◆ ◆ ◆
「あ、……ん、」
 突然、指の責め苦から解放されたと思ったら、今度は温かくてよく知っている感触が、ふわり、と口唇に触れてきた。
 ――キスだ。
 相手の口唇の感触が心地好い。ただ触れるだけの、激しいものではないのに、どうしてか心臓が高鳴り、頭の芯からぼうっ、としてくる。
 そんな心地好さに浸っていたいのに、そう簡単にさせてはくれなかった。
 キスをくれつつ、指は新しい氷を取っていたらしく、今度ははだけられたシャツの隙き間を縫って、鎖骨あたりにそれを滑らせる。
「冷た……っ、」
 いきなりの冷たさに、身体がびくり、と竦(すく)む。その拍子に肩からシャツが滑り落ちた。
 こんな場所――ワンルームマンション特有の狭い台所。しかもシンクの前に座らされ、開かれた足の間に相手は陣取っている……――で、こんな行為に及んでいるなんて、その状況を頭に思い描いてしまうと、あまりの恥ずかしさに憤死しそうだ。
「も……っ、……いい加減に、しろっ、てば……っ、」
 氷が身体中のあちこちに転がされ、その冷たさに感覚が麻痺してくる。だけど、それが却って別の感覚を呼び起こされる。それは身体の表面ではなく、裡(うち)から熱いモノがふつふつ、湧き上がってくるような感覚。
「震えてる……、もしかして冷えちゃった?」
「……っ、」
 ふいに氷の感触がなくなり、かつん、と遠くで音が響く。多分、氷をシンクの中へと放り出したのだろう。思わず、ほっと息を吐き出したけど、皮膚を刺す冷たさはまだ残っている。その上をつい、と指で撫でつけられ、
「……じゃあ、温めてあげる、」と、同時に相手の口唇が触れてきて――、
「あっ、やぁ……っ、」
 ひくり、と喉が反れる。
 何の技巧もない、触れてくるだけの指先と口唇は、目が見えない分、その他の器官の感覚が鋭利になり、加えて想像力も逞(たくま)しくなる。強制的に引きずり出される快楽なんて本当は嫌なのに、今されている行為を思い描くだけで、どうにもならない。
 今、自分はどんな痴態を恋人の前に晒(さら)しているのだろう。
 そして、恋人はどのようにして、自分に触れてきているのだろう。
 そんな様子を想像するだけで、益々感覚が研ぎ澄まされていく。軽いタッチで触れてくる口唇や、不器用に撫で回す指先に、敏感に感じて全身に戦慄にも似た震えが走った。
 いつもより感じすぎて、どうなってしまうのか分からないだけに怖い。なのに自由を奪われたこの身体は、相手の手に溺れていくしかないのか――。
「あ……、ああっ、」
 それを知ってか知らずか、その口唇はわざと音をたてながら愛撫を繰り出し、ふとした瞬間、歯で痛くて甘い刺激をする。きっと口唇の巡らされた後には、赤い痕(あと)が散りばめられているに違いない。また、その様子がありありと思い描かれてしまって、びくん、と身体が揺り動く。
「も……っ、やぁ……、ぁ」
「厭、じゃないでしょう?」
 ふいに耳元で囁かれ、欲情に濡れた低い声音に、びく、と肩が竦む。そして、熱い吐息が、耳元から首筋へと降りかかり、熱い舌がその上を滑らせ、熱い口唇が、全てを吸い尽くしていく。
「……んっ、」
 なけなしの平常心も羞恥心も全て吸い尽くされて、残るのは剥き出しにされた快楽だけ。視界が利かず、自由も奪われ、強引で屈辱的に引き出された快感だというのに、気持ち好い、と心が叫ぶ。
 その証拠に、ジーンズの下で欲望が大きく膨らみ、熱くて苦しい……。
 早くその大きな手で、無骨な指で、解放して欲しい、触れて欲しい。だけど、その手は自分が思う方向と全く逆にある。焦れったい愛撫に我慢出来ず腰を浮かせると、相手はこっちの状態に気付いてくれたらしく、やっと指がそこに触れてきた。だけど、これじゃあ――、
