々―獄医立花登手控えシリーズ
■真夏 真夏の光が照らし耳にわんとひびくほどの蝉の声がもどって来た―『蝉しぐれ』 ■誘惑 壮大な権力を狙撃する、眼が眩むばかりの誘惑―『逆軍の旗』『回天の門』『雲奔る
■人肌 たまらなくひと肌が恋しくなることがある―彫師伊之助捕物覚えシリーズ
■もめごと 世の中、揉めごとというものは絶えんものだ―『よろずや平四郎活人剣』

■権力 権力の内側に入り、身体が熱湯をかぶるように熱くなった―『風の果て』『市塵』
■筋を通す 薄汚れ、ぼろぼろになってなお友は筋を通した―用心棒日月抄シリーズ
■老い 一本の白髪の背後には、見知らぬ世界が口をあけていた―『海鳴り』
■早春 明るい早春の光の下、虫のようなしかし辛抱強い動きを見た―『三屋清左衛門残日録』
■帰郷 人は二度、故郷にいだかれねばならない―『一茶』に刻まれた、藤沢周平の旅のはじまり、旅の終わり


 正直にいうとこの本をホームページで紹介するまで時間がかかった。購入したのが07.1.29、そして今7.21「ええかげんにせなあかんなあ」と重〜い腰を上げかけてなおどうも気が進まない。

 あなたはどうでしょうか。本の帯に苦しみと悲しみを交わしてはじめて人はわかりあえる!」と惹句がある本は読みたいですか。こんなことを言われると、そうおもえる人もいるかもしれませんが、「え〜っ、すると俺はだれとでも分かり合えてないかもしれないぞ」とおもったりします。

 なるほど藤沢さんの人生には病気・失業・幼い子を残して奥様の死という不幸がありました。その日々、藤沢さんは屈折した鬱々とした小説を書く作家の出発をしました。

 しかし、それは藤沢さん個人のことです。
それを書名にして  「藤沢周平という生き方」なんていっていいですかねえ。
「「鬱屈の交流」こそ藤沢周平から読者への贈り物だった。」(表紙カバー) なんていわれてもねえ。

 負を生きながら鬱鬱と屈折して、藤沢周平作品を読む読者もいらっしゃるでしょうが、私はきわめて単純におもしろいから愉しいから小説を読みますね。


 大学の先生はそうはいかないようです。なかなかすなおに小説を愉しめないみたい。もっとも著者は文芸評論家という肩書きもある方ですので、「とりかえしのつかぬ思いからなされる鬱屈の交感」(101頁)なんておよそふつうの市民の書かないような文章を書いたりするのでしょうか。

■この頁のはじめに戻る

********************************************************************************************

07.2 記

遠藤展子『父・藤沢周平との暮らし』
新潮社 07年1月25日 1300円

父は、普通でいること、平凡な生活を守ることに
こだわっていたのです。

見出し・内容
■男手ひとつ 父の奮闘
  最初の母の死去
  そのときの父と祖母
  保育園・幼稚園児の著者

■父と母のいる家庭の幸せ
  新しい母との日々
  父・母・娘の生活

■私の転機 父の一言
  著者の就職
  結婚と父と母
  孫の誕生

■作家・藤沢周平
  直木賞受賞前後
  家での作家業

■家族の情景

  父は、子守唄代わりに、レイ・チャールズの「愛さずにはいられない」を歌って聞かせてくれました。というのも、父には満足に覚えている童謡はひとつもなかったのです。父の歌声にあわせて、私も一緒に声を出していたそうです。

「保育園の連絡帳」(20ぺ)

 (幼稚園の運動会の朝) 朝早くから父が台所に立って、なにやらごそごそやっています。何をやっているんだろうと、父の横に行って覗き込みました。なんとのり巻きを作っているのです。-------みごとな細巻きが出来上がりました。
 お父さんはすごい! そんなふうに感じたのは、私の記憶に残っているなかで、このときが最初だったとおもいます。

「運動会のお弁当」(36ぺ)

 父は、新しい本がでると、必ずいちばん最初に、母にサイン本を贈っていました。 サインは「かずこへ 周平」あるいは「和子殿 周平」でした。
 夫には、「遠藤正様 藤沢周平」、「正どの 周平」
 私への『密謀』の上巻には「展子どの 周平」、下巻には「自制心は成長の糧 周平」---

 孫の浩平への『半生の記』には、「遠藤浩平君 藤沢周平」と

「サイン本あれこれ」(140ぺ)

  うらやましい家族のスケッチです。表紙の写真が中身を表しています。


 小菅留治氏とその夫人・娘さんは市井の人として、普通の市民として生活をしてきたらしいということがこの本から伺える。
 作家は銀座で夜な夜な豪遊するでなく、無頼な日々を過ごすわけでなく、家族も○○正○さんのように贅沢三昧趣味生活するわけでないみたい。

