1Fに下りた後、ムウはテレパシーを飛ばして他の者達を呼び戻した。
「なんだって?ただの肝試し軍団だったのか!?」
蚊に刺されながら侵入者捜しに躍起になっていたミロは、腕を掻き毟りながら素っ頓狂な程の大声を上げた。
ミロだけではない。外チームは皆腕だの脚だのを掻いている。
「そいつらをこの場につれてこい。この落とし前をつけさせてやる。」
カノンはこめかみに青筋を浮かべて、ぼっこりと腫れ上がった腕を見せた。
見ているだけで痒くなったは、カノンの腕を見て顔を顰めた。
「うわぁ、痒そう・・・。」
「滅茶苦茶痒い!このままでは腹の虫が治まらんわ!」
「カノン、大人げないぞ。」
「黙れサガ!貴様は刺されていないからそのような事が言えるのだ!」
痒くて機嫌の悪いカノンが噛み付いてきたが、いちいち相手にしていられないとばかりにサガはスルーした。
「ともかく、これで侵入者は追い払った。脅しておいたから当分来ないだろう。」
「本当か?」
「不安ならこの館に迷宮を張ってやるが?」
「やりすぎだ。ここは双児宮ではないのだぞ。村の者が迷惑だろう。」
アルデバランが控えめに窘める。
サガは些か退屈そうに肩を竦めると、他チームの報告を促した。
「念の為に聞いておこう。1Fはどうだった?」
「別段何もなかったぞ。」
「そうか。」
1Fチームを代表して、童虎が答えた。
サガは小さく頷くと、今度はまだ痒がっている外チームに尋ねた。
「外はどうだった?」
「「「「「痒かった。」」」」」
即答で全員が答えた。
「そんな事はどうでもいい。不審な様子はなかったかと訊いているのだ。」
「ああ。別に何もなかった。」
とカミュが答えた。
その横から、アイオリアも報告を付け足す。
「俺は庭を見回っていたが、そこも別に何もなかったぞ。ボロボロのテーブルと椅子と、古い石碑があったのを見たぐらいだ。誰かが使った形跡などなかった。」
「そうか。では誰かが入り浸ったり住み着いたりという程でもないのだろうな。」
「だと思うが。」
「ふむ。ならばこれでひとまず解決だな。」
「そうだな。あーあつまらん。風呂に入って寝るか。」
ミロは大きく伸びをして、大広間を出て行った。
その後暫く風呂タイムや歓談タイムが続いたが、昼間のはしゃぎ疲れもあってか、一同はいつの間にか全員大広間で寝静まってしまった。
何処かで音が聞こえた気がする。
「ん・・・・」
薄らと目を開けたは、身体を起こして腕時計を覗き込んだ。
時刻は夜中の2時を回ったところだ。
周りを見渡せば、黄金聖闘士達が思い思いに寝転がっている。
物音は気のせいだったかと思い、は再び夢の中に戻ろうと横たわりかけた。
とその時、窓の外に人影が映った。
「!」
慌てて部屋にいる黄金聖闘士の数を数えてみる。
ちゃんと全員居るようだ。
とすると、また肝試し軍団だろうか?