「そん、なんじゃ……やっ、ん」
 ジーンズの上からの刺激だと余計にもどかしい。腰をより高く浮かせ、先をせがむ。すると、愛撫の手がぴたりと止まった。
「っ、ばかっ……どうしてっ……、」
 あまりにものもどかしさに、足をばたつかせる。本当は相手を蹴り飛ばしたいくらい腹立たしいのだけれど、実際行動に移せる事なんて出来なかった。
「――我慢出来ない?」
 悔しいけど、恥も外聞もなかった。早く解放して欲しかった。だから、素直に頷く。解放されない快楽は苦しくて、まるで先の見えない拷問のようだ。
「しょうがないね、」
「……何がしょうが、ないんだっ。……こんな、風にした……っ、お前が悪いっ……んっ、」
「そうだね」
そのつぶやきと共に、ジーンズと下着が一緒に剥ぎ取られ、一糸纏わぬ姿を恋人の前に晒される。
 そして、しばらく無音の世界が辺りを取り巻く――、
「っ……、」
 気のせいかもしれない――いや、きっとそうだ。
 相手の視線を、感じる。
 舐めるように、熱い眼で見られている――。
 直接的な刺激と違って、感覚的な刺激は更に身体を熱くさせる。その熱い視線で、恥ずかしい所まで余す事なく見つめられている、と思うと、泣きたくなる。何度も身体を繋げ、何もかも知り尽くされているというのに、いつもと違う雰囲気に飲まれて、今までにない羞恥に苛(さいな)まれる。
「あっ、」
 ツツッ、とすっかり硬く勃ち上がった性器の根元から先端へと指先が滑っていく。
「……こんなにお漏らししちゃって、」
「お……お前のせいだろっ!」
 指一本だけの刺激では物足りない。もどかしい愛撫にどうにかなりそうだ。それを、
「じゃあ、責任取らなくっちゃね」と、のんびりとした口調で言われると、本当に腹が立つ。だけど、その言葉通りに、今度は掌全体で性器を包み込んで上下に扱かれる。
 くちゅくちゅ、濡れた音をわざとらしく響かせ、自分の浅ましい欲望を突きつけられているようで、とてつもなく恥かしい。なのに、それが逆に気持ち好い。
「ん……うっ、んん……っ、」
 しかし、いつまでも緩慢(かんまん)な動きで煽られ続けられると、気持ち好い筈の愛撫がもどかしい苦味に変わり、達(い)くに達けない。しかも、後もう少しで達しようとすると、その手はするり、と離れて、そして、再び緩(ゆる)やかな愛撫を繰り返す。こんなの愛撫でも何でもない、ただのイジメじゃないか。
 でも、それでも、唯一好意を持つ相手の指なのだ。苦しくても気持ち好くないわけがない。――いや、気持ち好いから苦しいのか……ああ、もうわけが分からない。
 気が変になりそう――、

「も、……やだ……っ、う……、」
 ――どのくらい煽るだけ煽られ、達きそうになったところで塞き止められた事か。ねちっこく絡んでいたその掌が、突然離れた。
「あ……っ、」
「ちょっと、我慢してて、」
 そう言い残すと、傍らにいた気配が消えた。そんな……っ、これだけ煽っておきながら放ったらかしにされるなんて……冗談じゃないっ。
 自由を奪われているという苛立ちと共に、相手に対しての好意なんぞ消し飛んで、憎しみが沸々と沸き起こる。
 中途半端に煽られた欲望をやり過ごそうと、自由になった足を閉じようとするが、
「あ、足閉じちゃダメだから。もし閉じちゃったりすると、後が酷いよ?」
「……っ、」
 閉じようとした足がぴくん、と止まる。口先だけの脅しだと分かっているのに、なぜだかいう事を聞いてしまう己が恨めしい。

 カタン、

 ――え? 今の音は、何?
 相手が何をしているのか分からず、たちどころに不安が過(よ)ぎる。本当に、このまま放ったらかしにされるのだろうか?