 そういう生活・生き方が作家の作品の基調というかベースになっていたとおもう。とくに作家の市井物や下級武士をあつかった作品は「どんな人でも、普通に生きている。運の悪いときもある。悪の道にはいることもあるかもしれないがそれだってねえ・・・」と同じ目の高さから人を見ている。だから、なんというか安心して読める。

 読者は藤沢作品に 波瀾万丈の冒険、大悲恋、数奇な運命物語的なものを求めてはいないだろう。同時に 高所からのお説教、演説も。

■この頁のはじめに戻る

********************************************************************************************

06.12 記

月刊『望星』編集部・編『藤沢周平に学ぶ』

〜「人間」は、「人生」はこうありたい・・・
 東海大学出版会(2415円) 06年12月中旬

見出し一覧
なぜ、いま藤沢周平なのか     藤沢周平に学ぶ「人間の成熟」
藤沢周平に学ぶ「人間の諦観」   藤沢周平に学ぶ「人間の情愛」
藤沢周平に学ぶ「人間の再出発」  藤沢周平に学ぶ「人間の品位」

著者 一覧
宗教学者山折哲雄  評論 家小浜逸郎  映画監督山田洋次 黒土三男  作  家常磐新平 宇江佐真理 山本一力  評論 家佐高 信 権田萬治 岡庭昇  文芸評論家縄田一夫 細谷正充  編集 者阿部達二 西島襄治  エッセイスト田名部昭  脚本 家竹山洋  鶴岡藤沢周平文学愛好会顧問松田静子  大学教官田中優子 高橋敏夫 湯川豊  音楽 家小室等  弁護 士宇都宮健児

 この本は 下の雑誌『望星』の過去の藤沢周平特集号を編集したものと思われます。
 数冊の特集号を集めたものだと推測されますが、それにしても 2415円はいかにも高いなあ。

■この頁のはじめに戻る

********************************************************************************************

06.11 記

『望星 06.11月号』

特集 藤沢周平に学ぶ「人間の品格」
 東海大学出版会(月刊 580円) 

目次より
 田中優子  自分を優先させずに「自身」を生きる品格
 小室  等 「人の哀しみ」を知るゆえの「品位」
 高橋 敏夫 他者の苦しみ悲しみを感受する力
 宇都宮健児 背筋を伸ばした生き方に勇気づけられる
 湯川  豊 自己抑制としなやかさの同居
  ほか

 さて、ここで雑誌の表紙に書かれている惹句について横やりをいれよう。

 表紙には、“恥も矜持も恩愛も失われた時代に---”とある。“美しい国”をつくりたいらしい政治家も、新聞投稿欄の庶民にも、このようなえらそうなきいたような口をきく人がいる。

 私は腹がたちますね。普通の市民は、少しはめを外すかもしれないが、誠実に働き、家族と地域を愛して、助け合い、まともに生きようとしている。
「えらそーにおまえにそんなこと言われたくない」と思う。

 そんなことを平気でいう人のまわりにまともに生きている人がいないのではないか。または知らないのでないか。

 おまけに想像力も乏しいのではないか。藤沢作品を読むということは、普通に生きるということでもあるまいか。

 すくなくとも 人に説教したい人が読む作家ではないような気がするぜ。

--------------------
 話全然変わって。今から約40年くらいまえ(?) 東海大学出版の雑誌『望星』があった。メインは教育。でも、えらそうな教育論・空想的空論・説教ではなく現場をみすえた実践的教育論や民主的な教育理念が書かれていた。しばらく愛読してました。

■この頁のはじめに戻る

********************************************************************************************

06.9.12 記

全30巻とは驚き

朝日ビジュアルシリーズ『週刊 藤沢周平の世界』
 (朝日新聞社 各560円 06.11.2) 11/2-6/7
http://opendoors.asahi.com/data/detail/7577.shtml

1号 蝉しぐれ─海坂藩2号 用心棒日月抄シリーズ─海坂藩・江戸3号 三屋清左衛門残日録─海坂藩4号 たそがれ清兵衛─海坂藩
5号 隠し剣孤影抄/隠し剣秋風抄─海坂藩6号 彫師伊之助捕物覚えシリーズ─江戸7号 海鳴り─江戸8号 秘太刀馬の骨─海坂藩
9号 風の果て─海坂藩10号 よろずや平四郎活人剣─江戸11号 麦屋町昼下がり──海坂藩12号 獄医立花登手控えシリーズ─江戸
13号 本所しぐれ町物語/橋ものがたり──江戸14号 一茶─信濃・江戸・上方15号 天保悪党伝─江戸16号 暁のひかり/時雨みち─江戸
17号 暗殺の年輪/竹光始末─海坂藩18号 決闘の辻─江戸・九州19号 闇の傀儡師──江戸20号 霧の果て 神谷玄次郎捕物控─江戸
21号 回天の門──出羽・江戸22号 義民が駆ける─庄内藩23号 喜多川歌麿女絵草紙/日暮れ竹河岸─江戸24号 雲奔る 小説・雲井龍雄─米沢藩
25号 密謀─米沢・亀山26号  闇の歯車─江戸27号 市塵─江戸28号 春秋山伏記─庄内藩
29号 白き瓶 小説 長塚節─茨城・東京・九州30号 漆の実のみのる国─米沢藩・ 