その時、再び物音が聞こえた。
何かを引き摺るような音が、確かに外から聞こえてくる。
は隣で寝ているミロを揺さぶった。
「ミロ、ミロってば!」
小さな声で呼びかけながら揺すり続けていると、ミロが薄らと瞳を開けた。
「ん・・・・」
「ミロ、起きて!」
「うぅ〜ん、・・・」
「ちょ、ちょっと・・・!」
まだ覚醒しきっていないミロは、の身体を引き寄せるとそのまま胸に抱いて寝息を立て始めた。
だが、寝かしつけられている場合ではない。
はミロの頬を軽く張った。
「痛って・・・!何だ、どうしたんだ!?」
「ミロ起きて!外に変な人が!」
「何?」
ようやく起きたミロが身体を起こした。
その隙に、は反対側で寝こけているアイオリアを起こした。
「うぅん・・・、何だ?」
「アイオリア、起きて!外に誰か居るのよ!」
「・・・何だと?」
アイオリアも身体を起こす。
「本当か?」
「窓に影が映ったのを見たもの!」
「また侵入者か?よし、俺に任せろ。俺の眠りを妨げる奴はどうなるか思い知らせてやる。」
そう言って、ミロは立ち上がった。
アイオリアともその後を追おうとした。
しかし。
「きゃっ!」
「痛ってぇ・・・!誰だコノヤロー・・・」
「ご、ごめん!」
がデスマスクの腕に躓いて転んでしまった。
デスマスクは寝ぼけ眼のマジギレ顔でしばしぼーっとしていたが、倒れ込んでいるに気付いてヒップをバシッと叩いた。
「痛ったーい!何すんの!?」
「そりゃこっちの台詞だ。夜中に何してんだテメェは。ん?ミロにアイオリア、お前らも何してんだ?」
「侵入者だ。これから成敗しに行く。」
「ほー。」
デスマスクは、ミロの言葉にぞんざいな返事をした。
「お前は行かないのか?」
「どうすっかな?・・・・腕が痛くて目も覚めちまったしな。」
「だからごめんって言ってるじゃない・・・」
が気まずそうにぽつりと呟く。
「ま、いいや。行ってやるよ。オラ、お前も来て手伝え。」
の腕を掴んで、デスマスクが立ち上がった。
外に出たデスマスク・アイオリア・ミロ・の4人は、取り敢えず先程の窓まで来てみた。
「ここら辺に映ったんだよな?」
「そう。で、こっちに行ったの。」
が指差した方向は庭だ。
一行は足音を忍ばせて庭に向かった。
「どうせまた肝試しか何かじゃないのか?」
「だろうな。朝になったらサガに迷宮を仕掛けて貰った方が良いかもな。」
「やっちまえやっちまえ。面倒くせえ。」
「でもさ、アルデバランも言ってたけど、村の人が迷惑しないかな?」
声こそ潜めるものの、黄金聖闘士達は勿論のこと、今度はもさほど恐怖を感じない。
「何て言ってとっちめてやろうかしら。」
「亡者でも呼び出して見せてやればビビって逃げるだろうな。」
「それは私も怖いから。やめてよね。」
デスマスクを横目で睨む。
「ハハハ。まで怖がって逃げちゃ大変だからな。やめておけ、デスマスク。」
「ミロの言う通りだ。それに亡者のせいで肝試しブームに益々火がついたら余計大変だろう。」
「分かってるよ。冗談だ冗談。」
緊張感の欠片もなく庭へ踏み込もうとする4人。
その時、少し前を歩いていたミロが突然足を止めた。
「痛った・・・!」
立ち止まったミロの背中に顔面から突っ込んだが鼻を押さえる。
「何ミロ?どうし・・・ムグッ!」
「しっ、静かにしろ。」
今度はデスマスクに口を塞がれてしまった。
仕方なしに黙って大人しくしていると、庭の様子を壁の陰から見ていたミロが首を引っ込めた。
「ミロ、何かあったのか?」
「どうも様子がおかしいぞ。只の肝試し軍団じゃなさそうだ。」
アイオリアの質問に皆まで答える代わりに、ミロは彼に場所を譲った。
今度はアイオリアが庭の様子を伺う。
「あれは・・・・」
「何だよ?俺にも見せろ。おっと、こいつ頼むぜ。」
デスマスクはをミロに預けると、アイオリアと場所を代わって庭の様子を見た。