 いや、そんな筈はない。
 普段は人のいい穏やかな奴だけど、セクシャルな雰囲気になると途端に人が変わって、強気で意地悪になる。だけど、本質的なのはそのままで、意地悪なんだけど、とても優しい。
 だから、こんな状態のまま、放置させられる事はない。でも、今回は始まりが始まりなだけに、その信頼も揺らいでしまう。
「待たせちゃった?」
 だけど、杞憂に終わった。
 程なくして、先程と同じ場所に相手の気配が戻って、立てたままの膝に相手の微かな体温を感じた。ほっと安堵感が広がるが、素直に喜べない。だから、
「なに、が……待たせた、だっ、」
 口唇を尖らせ、憎まれ口を叩いたけど、相手はまったく堪(こた)えた様子もなく、
「うん、だからごめん」

 コト、

 ――? これは、何かを置く音?
 床はフローリングになっているから、それなりに音が響く。
「――何、持って、きた……?」
「知りたい?」
 一向に鎮まろうとしない熱い身体に、再び指先が絡んでくる。
「いい、から……っ、はやっ、く……ん、」
 そして、何かが首筋に塗られ、肩がピクン、と揺れた。
「な、何っ? ……あっ、」
 指先がすぅ、と下へ降りていく。生温くて、ぬめった感触が何とも言えず、身体が戦慄(わなな)く。その時、ふわり、と甘い香りが、鼻をくすぐった。
 ――あれ? この香り、どこかで……。普段より鋭くなっている臭覚が微かに漂うその香りを逃さなかった。もしかして、これ――……、
「――ハチ、ミツ……?」
「そう、」
「そ、そうって、何考えて……っ、んっ、」
 言葉が途切れる。
 蜂蜜を絡ませた指は、身体の上をくまなく這い回る。特に胸の辺りはしつこいくらいに撫で回され、蜂蜜の粘ついた音がやけに大きく聞こえた。
「……ここ、ぷくって立ってきたよ?」
「ばっ……か、……ああっ、」
 きゅっ、と乳首を抓(つま)まれる。だけど、蜂蜜の絡んだ指先はすぐにするり、と滑っていった。その刺激に身体が痺れたように震える。それを何度も繰り返され、そして、次に口唇が触れてきた。舌で転がされ、歯で噛まれる。
「……今度は、硬くなってきた、」
「い……っ、」
 いちいち実況するなよっ、恥かしすぎる。
 淫猥(いんわい)な粘り気のある音を室内に響かせながら、胸以外の身体中になすりつけた蜂蜜を舌が舐め取っていく。
「ん……甘い、」
「あっ、当たり前だろ……こんなコトして……っ、変態っ」
 何か言い返してくるだろうと思ったのに、相手は何も答えず、代わりに少し歯を立てられた。その口唇から逃れようと身体を捩(よじ)るが、そんな事でこの愛撫から逃れる筈もなかった。
 やがて、蜂蜜を全て舐め取ったのか、口唇の気配が消えた。全身で息を整えようと大きく吐き出すが、まだ何も終わっていない。ずっと煽られっぱなしで、身体は達く事も出来ないままだった。
「も……っ、やだっ……、」
 いつまでたっても恋人はこちらの望みを叶えてくれない。目の奥がツキン、と熱くなってくる。もう我慢の限界は超え、憎しみもなくなり、ただ哀しみが身体を支配していく。
「――達きたい?」
「……何、今更……っ、」
「ごめんね」
「謝るくらいなら、さっさと……ああ…っ、」
 言い終わる前に、いきなり愛撫を施してきた。蜂蜜をのせた指が、いきり勃ったままの性器に触れてきた。思いもよらない感触に上半身が前屈みに倒れる。トン、と頬が相手の肩辺りにあたった。
「今日はすごいね。どうしたの?」
 耳元で低く囁かれるだけで、その吐息が甘い愛撫に変わり、背が仰(の)け反(ぞ)った。
「ん……っ、あ、」
 それに、どうしたもこうしたも何もかも相手のせいだ。何もしていないのに、まるで自分のせいで、こうなったような言い方するなよ。確かに反応してしまう自分も何だけど、これは仕方ないじゃないか。
 蜂蜜のべとついた感触は、確実に快楽の深みへと誘っていく。なのに、その指は達かしてくれない。
