LOVE☆GIRLS 3




「星矢ちゃーん!見て見て、ほら!可愛い♪」
「おー白熊ー!でけー!」

白熊のプールを覗き込んで、星矢と美穂は楽しそうな声を上げている。
実にほのぼのとした様子だ。

「でもさ。俺、氷河から聞いたんだけどな。」
「うん、なぁに?」
「白熊って、ホントは凄ぇおっかないらしいぜ?」
「いやだ、そんな!」
「餌もさ、生きたアザラシなんかなんだって。氷河がまだシベリアに行ってすぐの頃、氷原で白熊が餌を食ってるとこ見たらしいんだけど、こう、白い毛にベッタリとアザラシの血がついていて、食われてるアザラシはまだピクピク動いていて・・・
いやーーッ!!星矢ちゃんの馬鹿ーーーッ!!


前言撤回だ。
ほのぼのとしたムードは、星矢の悪気ない失言によって即座に台無しになった。


「あっの馬鹿・・・・・・!女の子に何て話してんのよ!?」
「何故わざわざあんな悪趣味な話をする?ペガサスは彼女に嫌われようとしているのか?女神のお気持ちに応えるべく、彼女との縁を切ろうとしているのか?」
「いや、そんな深い意味はないだろう。あの顔を見てみろ。」
「ああ、ありゃ只単に何も考えてねぇってツラだ。ったく、ショッパナからしくじりやがって。」

少し離れたところで達が呆れ果てているとも知らず、星矢はカラカラと笑って美穂に謝っていた。


「悪い悪い!そんなに怖い話をしたつもりなんてなかったんだけど!」
「バカバカ!知らない、星矢ちゃんなんて!」
「ははは、美穂ちゃんは相変わらず怖がりだなー!じゃあ、気を取り直して次に行こうぜ!あ、この隣ペンギンハウスだってよ!美穂ちゃん、ペンギン好きだっただろ?」
「うん・・・・・・」
「よし、じゃあ行こう!」
「あ・・・・・」

美穂の手を取って、星矢は白熊のプールから離れた。
その瞬間、美穂の頬にさっと紅が差した事は、勿論言うまでもなかった。


「うまくやってるのかやってないのか・・・・・・」
「さっぱり分かんないわね・・・・・・・」
「今さり気なく手を取ったのはなかなか気が利いていたが、恐らくあれも・・・・」
「ああ、多分なーんにも考えてねぇ。」

四人は顔を見合わせると、早くも疲れたような溜息をついた。








ペンギンハウスでは、もう気を取り直していたらしい美穂が、嬉しそうな笑顔でガラス窓越しにペンギンを見ていた。


「見て見て、星矢ちゃん!あのペンギン、立ったままウトウトしてる!」
「おー、本当だー!でもペンギンって、意外といかつい顔してるよな。ははは。」
「そんな事ないわよー!あんなに可愛いじゃない!」

ペンギンの食事は、幸いにも魚を愛らしい口ばしの中にツルリと飲み込む方式だ。
ゆえにスプラッターな光景を連想する事もないのか、白熊のプールでのような惨事には今のところ至っていない。
ホッと安堵した尾行組四人は、またもや少し離れたところで彼らを観察し始めた。



と思いきや。



「お、お、アイツ転びそうだな。前見て歩けよ前・・・・、あ〜、ほらみろ。だから言わんこっちゃねぇ。」

デスマスクが観察していたのは、星矢でも美穂でもなく、ガラス窓の向こうのペンギンだった。

「何で何もねぇ所で転ぶんだよ、どん臭ぇな。おい。あのペンギン、何かお前に似てんな、ガハハハ!」
「しっつれいねー!私は別にどん臭くないわよ!っていうか、あんなにブーブー言っておきながら、結構楽しんでるじゃない。動物園、気に入った?」
「フフッ、の言う通りだね。何のかのと言っても楽しんでいるじゃないか、デスマスク?」

とアフロディーテの含み笑いを見て、デスマスクはフンと鼻を鳴らした。

「馬鹿言え。退屈凌ぎだよ。」
「それは良いが、目的は見失うなよ。俺達は遊びに来たのではないのだからな。たとえどんなに下らない事でも、これは任務だ。」
「そうは言うけどよ、シュラ。お前、あいつらを今日一日真剣に見張る気になれるか?」
「そ、それは・・・・・」

デスマスクが指を指した方向には、実に呑気にはしゃいでいる星矢と美穂が居る。
何か怪しげなムードを醸し出している訳でなし、核心を突く話をしている訳でなしに。
ついでに言うと、達四人にも全く気付いていないようだ。
そんな彼らを真剣に尾行する方が馬鹿馬鹿しいと言った空気である。