しばらくしてデスマスクが首を引っ込めると、はミロの腕から抜け出て様子を尋ねた。
「何だったの?」
「あれは肝試しに来た奴らじゃねえな。」
「やはりそう思うか。」
「俺が見たところあれは・・・」
アイオリアが相槌を打ち、ミロが口籠る。
一人事情の飲み込めていないは、ミロの腕を揺すって尋ねた。
「だから何なのよ?」
「ドラッグだ。」
「ドラッ・・・ムグッ!!」
「しーッ、だから静かにしろってんだよテメェは!」
は、再びデスマスクに口を塞がれた。
「ああ、ありゃ間違いなくヤクだな。」
「こんな長閑な場所でこんな物騒な事に出くわすとは、思いもよらなかったな。」
「何だか騙された気分だ。やはり世の中タダなんて有り得ないものなのだな。」
3人は面倒臭そうにやれやれと首を振っている。
はデスマスクの服を引っ張ると、塞がれた口のまま喋りかけた。
「もーむぐも?」
「あン?何だって?」
デスマスクが口を解放してくれたので、はもう一度言い直した。
「どうするの?」
「チッ、面倒くせぇけど・・・、始末するしかねえか。こんな連中なら今後も頻繁にやって来るだろうしな。二度手間三度手間は御免だ。」
デスマスクは至極面倒臭そうにそう呟いた。
物騒な発言に驚いたが、目を大きく見開く。
「だな。肝試し程度なら放っておけばそのうち来なくなるだろうが・・・」
「何の解決もせずにタダ旅行だけ楽しむ訳にはいかんからな。それに人を滅ぼす麻薬などに関わる悪党は、女神の聖闘士として捨てておけん。」
ミロとアイオリアもデスマスクに賛同する。
「ほ、本当に殺るの!?」
「ああ。おい、お前サガかカノンを呼んで来い。」
「え?い、いいけど何で?」
「いいから今すぐだ。早く行け。」
「何故だ?あんな小悪党如き、俺達だけで十分だろう。」
「そうだ。わざわざ奴らの手を借りるまでもない。俺のスカーレットニードルで瞬殺してくれるわ。」
「んなこた分かってるよ。そうじゃねえんだよ。考えがあるんだ。いいからお前達は黙ってろ。」
ミロとアイオリアを黙らせると、デスマスクは再びを促した。
はそれに従い、一人で館へと戻って行った。
この暗闇に一人はやはり怖い。
は後ろを振り返らずに必死で走り、大広間に滑り込んだ。
そして一番扉の近くで眠っていたカノンを揺すり起こした。
「カノン、カノン!起きて!」
「ん・・・・、何だ・・・・」
「起きてってば!」
「・・・?何だ夜這いか?望むところだ・・・」
そう言って欠伸を一つすると、カノンはの身体を引き寄せた。
「ちっがーう!いいから起きてよッ!」
はカノンの額をピシャリと叩くと、カノンの腕を振り切って身体を起こした。
「チッ、何なんだ一体・・・?」
「今すぐ庭に来て欲しいの。変な人が居て麻薬が・・・」
「何だと?」
の説明は要領を得ないが、寝ぼけている風には見えない。
何か只事でない事情があると見たカノンは、それ以上の説明を聞かずに素早く立ち上がった。
「とにかく行くぞ。どこだ?」
「こっちよ。」
他の者を起こさないようにそっと扉を閉めて、カノンとは庭へと急いだ。
カノンとの帰りを待っていた3人は、2人の姿を見つけると歩み寄って来た。
「おお、カノン。待ってたぜ。」
「何なんだお前達。何があった?」
「侵入者だ。また肝試し軍団かと思ったのだが、ドラッグを所持している。」
「多分運び屋か何かだろう。」
ミロとアイオリアの説明を受けて事情を飲み込んだカノンは、頷いて『なるほど』と呟いた。
「んでよ、お前に頼みがあるんだ。アレ使ってくんねえか?」
「アレ?」
「ああ。面倒がねえように連中同士で片付けさせろ。」
「ああ、そういう事か。なるほど、考えたなデスマスク。」
「あたぼーよ。俺様をナメるなよ。」
「とにかく早く行こう。グズグズしていては奴らがズラかるぞ。」
「はここで待っていてくれ。すぐに終わる。」
アイオリアにそう言われたは、不安ながらもこっくりと頷いた。
「う、うん。気をつけて・・・!」