 自分の喘ぐ息と、蜂蜜の粘つく音だけしか、聞こえない。
 すっかり、そこは蜂蜜だらけになったのだろう。今度は、生温かく柔らかい感触がそこを包み込む。
「ああっ……いやっ、あ、あ、……っ、」
 口に含まれただけで、まるで、ひびの入った堤防が、そこから勢いよく溢れ出る水のように欲望の蜜液を吐き出した。微かに喉の鳴る音が耳に届いたから、それを最後の一滴まで残す事なく飲み下したらしい。最後に先端を吸われると、息が弾んで、震える身体が、びく、びくん、と跳ねた。
「あ……はぁ……っ、」
 散々弄(なぶ)られて、施され、そして頂点を極めようとした所で奈落の底へ突き落とす。それを何度も繰り返され、まるで拷問の苦しみだけを残して、無理矢理達かされたようなものだ。快楽もクソもない。でも哀しいかな。そのように導いたのは、恋人の手によるもの。嫌(いや)なのに厭(いや)じゃない。たとえ、変なシチュエーションであっても、嫌悪なんてこれっぽっちも湧かない。
 本人の前では口が裂けても言いたくないけど、惚れた弱みなんだと思う。
 きっと、知らない。
 その行動ひとつひとつに自分がどきまぎしているなんて、絶対気付いてない。だから、こんな手の込んだ意地悪が出来るんだ。
 恋人が触れてきただけで、この身体は、気持ちは、歓喜で溢れんばかりだというのに、肝心の本人は、知らない。
 分からせる気など毛頭ないけど、でも、少しくらい気付いて欲しいなんて、自分勝手なわがまま、だろうか?
「……してくれる?」
「? ……何、を?」
 欲情に濡れたままの声音が、耳元を掠めた。

 ジ、ジーッ……、

 ――あ、『して』って、もしかして……。
「口、開けて……」
「ん……、」
 言われた通りに素直に口唇を開けると、次の瞬間、くい、と頭を上げさせられ、口腔内に相手のを突っ込まれた。
「んんっ……、」
 途端に甘い香りに支配される。どうやら、そこにも蜂蜜を塗りたくっていたらしい。比喩でも何でもなく、本物のキャンディを舐めてるみたいだ。驚いた事に、相手もかなりの限界まできていて、それは既に張り詰めて大きく象(かたど)っていた。
 自分だけじゃなく、相手も我慢してたんだ。
 とくん……、と新たに欲情の水が溢れてくる。
「ん、……ふっ……んん、」
 頭を捕まれ、抜き挿しされながら、舌で先を突付き、歯で甘咬みをする。そこから滴る先走りの液体を舌で捕らえ、それを、ぴちゃぴちゃ、音をたてながら啜った。捕らえ切れない自分の唾液や蜂蜜の残骸が、口唇から溢れ出し、顎へと流れていく。
「う……、んっ……、」
 口唇による愛技はあまり得意じゃない――というより、いつまでたっても慣れない。恥ずかしいというのもあるけど、本当に気持ち好いのか、未だに疑問に思うから。時々、相手の口から掠れた声音が洩(も)れてくるから、それなりに快感は得ているだろう。でも、自分がされている程ではないかもしれない。
 それでも、少しでも気持ち好くなってくれればいい、と願う。
「ん……っ、ふ……うん……、」
 結局、相手は達する事なく中途半端な状態で、口技から解放してくれた時は、正直ほっとする。最後に相手の精液を飲むのは、厭だ。好意を持っている以上相手の望む事をしてやりたい、という気持ちはある。だけど、実際出来る事と出来ない事だってあるのだ。こればかりは仕方がない。
 大きく口を開けていたせいで、顎がカクカクして少し痛い。すると、その口唇から溢れた液体を指で拭われ、軽く触れるだけのキスをされる。それが、あまりにも日常的すぎて拍子抜けしそうななる。
 だけど、やっぱりエッチモードの恋人だった。触れるだけの口付けを交わしつつ、その指が何の前触れもなく、いきなり最奥の窄(つぼ)みに触れてきた。
「あっ、」
 いずれ、そこに来ると分かっていても、過剰に反応を起こして背に快感の震えが走った。
「あっ、あ、……ん、」