■この頁のはじめに戻る

********************************************************************************************

06.9.29 記

別冊太陽スペシャル

別冊太陽編集部『藤沢周平』
 (平凡社 06.10.12 2200円) 

表紙 惹句

人間の哀感と過ぎし世のぬくもりを描いた小説家
“小説職人”にように ただそひたすら 藤沢周平は時代小説を書きつづけ
理想の郷をつくり 普通の人間像を綴った。ーそんな藤沢文学の軌跡をたどる。

目次より
 海坂ものがたり           田辺聖子、松田静子ほか
 半生の記              阿部達二
 時代のぬくもり(士道小説)      湯川豊
 市井のひとびと(市井小説)      川本三郎、池上冬樹、杉本章子他
 歴史のわからなさ(伝記・歴史小説)  湯川豊
 時代のぬくもり(士道小説)      関川夏央、佐高 信ほか
 残日録               小菅和子(作家の妻)、遠藤展子(作家の娘)他 

 さすが、ビジュアル雑誌として歴史のある『太陽』です。ゆったりとしたレイアウト、美しい写真、読みものとして写真集として豊かな気分にさせてくれます。

 巻末の「著作一覧」は、初版であろう本の表紙がカラーで掲載されていて、「ほう、あの本の表紙はこんな意匠だったのか」とたのしい。
 しかし、本が五十音順に掲載されているのはなあ。理由不明。出版年順に掲載してほしいね。写真がもっと大きければなあ。でも、『太陽』だからこそという企画だ。まる。

■この頁のはじめに戻る

********************************************************************************************

06.9.16 記

父と家族を語る

遠藤 展子『藤沢周平 父の周辺』
 (文芸春秋社 06.9.15 1333円) 

           
 著者は作家藤沢周平さんの長女です。彼女は生後半年でお母さん(28歳)を亡くします。 
食品業界新聞記者の父(36歳)、幼い娘、故郷山形からきた祖母との生活が始まります。

 父はこのころから小説を書き始めます。
彼女が幼稚園のとき新しいお母さんができます。お父さんが42歳のときでした。

 この本は、著者と亡き母、義母、そして父の物語です。著者の夫君と息子さんも新しい家族です。


 (父は)肝臓病とは長い付き合いだったので、肉体的な問題以外にも辛いことは沢山あったと思います。それでも父は、そういう境遇を受けいれ、毎日を淡々と生きてきました。母もまた、そういう父を支えていました。そうした両親の生き方を振り返ると、父にとってあの選択*は正しかったのだ、と思えてくるのです。
         *選択 結核の治療方法(薬か手術か)

 「もし、あの時・・・」という思いは、誰もが一生に何度かは 抱くものだと思います。しかし、その時、ある決断をしたら、それがその後、どのようになったとしても、人はその与えられた人生を生きていくしかないのです。

 そのことを、私は父から教えられたのでした。自分の決めたことの結果に不満を 言わず、一生懸命生きていけば、最後には自分の満足のいく人生を終えることが出来るのだと。

  本書「人生の選択」258ペより
うん、そうだ。ところでこれどこかで見たぞ。

 衰えて死がおとずれるそのときは、おのれをそれまで生かしめたすべてのものに感謝をささげて生を終わればよい。しかしいよいよ死ぬそのときまでは、人間はあたえられた命をいとおしみ、力を尽くして生き抜かねばならぬ、そのことを平八に教えてもらったと清左衛門は思っていた。

「早春の光」『三屋清左衛門残日録』(文春文庫 436ぺ)
父と娘だ。父と娘はほかにもいろいろあるぞ。

 (著者は町内の店でパチンコをしていると、そこに父もいた) 父は苦笑いしながら、 「出ているか?」と聞くのです。「いや・・・全然」と答えると、「これ使え」と言ってパチンコ玉を箱にいれてくれました。-------

 さて家に帰ったものの、母に話したら卒倒するに違いありません。母の前を素通りして二階に上がり、知らんぷりをしてい自室にいると、二人の部屋の間の戸がすーっと開いて、仕事中の父が顔をのぞかせました。顔を上げると父は、
「お前に似た子がいるなと思ったら、展子だつたから、お父さんは驚いちゃったよ」
「うん。私もびっくりした」
「あのさ、パチンコやってもいいけど、お父さんのテリトリーではやるなよ」
そう言うとまた、すっと戸を閉めてしまいました。----

「父の趣味」220ぺ
ほらね。 私もお父さんの意見に賛成です。

■この頁のはじめに戻る


下に「藤沢周平」「残日録」の移動用絵ボタンが表示されてない方は、青文字を押して移動してください。

藤沢目次 総目次