「まあ・・・・、俺とて馬鹿馬鹿しい気はするが・・・・・」
「だろ?だったら適当に手ェ抜きつつやってりゃ良いんだって。」
「・・・・デスの言う事も一理あるかもね。あの調子じゃ、何かが起こりそうって気配もないし・・・・。見失わないようについて行ってたら、何か変化があったらすぐ分かるでしょ。」
「それもそうだな。」
「では、肩の力を抜きつつ、適当にやりつつ尾行しよう。ほら、早速だ。彼らが行ってしまうぞ。」

アフロディーテに促された一同は、またもや星矢達の後をコソコソと追って行った。









星矢と美穂は、花から花へと渡るつがいの蝶のように、弾むような足取りで次々と動物達を冷やかしていった。

「おー!ゴリラが走るのって迫力あるなー!」
「あれマウンテンゴリラなんだって、星矢ちゃん。ほら、ここに説明パネルがあるわ。」

黒光りのする逞しい体躯のゴリラ達を眺めている星矢達から少し離れたところでは。


「お、あのタイヤに向かってパンチしてるの、シュラに似てねぇか?」
何故俺だ!?俺のどこがマウンテンゴリラに似ている!?
「フッ、言われてみれば確かに。ストイックに鍛錬に打ち込む姿が君に似ていなくもないかな。」
「あはは!本当、言われてみればそんな感じ〜!」
まで何だ・・・・」

任務は任務として、尾行組四人もそれなりに動物園を楽しんでいた。





次の猿山でも。


「ねぇねぇ星矢ちゃん、あの山のてっぺんに居るのがボス猿かしら?」
「ああ、そうじゃねぇの?やたらすましてるし、偉そうだし。ほら、『俺がボスでござい!』って顔してるじゃんか。」

無邪気に猿達を観察している少年少女の目には付き難い位置で。


「・・・・・あれはサガだな。
プーーッ!!!ちょっとアフロ・・・・!笑かさないでよ・・・・!」
「ックク・・・・・、確かに・・・・・・!」
「こんな事奴に聞かれたら、俺らブチ殺されるぜ、ククク・・・・!ところでアレ、あっちでバナナ食いながらボーッとしてる間抜け面の奴、あれに似てねぇか?」
「うわ、ひっどい!私がいつ間抜け面したっていうのよ!?」
「フフフ、。まあそう怒らずとも・・・」
「そういえばアフロディーテ、あそこで毛づくろいに夢中になっているのは、お前に似ているな。」
「何だと、シュラ!?」
アフロも怒ってるじゃない;
「おー、シュラの観察眼も大したもんだな。そのヒラヒラヒラヒラした金髪を後生大事にブラッシングしてるお前にそっくりだぜ。」
「・・・・・フン、そういうなら、あっちの隅で昼日中から雌猿にマウントしている節操のない猿は君にそっくりだ、デスマスク!」
何をーー!?
ブッ・・・・!、やめてアフロ・・・・!声出して笑っちゃう・・・・!!
「堪えろ、・・・・!俺だって必死で抑えているんだ・・・・・ック・・・・!

声こそ抑えているものの、四人は年甲斐もなくはしゃいでいた。
周囲の、たとえば父親に肩車された幼子などの訝しげな視線にも全く気付かずに。
しかし、幾ら気を抜いた位で良い加減な任務とはいえ、やはり少し位は真面目にやらねばならないであろう。

でなければ、こんな事になる。



あれっ、星矢と美穂ちゃんが居ないわ!?
「何だと!?しまった、蟹の口車に乗せられて破目を外しすぎたか!
アフロてめぇコノヤロー、俺のせいにすんなよ!!
喧嘩している場合か!捜すぞ!!」

いつの間にか、というか明らかに余所見をしていた間にであるが、とにかくその間に、星矢と美穂は何処へともなく消えていた。
勿論四人は急いでその場を離れ、星矢と美穂の姿を見つけるべく駆け出したのだが。




「チィッ、十字路か・・・・・・!」

運の悪い事に、彼らの先に待ち受けていたのは四方に伸びた大きな道であった。

「ど、どうしよう!?どっちに行ったのかしら!?」
「それが分からねぇ以上、固まって捜すのは効率が悪いぜ。」
「そうだな。この十字路をそれぞれに捜してみよう。」
「よし、行くぞ。」

言うが早いが、シュラは右手に伸びている道を一人で歩き始めてしまった。


「では、私は左へ。」
「んじゃ俺はこっちだ。おい、見つけたら電話鳴らせよ。ったく面倒臭ぇぜ、お前も早いとこテレパシー使えるようになれや。」
「なれる訳ないでしょ!・・・・・ったくもう・・・・・」

左へ歩いて行ったアフロディーテ、元来た道を引き返して、恐らく先程居た場所の裏手を捜しに行くのであろうデスマスクを見送り、は足元からまっすぐ前に伸びている道を進み始めた。




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後書き

さあ、この作品もいつも通りアホが満開になってきました(笑)。
っていうか、第一話目から既に全開なんですけれどもね。