 後孔にぬめりを感じると、それが指と共に中へ入ってきた。そこが捉えるぬめりは、きっと例の蜂蜜に違いない。指は何の抵抗もなく、身体の奥へと突き進んでいった。
 くそ、口に入れる物をそんな道具に使いやがって――本当は相手に怒りをぶつけたいけれど、その指は巧みに快楽のツボを押さえてくるから、声は掠れた喘ぎしか出ない。
「ん……あ、はぁ……ぁ、」
 そして、ゆっくりと指が抜き挿しされる。そのたびに身体が震え、反射的に指を締め付けてしまう。いつの間にか、弄られている箇所から濡れたような音が聞こえてきて、益々羞恥が心を占める。
 己の快楽の浅ましさを暴かれているようなものなのに、恋人の触れてくる指は、こんなにも優しい。
 両手で抱き締めたいのに、後ろ手に縛られたままでは、それも出来ない。
「……手……、外、して……っ、……痛っ、」
 そのささやかな願いは無視され、更に奥に潜った指の本数を増やされる。そこに引き攣れた痛みを伴ったが、すぐにその痛みもなくなった。やっぱり、そこに蜂蜜が塗り込められているせいなのか……。それはそれで、恥かしい――。
でも、相手の気遣いが手に取るように分かる。指で蹂躙(じゅうりん)されているそこを充分に解さないと、繋がる時、互いが辛い。一緒に気持ち好くなるには、快楽に流されながらも、それなりの気遣いが必要だと思う。
 だから、恥かしくはあっても、相手のやる事に抵抗など感じないし、嫌悪感もない。
「は……あぁ、」
 そろそろ指だけじゃ物足りなくなってきそうな気配。だけど――、
「もう、我慢できない――いい?」
 不意に下肢の圧迫感がなくなった。
「え……?」
 そして、腰を捕まれ、足が高く浮いたかと思うと、その次には相手に挿し貫かれた。
「ちょ、待……って……っ、や――ぁっ、」
 最終的に相手と繋がる、という事は分かっていても、視界が閉ざされたままじゃ心の準備なんか出来るわけがない。その上、性急にうが穿たれた痛みで身体が強張る。肩と上腕がシンクの扉に押し付けられて、ギシリ、としなった。
 ぐいぐいと中を荒らされ、その動きにあわせて宙に浮いた足も揺れる。不安定な体勢だけど、それでも恋人を受け入れた事に悦びを覚える。
「いっ……ん、」
「ごめん、辛い? 辛いよな……」
 ぴたり、と相手は動きを止めた。言われた通り辛いけど、中途半端にされた方がもっと辛い。
「ばか、止めるな、よ……っ」
「でも、」
 こんな時に、変に優しくならないで欲しい。いや、それはそれでいいんだけど、お互いの今の状態を把握しろって。
「……いい、からっ、」
「っ……、」
 相手を締め付け、先を施すと、そろそろと慎重な動きで続きを始めたが、次第に激しさを増していった。
 頑なだったそこが綻(ほころ)んでいくのが、はっきりとした感覚で捕らえた。
 突き入れられて、引き出される律動を繰り返されていく内に、どうやら押されて身体が上に上に上がっていったらしい。身体が少し楽になった。もちろん、辛い事には変わりない。時々する体勢と変わらなくなった感じ。――そう、いわば騎乗位に近い体位。
「あ……あん、………あっ、んん……っ、」
 恋人は器用にも手を前に伸ばしてくる。絡めて弄られると、すぐに硬く張り詰めた。前と後ろを同時に攻められる。
「やぁ……、あっ、……あ、あ、」
 もうこうなると、ダメ。わけが分からなくなる。
 新たに溢れ出る快楽に、脅かされる。
 互いの繋がった処から、ぐちゅぐちゅ、と淫音が奏でられ、蜂蜜の甘い香りが鼻腔をくすぐる。
 身体が震え、抜き挿ししている恋人を強く締め上げる。その張り詰めた形を身体ではっきりと認識すると、それが恥ずかしくて、更に強く締め付けた。
「ああ……っ、」
「んっ……、」
 恋人の喘ぎと共に身体の奥で熱い奔流(ほんりゅう)を注ぎ込まれると、大きくて少し無骨な掌に包まれながら、二度目の蜜液を吐き出した。


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